続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

sae

文字の大きさ
52 / 75
エピソード10

誠のリクエスト⑥

しおりを挟む
 突然のプロポーズ。
 クリスマス、ふたりで過ごす夜にまさかこんなこと予測できるわけない。

「もう俺さ、千夏がいないと無理」
 そんな言葉を手を握って言うなんて卑怯だ。

「俺と結婚して」

 絡まりあうゆびさきに、涙が止まらない。
 この手が好きで、このゆびさきに触れられるだけでいつも何度でも胸をときめかせてきた。

「ふっ、うっぅ……えっ、ううっ」
 なにか言いたいけど言葉に出来ない。
 涙でボロボロになった顔を真っ直ぐ見つめてくれる瞳が優しすぎた。それにまた泣けてくる。

「泣きすぎだろ」
 笑われても無視する。泣くなと言う方が無理だ。

「――うっぅぅ」
「泣き止んで?千夏」
 無理、そう思って首を横にブンブン振った。

「返事もらえないってこと?」
「ちあうぅっ」
 咄嗟に言い返すと吹き出されて、見上げたらめちゃくちゃ優しい顔して笑ってるんだ、泣くに決まっている。

「わっ、わたしもっ……ぅっ、誠くんがいなきゃ、むりっ……いっしょに、ぃたいよぉっ」
 絶対ブサイクな顔をしてるに決まっている。泣きじゃくって鼻水も出てる。可愛く返事もできなくて自分のダメさにゲンナリするけど、取り繕う島もない。笑うのも怒るのも泣くのも全部見せてきた。嬉しいことも悲しいこともいつも共有してくれた。
 そんな人とこれから生きていける未来があるのだと、そんな幸せなことが私にやってくるなんて思ってもみなかったから――。

「……嘘みたい」
「噓じゃないよ。嘘にすんなよ」
「夢みたい」
「……夢だったらそれは叶う夢だな」
「……え」
 涙をそっと親指の腹ですくわれて、そのまま頬を包まれる。

「千夏が”うん”って言ってくれたらさ、俺が叶えてやれるから」

 誠くんは、私にたくさんのものをくれたけど、夢まで叶えてくれる人だったのか。どうしよう、こんな奇跡あるのかな。クリスマスに願ったことはいっぱいあったんだよ?それでもそれらは全部どうしたって夢みたいなことだったのに。

「誠くんと……結婚できるの?」
「俺がしたいの」
「私と……本当に結婚してくれるの?」
「……千夏を幸せにする、そう言いたいしそのつもり。だけど……俺が幸せなんだよ、お前と一緒にいて。だから俺と結婚してよ、千夏」

(そんなの……私だってそうなのに)

「私で誠くんを幸せに出来るなら……ずっとそばにいる」
「うん」
「ずっと……そばにいさせて」
 腕を伸ばしたらその手を引き寄せられて誠くんの胸の中に飛び込んだ。ぎゅっと抱きしめられて、その胸の中で溢れ出てくる涙を止められない。

「千夏、結婚しよ?」
「……はいっ」

 誠くんの腕の中で夢みたいな言葉に私は涙をこぼして返事したんだ。


「え!結婚?!」
 そう叫んで口を慌てて塞いだなべちゃん。

「ご、ごめん。思わず」
「驚くよね、私が一番驚いてる」
「うそーぉ!めっちゃいいじゃん!うそー!羨ましい!クリスマスにプロポーズってなに?!狙ってんの?」
 いいなぁ~と心底羨ましそうになべちゃんが言うから苦笑い。それは私も思ったことだ。

(クリスマスにプロポーズ……やりすぎ案件。しかも狙った感じもなくサラッとするのなんなんだろう)

「うちの彼氏もそれくらい言って欲しいわ。もう二年も付き合ってんのに」   
 チッ、と舌打ちするから吹き出した。

「本音はさ、まだ一年も付き合ってないから本当にいいの?って思うんだけど。でも同棲ってどうしても抵抗があって……ごめんね、なべちゃんのことどうこう言う気はないんだよ?」
 カップルによっていろんな過ごし方はあるし二人の自由だ。否定する気なんかさらさらない。これは私の個人的主観の話である。

「いや、わかるよ、それ。もうね、今さら結婚?みたいになっちゃうわけよ。付き合いたてはさ、同棲とかテンションあがっちゃって喜んじゃうんだけど、生活してたらもうダラダラするじゃん?結婚の踏ん切り全然つかんもんね。だからプロポーズもしてくんないんだよ」
 そういうものか、と聞いていて思う。私はどちらかと言うと同棲で嫌われたらもう別れるしかないと思うから怖くて出来ないビビりなだけなんだけど、は言いそびれてしまう。

「いいなぁ。じゃあすぐ籍とかいれちゃうの?」
「うーん、まだよくわかんないんだけど。今仕事忙しすぎるからすぐにどうこうってことはないと思うんだけど」

 同棲を拒んだ私の気持ちは受け入れてくれたけど、結婚するんだからと半同棲を提案された。そう言っても週末だけは誠くんのウチで過ごすという今とあまり変わらない暮らしなんだけど。私の住むアパートの更新が一カ月後だから、それまでは行き来しつつ契約切れと同時に越してこいと半ば命令で決められてしまった。

「仕事できる人はさ~決断も段取りも早いね。うらやまー」
 確かに仕事で忙しいはずなのに頭の中に私とのことまで考えてくれるのは申し訳なくなる。

「急がなくても全然いいんだけどね」
 今で十分幸せだし、そう思う気持ちをなべちゃんに一喝された。

「あまい!久世さんモテるんだから!あんな優良物件そうそうないんだからさっさと籍入れなきゃダメ!もう、すぐ籍入れよ!そうしよ!」
 なべちゃんと笑い合いながら言葉にするほど現実味が起きてくる。これが夢じゃないんだ、それを実感して頬が緩む。

 ――千夏が”うん”って言ってくれたらさ、俺が叶えてやれるから

 誠くんのくれた言葉が耳に残って離れない。私は今、これ以上ないほどの幸せを感じていた。



 ―――


 結婚すると伝えたら高宮がビールを噴いた。

「おい、吐くな」
「いきなり言うからだろ!」
 店員を呼んでおしぼりをもらおうと店の中に視線を這わせたら食いついてくる高宮がいる。

「マジ?もう決めたの?プロポーズしちゃったわけ?」
「しちゃったねぇ」
「うそうそ、マジか。抜け駆けじゃん」
「抜け駆けぇ?なんも抜け駆けてねぇ。お前そもそも付き合ったとこだろ。てか、腕離せ、邪魔」
「それはそうなんだけどさ、えー、マジー。なんでこんな口悪いやつが先結婚すんのー」

(ほっとけ)

 そんな高宮にもつい最近彼女ができた。とりあえず乾杯、と高宮が不貞腐れつつもグラスを再度カツンと当ててきた。

「どういうくだりでそうなったわけ?参考までに聞かせて」
 ほとんど興味だろ、と思ったけどもうそこは突っ込むのも面倒だった。こいつはきっと一生聞いてきそうだから。

「なんだろな。同棲持ちかけたら断られたってのがキッカケかな」
「断られてる、ふふ……おもろ。それで?」
「同棲するなら結婚したい派なんだと。まぁあいつらしい考えというか、妙に納得はできたんだけど」
「真面目そうだもんなぁ、菱田ちゃん。部屋にどんどん自分の私物置いて侵食して逃げ場なくさせるような女っぽくはないな」
 高宮の意見に納得しすぎて笑えてきた。家に千夏の私物は確かに増えたけれど未だに最低限の物しか置かれていない。

「俺の中で同棲ってもう結婚が視野に入ってたしそう言うならすればいいなと思っただけ」
「なるほどなぁ。付き合ってどれくらいだっけ?」
「……八、九ヶ月?一年は経ってない」
「そんなもんでまぁだいたいの目安はつけられるよな。一年付き合ったからってその数ヶ月どう違うかって話だし、そもそもお前ら付き合う時間どうこうより接触時間普通に考えて長すぎじゃん。毎日職場で会って週末べったり過ごしてんだろ?濃すぎる」
「それな」
 単純に家族より一緒に過ごしている気がする。

 千夏は結婚なんか早いのではと躊躇っていたけど、高宮の意見で男的には適正な目安だと安心した。

「仕事してる姿も見てたらもう迷うところないわなー。時間どうこうの話じゃないな、それ」
「そー」
「職場ってめんどくせぇって思いがちだけど、案外決めやすくていいよな」
 高宮が納得したように言う。そう遠くない未来に高宮も多分結婚を決めるだろう。

 本社から移動して来て一年半くらいが過ぎた。
 その年月は千夏と出会った月日でもある。上司と部下として出会ったときには想像もできなかった。

 部下として信頼して、人として惹かれて、一線を越えてから彼女が可愛くて仕方がない。

 これからの未来に千夏がいる。
 千夏が俺のそばで笑っていてくれるなら何でもできそうな気がしていた。



 ~Fin~
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

憧れのお姉さんは淫らな家庭教師

馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。 女性向け百合(レズビアン)R18小説。男性は出てきません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。 お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、 “氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。 最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、 実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき―― 舞子の中で、恋が芽生えはじめる。 でも、彼には誰も知らない過去があった。 そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。 ◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか? ◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか? そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。 笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。 関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。 仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。 「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

Home, Sweet Home

茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。 亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。 ☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。

処理中です...