目標のある幸せ

根来むそお

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目標のある幸せ 第八話

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 初日は顔合わせをする一期生の人たちのスケジュールの都合もあり、平日にレッスンがあったが、遠くに住んでいる子もいるので基本的には土日が必須のレッスン日に充てられていた。

 ボイストレーニングでは、愛美と未来がすごく歌が上手いことが分かり、二人ともボイストレーナーの先生に褒められていたので、私も頑張ろうと思って練習をしていたが、私は特に褒められることなく先生からこうしなさいああしなさいと注意を受けていた。
 とにかく歌を唄いながらダンスをするのは、かなり大変なのだなという印象だ。
 お披露目会も近づいてきて、会場でのリハーサルを控えて今日もみんなで振り入れの確認をしていると真由美が突然泣き出したので、どうしたの? と聞いてみる。

「全然覚えられない」

「そんなことないでしょ。出来てると思うけど」

 私が言うと周りのみんなもうんうんと頷いた。

「さっきも立ち位置がちがって朋子とぶつかりそうになったもん」

 朋子も実際にそうだったので否定しようが無く、何とも言えないという顔で私を見る。
 真由美はどちらかというと間違えないほうだ。お披露目会の日程が迫ってきている事で間違えられないというプレッシャーが大きくなって、ちょっとしたことでパニックになってしまうようだった。

「もし間違えてしまったと思ってもそれを出さないように笑顔でいることを考えて。間違えて泣いたりしたら、かわいい顔も台無しですから」

「紗良ちゃんは完璧に覚えてるから、そんなに余裕があるんだよ」

「それは間違えないほうがいいかもしれないけど、ちょっと間違えても『てへっ』てしてたらみんなはかわいいと思うな。私だと真ん中に立っておいてそんなことしてたら、なんだあいつはってなりますよ」

「そんなことない。紗良ちゃんの方がきれいだしかわいいよ」

 半泣きで真由美が否定するので、私はそれほどでもないけどと思いながらそっと手を取る。

「真由は優しいですね。じゃあ私と一緒だよね。私も頑張るよ。どう? もう泣かずにできますか?」

 真由美はプレッシャーを感じて泣いているだけなので、話しをすることで落ち着いてきたのか、コクコクと頷き自分のポジションでスタンバイした。
 ダンスの先生は基本的にダンスのことしか指摘しない。あまり追い込まないようにしようということは考えていても、これだけの人数を精神的なケアまですることは専門家でもないし無理なのだと思う。
 私たちのことは私たちで解決していくしかない。
 レッスンが終わり帰ろうとしていると、おじさんこと村雨部長が歩いてきた。

「相羽、もう帰るところか?」

「そうです」

「ちょっと良いか?」

 そう言って、空いている会議室に連れていかれた。

「今日は菅井が泣いて大変だったようだな」

「みんな初めてですし、不安なんだと思います。」

「相羽は不安じゃないのか?」

「不安ですけど、自分で言うのもなんですが、あまり感情の起伏がありませんので」

「そんなことはないだろう。一期生と会ったときはうれしそうだったぞ」

 そういえば、あの時はうれしくて帰るみんなに手を振ったり、家に帰ってお母さんに話しまくっていたなと思った。

「そう言われたらそうですね。ところで何か用事がありますか?」

 帰るところですけど、そう言うと村雨部長が頼めるならと話しを切りだしてきた。

「相羽が見て、みんなのことどう思う?」

「みんな可愛いと思います」

「外見みたいなところじゃなくて内面」

 そういって自分の胸あたりを指さした。

「マネージャーも相羽たちを見ているけど、マネージャーと相羽は決定的に違う部分があるだろ?」

「メンバーで同期か、そうでないかですか?」

「そう。それで、相羽から見て同期がどんな子たちかというのを参考に教えてほしい」

「なんかスパイみたいで嫌です」

 村雨部長はそんなたいそうなものではないと手を振った。

「相羽が見てこの子はこういうところが良いとかを教えてほしい。悪口を書くわけじゃないぞ」

「プライベートはよく知りませんが、今まで見たところで、良いところを書けというのであれば、考えてみます」

「そうか。相羽がみんなのことをどう見ているか楽しみだ」

 村雨部長は頷きながら来週見せてもらうと言って立ち去って行った後、帰り道でどうしようかと歩きながら考えてみる。

「変なこと頼まれた」と独り言を言いながら、みんなのいいところか、何があるかな? さなえはコミュニケーション力が抜群に高いところとかかななどと思いながら、家に帰ってからパソコンに向かって気が付いたことを打ち始めた。

 次の週のレッスンの時、私が来るのを村雨部長が待っていて、頼んだことを教えてくれと言ってきたので、私はレポート用紙に一人分ずつまとめたものをこんな感じですと渡す。

「相羽は精神科医か何かを目指しているのか?」

 内容を読んだ村雨部長がレポートを見ながら訊いてきた。

「変でしたか?」

「逆だ。きれいにまとめられていて、入社試験の性格診断書かと思った」

「読んだ本の内容とかを引用して作成しましたので似ているのかもしれないですね」

「よくこんな細かいことまで覚えているな」

「記憶力は良い方なので」

「そういえば特技だったな」

 少し考えてから、村雨部長からマネージャー達にも見せるけどコピーして個人個人に自分のものを見せても良いか? と訊いてきた。

「できるだけ客観的に務めて、悪口を書いた覚えはありませんので構わないですが、私の個人的な主観も多少入っていますよ?」

「みんな自分が周りからどう思われるか、不安でしかたがないんだ。これを見たら少しは安心するだろう」

 そんなものかなと思いながらレッスンが始まりますのでと言って、お辞儀をしてからレッスン場に向かう。
 レッスンの休憩時に日髙マネージャーと村雨部長がみんなに話があるから集まってと言ってきた。
 みんなが顔を見合わせて部長たちの前に体育すわりをする。

「私が頼んで相羽にみんなの良いところをまとめてもらったので、一人ひとりに読んでもらいたい」

 みんなが一斉に後ろにいた私をみたので、ちょっと恥ずかしくて下を向いた。

「元は相羽のものだが、内容的に渡すのは書かれている個人だけにしておく。人のまで見ないように」

 一人ずつ名前を呼んでわざわざ茶封筒に入れて渡していった。

「みんなこれからのことが不安だとは思うが、一人でもこうやってお前たちの良いところを見てくれている人がいると思って頑張ってほしい」

 残念だが相羽のものはないけどな、そう言ってみんなが黙って私の書いたレポートを読んでいるのを見ていた。
 私がちらっとみると朋子は震えているような感じがして、悪いことは書いていないはずだけど、この沈黙は私でも耐えられないと思って下を向く。美香が封筒に書類をしまいながらちょこちょこと寄ってきて肩をトントンと叩いて大事にするとお礼を言われた。
 みんなが読んだ書類を封筒にしまったのを見ると、マネージャーの真帆ちゃんに後は頼むよといって村雨部長は去っていった。
 あまりにもみんなが静かに立ち上がるので、「大丈夫かな?」と思っていると、先生が手を叩きながら「はい。続きを始めます」と言い、みんな黙々とレッスンを始める。

 お昼の時間になり、いつものようにコンビニにでも行こうとすると。後ろから朋子がくっついてきた。

「なにっ? なにっ?」

「紗良ちゃん。ありがとう」

「ああ、あのレポートのこと?」

「ママにもあんな風によく見てもらったことない」

「多少主観が入っているけど事実だよ」

「これから、こうしたほうが良いかもって書いてあったし、気をつけながら頑張るね」

「自分の思った通りにやればいいと思うよ。私から見たら朋子だけじゃなくて、みんなすごくかわいいんだから」
 年上の河合陽子もやってきた。

「二十年生きてきて、しかもこの短い期間で、あんなに自分のことをきちんと見てくれる人に初めて出会ったわ。もう少し若かったら朋子みたいに泣いてたかも。やる気が出た。ありがとう」

 朋子は泣きすぎだけどと言いながら、早くお昼を買いに行こうと三人でいつものコンビニに向かった。
 お昼を食べ終わって、少し休んでからストレッチをしていると、さなえが「紗良ちゃん。ちょっとこっち来て」というので「何だろう?」と思いながらついて行くと、みんなから見えなくなったところでさなえが訊いてきた。

「なんで、私が本当は人見知りだってわかるの?」

「なんでって、雰囲気?」

「答えになってない」

「あれは、私の主観も入っているから違ってたらごめん」

「違わないから訊いてるの!」

 さなえはできるだけ他の人とコミュニケーションをとるようにすることで自分の立ち位置を確認し、それに合わせた振る舞いを心がけてきたらしい。
 元々は人見知りなのだから、話しかけるのには結構勇気がいるが、これまで何とか自分を明るく見せることで、それがわからないようにしていたのに、これだけの時間で私に簡単に見抜かれてしまったのが、なぜか知りたいというのだった。
 そこまで言われたら何らかの答えを言わないと納得はしないだろう、そう思って話をしてあげることにする。

「私が、記憶力がいいっていうのは知ってるよね。耳もまあまあいいんだよね」

 初めて会った時のことを思い出しながらさなえを見る。
「今でも初めて私に話しかけてきてくれたときのことを覚えてるよ。思い返すと、さぁちゃんの声がちょっと普段と違った。ほんの少しだけどね」

「自分でも覚えていないのに、そんなことまで覚えてるの?」

「私のような仏頂面の人に話しかけてくるなんて、あまりいないから印象に残っているだけかも。そんなに興味があったのか、かなり勇気が要ったのかもしれないけど」

 それで? というようにさなえが話を聞いてきた。

「こうやってみんなでレッスンをし始めて、当然初めての人とも会うじゃない? その時のさぁちゃんの声の出し方と、馴れてからの声の出し方が微妙に違うなと思って」

 私の時ほど違わないけど、いつも頑張ってるよね、と言いながらやさしく微笑んだ。
 さなえの目を見ると涙を一杯に貯めて、にらみながら近づいてきたので、叩かれるのかと思って、避けるべきか上手いこと受け流すべきか考えていると、腕をつかまれて抱きつかれた。
 私の胸に顔を押さえつけて、どうやら声を殺して泣いているらしい。
 さなえは明るく振舞えば振舞うほど、人見知りな自分がもう一人いて誰にも言えないことで悩んでいたのかもしれない。
 それが文字として明確にされたことで、戸惑いと本当の自分のことを知ってくれている人がいるという、ほんわかとした安心感で涙があふれたようだ。

「紗良ちゃん。今のことも私が泣いたことも誰にも言っちゃだめだからね」

「そんなこと言わないですよ。さぁちゃんは頑張り屋さんだ、ということだけにしておきますから」

 負けず嫌いも書いてあったよなと思っていると、「そのくらいなら許す」と言い、さっきまで泣いていた顔はさっぱりとしていて、私の手を引いてみんなのところに、いつものアイドルのさなえとして戻った。
 その日のレッスンが終わると日髙マネージャーにみんな聞いてと呼ばれる。
 お披露目会は二期生だけでは、簡単に言うと間が持たないので、一期生もミニライブをしてくれてファンの人たちに楽しんで帰ってもらおうということになっていた。

「明後日はお披露目会の会場で確認をしますので、朝の7時には会場まで来て下さい」

「はやっ!」

「少し遅れて一期生も来ます。会場でのリハーサルはそんなに長いことはできないので、みんなはできるだけ早く来て確認しましょう」

「はいっ!」と全員で元気よく返事をした。

 初めのころレッスンの終わりはみんなバテバテだったが、今はかなり体力もついてきたようで、みんな普通に帰り支度をしていると、「いよいよだね」と陽子が言う。

「今日は早く寝るぞー」

 と美香が言うと、朱里が「そんなこと言って寝坊しないようにね」と言うので、「お母さんに起こしてもらいますぅー」と言うのをみんなで見て笑っていた。

 他のコンサートでも一緒らしいが、会場でのリハーサルは、押さえているスケジュールの都合上二日と当日の開演程度までしかとれないことが多いらしい。設営も含めて至極短時間で行われるので、準備は大変だ。綿密に計画を立てて会場の使用日が来ると同時に資材を運び入れて設営を開始する。

 私はどんな風に作業しているのか考えただけでもワクワクしていた。

「1時間以上早く来てしまいました」

 気がはやりすぎて薄暗いうちに会場の前に来ていた。
 お母さんに「こんなに早く行くの?」と訊かれたけど、会場設営が見たいからと言って五時に出たら、さすがに早すぎたのかもしれない。
 マネージャーの日髙さんに事前にもらったスタッフ証で通用門から中に入れてもらうと、大道具の人たちが作業をしていた。

「おはようございます」

 現場の人たちに挨拶すると、周りから疲れた声で「おはようございます」と聞こえてくる。
 私は何をしているのか見たくてうろうろしていると突然声を掛けられた。

「初めての子か?」

「そうです。相羽と言います」

 そう言ってお辞儀をした。

「危ないから、そのリュックを背負った格好でうろうろするな。荷物を置いて軍手をもらってこい」

 そう言われて軍手をもらってくると、あの道具を運ぶのを手伝って来いと言われたので、「わかりました!」と言って作業をしている人と一緒になって設営を手伝っていた。
 アルバイトと思われる人から、「君はこの現場初めてなの? 女の子なのに重たいから大変でしょ」そう言われたので「そうですね。でも力仕事とか得意な方なので」と答える。

「そんなに可愛かったら出る方になればいいのに」

「あっ。私出るん……で」そう言いかけた時、「新人、こっちを手伝ってくれ」そう言われたので今度は椅子の搬入と並べを手伝っていた。
 何もないところに椅子を整然と並べながら、もう少し大道具とかの組み立ても見たいけど、危ないから近寄らせてくれないかな? などと考えていると、日髙さんが走ってきた。

「相羽さん。何やってるの?」

「日髙さんおはようございます。成り行きでお手伝いを」

「この子誰? アルバイトの子じゃないの?」

 さっきの現場で指示していた人が聞いてきたので、日髙さんが「二期生の子です」と答えた。

「がたいがいいわりに、いやにかわいい子がアルバイトに来たなとは思ったけど、こんなジーパンに黒Tシャツの地味な格好でまさか五時にうろうろしていると思わないから。申し訳ない」

「私も設営がどうしても見たくてうろうろしていたので、すみませんでした」

 お騒がせしてすみませんでしたと一緒に謝りながら、「それじゃ、相羽さんは軍手を返して控室の方へ行こうか」と私の手を取ってこっちへ来なさいと引っぱっていかれた。

「今度は言ってくれたらヘルメットも用意して案内してあげるから」

 と、言われたので「ぜひお願いします!」そう言って控室に向かう。
 控室はまだ誰もいなかったが、もう少ししたらみんな集まってくるだろう。
 日髙さんがこのお茶飲んでいいからとペットボトルのお茶を勧めながら話をしてきた。

「相羽さんは本当に変わってるわね」

「そうですか? 初めてのことばかりなので興味深くて。心配で手伝いに来たというわけではないですよ」

「それはそうでしょう。でも、すぐに溶け込めるのね。才能だわ」

「どちらかというとコミュ障ですし。興味があったので言われたことを、言われたようにしていただけですけど」

「そんなことないわよ。新しく入ったアルバイトの子が、見た目もかわいいのに椅子並べとかすごい勢いでやっているって、他の人から聞いたからどんな子か見に来たら、相羽さんだったわけ。何してんの? って思ったわよ」

「どうして、そんな噂に?」

「みんな、深夜から準備しているからね。朝方のこの時間はだいぶ疲れてきているところで、人より倍も働くような子がいたら目立つわよ。それも相羽さんみたいにかわいい女の子だったらなおさら。私が来なくてもそのうち気付かれて現場からつまみ出されたと思う」

「手伝ってはいけなかったですか?」

「小さいところだと一緒に会場設営もする人もいるから、駄目なわけじゃないけど仕事は役割分担だから。遊びじゃないのよ」

 作業を言いつけられて、否定もせずにこれ幸いと手伝いに入ったことを見透かされているようだった。

「相羽さんはステージに上がるのが仕事なのだから、それより前に余計なことをして怪我でもしたら、自己管理ができていないということになるの。気を付けてね」

「わかりました。すみませんでした」

 言われていることは正しい。遊びと思って入ったわけでもないが、自分のしたことに反論もできないのでうなづいた。
 知りたいという思いだけで突っ込んでいってはいけないなと反省をして、今度からはきちんとお願いしようと誓う。
 しばらくすると二期生のみんながばらばらとやってきて好きな場所に腰かけ、隣に座ったさなえが朝の話を聞いてきたらしく「朝から何やってるの?」と言ってきた。

「何って、椅子並べ」

「そういうことじゃないでしょ。早く来てダンスの復習とかをしていたならわかるけど、どうして椅子を並べるのかって訊いてるのよ。あいかわらず余裕があるわね」

「余裕とかではなくて、準備が見たくて早く来たので。椅子を並べたのは偶々で、会場設営で何が行われているのか知りたかったからウロウロしてたらアルバイトと間違えられてしまい」

「社会見学かっ!」

「本当に申し訳ない」

「まあ、体力お化けの紗良ちゃんのことだから、椅子を運ぶくらい準備運動とでも考えていたんでしょ。危ないから気をつけなさいよね」

 あきらめ気味に話をするさなえに、反省する私を見て真由美も美香も笑っていた。
 しばらくすると、みんなが揃ってステージでのリハーサルが始まり、ステージからみる客席は椅子を並べていた時とは全然違って水平線に広がる波のように見える。

「すごい。ここにお客さんが入ったらどうなるんだろう。もっと広く感じるのかな?」

 あの辺は私が並べたんですよと指さした。

「そんな風に思えるのは相羽さんだけよ。私なんか今から怖くて震えちゃって」

 陽子の手がぱっと見でわかるくらい小刻みに震えているのが見えた。恐らく、今から緊張しているくらいの方が、本番までには落ち着くだろう。むしろ全く緊張した感じのない美香とかが想像を超えたステージに立つ瞬間に、震え上がるのではないかと少し心配になる。
 とは言っても震えていては始まらない、陽子の震える手を取って、目を見ながら「みんな一緒。大丈夫」と呪文のように唱えた。

 スタッフの人たちに挨拶を済ませると、ステージでは歌とダンスを踊るだけではなく自己紹介や特技の披露もしなければならないので、みんなそれぞれの特技を披露する順番や段取りについて台本を見ながら、演出の先生からどうしたらよいかも聞いてリハーサルを進めた。
 リハーサルの時にMCを誰がするかということについて話しがあり、私は年長者の陽子か、朱里を推したが、センターの人がやるものだという聞いたことのないルールでみんなが指名するので、結局私がすることになった。
 どういった話をしたらいいのか演出の先生に訊いたら、それについては時間だけ気にしてくれたらあとは自由にやってくれていいよと言われたのだが、私にはそれが一番困る。

「そうだっ! リーダーに後で聞こう」

 MCをいつもやっているリーダーなら有益な助言が得られると考えて、何とか話を聞きにいきたいと思案していた。
 一応午前中に二期生だけのリハーサルも一通り終わり、一期生が午後からのリハーサルに合わせて入ってくるので、みんなお昼はどうしようかと緊張しながら待っている。
 人数が多いので楽屋は一期生と二期生で分かれていたから、一期生の誰が来ているのかはわからなかったが向こうの楽屋の音で、もう殆ど来ているのだろうなと私は推測していた。

 なんとなく息を殺してシーンとした二期生の楽屋で、挨拶をするのに誰が見に行くかで揉めそうになったが、結局みんなで行くのが良いよと、そろって楽屋に挨拶に行くことにした。
 一期生と書いた楽屋に入るとみんなで整列して、「二期生です。宜しくお願いします!」と頭を下げて挨拶をする。
 神室美咲が「あんまり緊張しなくていいよ。楽しんでいこう」と笑って言ってくれたので、二期生みんなの緊張も多少はほぐれたようだった。
 楽屋への帰り際に、彩ちゃんにもらったと言っていつの間にか美香はシュークリームを手に持っていたので、愛されキャラだなと思いながら、「はしゃいで落とさないようにね」と微笑んだ。

 一期生のパート練習が始まり、二期生みんなで見学させてもらう。
 さすがに一期生はみんな振り付けが揃っており、リハーサルなんかいらないんじゃないかと思うほどだったが、それでもそこが揃っていないとか、あそこが遅いとか注意を受けていた。

「私たちがリハーサルしていた時は、ずいぶん甘く見てもらっていたんだな」

 そう思って一期生の人たちのパフォーマンスに感心するとともに、自分たちのリハーサルを思い返す。
 外仕事があって集まれない人のところは、いない人のビブスを付けたダンサーさんが入っており絵里奈はまだ来ていなかった。

「仕事が忙しくて、今日は来れないのかな? せっかく生で見られると思っていたのに残念」

 そんなことを考えていると「休憩に入ります」という声がかかり、みんな楽屋に戻り始めた。
 楽屋に戻り、みんなが口々に一期生のパフォーマンスがすごいと言いながらわいわいしていると、楽屋をノックする人がいてみんなで「はーい」と返事をする。

「失礼します」

 そう言いながら絵里奈が入ってきた。
「こっちの方が人数的に空いているから、後から来た人は二期生の楽屋に行ってって言われたんだけど、大丈夫?」

 確かに一期生は二十人で二期生は九人だから同じ楽屋にしたら一期生の方がぎゅうぎゅうで押し込まれているようになっている。
 みんな緊張してコクコクと頷いて返事をした。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

 頭を下げる絵里奈をみて、見た雰囲気そのまま腰が低くて礼儀正しいなと思ってみていると、「そこの場所、空いていてるんでしょ?」と私の隣の端を指さす。

「端で? 好きなところに座っていいですよ」

「荷物があるのに、わざわざ移動することないよ。あの椅子使っていいの?」

 そう言うので、椅子を持ってきてあげる。

「ありがとう。休憩っていつまでって言ってた?」

 私は時計を見ながら「あと十分です」と答えた。

「まだもう少し休める」

 そう言って机に荷物を置いて突っ伏した。
 みんなも顔を見合わせて椅子に座ったところで、「お疲れ様です。お茶飲みます?」
 そう言って冷たいペットボトルのお茶をもってきて、そっと机に置おいた。

「現場が外だったから暑くて大変だったの。死ぬかと思った」

 マネージャーみたいと笑いながら、そう言ってお茶を飲み、また同じように突っ伏した。
 なるほど、どういう現場だったのかわからないけど、売れているアイドルは休む暇もないくらい忙しいのだなと、絵里奈を見ながら寝ているんだろうかと思って観察していた。
 休憩時間の終わりが近づき「もう休憩時間終わりますよ」と教えてあげると、背伸びをしてから立ち上がり「ありがとう。じゃあ行きましょ」と言われた。

「これは憧れ補正的なものも入っているかもしれないけど、どうしても目で追ってしまう」

 レッスン用の地味な服装をしているにも関わらず、リーダーの神室を含めみんながリハーサルとは思えないくらいの仕上がりで感心することしきりだったが、絵里奈が入ってからのリハーサルはさっきよりもさらに一期生が輝いて見えた。
 最後に一期生を含めて全員で集まるという段取りまで終了し、一期生は解散となった。
 感心してばかりもいられない、自分たちは自分たちのパートの段取りをもう一度復習をしようかと話をしていると、絵里奈がやってきた。

「明日も二期生の楽屋に行ったらよろしくね」

 そう言って手を振って帰っていった。
 みんなきょとんとしながら手を振って「嵐のように来て、去って行ったね」と真由美と愛美が話していた。
 何度かステージでの動きを再確認したところで、そろそろ帰ろうということになり、支度をしていると、みんなが口々に「明日は五時に来こないようにね」と私に言って帰っていく。
 家に帰ってお母さんに今日の出来事を話したら、朝の件は普通に怒られるわよと言われ、みんなが持ち場をきちんとこなすことで仕事が回るのだから、勝手に入ってしまったら何かあったときの責任は誰がとるのかということになるの、紗良さんならわかるでしょうと、元キャリアウーマンのお母さんにここでも諭された。
 あまりにも知りたいという気持ちが先走るのは私の悪い癖だな、と思いながら明日からは気を付けようと心に誓ったのだった。
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