続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

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エピソード2

千夏の悶々④

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(もう、絶対無理)

 二回目のセックスを終えて確信する。こんなに濃厚なセックスを立て続けにされたらダメだ。もう私の身体はきっと飽きられるだろう、そう思った。
 クタクタになった身体は久世さんの引き締まった腕に包まれて甘い余韻を保ってはいるのだけど、脳内だけはどんどん覚醒されてむしろ冷めてきている。
 抱きしめられながら頭を撫でられていると、このままこの腕の中にずっといれたらどんなに幸せだろうと思う。

 ずっといたい。ずーっといたいから、思う。

「久世さん……」
「……ん?」
 腕の中で顔を見上げたら優しく見つめ返された。

「お願いが……あります」
「うん?なに?」
 言葉に迷ったけど、どんな風に言ってもうまく伝えられない気がしたからもう直球で言うことにした。

「……しばらく、したくないです」
「……」
「勝手なこと言ってごめんなさい。でも……もう私、無理」
「したくないってなにを?」
「……エッチ」
「なんで?」
「……」
「言いたくないってこと?」
「……なんか、この会話前もしてますよね?」
「真面目に聞いてる」
 笑ったら怒られた。

「ごめんなさい」
「謝って欲しいんじゃなくて。理由が聞きたいんだけど」
「……理由って」
「言いたいことはわかったけど、全然納得できない」
「納得……やっぱりこんな会話前もしてる」
 思い出して笑ってしまう。

 私が仕事を辞めたいと久世さんにぶつけた時と同じ。あの時も久世さんは同じことを言った。

「納得させて」
 自分にブレない真っ直ぐな人だなと改めて思う。

「こら、聞いてる。思考をどっかにやるな」
 頬を両手で挟まれて目の前の現実に戻された。

「あ、はい。えっと……その、もうないと思うんですよね」
「……ない、とは?」
「私が」
 この二回のセックスでなんだかもう出し切ってしまった気がする。もう晒せるものは何もない、そんな感じ。

「しばらく、しないほうがいいって思うんです」
「……」
 久世さんは黙ってしまった。

「ごめんなさい、うまく言えなくて。でも、黙ってられなくて。このままいると余計……「待って」

(え?)

「しばらくって、どれくらい?」
 そんな質問をされるとは思っていなかった。

「――え、うーん、もういいかな?くらい?」
「なんだその不明瞭な話。いつだよ、それ」
「だってそんなこと聞かれると思ってないから」
「いや、その……謝る。いきなりガッつきすぎたことは認めるし本気で謝る。嫌がってないって勝手に判断しました、ごめんなさい」
 いきなりしかも丁寧に謝られた。

「嫌とかじゃなくって」
「嫌じゃないの?じゃあ何でそんな話になるの?」
「だから、私もう何にもないから」
「ちょっと本当に何言ってるかわかんないし。なに?ないとか何がないの?」
「もう、ないんですよ。私、久世さんのこと満足させられるもの何もない気がしてるんです」
 ますます分からない、みたいな顔をされた。

「わ、わかったでしょ?こんな風に……エッチして、私が全然慣れてなくて、こんな……ハードルの高いのそもそも私には無理があるのに、なのに、久世さん、どんどん色んなことするから……もう――っ、察して下さいよ!わかるでしょ!頭いいんだから!」

(何でこの人は全部言わせるのよぉ!)

「……もう少し要約して?」
「ええ?」
「まとめて」

(――ここって職場だっけ?上司感出しすぎなんですけど)

「……つまんないって、なるもん」

 もう限界。繕うのに疲れた、言葉を選ぶのも嫌になった。
 とりあえず近くにあったタオルケットで前を隠しつつ体を起こして正座した。

「こんなに密な時間を過ごすともう自信がないです。しばらく、控えてもらう方がお互いいい気がしました。飽きずにうまくやるのはその方がいいんじゃないかって、だからしばらくしたくないですと言いました」

「……却下」
「ええー?どうしてですか?」

「納得できないし、全然正論だと思えないから」
「そんなぁ」

 はぁー、と大きなため息をこぼした久世さんはベッドに寝転んで手で頭を抱えている。

「アホみたいな内容で気が抜けた」
「アホって」

(真面目に言ったのに)

「千夏は俺を焦らせる天才かもな」
「え?」
「そりゃそうだろ。もうヤりたくないて言われて血の気引くわ。いや、引いた」
「そんな大袈裟な」
「なんっにもわかってないんだなぁ」
 ゴロンと大きな体が私の方に寄ってきて腕が腰周りを抱え込む。

「つまんないってなんだよ」
「言葉の通りですけど」
「残念だけど、全然飽きる気がしない」
「……うそ」
「ここで嘘つくか」
「だって……」
「なにに自信持てないのかわかんないけど、そういう心配なら全くしてくれなくていい」
「……まったく?」
「全く」
「したいなって、思うときちゃんときます?」
 久世さんは心底呆れたような顔をしてまたため息をこぼした。

「むしろ俺が嫌気をさされそうだよ」
「な、なんでですか?」
「悪いけど今もしたい」
 え!?っと、体が勝手に後ろに引いた。

「全然できると思う」
「も、もうやめときましょう?」
「はい」

(はいって……なんか可愛い)

「そういうことなんで。千夏が考えてるような心配はしなくていいんで。その案は却下です」
「……は、い」
「素直に納得する」
「はい」
「おいで。寝よう」
 手を引っ張られて久世さんの腕の中に戻る。

 ギュッと抱きしめられて久世さんの吐息を頭の上で感じる。

(どうしよう)

 こんなに幸せでいいのだろうか。こんな風に抱きしめてくれる人、きっともう出会えない。
 そう思いながら腕の中で瞳を閉じた。


 ―――


「しばらく、しないほうがいいって思うんです」
 言われた言葉の意味はすぐに理解できた。理解はできた、でも一切納得ができない。

(やらかした、いきなりやりすぎて完全に引かれた)

 頭ではわかっていた。何度も思ったしやりすぎている自覚もある。なのにやめなかった自分が悪い、でも、いや、だって……と、訳の分からない言い訳を脳内で繰り返していた。

「したくないってなにを?」
 ――わかっているけど一応確認のために聞いた。

「……エッチ」
 ――ですよね。

「なんで?」
 ――しつこいけど理由が知りたいから聞いた。

「……」

(大事なことはいつも飲み込むの、千夏の悪い癖だな)

「言いたくないってこと?」
 若干気持ちが荒れかけたのをなんとか抑えたのに。

「……なんか、この会話前もしてますよね?」
「真面目に聞いてる」
 会話を無視して笑って言うから、普通に切れた声で言ってしまった。

(めちゃくちゃ大事な話をしてんだけどな!こっちは!)

 聞いてもなんだかはっきりしない言葉しか言わないし、なんだか目の前のことがそっちのけみたいな態度を取るからますます苛ついて。

「こら、聞いてる。思考をどっかにやるな」
 頬を掴んで叱るように言った。そもそもなんなんだ、しばらくしたくないって。

「しばらくって、どれくらい?」
 自分でもバカみたいな質問をした気がするがそこはしっかり確認したかった。
「――え、うーん、もういいかな?くらい?」

(舐めてんのか)

 とりあえず、千夏の気持ちを無視して抱きまくった認識はある手前、そこはちゃんと謝ろうと素直に思って謝罪したのに嫌ではないという。

「わ、わかったでしょ?こんな風に……エッチして、私が全然慣れてなくて、こんな……ハードルの高いのそもそも私には無理があるのに、なのに、久世さん、どんどん色んなことするから……もう――っ、察して下さいよ!わかるでしょ!頭いいんだから!」

(全然わからない)

 要約しろといったら千夏の顔が部下の顔に戻った。

「……つまんないって、なるもん」
 なのにそんなぶっ飛んだ可愛いセリフを吐くから絶句した。

「こんなに密な時間を過ごすともう自信がないです。しばらく、控えてもらう方がお互いいい気がしました。飽きずにうまくやるのはその方がいいんじゃないかって、だからしばらくしたくないですと言いました」
 肌を隠して正座する姿だけでも可愛いのに、内容がもう可愛いを超えた。

「……却下」
 そういうと納得できない声を上げていたけど、納得できるわけがないのは俺の方だ。

 いくらでも抱ける、そう思う俺の気持ちなんか露ほども知らず訳のわからない提案を投げつけてくる。

(バカな子ほど可愛いとか本当なんだな)

 でも、もう少し言いたいことを吐かせていかないとまた捻じ曲げた理論を作り上げるなと感じていた。

 翌朝9時を回っても起きてこない彼女。

(子供みたいによく寝るなぁ)

 ベッドに腰かけて眠り続ける千夏の寝顔を見つめていた。体がもぞもぞと動き出したと思ったら、大きな瞳がまどろみから目覚めた。

「おはよう」
「……だれですか?」
「は?」
「え、なんで?だれ?」

(だれってなに)

「なんでメガネ?え?なんでメガネ??」
「あぁ……って、それ寝起きの第一声で言うこと?しかも誰ってなんだよ」

「なにそれ、寝起きにそれダメ」
「なにがダメなのかよくわからん。俺、目悪いもん。普段はコンタクト」
「えぇー、そんなのだめー」

(だから何がダメとか……千夏の思考解読は俺にはまだ難易度が高すぎる)

「ちょっともう無理、もう一回寝ます」
 そう言って布団の中に戻ろうとする。
「なんで戻る、起きて」
 布団の中に隠れた身体を掴まえると悲鳴を上げた。

「きゃー!やだ、また変なところ触ってる!」
「起きないなら抱いていいってことだよな?」
「起きます!もう起きます!!」

 布団の中から出てきた千夏は髪が乱れて頬も少しピンク色に染まっている。
「……おはようございます」
 照れた声で見つめてくる姿を見ていると言葉にならない。

「いい加減、敬語もやめないとな」
「え?」

「立場的なこともわかるけど、今プライベートだし。名前も」
「名前?」
「呼んでみ?」
 そう言うと恥ずかしそうに俯いて迷った末に口にする。

「……まこと、さん?」
「さんいらないし」

「まこと……くん」
「そこが限界?」聞くと頷く。

「敬語は……おいおいでもいいですか?」
「いいけど、早めに切り替えられるように」
「はい」

 結局上司と部下みたいな会話になって二人で笑いあった。

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