続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

sae

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エピソード2

千夏の悶々①

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 恋愛初心者の私にはやはりハードルが高すぎる人ではないのか。
 職場のクールな上司に恋したら、彼氏の顔はゲキ甘だったなんて聞いていない。

(なんなの……なんなの、久世さんって)

 職場恋愛って大変。気を緩めると脳内が恋愛モードに入ってしまうから全然気が抜けない。
 ハッキリ言って精神的にめちゃくちゃしんどい。だってもともと私は仕事をしている久世さんが好きなのだ。上司の久世さんに惚れてしまっている。そこに彼氏になった甘い久世さんまで知ってしまったわけで。

(どうせい言うんじゃ)

 バリバリ仕事しているクールな上司の顔。
 二人になったときに見せる甘い彼氏の顔。

(控えめにいってどっちも最高)

 しかも初めてのセックスはやばかった。

「まだだめ」

 そう言って何度も何度も高みにのぼらされて気が遠くなって、もう息するのさえ疲れてきたのに全く離してくれなくて。

「も、むりぃ……やぁっ……あっぁぁ」
「ほんとにやだったら振り払って、俺からは無理」
 そう優しくしたり激しくしたり何度も奥を突いてきた。嫌だと振り払えるわけがない、求められて嬉しくないわけないけれど。

(それにしたって!!!言うこと言うことがいちいちエッチ!!)


「千夏の中が気持ち良すぎるから悪い」

(中とか言わないでぇぇぇ)

「んっ、もぅ……あっ……はっぁっ、ん」
 思考が遠くなりかけていると、体位を変えてくる。

「あっ、んっちょ!まっ――」
「そこ、手ついて」
「んーっ、は、あんっ!」
「これ、バック。千夏の好きなところに一番当たるかも」
 はぁ、きもちいー、と囁くようにいうからまたギュュゥゥっとなる。

「あ――っ、だめ、ちょっと待って。まだイキたくないっ」

(もう、イッてほしい……)

 終わって、その気持ちを察したのか、グイッと体を引き寄せられて手が足の間に滑り込んできたと思ったら膨れ上がった敏感なところをさすってきた。

「あっ!やっ!あっあっそれだめぇ!ヤァっ!ああぁぁっ!」

 悲鳴みたいな声が出て恥ずかしさも超える、なのにその声に嬉しそうに笑うから結局おかしくなるだけ。濡れた吐息が色っぽくて、汗ばむ肌が綺麗ってなに。そこに熱を孕んだ熱い眼差しで見つめてくるから思考が狂う。何も考えられなくなる。その時間を思い出しては身悶えて、頭の中が一瞬で茹だつを繰り返す私。

(だってさぁ、だってさぁ!ダメだって言ってるのに全然聞いてくれないし、やめてって言っても好きだろうとか言って……なんかもう私より私の体知ってない?!無理!)

「あーーやばい。めちゃくちゃ締め付けてくる、……千夏ここ好きなんだ?」
 濡れた吐息が色っぽすぎる。

「おねが、っも――ぅ、もーやぁぁあんんっ!!」

(声出したくないって言ったのにめちゃくちゃ喘がせるし…はずか死ぬ)

 仕事中に何回これを繰り返して体を火照らせれば気が済むのか、これじゃただの痴女だ。

 それにしても。
 仕事もできて、女の扱いもやはりうまい。色々無理かもしれない。

(久世さんってなにが出来ないんだろう……それよりも、私、大丈夫だろうか)

 あんなハイスペックな人と釣り合えていると到底思えない。しかも付き合って初めてであんなに抱きつくされて早々に飽きられて捨てられやしないか。そんな心配と不安が日に日に増えていた。

 けしてスタイルが良いわけでもなく、性格も自分で言うのもなんだけどなかなか捻くれててかわいくない。普段なんか久世さんに噛みついてるんだぞ?可愛さの欠片もないじゃないか。

(なんだ、私を売れるところって一体なにがある??)


 ――そもそも久世さんは私なんかのどこを好きになってくれたんだろう。



「菱田ちゃん」
 社食エリアの横にあるカフェテリアで声をかけてきたのは高宮さんだ。

「お疲れ様です」
「会えてラッキー。これさぁ、久世に渡してくれない?すれ違っちゃったみたいでさ」
 書類が入ったファイルを渡された。
「いいですよ。渡しておきます」
 受け取ろうとしたらファイルがグッと引き留められる。

「?」
 ファイルから高宮さんに視線を上げると、にっこりと魔性の笑顔。

(だから、イケメンが無駄に笑顔を振りまくのはやめてほしいんだけど)

「聞いたよ、久世から」

(え)

「菱田ちゃんってあんな腹黒い男が好きだったの?」

(腹黒いって……って、それよりも、え?)

「あの……「ごめんね、聞いちゃった」

(え?!)
 思わず息をのんだ。

「大丈夫、誰かに喋るとかしないし。二人に迷惑かけるようなことはしないよ。ただ―」
 高宮さんがそっと耳元に寄ってきて囁くように言う。

「久世はあんな奴だからさ。不安になることもあるんじゃないかなって。なんかあったら相談くらいは乗るよ?俺でよかったら頼ってね」
 ニコッと微笑んで去っていく高宮さん。

(だから……イケメンは無駄にフェロモンをふりまいちゃいかん)


 昼休憩の後、事務所に顔をのぞかせたけれど久世さんは席にいなかった。実験室まで降りたが、ミーティングルームにもいない。さらに奥まで進むと珍しく標準液を作製していて、その手つきは慣れたもの。忙しいのに時間を見つけてこんな風に実験までしているんだなと感心して見ていたら視線に気づかれた。


「どした?」
 上司のような二人の時のようなどちらか判断のつきにくい声色。

「高宮さんから預かりました」
 ファイルを実験台に置くと「ああ」とつぶやく。

「……もしかしてなんか言われた?」
「え?」
「高宮に話しちゃったこと言ってなかったよな?」
 ごめん、そう言われたが首を横に振った。

「そんなことは別に……びっくりはしましたけど」
「けど?」
「……困らない、んですか?」
「何が?」
「――その、言っちゃって」
「何で?」


(久世さんってなんでなんでも聞き返してくるんだろう)


「だから!私なんかが彼女とか……その」
 そこまで言ったら、プッと吹き出された。

「全然面白いこと言ってませんよ?」
「変なことばっか考えるんだな。これさ、あと定容してこのサンプル測定してくれない?」
「あ、はい。わかりました」
「バラつきみたいから三回くらい繰り返して測定してほしい」
「わかりました。夕方装置使うのでその時一緒に測ります」
「ん、助かる」
 見上げると久世さんが優しく見つめていて、胸がドキンと鳴る。

「羨ましいって」
「え?」
「俺、羨ましがられてるみたい、高宮に」

(は?)

「な、なにがですか?」
「鈍いなぁー」
「なにがですか?!」

(腹立ってきたな、だんだん)

 その心情を読んだのだろう、また面白そうに吹き出して頭を撫でられた。
「測定よろしく」

(頭撫でるとか無理、ずるい)

 結局、久世さんが私を選んでくれた理由はわからない。ただ、仕事を任される事実がある。それに一生懸命応えるしかない。

 私に出来ることはそれしかないんだから。

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