続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

sae

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結婚エトセトラ

daily life……夜更かしはほどほどに①

「ふぁ~」

 顔を洗って洗面所から出たら千夏のでかい欠伸顔が目に入った。トロンとした目は目尻に涙を滲ませて少しボーっともしている。

「眠そうだな」
 声をかけてダイニングに腰かけたらその涙目がジトッと睨んでくる。

「……そう思うならもう少し早く寝させて」
「……毎日はしてない」
「毎日されたら困る!」

 妊活という名の性生活が始まってから俺の欲望が止まらなくなっているのは事実で千夏を夜に拘束する日が増えてしまった。
 俺の仕事も今はそこまで忙しくなくて気持ち早く帰れる日が多い。やらなきゃいけないことはあるけれどそれよりも家に帰ることを優先している。仕事なんかぶっちゃけどうでもいい、どうとでもなるし、どうにでもする。そんなことより早く帰って千夏を抱きたい。

(本音がゲスいな……だって中出し気持ち良すぎるんだよ!)

 日付が変わるまでには寝かせているつもりだけれど、今まで基本22時半くらいには寝ている千夏からすればかなりの寝不足になっているのだろう。それに俺だって気づいてはいるが気づかない振りをし続けていて……もはや起きていてもウトウトしている千夏を前にしてさすがに考えないといけないかな……は、思っているものの。

「もうだめ……はぁ、も、むりぃ」
「……じゃあ言って」

 コーヒーを飲みながら無表情を貫くが、頭の中は夜の千夏のことばかり考えている。

「ぅあんっ、は、あん、あっ」
「ちなつ……はぁ、言わなきゃ終わんない」
 奥を突いたら背中を反らせて跳ね上がる。熱い中はもうトロトロのグチュグチュで、少し動くだけで泡立つように潤っていて、それを見ているだけで滾ってくる。それなのにこれから千夏が口にする言葉を思うとそれだけで血までもがふつふつと煮えだしてきそうで……。

「ぁあんっ!も、やぁ、あぁ……はぁ――して、あかちゃ……ほし……」
「聞こえない」
「ぁ……ぁん、赤ちゃん……ん、ほしぃのっ、誠くんの……あかちゃ、も、だして……中、だしてぇ――」

(ぁあーーーーエロすぎるーーーー)

 めちゃくちゃ可愛いから仕方ない、千夏が可愛いから悪い、俺を夢中にさせる千夏が悪い、と千夏のせいにばかりして自分を正当化させていた。

(やばいなぁ、こんなに執拗に抱いてたらすぐ妊娠しそうだよな……)

 今すぐ子供が欲しいわけでもないけど、千夏が二人は欲しいと言うから年齢などを考えると早い方がいいのか。とにかく解禁になった今は一切避妊せず千夏を抱いている。それがもう最高すぎて、本音は全然妊娠できなくてもいいとか思ってしまっていて……。

(そんなこと思ってるってバレたらめちゃくちゃ切れられそう)

 あくびが止まらない千夏を見て平日はもう少し控えてやろう……そう思っていたある日のこと。

 リーダー会議が終わった十五時過ぎ。
 面々が席を立ち片付けだした時、佐藤のピッチが鳴ったから目配せで先に戻ると伝えて席を立とうとしたところ引き留めるようにガッと強く腕を掴まれた。振り向くと佐藤もまた目配せで俺を呼び止める。

「わかった、とりあえず今から俺と久世も行く。ああ、よろしく」
「なに?」
「菱田さんが倒れた」

 医務室まで駆けると扉の前で携帯をいじりながら内田が待っていた。

「久世さん、佐藤さん」
「悪いな、内田」
「今内診してるからちょっと待ってくれって言われてて……とりあえず待ちです」
「どういう状況だった?どこで倒れた?」
 佐藤が訪ねてくれてそれに内田が「えーっと」っと答える。

「昼から俺の測定を手伝ってもらってました、三階で。座って作業してて、普通に。測定中に保坂が横でサンプルこぼしたりして一緒に拾ってたんですよね。そしたら立ち上がる時に立ちくらみかなって感じでクラッと倒れかけて……そしたら、そのままへたり込むくらいに椅子にも座れなくなっちゃって。真っ青な顔してそのまま倒れ込んだって感じですかね」
「貧血か?」
 佐藤が呟いて俺を見る。千夏は比較的健康体、貧血などおこしたりは今までにない。

「声かけたら反応はありましたけど、意識は朦朧とする感じで……五分くらいかなぁ、とりあえずそこでジッとしてて本人が起き上がって大丈夫とは言うんですけど、顔真っ白だったんで一緒にここまで。支えはしましたけど自分の足で歩いてはくれましたよ」
 そこまで話していると医務室の扉が開いて、白衣を着た母親くらいの年齢の女医が出てきたら俺と佐藤を見比べて声をかけてきた。

「ご主人みえたの?どちら?」
「お世話になります」
 俺が頭を下げると目尻を垂れさせてホッとしたように笑顔を見せた。

「今もね、少しウトウトしてて……普段とか今日とかも、なにかお薬とか飲まれてる?」
「いや、何も飲んでないと思います」
「そう、軽い貧血からくる眩暈を起こされたんだと思います。今も血圧が低いから今日はもう安静にしてゆっくりさせてあげてください。夜に吐き気とかが起きたなら医療機関の受診をするなどして様子をみてあげてくださいね。あとは――」
 そこで言葉を切ったと思ったら変わらぬ笑顔でまっすぐ見つめられて名前を呼ばれた。

「久世さん」
「はい」

「貧血の原因は鉄分不足によっておきる鉄欠乏性貧血が最も多いんだけれど、その鉄を補給するには食事はもちろんだけれど、睡眠もあげられるのね。睡眠不足は鉄分の吸収を妨げるから、貧血の原因にもなりやすいの」
「……はぁ」
「最近は少し寝不足かしらね?新婚で奥さんが可愛いのはわかるんだけれど……あんまり体を酷使しすぎないであげてね?女の人は結婚したら色々と負担も増えて大変だから。可愛がりすぎるのもほどほどにして、無理な夜更かしはせず、しっかり休息させること。わかりました?」
「…………はい」
 冷静に諭されて素直に返事しかできない俺の横で佐藤が肩を震わせている。
 あとは事務的な話と定時までここで寝かせて連れて帰るように指示されて医務室を後にした。


「……怒られてやんの」
「……」
 そんな風に馬鹿にされて言い返したいものの何も言えない。

「そんな可愛がってんの?」
 揶揄るように聞かれていっそ開き直った。

「可愛がってるよ。実際可愛すぎるんだよ、あいつは」
 そう言ってやった俺に内田が「うわっ」と声を上げて食いついてきた。

「マジっすか?ど、どんな感じなんですか?!」

(こいつ……この状況でこのネタに口挟んでくるとかいい根性してる。全然ヘタレじゃねぇじゃねーか)

「お前にだけは絶対教えない」
「えー!ちょっとくらい聞かせてくださいよぉぉ!夜のちぃちゃんとか想像しただけで勃つ……」
「お前ほんとにいい性格してんな。想像すんな馬鹿野郎」
「いや、久世さんのせいっすよぉ!」
「そんなことより!仕事どうなってる!」
 アホな内田を怒鳴りつけたら、「あー……」っと空を仰いで記憶を探っているがするっと出てこない。余計な事ばっかり考えてこいつは本当に……そう呆れていたら佐藤が内田の代わりに答えてくれる。

「内田の仕事手伝ってるってことは急ぎの泡はしてないな。俺も今日打ち合わせばっかりでレポート見てないけど記憶の中で菱田さんに頼んでることはないし頼むこともない。予定表通りなら明日も休んで問題ないよ。なんかあってもこっちで対応できる」
「悪い、じゃあもう明日休ませる。内田も悪いけど今日のあいつの仕事の後始末だけ頼んでもいいか?」
「あ、もちろんです。てか、俺の仕事なんで全然大丈夫です」
「悪いな、助かるよ。あ、十八時からの打ち合わせ俺もう出られないし、佐藤、悪いんだけど……「いいよ、俺が対応する。あ、でも……「資料今から送る。もしわかんなかったら添付ファイル見て、それで対応できると思うし。でも多分うちのグループのことに今日突っ込まれるところないと思う。あればメールくれたら明日対応するって伝えてくれる?」
 了解、と佐藤が返事をくれたので、とりあえず時間までにできる仕事を片付けに事務所へ走った。


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