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第10話
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――好きだったのよ! バカみたいだけど、情けないほど、あんたに夢中になって本気で好きになっちゃったんだよ!
「律くんのことなんかさっさと忘れて生きて行ってやるわよ!」
吐き捨てるようにそれだけ叫んで私は店を飛び出した。
息が切れる、日ごろの運動不足、年齢が無駄に息をあがらせて情けなさが募る。もう走れない、もういいか、だって。
律くんは追いかけても来ない。
期待する自分がまた情けない。忘れると啖呵を切って後ろ髪惹かれる自分が滑稽でしかない。本当にバカすぎて嫌になる。
こんな風に簡単に終わるような関係だったのに、なにを期待していたんだろう。7歳も年下の男の子、向こうがアラサーの私に執着するわけがないのに。待つだけ無駄だ、期待するほど自分に裏切られる。だからこそ――。
もうやめよう。
諦めよう。
忘れよう。
私には、私の人生がきっとある。
誰かと寄り添っていけなくても、私は私の足で立って生きていけばいいんだから。
それから数カ月。月日が経つのは早い。幸い仕事は忙しいし、生活習慣を見直しつつ少しだけジムに通うようにしたりして運動不足を解消しようと努力を始めた。新しいことを始めるのは楽しいし、それなりに疲れる。ひととの出会いも増えるし、また疲れて……充実する中でも無視できない疲労感に心は寂しさを覚えている。
――はぁ、疲れた。一回有休でもとって温泉行こうかな。
誘う人もいない、ひとり気楽に好きなものを食べて温泉。想像したらちょっとワクワクして楽しみが生まれると気持ちが晴れた。生きていると寂しさがついてくる。誰といたってそれは拭えないものな気がする。
人はひとりで生きていくものだから。みんなそうだから、だから自分の抱え持つ寂しさは特別なものじゃない。
そう思うのに。
『風香さん』
耳の奥にフトしたときに響く声に、胸を切なさが撫でていく。
『可愛い。大好きだよ』
誰かに好きだと、あと人生で何回言ってもらえるだろう。
私は口ばかりの生き物で、結局、律くんのなにひとつも忘れられずに今を生きている。
「真島さーん。ミーティング始まりますよ~」
「はーい」
呼ばれて会議室に足を運ぶとざわついていた。時間に遅れたわけではないけれど訪れるのが遅かった私は入り口の隅にそっと滑り込む。目の前に立つ人の背をかき分けるように前を覗き見してその目に映るものに息を呑んだ。
――え? うそ、なんで? え?
「まずは最初に本日より常駐でスタッフを増員することになりましたのでその紹介から」
「はじめまして。本日からお世話になります、木邑律です。よろしくお願いします」
「木邑くんは学生時代からベンチャー支援の会社で実務経験もあり、何社かコンサル会社とやり取りもある若手ながら実力者です。主には働き方改革を重点的に見直すところから取り組んでいこうと……」
もう説明なんか耳に入ってなど来ない。ただ、目の前から視線を外すことができない。
目の前の……律くんから。律くんだって、私を見つめてその視線を外すことをしないから。
「律くんのことなんかさっさと忘れて生きて行ってやるわよ!」
吐き捨てるようにそれだけ叫んで私は店を飛び出した。
息が切れる、日ごろの運動不足、年齢が無駄に息をあがらせて情けなさが募る。もう走れない、もういいか、だって。
律くんは追いかけても来ない。
期待する自分がまた情けない。忘れると啖呵を切って後ろ髪惹かれる自分が滑稽でしかない。本当にバカすぎて嫌になる。
こんな風に簡単に終わるような関係だったのに、なにを期待していたんだろう。7歳も年下の男の子、向こうがアラサーの私に執着するわけがないのに。待つだけ無駄だ、期待するほど自分に裏切られる。だからこそ――。
もうやめよう。
諦めよう。
忘れよう。
私には、私の人生がきっとある。
誰かと寄り添っていけなくても、私は私の足で立って生きていけばいいんだから。
それから数カ月。月日が経つのは早い。幸い仕事は忙しいし、生活習慣を見直しつつ少しだけジムに通うようにしたりして運動不足を解消しようと努力を始めた。新しいことを始めるのは楽しいし、それなりに疲れる。ひととの出会いも増えるし、また疲れて……充実する中でも無視できない疲労感に心は寂しさを覚えている。
――はぁ、疲れた。一回有休でもとって温泉行こうかな。
誘う人もいない、ひとり気楽に好きなものを食べて温泉。想像したらちょっとワクワクして楽しみが生まれると気持ちが晴れた。生きていると寂しさがついてくる。誰といたってそれは拭えないものな気がする。
人はひとりで生きていくものだから。みんなそうだから、だから自分の抱え持つ寂しさは特別なものじゃない。
そう思うのに。
『風香さん』
耳の奥にフトしたときに響く声に、胸を切なさが撫でていく。
『可愛い。大好きだよ』
誰かに好きだと、あと人生で何回言ってもらえるだろう。
私は口ばかりの生き物で、結局、律くんのなにひとつも忘れられずに今を生きている。
「真島さーん。ミーティング始まりますよ~」
「はーい」
呼ばれて会議室に足を運ぶとざわついていた。時間に遅れたわけではないけれど訪れるのが遅かった私は入り口の隅にそっと滑り込む。目の前に立つ人の背をかき分けるように前を覗き見してその目に映るものに息を呑んだ。
――え? うそ、なんで? え?
「まずは最初に本日より常駐でスタッフを増員することになりましたのでその紹介から」
「はじめまして。本日からお世話になります、木邑律です。よろしくお願いします」
「木邑くんは学生時代からベンチャー支援の会社で実務経験もあり、何社かコンサル会社とやり取りもある若手ながら実力者です。主には働き方改革を重点的に見直すところから取り組んでいこうと……」
もう説明なんか耳に入ってなど来ない。ただ、目の前から視線を外すことができない。
目の前の……律くんから。律くんだって、私を見つめてその視線を外すことをしないから。
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