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目標のある幸せ ー卒業ー 第十七話
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恵美さんがグループを卒業することが発表され、当然卒業ライブが予定されることとなった。
恵美さんの卒業ライブでは、未来の時の宣言通り恵美さんと二人だけで楽曲を担当するところがあり、打ち合わせの時に私の顔をじっと見られた。
「あの時に言った通り、一緒に唄ってもらうからね」
「もう忘れられていると思っていましたが、私とでいいのですか?」
「紗良がどう思っているのか知らないけど、私は紗良ととても良い関係だと思ってるから、最後に一緒に唄っておきたいの」
「恵美さんはメンバーみんなといい関係だと思います」
「そういうことではないのよ。うちの後輩メンバーはいい子ばっかりだし、同期もみんな仲がいいわ。それはいいけど、私を含めてどうしてもみんな優しいから一歩下がってしまうのよね」
「どういうことですか?」
「きちんと意見を言ってくれる人が少ないってこと。文句じゃないのよ、意見ね」
そういうと、もうちょっと近くにと言って引っ張られた。
「私だってすべてがわかっているわけでもないし、ここはこうしたほうがいいと思いますって、言いたいし、思っていたら言ってほしいけど、みんなそれぞれが気を使って合わせようとしてしまうの。その点、紗良は全体を見てこうしたほうがいいってきちんと言ってくるでしょ」
「よく空気が読めないといわれます」
「読む必要のない空気なんて読まなくてもいいわよ。紗良は必要がないと思ったら一切しゃべらないじゃない。究極の空気読みよ」
「……ありがとうございます」
「ふふっ。だから私は正直でまっすぐな紗良がすごく好きだし、最後にこうやってお願いしているわけ。そんな私からもう一つだけお願い」
「なんでしょうか?」
「紗良と同期のさなえは未来と同じようになるかもしれないから、よく見てあげて」
「さぁちゃんが、ですか?」
「むしろ私たちよりひどいかな。あの子自身が、すごく空気を読むでしょ」
確かにさなえは異常に高い情報収集能力があるので、総合的にダメだやめておくと早々に判断する傾向がある。もっとも常に自分にブーストをかけているような状況なので、これ以上のことはパンクするということを無意識的に回避しているのかもしれない。初めのころは心のコントロールがうまくいかずに泣いていたが。
「前の未来ちゃんのときも、私にお見舞いに行った方がいいですよね? って聞くけど、ベータになったことがきっかけにあるって分かっているから、ずっとアルファーの私が行っても本当には慰めることができないかもって、うじうじしていたのよ」
それで、私が行ったときにあんなに嬉しそうだったわけか。自分が行きたいけど行けないから誰かに行ってほしいと思っていたところに私が来たわけだ。それであんな感じだったのか。
「さなえはみんなが忙しいかもって勝手に判断してるから。多分、代わりに行けって言える余裕を感じられる相手は紗良しかいないのよ。それに自分で行けばいいじゃないかなんて言われるような相手だと、行けない理由をいろいろと説明しないといけなくなるしね。人によるけど自分がアルファーだからだなんて言いずらいでしょ。これからさなえは私たち一期生もいなくなったらグループのトップになっていくと思うから、頑張れば頑張るほどみんなとの距離を自分で作っていくような気がするのよね。例えその気がなくても、周りだってやっぱり気を遣うし。だから紗良がいる間はさなえが本当に強くなるように、見てあげてほしいって思うの」
「わかりました。これまで以上に、きちんと見守って支えます」
また変な気を回すから、私がそんなことを言っていたっていうのは内緒よ、といわれたので、その点も大丈夫ですと二人で微笑んだ。
卒業ライブの後、帰ろうとしていたら電話で早く来てと恵美さんに呼び出された。何だろうといわれた場所に行くと、さなえが泣きながら恵美さんに抱き着いていた。
「ようやく保護者が来た」
「保護者? どうしたんです? なにか抱き着かれてますが」
「帰ろうとすると泣くし、行ってほしくないって離してくれないわけ。こんな感じでサヨナラってほっとくわけにもいかないし、みんなは先に行っちゃった後だから困ってたのよ。用事があるって言ってるのに」
「そうですか。ライブの時はあんなにニコニコしていたのに、さぁちゃんあなたは子供ですか? 何歳なのですか、あなたは」
抱き着いているさなえの近くに行って、ちょっとと話しかけてみる。
「紗良も止めてよ。もう絶対無理。恵美さんがいなくなったら。無理」
「何が無理なのですか?」
「恵美さんが、後はさなえが頑張らないととか言うから。そんなの、もう無理」
「そういう具体的なことが何一つない無理とかは、受け入れられません。恵美さんも困ってますよ」
「だから行かないでって、紗良も一緒に言ってよ」
「だからって何ですか? そんなことは言えません。さぁちゃん、こっちにおいで」
抱き着いている手を軽くたたいて、ここにつかまれと私の腕を見せると、腕に抱き着いてきた。
「あっ、離れた」
恵美さんが、ずっと同じ体勢で抱き着かれていたから、腰が痛いと言いながら背筋を伸ばしていた。
「さぁちゃん、あなたは仕方がない人ですね。一緒にいてあげるから、恵美さんにありがとうございました。これからも頑張ってください。私も頑張りますって言いなさい」
「ありがとうございました。これから私もがんばってください……」
ちょっと違うなと思ったが、まあだいたい合っているので言ったことにしよう。
「ささっ。では、そういうことで恵美さんありがとうございました。さあ次の用事へ行ってください」
「こっちはこっちでなんか冷たいなぁ。二人合わせたら、ちょうどいいのに」
あとは頼んだと言いながら、恵美さんは去っていった。多分同期で集まろうとか言っているのだろう。最後くらい一緒にいたい人もいるだろうし。
「さぁちゃんはどうしたんですか? 一緒に帰りますよ」
さなえは泣きはらした目をして私を見る。その感じは、自分がやめた方がいいのかもと言っていた時のようだった。
あらあら、また、あの頃に戻っちゃってる。自分で意識しているのかわからないけど、本当にぎりぎりで頑張っているんだなと思いながら涙を拭いてあげる。
「なんで恵美さん卒業しちゃうんだろう」
「なんでって、誰でも時期が来たら卒業するでしょう」
「そんな時期なんて決まってない!」
「正論ですね。決まっていません」
「じゃあ、恵美さんが卒業するのはおかしいよね」
「それは、さぁちゃんが助けてくれる人が欲しいだけで、恵美さんのことを一番に考えていないことになるのはわかっていますか?」
さなえが私から目をそらした。
「賢いあなたのことです。ここでどんなにごねたって、恵美さんの卒業がどうにもならないってわかっているのに、大好きだから最後に困らせたかっただけなんでしょう? これ以上自分が頑張るのは無理だと思ったことは本当だとしてもやり過ぎです」
「もしかしたら、思い直すかもしれないじゃない」
「可能性はゼロではないです。ですが、もしも思い直したらどうなると思います? まあ無いと思いますが、卒業ライブもなかったことにすると? 考えただけでも恐ろしいことになりますよ。前代未聞です」
「それは……そうなんだけど」
「珍しいというか。そういうことまで考えられるのに一緒にいてほしかったのですね。恵美さんは困っていましたが嬉しそうでしたので、結果的には良かったのかもしれませんが」
「そうかな?」
私に良かったと言われてちょっと嬉しそうになったさなえだったがここは釘をさしておく。
「あくまで結果的に良かったということで、恵美さんが困っていたのは事実です。あなたがそんな風だと、みんなに影響します」
「だから、みんながいないところで行かないでって言うことにした」
「そのくらいの理性は持っていたと。ならいいです。十分気持ちは伝えたでしょう? もう帰りますよ」
「紗良の家に連れてってよ」
腕をつかまれたままだった。
「はぁ? 自分の家に帰りなさい。突然言われても私が困るでしょう」
「お母さんに聞いてみてよ。良いって言うかもしれないじゃない」
私が困るって言っているのに、お母さんが世話好きなのを知っててそういうことを言うわけか。よし、電話をしたふりをしよう。
「私からもお願いするから代わってね」
したふりでごまかそうとする行動が読まれているのを悟った私は、しぶしぶお母さんに電話を掛けてさなえと代わった。
「いらっしゃいって言ってくれた。よかったら泊っていってもいいですよって」
横にいた私は電話の向こうの声もすべて聞こえていたので、深い溜息をついていた。
「聞いていましたけど。泊まるったって、着替えがないでしょう」
「下着は途中で買うし、ちょっと大きいかもしれないけど服は貸してよ。洗って返すから」
私はいつぞやの村雨部長並みに再度長ーい溜息をつきながら、わかりましたと言って、家に連れて帰ることになったさなえのことを見て、まあ頑張っているのだろうし、ということで納得することにした。
家についてご飯を食べた後、私の部屋で如何に恵美さんが素敵だったかを延々と聞かされた。おそらく恵美さんが次のヴァルコスマイルを担っていくメンバーとして大事にしてくれていたのだろう。
もちろんさなえ自身もその期待に応えるように頑張っているのだが。
私の記憶力ではさなえが語るエピソードを忘れることもできず、一つ残らず覚えているの、でそれはもう素敵エピソードでいっぱいになった。どう考えてもそれは恥ずかしいだろうと思うようなことも、素敵エピソードとして語られていたので、本人にまとめて見せてあげようかと思う。
「そんなことしたら、多分恥ずかしくて、もう会ってくれない気がする」
そんなことを考えながら、さなえが卒業をされていくさみしさよりも、嬉しそうに思い出を話していたので、ようやく落ち着いたかと、温かい目で見ながらうなづいていた。
「私はですね、さぁちゃん」
「ん? 何?」
「もう無理だって言っていましたが、今のまま、さぁちゃんができることを続ければいいだけです。私はさぁちゃんがずっと頑張っていることを、おそらく誰よりも知っています」
「えっ? あら? そう?」
「照れなくてもいいですよ。私は頑張っている人が好きです。そういう意味ではメンバーみんなが好きなのですが。それはさておき、だからさぁちゃんが頑張っていたら、私はいつまでもさぁちゃんのことが好きですよ。近くにいなくて助けてあげられない時が来るかもしれませんが、いつでも私は頑張っているさぁちゃんを応援しているということを思い出して、心の中で頑張りますって言ってください。私はいつでも頑張れって思っていますから」
「うれしい。初めて紗良が私を好きって、言ってくれたような気がする」
そうでしたかねぇ? どうしてもはると同じ感じがするから、と言いながら寝る準備をしていた。
今回はベッドで一緒に寝るだの何だのと言うことは言われなかったので、成長したのだなと思ったら、どうせ後で逃げられるからと言われたので、成長というよりも学習だということが分かった。
恵美さんの卒業ライブでは、未来の時の宣言通り恵美さんと二人だけで楽曲を担当するところがあり、打ち合わせの時に私の顔をじっと見られた。
「あの時に言った通り、一緒に唄ってもらうからね」
「もう忘れられていると思っていましたが、私とでいいのですか?」
「紗良がどう思っているのか知らないけど、私は紗良ととても良い関係だと思ってるから、最後に一緒に唄っておきたいの」
「恵美さんはメンバーみんなといい関係だと思います」
「そういうことではないのよ。うちの後輩メンバーはいい子ばっかりだし、同期もみんな仲がいいわ。それはいいけど、私を含めてどうしてもみんな優しいから一歩下がってしまうのよね」
「どういうことですか?」
「きちんと意見を言ってくれる人が少ないってこと。文句じゃないのよ、意見ね」
そういうと、もうちょっと近くにと言って引っ張られた。
「私だってすべてがわかっているわけでもないし、ここはこうしたほうがいいと思いますって、言いたいし、思っていたら言ってほしいけど、みんなそれぞれが気を使って合わせようとしてしまうの。その点、紗良は全体を見てこうしたほうがいいってきちんと言ってくるでしょ」
「よく空気が読めないといわれます」
「読む必要のない空気なんて読まなくてもいいわよ。紗良は必要がないと思ったら一切しゃべらないじゃない。究極の空気読みよ」
「……ありがとうございます」
「ふふっ。だから私は正直でまっすぐな紗良がすごく好きだし、最後にこうやってお願いしているわけ。そんな私からもう一つだけお願い」
「なんでしょうか?」
「紗良と同期のさなえは未来と同じようになるかもしれないから、よく見てあげて」
「さぁちゃんが、ですか?」
「むしろ私たちよりひどいかな。あの子自身が、すごく空気を読むでしょ」
確かにさなえは異常に高い情報収集能力があるので、総合的にダメだやめておくと早々に判断する傾向がある。もっとも常に自分にブーストをかけているような状況なので、これ以上のことはパンクするということを無意識的に回避しているのかもしれない。初めのころは心のコントロールがうまくいかずに泣いていたが。
「前の未来ちゃんのときも、私にお見舞いに行った方がいいですよね? って聞くけど、ベータになったことがきっかけにあるって分かっているから、ずっとアルファーの私が行っても本当には慰めることができないかもって、うじうじしていたのよ」
それで、私が行ったときにあんなに嬉しそうだったわけか。自分が行きたいけど行けないから誰かに行ってほしいと思っていたところに私が来たわけだ。それであんな感じだったのか。
「さなえはみんなが忙しいかもって勝手に判断してるから。多分、代わりに行けって言える余裕を感じられる相手は紗良しかいないのよ。それに自分で行けばいいじゃないかなんて言われるような相手だと、行けない理由をいろいろと説明しないといけなくなるしね。人によるけど自分がアルファーだからだなんて言いずらいでしょ。これからさなえは私たち一期生もいなくなったらグループのトップになっていくと思うから、頑張れば頑張るほどみんなとの距離を自分で作っていくような気がするのよね。例えその気がなくても、周りだってやっぱり気を遣うし。だから紗良がいる間はさなえが本当に強くなるように、見てあげてほしいって思うの」
「わかりました。これまで以上に、きちんと見守って支えます」
また変な気を回すから、私がそんなことを言っていたっていうのは内緒よ、といわれたので、その点も大丈夫ですと二人で微笑んだ。
卒業ライブの後、帰ろうとしていたら電話で早く来てと恵美さんに呼び出された。何だろうといわれた場所に行くと、さなえが泣きながら恵美さんに抱き着いていた。
「ようやく保護者が来た」
「保護者? どうしたんです? なにか抱き着かれてますが」
「帰ろうとすると泣くし、行ってほしくないって離してくれないわけ。こんな感じでサヨナラってほっとくわけにもいかないし、みんなは先に行っちゃった後だから困ってたのよ。用事があるって言ってるのに」
「そうですか。ライブの時はあんなにニコニコしていたのに、さぁちゃんあなたは子供ですか? 何歳なのですか、あなたは」
抱き着いているさなえの近くに行って、ちょっとと話しかけてみる。
「紗良も止めてよ。もう絶対無理。恵美さんがいなくなったら。無理」
「何が無理なのですか?」
「恵美さんが、後はさなえが頑張らないととか言うから。そんなの、もう無理」
「そういう具体的なことが何一つない無理とかは、受け入れられません。恵美さんも困ってますよ」
「だから行かないでって、紗良も一緒に言ってよ」
「だからって何ですか? そんなことは言えません。さぁちゃん、こっちにおいで」
抱き着いている手を軽くたたいて、ここにつかまれと私の腕を見せると、腕に抱き着いてきた。
「あっ、離れた」
恵美さんが、ずっと同じ体勢で抱き着かれていたから、腰が痛いと言いながら背筋を伸ばしていた。
「さぁちゃん、あなたは仕方がない人ですね。一緒にいてあげるから、恵美さんにありがとうございました。これからも頑張ってください。私も頑張りますって言いなさい」
「ありがとうございました。これから私もがんばってください……」
ちょっと違うなと思ったが、まあだいたい合っているので言ったことにしよう。
「ささっ。では、そういうことで恵美さんありがとうございました。さあ次の用事へ行ってください」
「こっちはこっちでなんか冷たいなぁ。二人合わせたら、ちょうどいいのに」
あとは頼んだと言いながら、恵美さんは去っていった。多分同期で集まろうとか言っているのだろう。最後くらい一緒にいたい人もいるだろうし。
「さぁちゃんはどうしたんですか? 一緒に帰りますよ」
さなえは泣きはらした目をして私を見る。その感じは、自分がやめた方がいいのかもと言っていた時のようだった。
あらあら、また、あの頃に戻っちゃってる。自分で意識しているのかわからないけど、本当にぎりぎりで頑張っているんだなと思いながら涙を拭いてあげる。
「なんで恵美さん卒業しちゃうんだろう」
「なんでって、誰でも時期が来たら卒業するでしょう」
「そんな時期なんて決まってない!」
「正論ですね。決まっていません」
「じゃあ、恵美さんが卒業するのはおかしいよね」
「それは、さぁちゃんが助けてくれる人が欲しいだけで、恵美さんのことを一番に考えていないことになるのはわかっていますか?」
さなえが私から目をそらした。
「賢いあなたのことです。ここでどんなにごねたって、恵美さんの卒業がどうにもならないってわかっているのに、大好きだから最後に困らせたかっただけなんでしょう? これ以上自分が頑張るのは無理だと思ったことは本当だとしてもやり過ぎです」
「もしかしたら、思い直すかもしれないじゃない」
「可能性はゼロではないです。ですが、もしも思い直したらどうなると思います? まあ無いと思いますが、卒業ライブもなかったことにすると? 考えただけでも恐ろしいことになりますよ。前代未聞です」
「それは……そうなんだけど」
「珍しいというか。そういうことまで考えられるのに一緒にいてほしかったのですね。恵美さんは困っていましたが嬉しそうでしたので、結果的には良かったのかもしれませんが」
「そうかな?」
私に良かったと言われてちょっと嬉しそうになったさなえだったがここは釘をさしておく。
「あくまで結果的に良かったということで、恵美さんが困っていたのは事実です。あなたがそんな風だと、みんなに影響します」
「だから、みんながいないところで行かないでって言うことにした」
「そのくらいの理性は持っていたと。ならいいです。十分気持ちは伝えたでしょう? もう帰りますよ」
「紗良の家に連れてってよ」
腕をつかまれたままだった。
「はぁ? 自分の家に帰りなさい。突然言われても私が困るでしょう」
「お母さんに聞いてみてよ。良いって言うかもしれないじゃない」
私が困るって言っているのに、お母さんが世話好きなのを知っててそういうことを言うわけか。よし、電話をしたふりをしよう。
「私からもお願いするから代わってね」
したふりでごまかそうとする行動が読まれているのを悟った私は、しぶしぶお母さんに電話を掛けてさなえと代わった。
「いらっしゃいって言ってくれた。よかったら泊っていってもいいですよって」
横にいた私は電話の向こうの声もすべて聞こえていたので、深い溜息をついていた。
「聞いていましたけど。泊まるったって、着替えがないでしょう」
「下着は途中で買うし、ちょっと大きいかもしれないけど服は貸してよ。洗って返すから」
私はいつぞやの村雨部長並みに再度長ーい溜息をつきながら、わかりましたと言って、家に連れて帰ることになったさなえのことを見て、まあ頑張っているのだろうし、ということで納得することにした。
家についてご飯を食べた後、私の部屋で如何に恵美さんが素敵だったかを延々と聞かされた。おそらく恵美さんが次のヴァルコスマイルを担っていくメンバーとして大事にしてくれていたのだろう。
もちろんさなえ自身もその期待に応えるように頑張っているのだが。
私の記憶力ではさなえが語るエピソードを忘れることもできず、一つ残らず覚えているの、でそれはもう素敵エピソードでいっぱいになった。どう考えてもそれは恥ずかしいだろうと思うようなことも、素敵エピソードとして語られていたので、本人にまとめて見せてあげようかと思う。
「そんなことしたら、多分恥ずかしくて、もう会ってくれない気がする」
そんなことを考えながら、さなえが卒業をされていくさみしさよりも、嬉しそうに思い出を話していたので、ようやく落ち着いたかと、温かい目で見ながらうなづいていた。
「私はですね、さぁちゃん」
「ん? 何?」
「もう無理だって言っていましたが、今のまま、さぁちゃんができることを続ければいいだけです。私はさぁちゃんがずっと頑張っていることを、おそらく誰よりも知っています」
「えっ? あら? そう?」
「照れなくてもいいですよ。私は頑張っている人が好きです。そういう意味ではメンバーみんなが好きなのですが。それはさておき、だからさぁちゃんが頑張っていたら、私はいつまでもさぁちゃんのことが好きですよ。近くにいなくて助けてあげられない時が来るかもしれませんが、いつでも私は頑張っているさぁちゃんを応援しているということを思い出して、心の中で頑張りますって言ってください。私はいつでも頑張れって思っていますから」
「うれしい。初めて紗良が私を好きって、言ってくれたような気がする」
そうでしたかねぇ? どうしてもはると同じ感じがするから、と言いながら寝る準備をしていた。
今回はベッドで一緒に寝るだの何だのと言うことは言われなかったので、成長したのだなと思ったら、どうせ後で逃げられるからと言われたので、成長というよりも学習だということが分かった。
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