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目標のある幸せ ー卒業ー 第九話
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私は仕事の合間を縫って出席日数を稼いだので、ほぼ卒業できることが確定し、あとは卒業まで、無事に過ごせれば問題ない状況になっていた。仕事の無い日に行けるときは学校へ行くという生活をしていた中、はるの大学合格を知り、心から良かったと思い満面の笑顔でお祝いの言葉をかけてあげる。
「はる、大学合格おめでとう」
「ありがとう。紗良がそんなに私に笑顔を見せてくれるなんて珍しい。私よ。良く頑張った」
「せっかくの頑張った笑顔を珍しいとは失礼な。あなたが頑張っていたのは知ってますよ。忘れものさえしなければ大丈夫だと思っていました」
「そんなこと一言も言わなかったじゃない」
「私が大丈夫とか言ったら、はるは途端に頑張らなくなるでしょう、受かったも同然だとか言って」
「それはそうかも。紗良が可哀そうな目で私を見るから、落ちるのかもしれないと思ってひたすら頑張った」
「おかしいですね、頑張っているはるを温かい目で見ていたつもりでしたが」
「はっ? そうだったの? 憐みの目にしか見えなかった。あんた駄目そうだよみたいな」
それは生まれつきの私の顔だ。
「重ね重ね失礼な。人のことをどういう人間だと思っているんですか? まあいいですけど、ところでどうして経済学部を選んだのですか?」
「機械工学と迷ったけど、どちらかというと今の予定では経済学部の方が良いのかなと思って」
「よくそんな真逆を選択肢にできますね」
「計算は得意だし、理系の勉強も嫌いじゃないよ。紗良だって行こうと思えばどこにでも行けるでしょ」
「私はまあそうですが、はるは何か目標があるんですか?」
「今はいろいろとね、でも内緒。だからあまり訊かないでよ。紗良に尋問されたら『はい』と『いいえ』だけでみんなわかっちゃうから」
「そうですか、ではその時が来たら教えてもらいます」
二人で歩いていると、小さいころからこうやって一緒にいた日常がだんだんと変わっていき、会う時間もずっと少なくなっていくのかと、少しずつ寒さの和らいできた夕暮れの中で、この私でも少しさみしさを感じる。
「今何考えていたの? 私と一緒に学校へ行けなくなってさみしいなとか?」
「何言っているんですか。そんなことは考えていませんよ。ご飯は何かな? とかです」
「そんなこと言って。紗良はオーディションを受けたと私に言った時のこと覚えているよね」
「勿論、今なら全て思い出せます」
「紗良がアイドルになってもずっと友達でいてって言ったでしょ。そこは変わらないから、紗良も変わらないでいて欲しい」
「私はずっとはると友達です。それだけは絶対に変わりません」
いつもの分かれ道で「じゃあまたね」と春代は家に帰っていった。
そんな話をした後、家に帰るとお母さんがお父さんも卒業式に行きたいと早く帰ってきて駄々をこねていると言って、困り果てているところだった。
「仕事があるなら仕方がないでしょう、あきらめて仕事をしてください」
リビングを覗くと腰に手を当ててお母さんがほほを膨らましていた。
「俺だって親なんだから行く権利はあるんだ」
「誰も睦さんに権利がないなんて言っていないでしょう。海外から大事な来客があるって言っていたのは睦さんでしょ」
覗いているところでお父さんと目が合うと、こっちにこいと手招きされる。
「俺はどうしたらいいんだ、紗良教えてくれ、卒業式の日をずらしてくれ」
「無理です。せっかくたまに早く帰ってきて何言っているんですか? お父さんはあきらめてください」
「冷たっ! 最後なんだから一緒に校門のところで卒業証書を持った紗良と写真を撮りたいんだ」
「今までお父さんはそんなに私に興味はなかった……ということもないか」
よく考えると不愛想な割に行事には結構参加してくれている。
「当たり前だ、一人娘の、これで制服も最後なんだろ、最後の写真くらい一緒に撮ってくれ」
「わかりました。次の休みの時に家の前で撮りましょう、私も制服着ますから」
「うう……、わかった、絶対だからな。それで我慢するから仕事を頑張ってくることにするよ」
学校でもないのに制服を着てうろうろしているところを春代に見られたら何を言われるかわからないなと思いながら、お母さんと一緒にため息をついて、なんとかその場を乗り切った。
卒業式の日、登校の準備をしていると、いつものように春代が呼びに来た。
「紗良ー行くよー」
「お母さん、お父さん行ってきます」
「二人とも、気を付けていきなさい。私も後からいきますからね」
家の中からお母さんがいつまでグズグズ言っているのか、観念して仕事に行く準備をなさいというお父さんへの苦言を聞きながら私たちは学校へ向かった。
「紗良のお父さんは来られないの?」
「そう、仕事があるから行けないって今まで見たことないくらいごねまくって、卒業式を延期しろって言ってた」
「お父さんめちゃくちゃいうなぁ。でもさみしいんだよきっと」
「別に私はどこにも行かないのに」
「そう? 紗良は一人暮らしとかしないの?」
「お母さんたちに出て行けと言われたら考えるけど、そうでなければ必要性を感じませんから」
「無駄っていえば無駄かぁ、普通は色恋に走ったりして一人暮らししたがるものだけど」
「グループの活動の上でも不要ですね。そう言うはるは一人暮らしをしないのですか?」
「私の場合はそもそも余分なお金はないし、紗良がいるなら今のところがいいよ」
「そうですか。それではまた当分一緒ですね」
そうそうと言いながら教室に入るとみんなが写真を撮ろうと寄ってきた。
「相羽さんいっしょに写真撮って」
「そうですね、かまいませんよ」
私がそういうと春代が私の前に立ちちょっと待ったと言った。
「女子はいいけど男子が入る場合はもれなく私が男子と紗良の間に入りますから、そのつもりでお願いします」
そう春代が高らかに宣言すると、なんでだよとみんなが言った。
「なぜって? 私は紗良を守る義務があるからに決まってるでしょ。紗良がいいといっても私が許可しません」
「はる私は……」
気にしませんが、と言いかけたが春代に黙ってろという目で制されて、村雨部長が言っていたようなことから私を守ろうとしてくれているのだなと思い直して、みんなには写真には入れてもらうけど春代のいうとおりにすると言った。
卒業式が始まり校歌斉唱のあと卒業証書をもらって送辞と答辞、校長先生や来賓の人の挨拶も済んで写真撮影の時間となった。
「紗良、全体の集合写真は背丈の順だから仕方がないけど、その後の自由撮影の時は私から離れないでね」
まるで警護の人のように周りを見張る春代を見ていたら少し笑ってしまう。
「ぷっ。そっそうですか分かりました、ありがとうございます」
その後は宣言した通り、男子がいる時は必ず私の隣に春代が入ってくる。
何故か後輩の女の子たちも写真を一緒に撮ってほしいと言ってきたので、愛想のない私でよければいいですよというと、春代がそれじゃあ順番に並んでと言って仕切ってくれた。
いったん教室に戻ってホームルームをしてから解散しますということで、教室に戻ると最後の成績表を先生がみんなに配った。
「今日で最後だから一言いわせてもらう。これからは社会人として生活する人も、次の学校で勉強をする人も今あるのはその成績表と一緒でただの結果だ。未来が決まっているわけじゃない。もちろん何もしなければ同じ結果が続くことになるだろうが、自分の目標をどこにするかで結果なんていくらでも変わる。だからまだ若いあなたたちは今の結果を見ただけであきらめるな。次の何かに向けてできれば楽しんで頑張ってくれることを祈っている。以上」
先生が号令をというと「起立、礼」という掛け声で全員が「ありがとうございました」と言って少しずつ教室を出ていく。
先生はみんなが教室を出ていくのを見送ると言って、最後まで残って私たちを見ていた。
玄関のところで、はるに忘れ物をしたと言って教室に戻ると、先生が丁度出てくるところだったのでちょっと待ってくださいと声をかけた。
「どうした相羽、お前が忘れ物か? 教室には何もなかったが」
みんなが何か忘れたりしていないか最後に確認をして出てきたようだった。
「忘れたのは物ではありません、先生へのお礼です。私がこの学校を卒業できたのは先生のおかげです。本当にありがとうございました」
「妙に律義な奴だよな。相羽ならどこの高校でも普通に卒業できたと思うぞ」
「いいえ、この高校を卒業したかったのです。本当にお世話になりました」
私はこれまでの感謝の気持ちを込めてお辞儀をした。
「そうか。相羽がそう思ってくれたのならよかった。相羽のこれからの活躍を楽しみにしているよ。早くいけ、山岸やお母さんたちが待っているんじゃないのか?」
卒業したのにいつまでもうろうろしているなと言って手を振って促されたので、「失礼します」そう言って下駄箱に向かって走った。
「はる、ごめん待たせた」
「いいよ、挨拶は済んだ?」
「知ってたの?」
「紗良が何もないのに忘れ物なんてするはずがないじゃん。ほかの人ならいざ知らず、私にそんなこと言っても意味ないよ」
「そうか、そうだね。先生にきちんとお礼を言ってきた。卒業するためにわがままを聞いてもらっていたから」
そういいながら校庭を見回すと、お母さんたちを見つけて校門のところでみんなで写真を撮った。
「お母さん、紗良と紗弓さんと三人で写りたいから一緒に撮って」
「はいはい撮りますよ。相羽さんごめんなさいね、いつも春代が迷惑ばかりかけて」
「うちは春代ちゃんに助けてもらっていますからいいですけど。あの、次は私たちが山岸さんたちを撮りますから」
お母さんがそう言っているのを見て、こういう時は三脚を持ってくるべきだったのかもしれないなと私は色々と反省しながら写真を撮っていた。
「紗良ー、準備できたかー」
次の土曜日は天気が良く、お父さんが写真を撮ると言って張り切っていた。
「着替えました。写真一枚撮るのにどれだけ張り切っているんですか」
「今言わなかったら絶対なかったことにするだろ、そういう雰囲気がありありと紗良から感じられる」
勘が鋭いなと思いながら、必要もないのに制服を着て家の前をうろうろしているのを春代に見られたら餌を見つけた子犬のように寄ってくるに違いないので、やるのであればすぐにでも済ませたいと考えていたのだが。
お母さんにも先日と同じ格好をさせて早く早くとせかしているのを結構こだわるなぁと見ながら、やれやれと玄関をあけると、ちょうど呼び鈴を押そうとした春代と目が合った。
「へっ?」
私が抜けたような声を出すと、春代は私の格好を二回ほど上から下へと見返しながら、しばらく黙っていた。
「紗良、卒業したのにまだ学校に行くの?」
「いや、これはですね、なんでもないんですよ」
「おっ春代ちゃん、これから紗良と写真を撮るんだよ」
「はあ、そうですか」
なんのことだかという感じで首をひねっていたが、ウキウキなお父さんを見て卒業式にお父さんが来れなかったからかという結論を導き出したらしい。
「ははーん。なるほど、なるほど、それなら私が撮ってあげますよ。どう撮りたいか言ってください」
「春代ちゃん悪いわね。すぐに終わるから」
「いえ、全然いいですけど……紗弓さんまでこの前と一緒の格好をさせられて、この前の再現?」
そうですと答えると、もう一度私の制服姿を見てからニヤニヤして、
「これからは、それコスプレだよ。あっ、でも握手会とか一度それで行ってあげたらファンの人が喜ぶかも」
と私に小さい声で言うので春代の頭を軽く叩いておいた。
結局一枚だけと思っていた写真をお父さんが更に撮りまくって、ようやく解放された。
着替えてリビングのテーブルに着くと春代がお茶を渡してくれた。お父さんが撮影後もウキウキでカメラの写真をお母さんに見せているのを横目で見て、お茶を飲みながら春代が私に顔を寄せてくる。
「お父さんは相当行きたかったんだね」
「ようやく卒業した気分になりました、本番の卒業式よりもつかれた気がします。ところで何で家に来たのですか? 誰にも知られずに終わらせようと思ったのに」
「何って? 特に用事は無いよ。しいて言えばお茶のみに来た。何となく何かが起きている気がして、暇だからもし紗良がいたら話しでもしようかなと思って」
春代の勘は本当に恐ろしい。さなえとともに山岸グループは本当に油断ならないなと思った。
「私が居なかったり、忙しかったらどうするつもりだったんですか?」
「あっそう、と言って帰るよ。暇なだけだし」
これだけ家が近く、姉妹の部屋に今いるか的な感覚で来ているのだから、別に何とも思わないか、それはそうかと納得する。
「紗良は仕事が入っているの?」
「今日はありませんが、明日からは結構入っていますね」
「そっかあ、応援してるから頑張ってね。私もドームのチケットを頑張って取るから」
「それは嬉しいですが、はるは大学の方を頑張ってください」
続けて用事がないなら大学の準備でもすればいいのにと春代に言うと、「準備なんてとっくに終わってる。私は紗良を見るために準備を終わらせているのだ」と理解不能なことを言い返された。
「はる、大学合格おめでとう」
「ありがとう。紗良がそんなに私に笑顔を見せてくれるなんて珍しい。私よ。良く頑張った」
「せっかくの頑張った笑顔を珍しいとは失礼な。あなたが頑張っていたのは知ってますよ。忘れものさえしなければ大丈夫だと思っていました」
「そんなこと一言も言わなかったじゃない」
「私が大丈夫とか言ったら、はるは途端に頑張らなくなるでしょう、受かったも同然だとか言って」
「それはそうかも。紗良が可哀そうな目で私を見るから、落ちるのかもしれないと思ってひたすら頑張った」
「おかしいですね、頑張っているはるを温かい目で見ていたつもりでしたが」
「はっ? そうだったの? 憐みの目にしか見えなかった。あんた駄目そうだよみたいな」
それは生まれつきの私の顔だ。
「重ね重ね失礼な。人のことをどういう人間だと思っているんですか? まあいいですけど、ところでどうして経済学部を選んだのですか?」
「機械工学と迷ったけど、どちらかというと今の予定では経済学部の方が良いのかなと思って」
「よくそんな真逆を選択肢にできますね」
「計算は得意だし、理系の勉強も嫌いじゃないよ。紗良だって行こうと思えばどこにでも行けるでしょ」
「私はまあそうですが、はるは何か目標があるんですか?」
「今はいろいろとね、でも内緒。だからあまり訊かないでよ。紗良に尋問されたら『はい』と『いいえ』だけでみんなわかっちゃうから」
「そうですか、ではその時が来たら教えてもらいます」
二人で歩いていると、小さいころからこうやって一緒にいた日常がだんだんと変わっていき、会う時間もずっと少なくなっていくのかと、少しずつ寒さの和らいできた夕暮れの中で、この私でも少しさみしさを感じる。
「今何考えていたの? 私と一緒に学校へ行けなくなってさみしいなとか?」
「何言っているんですか。そんなことは考えていませんよ。ご飯は何かな? とかです」
「そんなこと言って。紗良はオーディションを受けたと私に言った時のこと覚えているよね」
「勿論、今なら全て思い出せます」
「紗良がアイドルになってもずっと友達でいてって言ったでしょ。そこは変わらないから、紗良も変わらないでいて欲しい」
「私はずっとはると友達です。それだけは絶対に変わりません」
いつもの分かれ道で「じゃあまたね」と春代は家に帰っていった。
そんな話をした後、家に帰るとお母さんがお父さんも卒業式に行きたいと早く帰ってきて駄々をこねていると言って、困り果てているところだった。
「仕事があるなら仕方がないでしょう、あきらめて仕事をしてください」
リビングを覗くと腰に手を当ててお母さんがほほを膨らましていた。
「俺だって親なんだから行く権利はあるんだ」
「誰も睦さんに権利がないなんて言っていないでしょう。海外から大事な来客があるって言っていたのは睦さんでしょ」
覗いているところでお父さんと目が合うと、こっちにこいと手招きされる。
「俺はどうしたらいいんだ、紗良教えてくれ、卒業式の日をずらしてくれ」
「無理です。せっかくたまに早く帰ってきて何言っているんですか? お父さんはあきらめてください」
「冷たっ! 最後なんだから一緒に校門のところで卒業証書を持った紗良と写真を撮りたいんだ」
「今までお父さんはそんなに私に興味はなかった……ということもないか」
よく考えると不愛想な割に行事には結構参加してくれている。
「当たり前だ、一人娘の、これで制服も最後なんだろ、最後の写真くらい一緒に撮ってくれ」
「わかりました。次の休みの時に家の前で撮りましょう、私も制服着ますから」
「うう……、わかった、絶対だからな。それで我慢するから仕事を頑張ってくることにするよ」
学校でもないのに制服を着てうろうろしているところを春代に見られたら何を言われるかわからないなと思いながら、お母さんと一緒にため息をついて、なんとかその場を乗り切った。
卒業式の日、登校の準備をしていると、いつものように春代が呼びに来た。
「紗良ー行くよー」
「お母さん、お父さん行ってきます」
「二人とも、気を付けていきなさい。私も後からいきますからね」
家の中からお母さんがいつまでグズグズ言っているのか、観念して仕事に行く準備をなさいというお父さんへの苦言を聞きながら私たちは学校へ向かった。
「紗良のお父さんは来られないの?」
「そう、仕事があるから行けないって今まで見たことないくらいごねまくって、卒業式を延期しろって言ってた」
「お父さんめちゃくちゃいうなぁ。でもさみしいんだよきっと」
「別に私はどこにも行かないのに」
「そう? 紗良は一人暮らしとかしないの?」
「お母さんたちに出て行けと言われたら考えるけど、そうでなければ必要性を感じませんから」
「無駄っていえば無駄かぁ、普通は色恋に走ったりして一人暮らししたがるものだけど」
「グループの活動の上でも不要ですね。そう言うはるは一人暮らしをしないのですか?」
「私の場合はそもそも余分なお金はないし、紗良がいるなら今のところがいいよ」
「そうですか。それではまた当分一緒ですね」
そうそうと言いながら教室に入るとみんなが写真を撮ろうと寄ってきた。
「相羽さんいっしょに写真撮って」
「そうですね、かまいませんよ」
私がそういうと春代が私の前に立ちちょっと待ったと言った。
「女子はいいけど男子が入る場合はもれなく私が男子と紗良の間に入りますから、そのつもりでお願いします」
そう春代が高らかに宣言すると、なんでだよとみんなが言った。
「なぜって? 私は紗良を守る義務があるからに決まってるでしょ。紗良がいいといっても私が許可しません」
「はる私は……」
気にしませんが、と言いかけたが春代に黙ってろという目で制されて、村雨部長が言っていたようなことから私を守ろうとしてくれているのだなと思い直して、みんなには写真には入れてもらうけど春代のいうとおりにすると言った。
卒業式が始まり校歌斉唱のあと卒業証書をもらって送辞と答辞、校長先生や来賓の人の挨拶も済んで写真撮影の時間となった。
「紗良、全体の集合写真は背丈の順だから仕方がないけど、その後の自由撮影の時は私から離れないでね」
まるで警護の人のように周りを見張る春代を見ていたら少し笑ってしまう。
「ぷっ。そっそうですか分かりました、ありがとうございます」
その後は宣言した通り、男子がいる時は必ず私の隣に春代が入ってくる。
何故か後輩の女の子たちも写真を一緒に撮ってほしいと言ってきたので、愛想のない私でよければいいですよというと、春代がそれじゃあ順番に並んでと言って仕切ってくれた。
いったん教室に戻ってホームルームをしてから解散しますということで、教室に戻ると最後の成績表を先生がみんなに配った。
「今日で最後だから一言いわせてもらう。これからは社会人として生活する人も、次の学校で勉強をする人も今あるのはその成績表と一緒でただの結果だ。未来が決まっているわけじゃない。もちろん何もしなければ同じ結果が続くことになるだろうが、自分の目標をどこにするかで結果なんていくらでも変わる。だからまだ若いあなたたちは今の結果を見ただけであきらめるな。次の何かに向けてできれば楽しんで頑張ってくれることを祈っている。以上」
先生が号令をというと「起立、礼」という掛け声で全員が「ありがとうございました」と言って少しずつ教室を出ていく。
先生はみんなが教室を出ていくのを見送ると言って、最後まで残って私たちを見ていた。
玄関のところで、はるに忘れ物をしたと言って教室に戻ると、先生が丁度出てくるところだったのでちょっと待ってくださいと声をかけた。
「どうした相羽、お前が忘れ物か? 教室には何もなかったが」
みんなが何か忘れたりしていないか最後に確認をして出てきたようだった。
「忘れたのは物ではありません、先生へのお礼です。私がこの学校を卒業できたのは先生のおかげです。本当にありがとうございました」
「妙に律義な奴だよな。相羽ならどこの高校でも普通に卒業できたと思うぞ」
「いいえ、この高校を卒業したかったのです。本当にお世話になりました」
私はこれまでの感謝の気持ちを込めてお辞儀をした。
「そうか。相羽がそう思ってくれたのならよかった。相羽のこれからの活躍を楽しみにしているよ。早くいけ、山岸やお母さんたちが待っているんじゃないのか?」
卒業したのにいつまでもうろうろしているなと言って手を振って促されたので、「失礼します」そう言って下駄箱に向かって走った。
「はる、ごめん待たせた」
「いいよ、挨拶は済んだ?」
「知ってたの?」
「紗良が何もないのに忘れ物なんてするはずがないじゃん。ほかの人ならいざ知らず、私にそんなこと言っても意味ないよ」
「そうか、そうだね。先生にきちんとお礼を言ってきた。卒業するためにわがままを聞いてもらっていたから」
そういいながら校庭を見回すと、お母さんたちを見つけて校門のところでみんなで写真を撮った。
「お母さん、紗良と紗弓さんと三人で写りたいから一緒に撮って」
「はいはい撮りますよ。相羽さんごめんなさいね、いつも春代が迷惑ばかりかけて」
「うちは春代ちゃんに助けてもらっていますからいいですけど。あの、次は私たちが山岸さんたちを撮りますから」
お母さんがそう言っているのを見て、こういう時は三脚を持ってくるべきだったのかもしれないなと私は色々と反省しながら写真を撮っていた。
「紗良ー、準備できたかー」
次の土曜日は天気が良く、お父さんが写真を撮ると言って張り切っていた。
「着替えました。写真一枚撮るのにどれだけ張り切っているんですか」
「今言わなかったら絶対なかったことにするだろ、そういう雰囲気がありありと紗良から感じられる」
勘が鋭いなと思いながら、必要もないのに制服を着て家の前をうろうろしているのを春代に見られたら餌を見つけた子犬のように寄ってくるに違いないので、やるのであればすぐにでも済ませたいと考えていたのだが。
お母さんにも先日と同じ格好をさせて早く早くとせかしているのを結構こだわるなぁと見ながら、やれやれと玄関をあけると、ちょうど呼び鈴を押そうとした春代と目が合った。
「へっ?」
私が抜けたような声を出すと、春代は私の格好を二回ほど上から下へと見返しながら、しばらく黙っていた。
「紗良、卒業したのにまだ学校に行くの?」
「いや、これはですね、なんでもないんですよ」
「おっ春代ちゃん、これから紗良と写真を撮るんだよ」
「はあ、そうですか」
なんのことだかという感じで首をひねっていたが、ウキウキなお父さんを見て卒業式にお父さんが来れなかったからかという結論を導き出したらしい。
「ははーん。なるほど、なるほど、それなら私が撮ってあげますよ。どう撮りたいか言ってください」
「春代ちゃん悪いわね。すぐに終わるから」
「いえ、全然いいですけど……紗弓さんまでこの前と一緒の格好をさせられて、この前の再現?」
そうですと答えると、もう一度私の制服姿を見てからニヤニヤして、
「これからは、それコスプレだよ。あっ、でも握手会とか一度それで行ってあげたらファンの人が喜ぶかも」
と私に小さい声で言うので春代の頭を軽く叩いておいた。
結局一枚だけと思っていた写真をお父さんが更に撮りまくって、ようやく解放された。
着替えてリビングのテーブルに着くと春代がお茶を渡してくれた。お父さんが撮影後もウキウキでカメラの写真をお母さんに見せているのを横目で見て、お茶を飲みながら春代が私に顔を寄せてくる。
「お父さんは相当行きたかったんだね」
「ようやく卒業した気分になりました、本番の卒業式よりもつかれた気がします。ところで何で家に来たのですか? 誰にも知られずに終わらせようと思ったのに」
「何って? 特に用事は無いよ。しいて言えばお茶のみに来た。何となく何かが起きている気がして、暇だからもし紗良がいたら話しでもしようかなと思って」
春代の勘は本当に恐ろしい。さなえとともに山岸グループは本当に油断ならないなと思った。
「私が居なかったり、忙しかったらどうするつもりだったんですか?」
「あっそう、と言って帰るよ。暇なだけだし」
これだけ家が近く、姉妹の部屋に今いるか的な感覚で来ているのだから、別に何とも思わないか、それはそうかと納得する。
「紗良は仕事が入っているの?」
「今日はありませんが、明日からは結構入っていますね」
「そっかあ、応援してるから頑張ってね。私もドームのチケットを頑張って取るから」
「それは嬉しいですが、はるは大学の方を頑張ってください」
続けて用事がないなら大学の準備でもすればいいのにと春代に言うと、「準備なんてとっくに終わってる。私は紗良を見るために準備を終わらせているのだ」と理解不能なことを言い返された。
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