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目標のある幸せ ー卒業ー 第六話
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「それでは行ってきます」
春代がさなえから聞いた編成発表の日である土曜日となった。
「気を付けて、危ないことしないでね。春代ちゃんも紗良が飛び出さないようによく見張っていてね」
「任せてください。手をつないでいきますので大丈夫です」
「まるで幼稚園児ね。昔に戻ったみたい。それじゃあ二人とも行ってらっしゃい」
お母さんに手を振られてから、家を出て駅に向かう。
道中これが切符かこれが電車かと、いい年をした女が感心しているのを周りの人は不思議そうに見ていたが、何とか事務所のあるビルについた。
春代が少し早かったかと事務所の受付に話をしていると、スマホにさなえから終わったとアプリで連絡が来たと言った。
手をつないで案内された方に歩いていくと、中年の男性が挨拶をしてくるので、会釈をして立ち止まった。
「おっ相羽。心配したけど大丈夫だったか?」
「すみませんが、どなたでしょうか?」
「記憶障害って、そんなすごいレベル? 絶対美香が泣くぞ。それでそちらは?」
「私、幼馴染の山岸春代といいます。付き添いで来ましたけど、おじさんはどなたですか?」
山岸? と言いながらおじさんが名刺を春代に渡してこういうものですと言った。
「紗良。この人偉い人みたい。村雨部長さんだって」
「そうでしたか、父から名前は伺いました。村雨部長から休業してもいいと言われたとか、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「人助けをしてケガをしたのは仕方がない、確かにご両親から連絡があって仕事は大丈夫ですと言った。とりあえずはみんなに用事があってきたんだろ、後で話しを聞かせてもらえるか?」
「わかりました、それでは後程。失礼します」
私たちは村雨部長と別れて、みんなの待つミーティングルームに行った。
「紗良ちゃーん、元気そうでよかったー」
ネットで調べた時にグループ最年少で出てきた、可愛らしい子がすごい勢いで抱きついてきた。
「浦部さんでしたね。こんにちは」
「浦部さんってどういうこと?」
美香は私の顔をじっとみていた。
「あなたは山岸さなえさんですよね。ネットで見ましたのでわかりますが、どちらかというと初めましてという感じなので。すみません」
「ネットで?」
そこにいたメンバー全員がポカーンとしていたので、春代が友達の山岸春代ですと言って、登校中に女の子を助けるために、車に撥ねられたことから説明を始めた。
「紗良は病院で目が覚めた時からの記憶しかないっていっています、両親のこともわからないみたいで」
「そんな……。紗良ちゃん、美香のことも覚えてないの?」
「ごめんなさい、全然思い出せなくて」
美香はこらえきれずに涙が出てきて、同期の朋子に慰められていた。
「なんでも首を突っ込むとは思っていたけど、女の子を助けるために車にまで突っ込んでいくなんて、漫画みたいなことする? しかも記憶喪失とか」
「よく覚えていないのですが、そうらしいです山岸さなえさん」
「呼び方までリセットされてる。私も泣きそうだからフルネームで呼ばないで。さぁちゃんでいいから」
「わかりました。さぁちゃん」
さなえが、春代の耳元でささやいていた。
「ちょっと、はるちゃん、紗良がいやに素直じゃない? 以前紗良にさぁちゃんて呼んでって言ったらそれだけで三十分は考えていたのに」
「そうなの。わかる? 過去のしがらみ的なところが無いから、言われたことはなんの疑問もなく聞いてくれるの、多分今だけだと思う。どんどん何かを取り戻しているような気がするから」
相変わらず紗良のことはわからないと言いながら、聞きたいことがあったんでしょとさなえが春代に言った。
「すみませんが、紗良が教えてもらいたいことがあるみたいなので連れて来ました」
メンバーが何々? と寄ってきてわかることなら教えてあげると言った。
「私事で申し訳ないのですが、私がアイドルをしていた目的というか目標って何だったのでしょうか? すごく私にとって大事なことだったように思うのですが」
メンバー全員が「目標?」と首をひねった。
「私は聞いたことないなぁ」とリーダーの神室美咲さんが首をひねりながら言った。
他のメンバーも「チーム編成の時はチームアルファーのセンターで頑張りたいという感じでもないしねぇ」と口々に言っていた。
「はいっ! 私、紗良が何でアイドルを目指したのかは聞いたことがあります」
そう言って二期生で紗良と同期の服部未来が手を挙げた。
「あっ、それなら私も聞いたことがある」
一期生の城田遥さんもあの時に聞いたと言った。
「紗良は絵里奈さんの歌を聴いて感動したんだって、それでオーディションを受けたって言ってた」
「チームベータのライブの時に、唄い方がわからないって絵里奈に訊いてた時だよね」
「それでは私は高坂さんが目標なのでしょうか?」
「目標とは言ってなかったけど……。絵里奈とよく話しをしていたから絵里奈なら知ってるかも」
「そうですか。それで高坂さんは何処に?」
「今は舞台で地方なの、でも今の紗良の状況を聞いたら絵里奈が倒れそう」
「そうだよ、あのアプリの連絡が来た時、絶対嘘だ信じないって泣いてたもの」
「まだ紗良は復帰しないんでしょ?」
「そうですね、何しろ自分が皆さんと同じグループだということも覚えていませんので、やっていける自信がありません」
朋子に慰められていた美香が近くによってきて半泣きで私の手を掴んだ。
「紗良ちゃん辞めたりしないよね? また美香と一緒にやってくれるでしょ?」
「浦部さんは可愛くて優しい子なんですね。ありがとう。戻って来られるように努力しますから泣かないでください」
「じゃあ今度からは前みたいに美香って呼んで」
「わかりました。美香」
そう言って微笑んであげると、やっぱり紗良ちゃんだったと美香も微笑んだ。
とりあえず、これ以上聞いても何もわからなそうだったので村雨部長に会いに行くことにした。
「皆さんお時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした、また今度高坂さんにも訊いてみます」
そう言って深々と頭を下げると、みんなが「早く戻ってくるんだよ」と言ってくれる中、ミーティングルームを後にした。
「おーい相羽。こっちこっち、山岸さんだっけ? もちろん君も一緒にでいいから」
私たちはちょっと豪華な応接室に通された。
「今日はお客さんだからな。二人は飲み物何にする? 紅茶かコーヒーか?」
二人そろって紅茶でと言ったら仲がいいんだなと笑われた。
「山岸さんは相羽とは長いの?」
「幼なじみです、幼稚園のころからの」
「へぇ、相羽にも子供の時があったんだな。そりゃあるか。本人を目の前にして言うのもなんだけど、相羽は面白いよな、オーディションの時に俺が推したんだよ」
「紗良はいつもすましてるけど、突然暴走し始めるので面白いといえば面白いかもしれません。本人はあまり気がついていないですけど、結構顔に出てるし」
「あー、確かにオーディションの時にダンスがきれいだったから、ほかの人より長めに踊ってもらった時凄い睨まれたわ。その後なんか運動してって言ったらバック宙をされた」
そんなことがあったのか、春代のあなた何してんの? という顔を見るとオーディションというのはそういうことをするものではなさそうだが、後で調べようと思った。
「山岸さんはうちのさなえと関係があるの?」
「いえ、普通の友人です」
「そうか、雰囲気的に一族なのかと思った」
「あんなにかわいい子は私の一族にはいません」
「ふーん。君は来年大学に行くの?」
「そのつもりですけど」
「そうかぁ、卒業したときにまだ俺がいて興味があったら入社試験受けてみてくれよ。相羽の親友なら間違いなく面白いだろうから」
「あの、すみませんが、何の話をしてるんですか?」
「ごめんごめんついスカウトしちゃったよ、それでメンバーのみんなとは話せたのか?」
村雨部長が真剣な顔になり私に訊いた。
「話せました。みんな早く戻ってきてと言ってくれました。本当にみんな優しい人たちですよね」
「まあ、うちのメンバーは、そうだな。美香は泣いただろうけどな。事故の時に撥ね飛ばされたって聞いたけど、体調的には復帰しても問題なさそうだが、正直なところどうなの?」
「どうというか今の私は何も積み上げたものがありません。ネットで動画を見て同じようにすることはできると思いますが、それでは何も意味が無いような気がします」
「相羽は記憶がなくなっても相羽らしいな。たしかに今のままなら見た目だけは完璧なそっくりさんだものな。それで記憶は戻りそうか?」
「私がアイドルをしていた動機が分かったら何か過去の記憶とつながりそうなのですが、メンバーに聞いても何も分からなくて」
「動機って、いつも相羽が俺に言ってたやつのこと?」
「何かご存知なのですかっ?」
「ぶはっ!」
突然私が大きな声を出したので、丁度紅茶を飲もうとしていた春代が隣でむせていた。
「ご存じか? って、相羽は知りたいって言ってたけどな」
「知りたい? 何をですか?」
「アイドルというものが何なのか知りたいって、知るためになってみないとわからないからオーディションを受けた、やるからには全力でやることが必要だとか」
「私はそんなことを言っていたのですか。それでどうだったんですか? 分かったのでしょうか?」
「いや、まだ知りたいことがいっぱいあるから、やりたいと思うことをすべてやるって言っていた。それが目標だと」
「そんな目標に終わりがあるのでしょうか?」
「やっぱり相羽本人だな、もう一人の相羽も『そんな目標は終わりがないですかね』って俺に笑って言ってたよ」
「紗良、何か思い出した?」
春代が心配そうな顔で私を見ているので、「全然思い出しませんが、何となくすっきりしました」と答える。
「それで、今の相羽はこれからどうする?」
「まだ復帰できそうにありませんが、思い出したらすぐに復帰できるようにメンバーとして一緒にいさせてください」
「わかった、休業中の相羽にはフォーメーションはないが、お前のことだ、全部覚えられるんだろう? アルファー、ベータ関係なく参加できるレッスンやリハーサルには来ていいぞ。ただし出番がないからって不貞腐れるなよ」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
村雨部長に挨拶をして事務所を後にした。
「始めは適当な人かと思ったら結構すごい人だったよね」
「そうですね、なんとなくですが誰よりもメンバーを見てくれている人のような気がします」
それから暫くしてメンバーに与えられるレッスンやリハーサルのスケジュールの割り振りがスマホに送られてきた。
家に帰ってお母さんにもう一度アイドルとして復帰するための準備をすることにしたと話しをしたら、また涙ぐみながら、焦ることはないからやりたいことをやりなさいと言われた。
春代がさなえから聞いた編成発表の日である土曜日となった。
「気を付けて、危ないことしないでね。春代ちゃんも紗良が飛び出さないようによく見張っていてね」
「任せてください。手をつないでいきますので大丈夫です」
「まるで幼稚園児ね。昔に戻ったみたい。それじゃあ二人とも行ってらっしゃい」
お母さんに手を振られてから、家を出て駅に向かう。
道中これが切符かこれが電車かと、いい年をした女が感心しているのを周りの人は不思議そうに見ていたが、何とか事務所のあるビルについた。
春代が少し早かったかと事務所の受付に話をしていると、スマホにさなえから終わったとアプリで連絡が来たと言った。
手をつないで案内された方に歩いていくと、中年の男性が挨拶をしてくるので、会釈をして立ち止まった。
「おっ相羽。心配したけど大丈夫だったか?」
「すみませんが、どなたでしょうか?」
「記憶障害って、そんなすごいレベル? 絶対美香が泣くぞ。それでそちらは?」
「私、幼馴染の山岸春代といいます。付き添いで来ましたけど、おじさんはどなたですか?」
山岸? と言いながらおじさんが名刺を春代に渡してこういうものですと言った。
「紗良。この人偉い人みたい。村雨部長さんだって」
「そうでしたか、父から名前は伺いました。村雨部長から休業してもいいと言われたとか、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「人助けをしてケガをしたのは仕方がない、確かにご両親から連絡があって仕事は大丈夫ですと言った。とりあえずはみんなに用事があってきたんだろ、後で話しを聞かせてもらえるか?」
「わかりました、それでは後程。失礼します」
私たちは村雨部長と別れて、みんなの待つミーティングルームに行った。
「紗良ちゃーん、元気そうでよかったー」
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「浦部さんでしたね。こんにちは」
「浦部さんってどういうこと?」
美香は私の顔をじっとみていた。
「あなたは山岸さなえさんですよね。ネットで見ましたのでわかりますが、どちらかというと初めましてという感じなので。すみません」
「ネットで?」
そこにいたメンバー全員がポカーンとしていたので、春代が友達の山岸春代ですと言って、登校中に女の子を助けるために、車に撥ねられたことから説明を始めた。
「紗良は病院で目が覚めた時からの記憶しかないっていっています、両親のこともわからないみたいで」
「そんな……。紗良ちゃん、美香のことも覚えてないの?」
「ごめんなさい、全然思い出せなくて」
美香はこらえきれずに涙が出てきて、同期の朋子に慰められていた。
「なんでも首を突っ込むとは思っていたけど、女の子を助けるために車にまで突っ込んでいくなんて、漫画みたいなことする? しかも記憶喪失とか」
「よく覚えていないのですが、そうらしいです山岸さなえさん」
「呼び方までリセットされてる。私も泣きそうだからフルネームで呼ばないで。さぁちゃんでいいから」
「わかりました。さぁちゃん」
さなえが、春代の耳元でささやいていた。
「ちょっと、はるちゃん、紗良がいやに素直じゃない? 以前紗良にさぁちゃんて呼んでって言ったらそれだけで三十分は考えていたのに」
「そうなの。わかる? 過去のしがらみ的なところが無いから、言われたことはなんの疑問もなく聞いてくれるの、多分今だけだと思う。どんどん何かを取り戻しているような気がするから」
相変わらず紗良のことはわからないと言いながら、聞きたいことがあったんでしょとさなえが春代に言った。
「すみませんが、紗良が教えてもらいたいことがあるみたいなので連れて来ました」
メンバーが何々? と寄ってきてわかることなら教えてあげると言った。
「私事で申し訳ないのですが、私がアイドルをしていた目的というか目標って何だったのでしょうか? すごく私にとって大事なことだったように思うのですが」
メンバー全員が「目標?」と首をひねった。
「私は聞いたことないなぁ」とリーダーの神室美咲さんが首をひねりながら言った。
他のメンバーも「チーム編成の時はチームアルファーのセンターで頑張りたいという感じでもないしねぇ」と口々に言っていた。
「はいっ! 私、紗良が何でアイドルを目指したのかは聞いたことがあります」
そう言って二期生で紗良と同期の服部未来が手を挙げた。
「あっ、それなら私も聞いたことがある」
一期生の城田遥さんもあの時に聞いたと言った。
「紗良は絵里奈さんの歌を聴いて感動したんだって、それでオーディションを受けたって言ってた」
「チームベータのライブの時に、唄い方がわからないって絵里奈に訊いてた時だよね」
「それでは私は高坂さんが目標なのでしょうか?」
「目標とは言ってなかったけど……。絵里奈とよく話しをしていたから絵里奈なら知ってるかも」
「そうですか。それで高坂さんは何処に?」
「今は舞台で地方なの、でも今の紗良の状況を聞いたら絵里奈が倒れそう」
「そうだよ、あのアプリの連絡が来た時、絶対嘘だ信じないって泣いてたもの」
「まだ紗良は復帰しないんでしょ?」
「そうですね、何しろ自分が皆さんと同じグループだということも覚えていませんので、やっていける自信がありません」
朋子に慰められていた美香が近くによってきて半泣きで私の手を掴んだ。
「紗良ちゃん辞めたりしないよね? また美香と一緒にやってくれるでしょ?」
「浦部さんは可愛くて優しい子なんですね。ありがとう。戻って来られるように努力しますから泣かないでください」
「じゃあ今度からは前みたいに美香って呼んで」
「わかりました。美香」
そう言って微笑んであげると、やっぱり紗良ちゃんだったと美香も微笑んだ。
とりあえず、これ以上聞いても何もわからなそうだったので村雨部長に会いに行くことにした。
「皆さんお時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした、また今度高坂さんにも訊いてみます」
そう言って深々と頭を下げると、みんなが「早く戻ってくるんだよ」と言ってくれる中、ミーティングルームを後にした。
「おーい相羽。こっちこっち、山岸さんだっけ? もちろん君も一緒にでいいから」
私たちはちょっと豪華な応接室に通された。
「今日はお客さんだからな。二人は飲み物何にする? 紅茶かコーヒーか?」
二人そろって紅茶でと言ったら仲がいいんだなと笑われた。
「山岸さんは相羽とは長いの?」
「幼なじみです、幼稚園のころからの」
「へぇ、相羽にも子供の時があったんだな。そりゃあるか。本人を目の前にして言うのもなんだけど、相羽は面白いよな、オーディションの時に俺が推したんだよ」
「紗良はいつもすましてるけど、突然暴走し始めるので面白いといえば面白いかもしれません。本人はあまり気がついていないですけど、結構顔に出てるし」
「あー、確かにオーディションの時にダンスがきれいだったから、ほかの人より長めに踊ってもらった時凄い睨まれたわ。その後なんか運動してって言ったらバック宙をされた」
そんなことがあったのか、春代のあなた何してんの? という顔を見るとオーディションというのはそういうことをするものではなさそうだが、後で調べようと思った。
「山岸さんはうちのさなえと関係があるの?」
「いえ、普通の友人です」
「そうか、雰囲気的に一族なのかと思った」
「あんなにかわいい子は私の一族にはいません」
「ふーん。君は来年大学に行くの?」
「そのつもりですけど」
「そうかぁ、卒業したときにまだ俺がいて興味があったら入社試験受けてみてくれよ。相羽の親友なら間違いなく面白いだろうから」
「あの、すみませんが、何の話をしてるんですか?」
「ごめんごめんついスカウトしちゃったよ、それでメンバーのみんなとは話せたのか?」
村雨部長が真剣な顔になり私に訊いた。
「話せました。みんな早く戻ってきてと言ってくれました。本当にみんな優しい人たちですよね」
「まあ、うちのメンバーは、そうだな。美香は泣いただろうけどな。事故の時に撥ね飛ばされたって聞いたけど、体調的には復帰しても問題なさそうだが、正直なところどうなの?」
「どうというか今の私は何も積み上げたものがありません。ネットで動画を見て同じようにすることはできると思いますが、それでは何も意味が無いような気がします」
「相羽は記憶がなくなっても相羽らしいな。たしかに今のままなら見た目だけは完璧なそっくりさんだものな。それで記憶は戻りそうか?」
「私がアイドルをしていた動機が分かったら何か過去の記憶とつながりそうなのですが、メンバーに聞いても何も分からなくて」
「動機って、いつも相羽が俺に言ってたやつのこと?」
「何かご存知なのですかっ?」
「ぶはっ!」
突然私が大きな声を出したので、丁度紅茶を飲もうとしていた春代が隣でむせていた。
「ご存じか? って、相羽は知りたいって言ってたけどな」
「知りたい? 何をですか?」
「アイドルというものが何なのか知りたいって、知るためになってみないとわからないからオーディションを受けた、やるからには全力でやることが必要だとか」
「私はそんなことを言っていたのですか。それでどうだったんですか? 分かったのでしょうか?」
「いや、まだ知りたいことがいっぱいあるから、やりたいと思うことをすべてやるって言っていた。それが目標だと」
「そんな目標に終わりがあるのでしょうか?」
「やっぱり相羽本人だな、もう一人の相羽も『そんな目標は終わりがないですかね』って俺に笑って言ってたよ」
「紗良、何か思い出した?」
春代が心配そうな顔で私を見ているので、「全然思い出しませんが、何となくすっきりしました」と答える。
「それで、今の相羽はこれからどうする?」
「まだ復帰できそうにありませんが、思い出したらすぐに復帰できるようにメンバーとして一緒にいさせてください」
「わかった、休業中の相羽にはフォーメーションはないが、お前のことだ、全部覚えられるんだろう? アルファー、ベータ関係なく参加できるレッスンやリハーサルには来ていいぞ。ただし出番がないからって不貞腐れるなよ」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
村雨部長に挨拶をして事務所を後にした。
「始めは適当な人かと思ったら結構すごい人だったよね」
「そうですね、なんとなくですが誰よりもメンバーを見てくれている人のような気がします」
それから暫くしてメンバーに与えられるレッスンやリハーサルのスケジュールの割り振りがスマホに送られてきた。
家に帰ってお母さんにもう一度アイドルとして復帰するための準備をすることにしたと話しをしたら、また涙ぐみながら、焦ることはないからやりたいことをやりなさいと言われた。
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