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目標のある幸せ ー卒業ー 第十二話
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事務所で村雨部長に会う機会があったのでこの前のサブリーダー襲名のことを訊いてみることにした。
「村雨部長ちょっとお話しをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「相羽の相談は一応聞くことにしてるからいいよ」
「ありがとうございます。相談ではありませんが、サブリーダーって何をするのでしょうか?」
「ライブで言ってたろう。三浦を支えてあげてくれたらいいよ」
「それだけですか?」
あなたがそんなことだけでサブリーダーとか作るわけがないだろうと睨んだ。
「睨むなよ、ヴァルコスマイルな。相羽なら覚えているだろうが、昔二期生のリーダーになってくれという話しをしたのを覚えているか?」
「精神的な支柱になってほしいとか言われていた件ですね」
「本当によく覚えているな。それと同じだ。今度は二期生だけではなくグループの精神的な支柱になってもらいたいというのが一つ。相羽はブレないからな、最近は相羽がいるだけでみんなの気持ちが安定する」
だから事故の時はこっちもメンバーの動揺を抑えるのが大変だったよ、特に高坂とか動揺しまくりで泣き崩れていたらしいし、と言った。
「もう一つはこれから来ることに関して、三浦だけでは抱えきれないだろうと思うからだ」
「何が起こるというのですか?」
「相羽が考えたら直ぐに答えがわかるだろうけど。他に言うなよ」
「言うなといわれれば言いませんが、何が起きるのですか?」
「俺は来ると言ったんだ、起こるとは言ってない、それはな卒業ラッシュだよ」
「そんな。誰かほかにも卒業するのでしょうか?」
自分はともかく、みんながあんな思いをするのなら卒業なんてしてほしくないというのが正直な気持ちだった。
「まだ、誰も確定はしていない。だが神室が卒業したことで、他のメンバーの卒業のハードルが下がったのは間違いない。神室はそのためにも卒業を決めたところもあったみたいだしな」
「それはどういうことですか?」
「神室にはもう少しいてもいいだろうと言ったら、リーダーとして辞め時も見せておかないといけないからといってな。別にリーダーはそういうものじゃないと言ったが、卒業してからの方が人生は長いのに、居心地がいいというだけで残るような前例ではいたくない、だそうだ」
あんな風にあっけらかんとしているように見えて、すごいグループとメンバーのことを考えていた人だったんだと改めて思った。
「神室をリーダーにしたことは間違ってなかったとは思っているが、そこまで考えていたと思うと申し訳ないよな。それで今回三浦をリーダーにしたものの、リーダーになって間もないのに同期とかが卒業するのを次々聞かされるかもしれないんだぞ、どういう気持ちでいればいいのかわからないだろう?」
「それで私と一緒にすることで心の負担を分散すると」
「そうだな。最後にもう一つ」
「まだあるのですか?」
村雨部長が一人で考えているとも思わないが、この人は本当に色々と考えているのだなと思った。
「リーダーはチームアルファーが基本だが、単純に人数が増えてチームベータを見られなくなってきた。それで、三浦がチームベータでまとめてくれていたのだが、チームアルファーでリーダーになってしまったので、まあ、なってしまったというか、こっちがしたんだが。そういう役割の人物がいなくなっているのもわかるな」
「わかります」
「そもそも、リーダー的な役割というだけだからチームベータに固定というのもおかしな話しで、それだけの実力があればチームアルファーでだってできるわけだから三浦みたいにチームが変わったらいなくなるしな」
「私はチームベータも好きですが、世間への露出という面においてはみんなチームアルファーが憧れですからね」
「それでサブリーダーを作ってチームベータ兼任ならどうかと思ったのだが、マネージャーの日髙も無理だと言ってきたように、兼任なんてことは相羽にしかできそうもないし見直しが必要になった。だからこれについては、今後は無しにしようと思っているから、今まで通りメンバーの相談に乗ってあげてくれればいいよ」
サブリーダーだから思わず長話しをしてしまったと言って村雨部長は歩いていった。
「卒業か……」
華さんだって美咲さんと一つしか違わないのだから、いつ卒業と言ってもおかしくはないし一期生は最年少の彩さんがすでに私と同じ年だ。
美香が彩さんとの話しでお姉さんメンバーともっと話しをしておくというのがあったが、確かに美咲さんともグループにいる間にもっと話しをしてもよかったなと思いながら、事務所を後にした。
後日、早速恵美さんの近くで何か話しをしようとウロウロしていたら、恵美さんに気持ち悪がられた。
「紗良は何がしたいの? 何か私に用事でもあるの?」
「いえ、ちょっと話しでもしようかと近づいて見たものの、何も話題がなくて」
「わけがわからない。元々紗良は必要な会話しかしないんだから。なんでそんなことしてるの?」
「コミュニケーションをとっておけば良かったとか後で思ってもできませんし」
「だからって、話すこともなく周りをグルグル回ってたらおかしくなったのかと思うわ」
「すみません」
会話のシミュレーションをもっとしてから近づくべきだったかと思った。
「今、シミュレーションが足らなかったとか考えたでしょ」
「ええっ? 考えましたけど、どうしてわかるんですか?」
「全部小さい声に出ているからよ。集中してないとそういうところは時々抜けてるよね。舞台袖でもよくぶつぶつ言っているし」
「そうですね。単純に興味があるだけのときはぶつぶつ言ってしまうかもしれません」
一人の時が多いので今までは口に出そうが出すまいがあまり気にする必要がなかったから、気を付けないと考えが口から出てしまう傾向があると自分でも思っている。
「無理して話す必要なんかないよ、紗良は紗良のままでいいから。私たちは仲間なんだから話したいときに話せばいいよ。ちょっと違うけど家族と普通の会話をするときにシミュレーションなんかしないのと一緒」
「なるほど、すこし考えすぎました、今まで通りにすることにします」
そうそう紗良は今のままで十分に面白いから思い出に残るし大丈夫と言われたのは、私としては少し引っかかるものがあったが気にしないことにした。
その後、年明けにかけて四人の一期生が卒業を発表した。
華さんと仲が良かった同じ年の真理恵さんが卒業すると聞いたときには、村雨部長とマネージャーもいて、華さんはその場は仕方がないねと笑顔を見せていたが、私と二人きりになると泣いてもいいかと聞いてから、崩れ落ちそうな感じになって泣いていた。
「真理恵は同じ年だったしグループに入ってからずっと対等だったの。美咲は私が聞いてあげる係だったけど、真理恵はチームベータの時にどうしたらもっとファンの人に振り向いてもらえるかとか、それこそこのまま続けてもいいのかとか、そういうことを言い合える仲だったの」
「そうですか。本当にいい関係だったんですね」
「でも、真理恵が卒業するって聞いて『そう、おめでとう』しか言えなかった」
私の胸に顔をうずめて泣きながらそう言う華さんの頭を撫でるしかなかった。
「紗良、教えて何て言えばよかったんだろう」
「おめでとうでよかったと思いますよ。真理恵さんだって自分で決断したことをあそこで必死になって止められても困るでしょうし、真理恵さんは華さんの前で泣いたりしたら今度は華さんが困るだろうって涙を我慢していたと思います。二人とも優しいです」
「そんなことわかるの?」
華さんが泣きはらした目で私を見た。
「見ていたら大体は。いっそのこと二人で泣けばいいのにとも思いましたが、みんなの前ではなかなか難しいですよね」
乱れた髪をそっとかきあげながら華さんの涙を優しくティッシュで拭いてから、目を見て言ってあげた。
「今は私が華さんの涙を受け止めますから、次は二人で会って泣いたらいいと思います。よく我慢されていましたよ」
そう言ってもう一度やさしく抱きしめると、華さんはまたひとしきり泣いて最後にはすっきりした顔をしていた。
服がベタベタになって申し訳ないといっていたが、私にできることはこれくらいしかないので大丈夫ですというと、スマホがなって一緒に帰ろうと真理恵から連絡が来たと言う。
「もう次が来ちゃった。でもこれだけ泣いたら、もう泣けないと思う」
そう言って華さんは帰っていった。
真理恵さんの家で長話しをしていたら、最後は結局二人で泣いたらしい。
卒業生が増えるのに合わせて、三期生のオーディションが行われることも発表された。
それから三期生のオーディションが終わり、新しく入ってくるメンバーが決まったということを聞いてからしばらく経ったある日。
「紗良、今度三期生が入ってくるでしょ、今日私たちみんなで会いに行くんだって」
「そうみたいですね。さぁちゃんはどんな子が入ってくるのか知っているの?」
「なんか、一人すごいかわいい子が入ってくるって。中学二年生みたいで、うちのメンバーのめちゃくちゃファンらしいよ」
多分みんなかわいい子なのだろうが、そこまで言うのはその中でもかなりかわいいのだろう。
私はサブリーダーとは言ってもネットのニュースくらいでしか彼女たちのことを知らないのに、さなえは本当にどこからそういうコアな情報を仕入れて来るのか不思議でならない。
「へー、美香が入ったときよりも一年も年下ですか。ところで誰のファンなんですかね」
そう言って、私たちの時は先輩に会ったときはみんな泣いてたなと思い出して、せっかく一期生がそろっているのに、もったいないからって、私はずっと見て手を振っていたけどと考えていた。
村雨部長に連れられて三期生のいる部屋に入ると、三期生が緊張して立っていた。
さすがオーディションを受けて入ってきた子たちだけあって、どの子もかわいい子や美人さんばかりだったけど、一人群を抜いて小さくてかわいい子がいたので、さなえが言っていたのはあの子かとすぐに分かった、と同時にあれっと思った。
三期生が自己紹介していき、最後にその子が自己紹介をする。
「三期生になりました松島愛華です。中学二年になります。先輩の皆さんや相羽先輩と並ぶことができるように頑張りますので、これからよろしくお願いいたします」
みんなが「あんなに若いのに、えらくしっかりと挨拶している上に、紗良をご指名だ」、「またハードルの高い所を目指して」と言っているところで、私は「あの時の子か」とつぶやいた。
「紗良、知り合いなの?」
耳聡いさなえが私の独り言を逃さず訊いてきた。
「知り合いっていうか、交通事故の時に助けた子です」
「あの子が? 美香も紗良と同じ地域よね、紗良の地域はヴァルコスマイルの産地か何か?」
「何を言っているんだか。でも元気そうでよかった。会いに来るって言っていたのに、特に音沙汰がなかったから心配してたのですが」
「恩知らずってわけじゃなくて、あの愛華って子は、この機会を虎視眈々と狙っていたのね」
虎視眈々とか、また変なライバル心を燃やしているなぁと思いながら彼女を見ていると、私を見てものすごく明るい顔で微笑んだ。
「それじゃあ先輩たちもこのまま解散にするから、わからないことがあったらリーダーもサブリーダーもいるからよく聞いてみんな仲良くやってくれ、もちろん他のメンバーでもいいからな。あとサブリーダーは話しかけにくいかもしれんが、聞いてはくれるから話ができるように頑張れ、お疲れさま」
村雨部長が何か要らない一言をつけてから出て行くと愛華が寄ってきた。
「ようやく、紗良ちゃん、いえ相羽先輩のところに来られました」
「紗良ちゃんでいいです。苗字呼びはこのグループでは公のところ以外ではあまりしてないですよ」
「それではしばらくは紗良先輩で」
「会いに来るなら、別にヴァルコスマイルに入らなくてもよかったんじゃないかと思うけど」
「私の命は紗良先輩に救ってもらったんです。その恩返しをするためには近くにいる必要があると思って、努力してきました」
「命とか、そんなに重く考えなくてもいいよ。ところで努力って?」
「紗良先輩は勉強もできたことで地元では有名ですし、歌だってうまいから、それに並ぶことができるように勉強も歌のレッスンも頑張りました」
伝説の紗良先輩の足元にも及びませんがと言うので、伝説じゃないし愛華ちゃんが私と張り合う必要は無いよ。それに恩返しとかもいらないからと言った。
「いえ、張り合っているのではなく、紗良先輩は私の目標です」
愛華が曇りのない瞳でまっすぐ私を見ていたので、少し私より背の低い愛華ちゃんに合わせて、かがんでから耳元でささやいた。
「愛華ちゃんが、私を目標にするなら、私の目標を教えてあげる。他の人には内緒だよ」
「何です? 知りたいです。是非教えてください」
まっすぐに私を見てくる仕草が本当にかわいらしい。
「私の目標はね、アイドルを知ること、そのために自分がやりたいと思うことを全部やること」
「そんな目標終わりがないじゃないですか」
「そうよね、わたしもそう思う。でもある人が言ったの、自分の目標なんて終わりがなくてもいいって、その目標に向かって今がどれだけ楽しめるかだって、だから愛華ちゃんも自分の目標に向かって楽しんでね」
愛華がコクコクとうなずくと「わかりました、紗良先輩」とかわいらしく答えるのを見て、それじゃあまたねといって、さなえといっしょに帰ることにした。
さなえは二人でコソコソ何を話していたのかと訊いてきたが、二人だけの秘密だといっておいた。
これから本当に私を目標とするのかわからないが、一度は失いかけた目標を欠け替えのない仲間に取り戻してもらったことで、今を楽しんでいる私のように、本当に愛華ちゃんも楽しんでくれたらいいなと思う。
「村雨部長ちょっとお話しをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「相羽の相談は一応聞くことにしてるからいいよ」
「ありがとうございます。相談ではありませんが、サブリーダーって何をするのでしょうか?」
「ライブで言ってたろう。三浦を支えてあげてくれたらいいよ」
「それだけですか?」
あなたがそんなことだけでサブリーダーとか作るわけがないだろうと睨んだ。
「睨むなよ、ヴァルコスマイルな。相羽なら覚えているだろうが、昔二期生のリーダーになってくれという話しをしたのを覚えているか?」
「精神的な支柱になってほしいとか言われていた件ですね」
「本当によく覚えているな。それと同じだ。今度は二期生だけではなくグループの精神的な支柱になってもらいたいというのが一つ。相羽はブレないからな、最近は相羽がいるだけでみんなの気持ちが安定する」
だから事故の時はこっちもメンバーの動揺を抑えるのが大変だったよ、特に高坂とか動揺しまくりで泣き崩れていたらしいし、と言った。
「もう一つはこれから来ることに関して、三浦だけでは抱えきれないだろうと思うからだ」
「何が起こるというのですか?」
「相羽が考えたら直ぐに答えがわかるだろうけど。他に言うなよ」
「言うなといわれれば言いませんが、何が起きるのですか?」
「俺は来ると言ったんだ、起こるとは言ってない、それはな卒業ラッシュだよ」
「そんな。誰かほかにも卒業するのでしょうか?」
自分はともかく、みんながあんな思いをするのなら卒業なんてしてほしくないというのが正直な気持ちだった。
「まだ、誰も確定はしていない。だが神室が卒業したことで、他のメンバーの卒業のハードルが下がったのは間違いない。神室はそのためにも卒業を決めたところもあったみたいだしな」
「それはどういうことですか?」
「神室にはもう少しいてもいいだろうと言ったら、リーダーとして辞め時も見せておかないといけないからといってな。別にリーダーはそういうものじゃないと言ったが、卒業してからの方が人生は長いのに、居心地がいいというだけで残るような前例ではいたくない、だそうだ」
あんな風にあっけらかんとしているように見えて、すごいグループとメンバーのことを考えていた人だったんだと改めて思った。
「神室をリーダーにしたことは間違ってなかったとは思っているが、そこまで考えていたと思うと申し訳ないよな。それで今回三浦をリーダーにしたものの、リーダーになって間もないのに同期とかが卒業するのを次々聞かされるかもしれないんだぞ、どういう気持ちでいればいいのかわからないだろう?」
「それで私と一緒にすることで心の負担を分散すると」
「そうだな。最後にもう一つ」
「まだあるのですか?」
村雨部長が一人で考えているとも思わないが、この人は本当に色々と考えているのだなと思った。
「リーダーはチームアルファーが基本だが、単純に人数が増えてチームベータを見られなくなってきた。それで、三浦がチームベータでまとめてくれていたのだが、チームアルファーでリーダーになってしまったので、まあ、なってしまったというか、こっちがしたんだが。そういう役割の人物がいなくなっているのもわかるな」
「わかります」
「そもそも、リーダー的な役割というだけだからチームベータに固定というのもおかしな話しで、それだけの実力があればチームアルファーでだってできるわけだから三浦みたいにチームが変わったらいなくなるしな」
「私はチームベータも好きですが、世間への露出という面においてはみんなチームアルファーが憧れですからね」
「それでサブリーダーを作ってチームベータ兼任ならどうかと思ったのだが、マネージャーの日髙も無理だと言ってきたように、兼任なんてことは相羽にしかできそうもないし見直しが必要になった。だからこれについては、今後は無しにしようと思っているから、今まで通りメンバーの相談に乗ってあげてくれればいいよ」
サブリーダーだから思わず長話しをしてしまったと言って村雨部長は歩いていった。
「卒業か……」
華さんだって美咲さんと一つしか違わないのだから、いつ卒業と言ってもおかしくはないし一期生は最年少の彩さんがすでに私と同じ年だ。
美香が彩さんとの話しでお姉さんメンバーともっと話しをしておくというのがあったが、確かに美咲さんともグループにいる間にもっと話しをしてもよかったなと思いながら、事務所を後にした。
後日、早速恵美さんの近くで何か話しをしようとウロウロしていたら、恵美さんに気持ち悪がられた。
「紗良は何がしたいの? 何か私に用事でもあるの?」
「いえ、ちょっと話しでもしようかと近づいて見たものの、何も話題がなくて」
「わけがわからない。元々紗良は必要な会話しかしないんだから。なんでそんなことしてるの?」
「コミュニケーションをとっておけば良かったとか後で思ってもできませんし」
「だからって、話すこともなく周りをグルグル回ってたらおかしくなったのかと思うわ」
「すみません」
会話のシミュレーションをもっとしてから近づくべきだったかと思った。
「今、シミュレーションが足らなかったとか考えたでしょ」
「ええっ? 考えましたけど、どうしてわかるんですか?」
「全部小さい声に出ているからよ。集中してないとそういうところは時々抜けてるよね。舞台袖でもよくぶつぶつ言っているし」
「そうですね。単純に興味があるだけのときはぶつぶつ言ってしまうかもしれません」
一人の時が多いので今までは口に出そうが出すまいがあまり気にする必要がなかったから、気を付けないと考えが口から出てしまう傾向があると自分でも思っている。
「無理して話す必要なんかないよ、紗良は紗良のままでいいから。私たちは仲間なんだから話したいときに話せばいいよ。ちょっと違うけど家族と普通の会話をするときにシミュレーションなんかしないのと一緒」
「なるほど、すこし考えすぎました、今まで通りにすることにします」
そうそう紗良は今のままで十分に面白いから思い出に残るし大丈夫と言われたのは、私としては少し引っかかるものがあったが気にしないことにした。
その後、年明けにかけて四人の一期生が卒業を発表した。
華さんと仲が良かった同じ年の真理恵さんが卒業すると聞いたときには、村雨部長とマネージャーもいて、華さんはその場は仕方がないねと笑顔を見せていたが、私と二人きりになると泣いてもいいかと聞いてから、崩れ落ちそうな感じになって泣いていた。
「真理恵は同じ年だったしグループに入ってからずっと対等だったの。美咲は私が聞いてあげる係だったけど、真理恵はチームベータの時にどうしたらもっとファンの人に振り向いてもらえるかとか、それこそこのまま続けてもいいのかとか、そういうことを言い合える仲だったの」
「そうですか。本当にいい関係だったんですね」
「でも、真理恵が卒業するって聞いて『そう、おめでとう』しか言えなかった」
私の胸に顔をうずめて泣きながらそう言う華さんの頭を撫でるしかなかった。
「紗良、教えて何て言えばよかったんだろう」
「おめでとうでよかったと思いますよ。真理恵さんだって自分で決断したことをあそこで必死になって止められても困るでしょうし、真理恵さんは華さんの前で泣いたりしたら今度は華さんが困るだろうって涙を我慢していたと思います。二人とも優しいです」
「そんなことわかるの?」
華さんが泣きはらした目で私を見た。
「見ていたら大体は。いっそのこと二人で泣けばいいのにとも思いましたが、みんなの前ではなかなか難しいですよね」
乱れた髪をそっとかきあげながら華さんの涙を優しくティッシュで拭いてから、目を見て言ってあげた。
「今は私が華さんの涙を受け止めますから、次は二人で会って泣いたらいいと思います。よく我慢されていましたよ」
そう言ってもう一度やさしく抱きしめると、華さんはまたひとしきり泣いて最後にはすっきりした顔をしていた。
服がベタベタになって申し訳ないといっていたが、私にできることはこれくらいしかないので大丈夫ですというと、スマホがなって一緒に帰ろうと真理恵から連絡が来たと言う。
「もう次が来ちゃった。でもこれだけ泣いたら、もう泣けないと思う」
そう言って華さんは帰っていった。
真理恵さんの家で長話しをしていたら、最後は結局二人で泣いたらしい。
卒業生が増えるのに合わせて、三期生のオーディションが行われることも発表された。
それから三期生のオーディションが終わり、新しく入ってくるメンバーが決まったということを聞いてからしばらく経ったある日。
「紗良、今度三期生が入ってくるでしょ、今日私たちみんなで会いに行くんだって」
「そうみたいですね。さぁちゃんはどんな子が入ってくるのか知っているの?」
「なんか、一人すごいかわいい子が入ってくるって。中学二年生みたいで、うちのメンバーのめちゃくちゃファンらしいよ」
多分みんなかわいい子なのだろうが、そこまで言うのはその中でもかなりかわいいのだろう。
私はサブリーダーとは言ってもネットのニュースくらいでしか彼女たちのことを知らないのに、さなえは本当にどこからそういうコアな情報を仕入れて来るのか不思議でならない。
「へー、美香が入ったときよりも一年も年下ですか。ところで誰のファンなんですかね」
そう言って、私たちの時は先輩に会ったときはみんな泣いてたなと思い出して、せっかく一期生がそろっているのに、もったいないからって、私はずっと見て手を振っていたけどと考えていた。
村雨部長に連れられて三期生のいる部屋に入ると、三期生が緊張して立っていた。
さすがオーディションを受けて入ってきた子たちだけあって、どの子もかわいい子や美人さんばかりだったけど、一人群を抜いて小さくてかわいい子がいたので、さなえが言っていたのはあの子かとすぐに分かった、と同時にあれっと思った。
三期生が自己紹介していき、最後にその子が自己紹介をする。
「三期生になりました松島愛華です。中学二年になります。先輩の皆さんや相羽先輩と並ぶことができるように頑張りますので、これからよろしくお願いいたします」
みんなが「あんなに若いのに、えらくしっかりと挨拶している上に、紗良をご指名だ」、「またハードルの高い所を目指して」と言っているところで、私は「あの時の子か」とつぶやいた。
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虎視眈々とか、また変なライバル心を燃やしているなぁと思いながら彼女を見ていると、私を見てものすごく明るい顔で微笑んだ。
「それじゃあ先輩たちもこのまま解散にするから、わからないことがあったらリーダーもサブリーダーもいるからよく聞いてみんな仲良くやってくれ、もちろん他のメンバーでもいいからな。あとサブリーダーは話しかけにくいかもしれんが、聞いてはくれるから話ができるように頑張れ、お疲れさま」
村雨部長が何か要らない一言をつけてから出て行くと愛華が寄ってきた。
「ようやく、紗良ちゃん、いえ相羽先輩のところに来られました」
「紗良ちゃんでいいです。苗字呼びはこのグループでは公のところ以外ではあまりしてないですよ」
「それではしばらくは紗良先輩で」
「会いに来るなら、別にヴァルコスマイルに入らなくてもよかったんじゃないかと思うけど」
「私の命は紗良先輩に救ってもらったんです。その恩返しをするためには近くにいる必要があると思って、努力してきました」
「命とか、そんなに重く考えなくてもいいよ。ところで努力って?」
「紗良先輩は勉強もできたことで地元では有名ですし、歌だってうまいから、それに並ぶことができるように勉強も歌のレッスンも頑張りました」
伝説の紗良先輩の足元にも及びませんがと言うので、伝説じゃないし愛華ちゃんが私と張り合う必要は無いよ。それに恩返しとかもいらないからと言った。
「いえ、張り合っているのではなく、紗良先輩は私の目標です」
愛華が曇りのない瞳でまっすぐ私を見ていたので、少し私より背の低い愛華ちゃんに合わせて、かがんでから耳元でささやいた。
「愛華ちゃんが、私を目標にするなら、私の目標を教えてあげる。他の人には内緒だよ」
「何です? 知りたいです。是非教えてください」
まっすぐに私を見てくる仕草が本当にかわいらしい。
「私の目標はね、アイドルを知ること、そのために自分がやりたいと思うことを全部やること」
「そんな目標終わりがないじゃないですか」
「そうよね、わたしもそう思う。でもある人が言ったの、自分の目標なんて終わりがなくてもいいって、その目標に向かって今がどれだけ楽しめるかだって、だから愛華ちゃんも自分の目標に向かって楽しんでね」
愛華がコクコクとうなずくと「わかりました、紗良先輩」とかわいらしく答えるのを見て、それじゃあまたねといって、さなえといっしょに帰ることにした。
さなえは二人でコソコソ何を話していたのかと訊いてきたが、二人だけの秘密だといっておいた。
これから本当に私を目標とするのかわからないが、一度は失いかけた目標を欠け替えのない仲間に取り戻してもらったことで、今を楽しんでいる私のように、本当に愛華ちゃんも楽しんでくれたらいいなと思う。
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