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最終話
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ミーティングは一時間ほどで終わった。
室内に残る人間があと数人、それくらいになったとき名前を呼ばれた。
「風香さん」
「……」
「ビックリしてる?」
「して、る。てか、するでしょ!? するわよ! なに!? なんで!?」
取り繕う余裕もなく、一気に捲し立てたらプッと噴き出されてグッと手首を掴まれた。
「ちょ、なに……やめて、ここ職場……」
「もう誰もいないよ」
言われて見渡せば本当に室内には誰もいなかった。律くんと私のふたりきりだ。
「いろいろ、誤解させてると思う。あの夜追いかけようと思ったけど、あの時の俺が何言ったって風香さんは年下の俺でしか見てくれないのが分かったから。それを理由にされたくなかったけど、事実だからどうしようもないし、事実だからそれ以上に認めさせるものが必要だって思ったからさ。今日まで待ってた」
「待ってたって、なに……」
「風香さんの職場のコンサル担当になるために必死で勝ち取ったんだよ。若手だからとか、年齢とかで振り落とされないように必死に」
律くんのもうひとつの手が腰に回ってさらにグイッと引き寄せられる。
「だ、だからここ、職場だって……」
「やっと掴まえたんだよ? 離すわけねぇだろ」
「え?」
「身体からハマらせたのは本音だよ。でもハマってんの俺じゃん。俺が風香さんの身体に沼って落ちてんじゃんか」
――え?
「相性はそうでも、好きだからじゃん。好きだから合うんだよ、沿うんだよ。風香さん抱いたときにわかった。好きな女抱いたらこんな気持ちいいんかよって。もっとってなんのかよって。盛るくらいヤってんのってそういうことじゃん。風香さんがじゃない、俺がだよ。俺が風香さんに沼ってんの」
「なん、そ……ええ?」
「なんか聞いてた? あの時……ストーカーどうこうって」
「う、うん。ストーカーなったらおもしろいなって……バカにしてたじゃん」
「あれはさー……そう言ったけど割と本気っつーか……」
――え?
「ストーカーなるほど追いかけてほしいなって。そうなったら嬉しいからさ」
「す、ストーカーが嬉しいの? 怖くない?」
アラサーのストーカーは怖いと思うけど。そう思っているのにフッと微笑むその笑顔の破壊力たるや!
「束縛、メンヘラオッケーだよ? 俺依存してグズグズなっちゃえよ」
「……そ、それはちょっと……人としてどうかなぁ?」
絶対なりたくないんですけど、は吞み込んだ。それでももう私は律くんを忘れられない、ずっと囚われて心の奥で依存したままだ。
「ひとりで、生きていこうって、決めたのよ」
「……そのそばに、俺はいちゃいけないの?」
優しい声で、そんな言葉言わないで。
「ひとりで生きていきたいの?」
そんなわけない。
「風香さんはひとりで……生きていけるの?」
「生きて、いけない」
もう、ひとりになんかなれない。なりたくない。
「律くんが、30歳になったら私はもう37歳だよ?」
「同じ三十代だね」
そんな単純な話だろうか。
「律くんはまだ若いし、同い年の子を選んだらまだ23歳なのよ? そんな若い子たちと並べるのに、30歳の女選ぶって……物好きすぎる」
「俺は23歳の風香さんに一目惚れしてるからなぁ」
「え?」
「覚えてなさそうだけどさ、風香さんと出会ったのは俺が16歳で風香さんは23歳だった」
「……」
「時間を重ねた分、出会ったときよりずっと、ずっと綺麗で夢中にさせるひとだけどな」
30過ぎて、運命なんか信じてない。奇跡だって、そう簡単に起きないことを知っている。
でもこれは……律くんとは出会うべくして出会えた運命だと思ってもいいだろうか。
「三度目の正直かな」
「え?」
「今度はちゃんと、始めようよ」
ちゃんと、目を見て向き合って。その手を掴んで、抱き合って。
「もう逃がしてあげないよ」
私だってもう、逃げたくない。
逃げたりしない。
「今日から職場でもよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
よろしくは仕事だけじゃない。
今度こそ、「はじめまして」からふたりで始めよう。
――end――
室内に残る人間があと数人、それくらいになったとき名前を呼ばれた。
「風香さん」
「……」
「ビックリしてる?」
「して、る。てか、するでしょ!? するわよ! なに!? なんで!?」
取り繕う余裕もなく、一気に捲し立てたらプッと噴き出されてグッと手首を掴まれた。
「ちょ、なに……やめて、ここ職場……」
「もう誰もいないよ」
言われて見渡せば本当に室内には誰もいなかった。律くんと私のふたりきりだ。
「いろいろ、誤解させてると思う。あの夜追いかけようと思ったけど、あの時の俺が何言ったって風香さんは年下の俺でしか見てくれないのが分かったから。それを理由にされたくなかったけど、事実だからどうしようもないし、事実だからそれ以上に認めさせるものが必要だって思ったからさ。今日まで待ってた」
「待ってたって、なに……」
「風香さんの職場のコンサル担当になるために必死で勝ち取ったんだよ。若手だからとか、年齢とかで振り落とされないように必死に」
律くんのもうひとつの手が腰に回ってさらにグイッと引き寄せられる。
「だ、だからここ、職場だって……」
「やっと掴まえたんだよ? 離すわけねぇだろ」
「え?」
「身体からハマらせたのは本音だよ。でもハマってんの俺じゃん。俺が風香さんの身体に沼って落ちてんじゃんか」
――え?
「相性はそうでも、好きだからじゃん。好きだから合うんだよ、沿うんだよ。風香さん抱いたときにわかった。好きな女抱いたらこんな気持ちいいんかよって。もっとってなんのかよって。盛るくらいヤってんのってそういうことじゃん。風香さんがじゃない、俺がだよ。俺が風香さんに沼ってんの」
「なん、そ……ええ?」
「なんか聞いてた? あの時……ストーカーどうこうって」
「う、うん。ストーカーなったらおもしろいなって……バカにしてたじゃん」
「あれはさー……そう言ったけど割と本気っつーか……」
――え?
「ストーカーなるほど追いかけてほしいなって。そうなったら嬉しいからさ」
「す、ストーカーが嬉しいの? 怖くない?」
アラサーのストーカーは怖いと思うけど。そう思っているのにフッと微笑むその笑顔の破壊力たるや!
「束縛、メンヘラオッケーだよ? 俺依存してグズグズなっちゃえよ」
「……そ、それはちょっと……人としてどうかなぁ?」
絶対なりたくないんですけど、は吞み込んだ。それでももう私は律くんを忘れられない、ずっと囚われて心の奥で依存したままだ。
「ひとりで、生きていこうって、決めたのよ」
「……そのそばに、俺はいちゃいけないの?」
優しい声で、そんな言葉言わないで。
「ひとりで生きていきたいの?」
そんなわけない。
「風香さんはひとりで……生きていけるの?」
「生きて、いけない」
もう、ひとりになんかなれない。なりたくない。
「律くんが、30歳になったら私はもう37歳だよ?」
「同じ三十代だね」
そんな単純な話だろうか。
「律くんはまだ若いし、同い年の子を選んだらまだ23歳なのよ? そんな若い子たちと並べるのに、30歳の女選ぶって……物好きすぎる」
「俺は23歳の風香さんに一目惚れしてるからなぁ」
「え?」
「覚えてなさそうだけどさ、風香さんと出会ったのは俺が16歳で風香さんは23歳だった」
「……」
「時間を重ねた分、出会ったときよりずっと、ずっと綺麗で夢中にさせるひとだけどな」
30過ぎて、運命なんか信じてない。奇跡だって、そう簡単に起きないことを知っている。
でもこれは……律くんとは出会うべくして出会えた運命だと思ってもいいだろうか。
「三度目の正直かな」
「え?」
「今度はちゃんと、始めようよ」
ちゃんと、目を見て向き合って。その手を掴んで、抱き合って。
「もう逃がしてあげないよ」
私だってもう、逃げたくない。
逃げたりしない。
「今日から職場でもよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
よろしくは仕事だけじゃない。
今度こそ、「はじめまして」からふたりで始めよう。
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2021.08.13
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