続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

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エピソード10

誠のリクエスト②

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 忙しくて死ぬ。
 年末死ぬ。

 猫の手も借りたいって本気で思う時があるんだと逆に冷静に思った。
 死ぬ思いでやってもこれがまた年末休みでリセットされて年明けにまた死ぬんだろうなとか考えてゾッとしている。

 とりあえず打合せのない隙に目の前の仕事を捌いているが、席に戻るとまた書類が増えていて終わりが全然見えない。

(誰がいつ書類や報告書やレポートをここまで置いてってんだよ、年末だからって溜め込んでた仕事いきなり突き出してきやがって。今慌てて出すんなら普段から効率よく出せよ、殺す気か)

 ここ二週間半、完全に社畜化された俺の脳内はパンクしかけている。

(ヤリたいヤリたいヤリたい、千夏とヤリたい、一回千夏とヤリたい)

 狂ってきて考えることが仕事内容じゃなくこんなことばかりで現実逃避しかけている自分がいる。

 むしろこんな脳みそで仕事できているんだから逆に褒めて欲しい。
 毎日近くにいて手を伸ばせばいつでも触れられそうな場所にいるのに全く触れないこの拷問とは。

(あかん、ヤリたい、ヤリたくてたまらん、ヤらんと死ぬ)

 ストレスでもうおかしくなっていた。このままいけば実験室で千夏を犯してしまうかもしれない。

「久世さん、これチェックしてもらっていい?」
 高田さんが声をかけてきた。

「あぁ、はい。出ました?」
「とりあえずオッケーなら報告書まとめます」

「……バラつきもこれくらいなら許容範囲ですね。N数取ってくれてるし、平均値で行きましょうか」
「いいですかね?もう一回測定してみてもいいですけど」

「いや、もういいでしょ」
 溜息まじりに言ったせいか高田さんが心配そうに聞いてくる。

「体とか大丈夫ですか?涼しい顔して仕事されてるけど、めちゃくちゃ忙しいですもんね」
「時期的に仕方ないですよね。平気ですよ」
 そう返すと「さすが~」と、笑われた。

(脳みそ開けられたらドン引きされそう)


 結局週末まで落ち着かなくて金曜も遅くなった。

 千夏は買い物があるから土曜に家に来るとラインが入っていた。久しぶりにゆっくり寝てしまって物音で目が覚めて、時計の針が十時を過ぎていたことにギョッとしてベッドから起き上がった。

(――めちゃくちゃ寝てた)

「あ、おはよう~起こしちゃった?」
「……いや。てか、起こして」

「なんで?疲れてるんだからちゃんと寝て?コーヒー淹れようか?」
「あぁ、うん。じゃあ濃い目で」

「了解しました」
 仕事場みたいな返事にフッと笑みがこぼれる。


(あー!千夏がいる千夏がいる千夏が(以下略))


 コーヒーを淹れてるそばに寄って背後からぎゅっと抱きしめる。

「わっ」
 久々に抱く柔らかな身体と匂いに安堵感が半端なく襲ってくる。

「ど、どうした?大丈夫?」
 少しうわづいた声もまた可愛くて。

「大丈夫」
「あの、ね?その、コーヒー淹れてる、から……」
「今日は一日中千夏のこと抱いてる」
 そう言ったら、ボワッと耳まで顔が赤くなった。

「え……っと。えっと、わ、わかった。コーヒー、飲んでて」
 はい、と差し出されて腕をすり抜けられた。

(……なんか変だな)

 この時まだ脳みそがうまく働いてなくてそんなくらいしか思わなかった。
 淹れてくれた熱いコーヒーをキッチンで立ったまま飲みつつボーッとしていたから油断していた。

 フーッと熱いコーヒーに息を吹きかけていたら、カチャッと開いた扉の音になんとなく視線を送ると勢いよくコーヒーを噴いた。

「――あっっつ!」
「きゃあ!なんで?!大丈夫?!」

(大丈夫ではない)

 出てきた千夏が慌てて俺に近寄ってきたからその姿を間近で見つめる。

「――っ、それ……」
 火傷した口でなんとか声を発したら、千夏もハッとした。

「あ、えっと……その、ク、クリスマスのリクエスト?色々悩んだんだけどぉ――その、もう年齢的にこれくらいが限界」
 千夏は真っ赤になって手で顔を覆った。
 その赤くなった顔に負けないくらい赤いランジェリーに身を包んだ千夏がそこにいた。
 一応サンタの帽子も被っている。Aラインぽい形だけれどめちゃくちゃミニのレースで大きな胸をV字に包み込んでいる。包み込んではいるけど、多分サイズより大きい胸がもうこぼれ落ちそうで谷間がすごい。

「……クリスマス」
 それを言われてハッとした。

「……今日何日だっけ」
「え?二十七日だけど?」

(二十七日?!)

「え!」
「えぇ?!び、びっくりしたぁ!」

 完全に忘れていた、クリスマスのことを。

(ていうか、日にち感覚完全になくしてる……)

「ごめん、俺クリスマス――」
「へ?なに?何の話してるの?」

 意味がわからないという顔の千夏。ごめんはもう、そのままだ。忙しいを言い訳にも出来ない。普通に忘れて完全にスルー。なんならなにも考えていなかった。彼女がいてのそれ、ヤバすぎる。自分が今まで結果振られてきたことの集大成はそこなんだよ、と冷静に突っ込んでしまうがそれどころではない。

 そしてそこでまた記憶がよみがえって思い出した。目の前の千夏をあらためてじっと見て思う。

 サンタコスプレ……リクエストしたな!忘れてた!

(……そんなことも言ってたな、当たり前に記憶から飛んでるわ。自分から言いだして何なの、俺。しかし、なんちゅーカッコ……やばい)

「……俺、鼻血でてない?」
 血が逆流している気がする。


「は、鼻血?で、でてないけど。それより火傷はしたよね?大丈夫?とにかく冷やさないと」

 なんで鼻血?と首を傾げながらコップに水を淹れようと背を向けた。
 背中が広く開いて背骨したからランジェリーが縦にぱっくりと割れてのTバックときた。

(本気で鼻血吹きそう)

 俺は鼻を手で覆って上を向いた。

「大丈夫?口?舌?早く冷やして!はい!」
 空いた方の手にコップを持たせて慌てる千夏。

(火傷なんかもうどうでもいい)

「……ちなつ、それなに」
「どれ?水だよ?」

(じゃなくて)

「なんでそんなカッコしてんの」
「え?!だっ、だって今……言ったから。その、抱きたいって……え?言わなかった?言ったよね?だからもうしたいのかと思って」

(したいよ、したくてしたくてたまんなかったけども)

「ごめん、違った?間違えた?え~、ごめん、どうしよう。ぬ、脱ごうか?」
 差し出されたコップを受け取って口の中に水を含んでしばし待つ。その間、頭を冷静にしようと無心になる。


(脱がれてはたまらん)

「ま、誠くん?」
 不安そうな声になにと答える前に、口に含んだ水をペッと吐いて千夏に向き合う。

「もうしたいです、していいですか」

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