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目標のある幸せ 第九話
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昨日の反省点を踏まえ、今日は集合予定の時間より少しだけ前に着く。
一期生も今日は同じ時間に集合のはずだが、さすがにまだ誰も来ていないようだ。
昨日の指示をしていた人を見つけると、「昨日は勝手なことをして、本当に申し訳ありませんでした」と頭を下げて謝った。
「こっちこそ、手伝わせてしまって、かえって申し訳なかったな」
「そんなことないです。今度はきちんとしたルートを通してお願いしたいと思います」
「椅子並べを? ああ会場設営を見ることか。面白いことを言う子だな。じゃあその時が来るのを待ってるよ。とりあえず明日のお披露目会頑張って」
そう言って去っていくのを見てから、楽屋に入ると朱里と陽子がすでに来ていた。
「おはようございます」
「紗良ちゃん。おはよう」
「木之下さんと河合さんは早いですね」
「今日は衣装合わせもあるから、写真撮りたいじゃない。早めに来て化粧とかケアしないと高齢だから」
「私と二,三才しか変わらないですけど」
「ベース的に私たちは変わるの」
「そうかな?」
二人ともきれいな肌をしているし、どこが基準なのかさっぱりわからない。
陽子が「それは良いわ。そんなことはどうでもよくて」と話し始めた。
「私たちは年上だけど同期なんだから、苗字で呼ぶのはやめて」
「いや、でも」
「みんなみたいに名前で呼んでよ」
「そうそう」
朱里がうなづく。
「私たちは紗良レポートで心も裸にされてるんだから、名前で呼ぶくらい簡単でしょ」
「裸にはしてないと思いますけど、さんをつけるのは良いですよね」
年上の人を名前で呼ぶにしても敬称的なものを付けずには呼べない。
「とりあえず、今のところはそれでもいいわ。じゃあ呼んでみて」
「陽子さんと朱里さん」
「よし。今からそれね」
そんな話をしていると鼻歌を歌いながら美香が入ってきた。
お母さんに送ってもらうので、余裕を持って行けと言われて早くなったらしい。
「おはようございまーす」
「おはよう」三人で挨拶を返した。
「今日は紗良ちゃん何もしなかったの?」
美香が隣に座ってキラキラした目で私を見ながら言った。
「今日はって、どういうこと? いつも何かをしでかしているように言わないで」
美香の両方のほっぺを軽くつねってあげた。
「ほめんなさい」
手をばたつかせて、めちゃくちゃ可愛いしぐさで謝るので今度は頭を撫でてあげる。
そんなことをしている間にみんなが揃って、衣装合わせをするために順番に呼ばれ、みんな初めての制服がうれしくて写真を撮りまくっていた。
一期生のメンバーも衣装合わせに来ているのを見て、本当にきれいだなと思いながら神室美咲を見つけて思い出した。
「ああっ! MCで何を訊いたらいいか聞かなくちゃ」
今聞かないと、いつ訊けるかわからないので、ささっと音も立てずに神室の横に立つ。
「神室さん、ちょっと良いですか?」
「うわっ驚いた! なに? 急に現れて」
「驚かせてしまいすみません。二期生の相羽です。教えてもらいたいことがあるんです」
「知ってるし。紗良ちゃんでしょ」
当然よ、という感じで腕を組んだ。
「今忙しいかもしれないですけど、いいですか?」
「いいけど。何? 難しいこと?」
難しいこと訊かれても自慢じゃないけど答えられないよ、という感じで私を見る。
「私としては、めちゃくちゃ難しいことなのです」
「あなたが難しいことってあるの? なんでもできるって噂なのに」
「誰ですかそんな根も葉もない噂をするのは。あのですね。私二期生のMCをすることになったのですが、MCって何を訊いたらいいですか? なんでも良いって言われても困るんです」
「初めてだから? そういうことか」
顎に手をあてて「そうねえ」と上を見ながら、私の肩を叩いた。
「難しく考えないで、今の気持ちとか、これからどうしたいとかで良いと思う」
「間が持ちますか?」
「訊く人を初めに決めておいた方が良いわね。あなたたちでは事故になりかねないから」
「事故ですか……」
みんながあたふたする様が容易に想像できて、目の前が真っ暗になるような気がした。
「いやいやいや、そんなに、恐ろしいことにはならないから。大丈夫だから。結構顔に出るタイプなのね」
「私自身でどうにもならないその場を想像しただけで恐ろしくて」
「こういうことを訊こうと思うって、あらかじめその人に伝えておいて訊けば大丈夫よ」
「そういうものですか?」
神室さんは、ものすごい楽天家だということを思い出す。
「あと、おもしろそうだなと思ったら、言っていない人にも何か訊くとか。そうやって広げるのよ。あなたならできる」
「わかりました。何とかその方法で試してみます」
正直なところ失礼ながら聞く人を間違えたのかもしれないと思いながらも、こうなったらなるようになれだと、言われたとおりに「こういうことを訊くから考えておいて」とみんなに伝えた。
結局、一期生は全員同じ楽屋にいることにしたみたいで、絵里奈たちは来ていなかったが、お昼の時間にロケ弁が出たためみんなでそれを物色していると、神室美咲、高坂絵里奈、石田恵美、原彩の四人が一緒にご飯を食べようと自分のお弁当持参で楽屋に入ってきた。
一期生は物珍しさもあり、みんな二期生のところに行きたがったが、狭くなるということで、じゃんけんで勝った四人が来たとのこと。
一期生として十四才で入り最年少だった原は今年朋子と同じ年だが、さらに自分よりも若い子が入ってきてお姉さんになったことがかなりうれしいらしい。
美香と一緒に食べようと隣に座り、美香もお弁当はいつもこういうものなのかという質問から、普段はどこに行ったりしているのかなどを嬉しそうに訊いていた。
他のみんなも二人ずつで一期生を挟んで話しを聞きながら食べていたが、奇数だったので私は遠慮してさなえの隣で端に座った。絵里奈をチラ見しながらお弁当を食べていると、さなえの隣にいた絵里奈が話しかけてきた。
「山岸さんは一つ上で相羽さんは私と同じ年なのよね」
急に話しかけられてのどに詰まりそうになったが、何とか飲み込んで答えた。
「そうです。私は高校二年になります」
「山岸さんはアイドルになろうと思っていたみたいだけど、相羽さんは?」
「特に何も決まったことはなかったのですが、テレビでヴァルコスマイルのライブを見まして」
「ああ、あの時の」
「放送されなかったら知られてなかったのかぁ」
そういいながら「私たちも、まだまだだよね」と神室に言っていた。
「でも、紗良は特殊だと思いますよ」
さなえが絵里奈にこの人だいぶ変わっているので、と言いながら私の肩に手を掛けた。
「変わってるって? 何が?」
「この年で基本的にSNSを一切見たりしないような人なので」
「本当?」
「まあ、必要ありませんでしたし」
「学校の友達とかは?」
「近所なので用事があったら行った方が早いですし、ショートメールで事足りたんです」
「グループのメンバー以外で登録している人がテストを兼ねた一人らしいです」
「グループのコミュニケーションアプリは必要に迫られました」
必要性があるのか? と言ったら、連絡網として使用するので登録しろと半ば脅された。
「じゃあ、何に興味があるの?」
「それは。今はヴァルコスマイルですね。この雰囲気が好きなのと、中でも高坂さんは一番興味があります」
「わたし? なんで?」
自分を指さして、訊いてきた。
「ライブの時にソロで歌われているところを聴いてすごく感動しました」
「棒読みで、全然感動したように聞こえないんだけど」
「いえ本当です。先輩に対してということもあり、あまり感情の抑揚がなくて申し訳ないです」
さなえが「極度の人見知りということで気にしないでください」と横からフォローする。
「一緒にユニットで唄えるといいよね」
ヴァルコスマイルの歌姫と一緒に唄うなど、おこがましいことこの上ない。
「私は、近くで聴けるだけでも十分です」
「そんなの駄目だよ。みんな同じグループなんだから、しなくていいことなんてないよ」
「わかりました。そうなれるように努力します」
話を聞いていた神室が話しかけてきた。
「紗良ちゃんは、その調子でMC大丈夫なの?」
「苦手ですが、ステージではできるだけにこやかにしたいと思ってます」
「じゃあ今やってみてよ」
「今ですか? 心の準備ができてないのですが、できるだけやってみます」
そう言って立ち上がると絵里奈も興味津々で私の方を見ていた。みんなもこっちを見るので、「恥ずかしいから向こうを向け」と心に念じながらとりあえず美香を見た。
朝に見せてくれた可愛らしい仕草を思い出して、かわいいよという気持ちを込めて微笑んだ。
こっちを見て誰も何も言わないので元の仏頂面に戻した。
「と、まあ、こんな感じですけど。駄目ですか? 本当にこういう表情は苦手でして」
「だっ、駄目じゃないよ。すごい良かった。良いもの見せてもらった」
神室がハッと気が付いて、椅子から落ちそうになりあたふたしている。
さなえが「私もあれにやられた」と小さな声で言っていたので、何に? と思った。
「仲良くなったら、その表情で話しかけてくれるの?」
絵里奈が訊いてきたが、「仏頂面が地なので仲良くなっても仏頂面です」そう答えた。
「えー、つまんない。それならもっと仲良くなって一緒に笑ったらその顔になるよね」
「笑うときがあれば、普通に笑うと思いますので、そうなりますね」
「それなら、私はそれを目標にするよ」
返答に困っていると、そろそろ午後のリハーサルを始めるので片付けをしてくださいとマネージャーが伝えに来たので、絵里奈たちは一期生の楽屋に戻っていった。
「美咲、美咲」
恵美が廊下で話しかける。
「相羽さん、整ってるなぁって思ってたけど、微笑んだ時めちゃくちゃきれいだったよね」
「無表情からのギャップがすごすぎて、女神が降臨したかと思って思考が止まっちゃった」
「確かにあれは神々しいわ。普段からあれやられたら、みんなが倒れるから仏頂面にされているのかもね」
「すごい子が入ってきたって聞いてたけど、本当だった」
「でも、すごいのは顔だけじゃないってボイトレの先生が言ってた。本気の歌声もすごいらしいよ」
彩が割って入り、楽しみだよねと言う。
「じゃあ、一緒に唄ってもらえるかな」
そう絵里奈が言うと、「これから何度もあるよ」とみんなが口々に言った。
お披露目会当日、二期生用に仕立てられた衣装に着替えて、待っていた楽屋から出ると一期生が並んでいて私たちを迎え入れてくれた。
「今日は私たちの二期生の大事な日になります。二期生のみんな。今日のことは一生心に残っていると思いますので、怖がらず楽しんでください。私たちも応援しています」
そう言うと「準備は良いですか?」と手を前に出して恒例の円陣が始まる。
「夜空に見える星の輝きは私たちの笑顔、永遠に輝くー」
「「ヴァルコスマイル!」」
みんなで手を上に掲げ声を合わせた。
「それじゃあ、二期生のみんなは頑張ってきてね。モニターで見てるから」
ついに私たちのヴァルコスマイルとしての活動が始まると思うとさすがの私も少し緊張してきた。
ステージの袖で出番を待っていたとき、朋子が満員になっている客席を見て「もう駄目だ」と始まる前から涙目になっている。
美香も怖いと言って私に抱き着くので、「怖くないよ。大丈夫。何かあったら私が助けてあげるから」そう言って抱きしめてあげたら「震えが止まった」と言っていた。一番年上の陽子からして会場の雰囲気にのまれて血の気がなくなっているので、これはまずいと思いみんなに言う。
「みんな緊張しすぎ。私はみんながすごくかわいいと思っているし、間違えたりしても笑顔でね。なにがあっても笑顔ならきっとうまくいく。私が補償する」
そう言ってみんなに目を合わせて微笑む。
「まだちょっと怖いけどさっきより落ち着いた」
トップバッターのさなえがそう言って背筋を伸ばす。
「みんな、一生懸命練習してきたし、それをみんなにしっかりと見てもらおうよ」
オーバーチャーが流れ始め、客席からのどよめきが聞こえてきた、音楽に合わせて歓声が上がる。そのたびに私たちに振動となって伝わってくる。
「すごい。これが私たちが入ったグループのステージなんだ」
二千人からの人が声を合わせると、こんなにも響くものなのかと新鮮な驚きと、これからあそこに出ていくことに対する期待と高揚感で私はワクワクしていた。
司会の人の「それでは二期生のお披露目会を始めます」という声に続いて、今日はあいうえおの逆順に呼ばれるという段取りだったので最初にさなえが呼ばれ、「行ってくる」とさなえがいうと、私たちはみんなでこぶしを握って「頑張れ」と送り出す。
次々にみんなが呼ばれて最後の二人になるところで、朋子が「無理かも」と言って震える手で、私の手を握った。
「泣いてもいいけど、笑顔を忘れないで、一緒にあそこに立つんでしょ」
私も無茶を言うと思ったが、朋子だってグループに入るためにここまで来たのだから、こんなところで止まって良いわけがないことはわかっているはずだ。
一歩を踏み出すために誰かに押してほしいだけ、そう思って軽く背中を叩いてあげた。
「飯塚朋子」
そう呼ばれた時、朋子は涙を流してはいたが、かわいらしい笑顔でステージに歩いて行く。
客席の人たちは泣いている朋子を見て一瞬面食らったが、口々に「頑張れ」という声がかかり、朋子は微笑んでお辞儀をしていた。
「いよいよか」
私には誰か背中を押してくれる人はいないのかなと思って周りをみると、いつのまにか腕を組んで立っていた村雨部長が親指を立ててこっちを見ていた。
「おもしろすぎる」
みんなは私が励まして送り出したのに、一人ステージに出ようとする私はおじさんが励ましている。なんだかおかしくなってきた。
「相羽紗良」
ステージの真ん中に立つと会場全体が人の壁のように見えて、こちらに迫ってくるような感じがする。さっきの村雨部長を思い出して自然に笑顔になり、みんなと同じように一度お辞儀をすると、会場から拍手とどよめきがあがった。
「これがここから見える本当の光景なんだな。本当に来たんだ」
そう思いながら頭を上げる。
司会の人が「以上九名が二期生です」と言ったと同時に九人で「宜しくお願いします!」と言ってもう一度頭を下げた。
再度すごい拍手をもらい、頭を上げた時から遂に始まった。
さなえが子供の時から習っているというピアノを披露したり、美香はヨーヨーが得意だといってブランコという技を披露していた。
中でも陽子は就職前に何故か手品師になろうと思っていた事があるらしく見事なコインマジックを披露していたのを見て、やっぱり手先が器用だなと思った。
私はいつものように得意なのは似顔絵だということで披露したが、メンバーでは面白くないと思ったので司会の人を劇画調にイケメンに書いてあげたら「恐縮です」とお礼を言われてちょっとだけ盛り上がった。
いよいよ楽曲披露になり一期生の代表曲二曲と私たちに頂いた曲を披露する。
二期生の楽曲は“二つの選択肢”という楽曲で人生は常に選択に迫られるという内容の歌詞だけれど、私はどちらかを選んでも存在しないもう一方がよかったなんてことはなく、今選んだことをどう生きているかが重要なんだというところの歌詞が気に入っている。
何とか恥ずかしくないパフォーマンスができていたと思いながら、遂にMCが始まった。
「みなさん。改めましてこんにちは。私たちヴァルコスマイル二期生です!」
一期生と同じ決めポーズで挨拶をした後、順にみんなの気持ちを訊いていった。
特に朋子は「出てくるまでは緊張して泣いてしまったけどステージで応援してくれているファンの方たちを見たら自然と笑顔になりました。ありがとうございます」と言った時にすごい拍手をもらっていた。
何とか自分の役割をこなして事故を起こすこともなく、一期生を呼ぶ段取りになったが、私の合図で楽曲が始まるという直前、機材トラブルで三分は持たしてほしいとイヤモニから指示があった。
気が遠くなるような気持だったが、黙っていると三分は長い、こうなったらヤケだ。
「みなさーん。もうそろそろ一期生さんもみたいですよねー」
そう言うと客席からオーという歓声が上がるのを聞きながらMCを続けた。
「朱里さんはどうですかー?」
落ち着いてそうな朱里にマイクを差し出して適当に答えてくれと目で合図する。
雰囲気を察した朱里は「もちろん見たいでーす」と答えてくれたが、全然時間が経ってない、もう一人くらい行かないとどうにもならないなと考え周りを見ると、みんなが心配そうな目で見ているのが分かる。
「陽子さんはどうですかー。かわいくお願いします」
無茶ぶりだ。自分でもそう思ったが、「当然、見たいでーす」そう言ってぶりっ子ポーズで答えてくれた。
いいぞ年長組、そう思いながら他の子はもうだめそうだ、ここからは客席を使うしかないと考えていた。
「ファンの皆さんも一期生さんみたいですよねー。みなさん見たいですかー」
一応みんなが手を振ってくれているので何とかなりそうだ。
「それじゃあ、私の合図で拍手をしてください。いきますよー。せーの。はいっ」
会場全体から拍手が聞こえてきた。ファンの人たちはすごいなと思ったがもうちょっと時間がいる。
皆さんに申し訳ない、本当は十分ですよと思いながらも足りないということにした。
「まだまだ、たりないですよー。それでは一期生さんが来てくれません。ほら、二期生のみんなも一緒に、せーの。はいっ」
その時イヤモニから楽曲入りますという連絡が来た。
それに合わせるかのように割れんばかりの拍手があり、楽曲が流されると同時に一期生が入ってきた。
一期生が入ってくると拍手が歓声に変わり、リハーサルの通りに私たちは一期生の後ろに移動して一緒に踊った。
一期生の四曲中一曲目が終わると神室美咲のMCが始まり、私たちはファンの方のお見送りをするということで着替えのために捌けた。
「疲れた」
私は身体の疲労よりも精神的な疲労で椅子に座り込んだ。
みんなも少しだけ休憩させてほしいと倒れるように椅子に座りこむ。
「鉄人の紗良でも疲れるのね」
と言って陽子さんが水を持って来てくれた。
「変なあだ名つけないでください。さっきは朱里さんもですけどありがとうございました」
「全然。最初から段取りしたのかと思うくらいピッタリのタイミングだった」
「みんな目を見てくるんですけど、話しかけないでオーラがすごくて」
「だって怖いよ。助けてあげたいけど何もスキルがないし、時間持たせてしか指示がないんだから」
さなえがそう言うと朋子も未来もうんうんと頷いた。
「私の方がもっと怖い」
さなえが一番出来れば話しかけるなオーラを出していたことは覚えておく。
「紗良ちゃんは煽りもできるんだね」
美香がキラキラした目で私を見ている。
「煽り? さっきの?」
「そう。みんないくぞーみたいなの」
「よく分からない。三分って言われてたからずっとカウントして三分になるようにしてた」
「あの状況で時間を数えてたの? すごいね」
「時間を数えるのはすごくないよ。みんな体内時計とか感覚的にあるでしょ。おなかすいたなぁ。もうすぐお昼かなぁとか」
「秒単位ではないから!」
「そうなのかな?」
「それって三分超えたらどうなるの?」
「その時はまた考えると思うけど、その段階ではどんなに拍手が多くても、『まだまだ足らないぞ、もっとだ!』ってなるかな」
「デスループ」
「そんな感じ。まあ、そんなことにならなくてよかった」
落ち着いたから直ぐに着替えようということで、急いで着替えをしてお披露目会の一期生パートが終わるのを見てから、お見送りの場所にスタンバイした。
お見送りの時にファンの人達が頑張ってと言ってくれたので、よかったと胸をなで下ろす。
お披露目会の後のミーティングでは二期生の楽曲披露もすごく良かったし、機材トラブルの時は出ていこうか迷ったけどうまく切り抜けてすごかったと褒めてもらったが、アイドルのライブではこういうこともしているのかと、いい経験にはなったけどあまり体験したいものではないなと思う。
家でお母さんたちに今日の話をしてあげたら、いつか観にいかせてもらうわと言われた。
そのときお母さんに「自分が思っているより身体はつかれているはずだから、早く布団に入って目を閉じてなさい」と言われたが、とても寝られそうになく、ずっと天井を見て今日のことを思い出していた。
次の日ネットのニュースで二期生お披露目会の記事が上がっており、二期生みんなの写真と自分が出てきたときの顔写真が貼られていたのを見て、あの時私はこんなにうれしそうな顔をしていたのか、そう思いながら学校に行く支度をした。
一期生も今日は同じ時間に集合のはずだが、さすがにまだ誰も来ていないようだ。
昨日の指示をしていた人を見つけると、「昨日は勝手なことをして、本当に申し訳ありませんでした」と頭を下げて謝った。
「こっちこそ、手伝わせてしまって、かえって申し訳なかったな」
「そんなことないです。今度はきちんとしたルートを通してお願いしたいと思います」
「椅子並べを? ああ会場設営を見ることか。面白いことを言う子だな。じゃあその時が来るのを待ってるよ。とりあえず明日のお披露目会頑張って」
そう言って去っていくのを見てから、楽屋に入ると朱里と陽子がすでに来ていた。
「おはようございます」
「紗良ちゃん。おはよう」
「木之下さんと河合さんは早いですね」
「今日は衣装合わせもあるから、写真撮りたいじゃない。早めに来て化粧とかケアしないと高齢だから」
「私と二,三才しか変わらないですけど」
「ベース的に私たちは変わるの」
「そうかな?」
二人ともきれいな肌をしているし、どこが基準なのかさっぱりわからない。
陽子が「それは良いわ。そんなことはどうでもよくて」と話し始めた。
「私たちは年上だけど同期なんだから、苗字で呼ぶのはやめて」
「いや、でも」
「みんなみたいに名前で呼んでよ」
「そうそう」
朱里がうなづく。
「私たちは紗良レポートで心も裸にされてるんだから、名前で呼ぶくらい簡単でしょ」
「裸にはしてないと思いますけど、さんをつけるのは良いですよね」
年上の人を名前で呼ぶにしても敬称的なものを付けずには呼べない。
「とりあえず、今のところはそれでもいいわ。じゃあ呼んでみて」
「陽子さんと朱里さん」
「よし。今からそれね」
そんな話をしていると鼻歌を歌いながら美香が入ってきた。
お母さんに送ってもらうので、余裕を持って行けと言われて早くなったらしい。
「おはようございまーす」
「おはよう」三人で挨拶を返した。
「今日は紗良ちゃん何もしなかったの?」
美香が隣に座ってキラキラした目で私を見ながら言った。
「今日はって、どういうこと? いつも何かをしでかしているように言わないで」
美香の両方のほっぺを軽くつねってあげた。
「ほめんなさい」
手をばたつかせて、めちゃくちゃ可愛いしぐさで謝るので今度は頭を撫でてあげる。
そんなことをしている間にみんなが揃って、衣装合わせをするために順番に呼ばれ、みんな初めての制服がうれしくて写真を撮りまくっていた。
一期生のメンバーも衣装合わせに来ているのを見て、本当にきれいだなと思いながら神室美咲を見つけて思い出した。
「ああっ! MCで何を訊いたらいいか聞かなくちゃ」
今聞かないと、いつ訊けるかわからないので、ささっと音も立てずに神室の横に立つ。
「神室さん、ちょっと良いですか?」
「うわっ驚いた! なに? 急に現れて」
「驚かせてしまいすみません。二期生の相羽です。教えてもらいたいことがあるんです」
「知ってるし。紗良ちゃんでしょ」
当然よ、という感じで腕を組んだ。
「今忙しいかもしれないですけど、いいですか?」
「いいけど。何? 難しいこと?」
難しいこと訊かれても自慢じゃないけど答えられないよ、という感じで私を見る。
「私としては、めちゃくちゃ難しいことなのです」
「あなたが難しいことってあるの? なんでもできるって噂なのに」
「誰ですかそんな根も葉もない噂をするのは。あのですね。私二期生のMCをすることになったのですが、MCって何を訊いたらいいですか? なんでも良いって言われても困るんです」
「初めてだから? そういうことか」
顎に手をあてて「そうねえ」と上を見ながら、私の肩を叩いた。
「難しく考えないで、今の気持ちとか、これからどうしたいとかで良いと思う」
「間が持ちますか?」
「訊く人を初めに決めておいた方が良いわね。あなたたちでは事故になりかねないから」
「事故ですか……」
みんながあたふたする様が容易に想像できて、目の前が真っ暗になるような気がした。
「いやいやいや、そんなに、恐ろしいことにはならないから。大丈夫だから。結構顔に出るタイプなのね」
「私自身でどうにもならないその場を想像しただけで恐ろしくて」
「こういうことを訊こうと思うって、あらかじめその人に伝えておいて訊けば大丈夫よ」
「そういうものですか?」
神室さんは、ものすごい楽天家だということを思い出す。
「あと、おもしろそうだなと思ったら、言っていない人にも何か訊くとか。そうやって広げるのよ。あなたならできる」
「わかりました。何とかその方法で試してみます」
正直なところ失礼ながら聞く人を間違えたのかもしれないと思いながらも、こうなったらなるようになれだと、言われたとおりに「こういうことを訊くから考えておいて」とみんなに伝えた。
結局、一期生は全員同じ楽屋にいることにしたみたいで、絵里奈たちは来ていなかったが、お昼の時間にロケ弁が出たためみんなでそれを物色していると、神室美咲、高坂絵里奈、石田恵美、原彩の四人が一緒にご飯を食べようと自分のお弁当持参で楽屋に入ってきた。
一期生は物珍しさもあり、みんな二期生のところに行きたがったが、狭くなるということで、じゃんけんで勝った四人が来たとのこと。
一期生として十四才で入り最年少だった原は今年朋子と同じ年だが、さらに自分よりも若い子が入ってきてお姉さんになったことがかなりうれしいらしい。
美香と一緒に食べようと隣に座り、美香もお弁当はいつもこういうものなのかという質問から、普段はどこに行ったりしているのかなどを嬉しそうに訊いていた。
他のみんなも二人ずつで一期生を挟んで話しを聞きながら食べていたが、奇数だったので私は遠慮してさなえの隣で端に座った。絵里奈をチラ見しながらお弁当を食べていると、さなえの隣にいた絵里奈が話しかけてきた。
「山岸さんは一つ上で相羽さんは私と同じ年なのよね」
急に話しかけられてのどに詰まりそうになったが、何とか飲み込んで答えた。
「そうです。私は高校二年になります」
「山岸さんはアイドルになろうと思っていたみたいだけど、相羽さんは?」
「特に何も決まったことはなかったのですが、テレビでヴァルコスマイルのライブを見まして」
「ああ、あの時の」
「放送されなかったら知られてなかったのかぁ」
そういいながら「私たちも、まだまだだよね」と神室に言っていた。
「でも、紗良は特殊だと思いますよ」
さなえが絵里奈にこの人だいぶ変わっているので、と言いながら私の肩に手を掛けた。
「変わってるって? 何が?」
「この年で基本的にSNSを一切見たりしないような人なので」
「本当?」
「まあ、必要ありませんでしたし」
「学校の友達とかは?」
「近所なので用事があったら行った方が早いですし、ショートメールで事足りたんです」
「グループのメンバー以外で登録している人がテストを兼ねた一人らしいです」
「グループのコミュニケーションアプリは必要に迫られました」
必要性があるのか? と言ったら、連絡網として使用するので登録しろと半ば脅された。
「じゃあ、何に興味があるの?」
「それは。今はヴァルコスマイルですね。この雰囲気が好きなのと、中でも高坂さんは一番興味があります」
「わたし? なんで?」
自分を指さして、訊いてきた。
「ライブの時にソロで歌われているところを聴いてすごく感動しました」
「棒読みで、全然感動したように聞こえないんだけど」
「いえ本当です。先輩に対してということもあり、あまり感情の抑揚がなくて申し訳ないです」
さなえが「極度の人見知りということで気にしないでください」と横からフォローする。
「一緒にユニットで唄えるといいよね」
ヴァルコスマイルの歌姫と一緒に唄うなど、おこがましいことこの上ない。
「私は、近くで聴けるだけでも十分です」
「そんなの駄目だよ。みんな同じグループなんだから、しなくていいことなんてないよ」
「わかりました。そうなれるように努力します」
話を聞いていた神室が話しかけてきた。
「紗良ちゃんは、その調子でMC大丈夫なの?」
「苦手ですが、ステージではできるだけにこやかにしたいと思ってます」
「じゃあ今やってみてよ」
「今ですか? 心の準備ができてないのですが、できるだけやってみます」
そう言って立ち上がると絵里奈も興味津々で私の方を見ていた。みんなもこっちを見るので、「恥ずかしいから向こうを向け」と心に念じながらとりあえず美香を見た。
朝に見せてくれた可愛らしい仕草を思い出して、かわいいよという気持ちを込めて微笑んだ。
こっちを見て誰も何も言わないので元の仏頂面に戻した。
「と、まあ、こんな感じですけど。駄目ですか? 本当にこういう表情は苦手でして」
「だっ、駄目じゃないよ。すごい良かった。良いもの見せてもらった」
神室がハッと気が付いて、椅子から落ちそうになりあたふたしている。
さなえが「私もあれにやられた」と小さな声で言っていたので、何に? と思った。
「仲良くなったら、その表情で話しかけてくれるの?」
絵里奈が訊いてきたが、「仏頂面が地なので仲良くなっても仏頂面です」そう答えた。
「えー、つまんない。それならもっと仲良くなって一緒に笑ったらその顔になるよね」
「笑うときがあれば、普通に笑うと思いますので、そうなりますね」
「それなら、私はそれを目標にするよ」
返答に困っていると、そろそろ午後のリハーサルを始めるので片付けをしてくださいとマネージャーが伝えに来たので、絵里奈たちは一期生の楽屋に戻っていった。
「美咲、美咲」
恵美が廊下で話しかける。
「相羽さん、整ってるなぁって思ってたけど、微笑んだ時めちゃくちゃきれいだったよね」
「無表情からのギャップがすごすぎて、女神が降臨したかと思って思考が止まっちゃった」
「確かにあれは神々しいわ。普段からあれやられたら、みんなが倒れるから仏頂面にされているのかもね」
「すごい子が入ってきたって聞いてたけど、本当だった」
「でも、すごいのは顔だけじゃないってボイトレの先生が言ってた。本気の歌声もすごいらしいよ」
彩が割って入り、楽しみだよねと言う。
「じゃあ、一緒に唄ってもらえるかな」
そう絵里奈が言うと、「これから何度もあるよ」とみんなが口々に言った。
お披露目会当日、二期生用に仕立てられた衣装に着替えて、待っていた楽屋から出ると一期生が並んでいて私たちを迎え入れてくれた。
「今日は私たちの二期生の大事な日になります。二期生のみんな。今日のことは一生心に残っていると思いますので、怖がらず楽しんでください。私たちも応援しています」
そう言うと「準備は良いですか?」と手を前に出して恒例の円陣が始まる。
「夜空に見える星の輝きは私たちの笑顔、永遠に輝くー」
「「ヴァルコスマイル!」」
みんなで手を上に掲げ声を合わせた。
「それじゃあ、二期生のみんなは頑張ってきてね。モニターで見てるから」
ついに私たちのヴァルコスマイルとしての活動が始まると思うとさすがの私も少し緊張してきた。
ステージの袖で出番を待っていたとき、朋子が満員になっている客席を見て「もう駄目だ」と始まる前から涙目になっている。
美香も怖いと言って私に抱き着くので、「怖くないよ。大丈夫。何かあったら私が助けてあげるから」そう言って抱きしめてあげたら「震えが止まった」と言っていた。一番年上の陽子からして会場の雰囲気にのまれて血の気がなくなっているので、これはまずいと思いみんなに言う。
「みんな緊張しすぎ。私はみんながすごくかわいいと思っているし、間違えたりしても笑顔でね。なにがあっても笑顔ならきっとうまくいく。私が補償する」
そう言ってみんなに目を合わせて微笑む。
「まだちょっと怖いけどさっきより落ち着いた」
トップバッターのさなえがそう言って背筋を伸ばす。
「みんな、一生懸命練習してきたし、それをみんなにしっかりと見てもらおうよ」
オーバーチャーが流れ始め、客席からのどよめきが聞こえてきた、音楽に合わせて歓声が上がる。そのたびに私たちに振動となって伝わってくる。
「すごい。これが私たちが入ったグループのステージなんだ」
二千人からの人が声を合わせると、こんなにも響くものなのかと新鮮な驚きと、これからあそこに出ていくことに対する期待と高揚感で私はワクワクしていた。
司会の人の「それでは二期生のお披露目会を始めます」という声に続いて、今日はあいうえおの逆順に呼ばれるという段取りだったので最初にさなえが呼ばれ、「行ってくる」とさなえがいうと、私たちはみんなでこぶしを握って「頑張れ」と送り出す。
次々にみんなが呼ばれて最後の二人になるところで、朋子が「無理かも」と言って震える手で、私の手を握った。
「泣いてもいいけど、笑顔を忘れないで、一緒にあそこに立つんでしょ」
私も無茶を言うと思ったが、朋子だってグループに入るためにここまで来たのだから、こんなところで止まって良いわけがないことはわかっているはずだ。
一歩を踏み出すために誰かに押してほしいだけ、そう思って軽く背中を叩いてあげた。
「飯塚朋子」
そう呼ばれた時、朋子は涙を流してはいたが、かわいらしい笑顔でステージに歩いて行く。
客席の人たちは泣いている朋子を見て一瞬面食らったが、口々に「頑張れ」という声がかかり、朋子は微笑んでお辞儀をしていた。
「いよいよか」
私には誰か背中を押してくれる人はいないのかなと思って周りをみると、いつのまにか腕を組んで立っていた村雨部長が親指を立ててこっちを見ていた。
「おもしろすぎる」
みんなは私が励まして送り出したのに、一人ステージに出ようとする私はおじさんが励ましている。なんだかおかしくなってきた。
「相羽紗良」
ステージの真ん中に立つと会場全体が人の壁のように見えて、こちらに迫ってくるような感じがする。さっきの村雨部長を思い出して自然に笑顔になり、みんなと同じように一度お辞儀をすると、会場から拍手とどよめきがあがった。
「これがここから見える本当の光景なんだな。本当に来たんだ」
そう思いながら頭を上げる。
司会の人が「以上九名が二期生です」と言ったと同時に九人で「宜しくお願いします!」と言ってもう一度頭を下げた。
再度すごい拍手をもらい、頭を上げた時から遂に始まった。
さなえが子供の時から習っているというピアノを披露したり、美香はヨーヨーが得意だといってブランコという技を披露していた。
中でも陽子は就職前に何故か手品師になろうと思っていた事があるらしく見事なコインマジックを披露していたのを見て、やっぱり手先が器用だなと思った。
私はいつものように得意なのは似顔絵だということで披露したが、メンバーでは面白くないと思ったので司会の人を劇画調にイケメンに書いてあげたら「恐縮です」とお礼を言われてちょっとだけ盛り上がった。
いよいよ楽曲披露になり一期生の代表曲二曲と私たちに頂いた曲を披露する。
二期生の楽曲は“二つの選択肢”という楽曲で人生は常に選択に迫られるという内容の歌詞だけれど、私はどちらかを選んでも存在しないもう一方がよかったなんてことはなく、今選んだことをどう生きているかが重要なんだというところの歌詞が気に入っている。
何とか恥ずかしくないパフォーマンスができていたと思いながら、遂にMCが始まった。
「みなさん。改めましてこんにちは。私たちヴァルコスマイル二期生です!」
一期生と同じ決めポーズで挨拶をした後、順にみんなの気持ちを訊いていった。
特に朋子は「出てくるまでは緊張して泣いてしまったけどステージで応援してくれているファンの方たちを見たら自然と笑顔になりました。ありがとうございます」と言った時にすごい拍手をもらっていた。
何とか自分の役割をこなして事故を起こすこともなく、一期生を呼ぶ段取りになったが、私の合図で楽曲が始まるという直前、機材トラブルで三分は持たしてほしいとイヤモニから指示があった。
気が遠くなるような気持だったが、黙っていると三分は長い、こうなったらヤケだ。
「みなさーん。もうそろそろ一期生さんもみたいですよねー」
そう言うと客席からオーという歓声が上がるのを聞きながらMCを続けた。
「朱里さんはどうですかー?」
落ち着いてそうな朱里にマイクを差し出して適当に答えてくれと目で合図する。
雰囲気を察した朱里は「もちろん見たいでーす」と答えてくれたが、全然時間が経ってない、もう一人くらい行かないとどうにもならないなと考え周りを見ると、みんなが心配そうな目で見ているのが分かる。
「陽子さんはどうですかー。かわいくお願いします」
無茶ぶりだ。自分でもそう思ったが、「当然、見たいでーす」そう言ってぶりっ子ポーズで答えてくれた。
いいぞ年長組、そう思いながら他の子はもうだめそうだ、ここからは客席を使うしかないと考えていた。
「ファンの皆さんも一期生さんみたいですよねー。みなさん見たいですかー」
一応みんなが手を振ってくれているので何とかなりそうだ。
「それじゃあ、私の合図で拍手をしてください。いきますよー。せーの。はいっ」
会場全体から拍手が聞こえてきた。ファンの人たちはすごいなと思ったがもうちょっと時間がいる。
皆さんに申し訳ない、本当は十分ですよと思いながらも足りないということにした。
「まだまだ、たりないですよー。それでは一期生さんが来てくれません。ほら、二期生のみんなも一緒に、せーの。はいっ」
その時イヤモニから楽曲入りますという連絡が来た。
それに合わせるかのように割れんばかりの拍手があり、楽曲が流されると同時に一期生が入ってきた。
一期生が入ってくると拍手が歓声に変わり、リハーサルの通りに私たちは一期生の後ろに移動して一緒に踊った。
一期生の四曲中一曲目が終わると神室美咲のMCが始まり、私たちはファンの方のお見送りをするということで着替えのために捌けた。
「疲れた」
私は身体の疲労よりも精神的な疲労で椅子に座り込んだ。
みんなも少しだけ休憩させてほしいと倒れるように椅子に座りこむ。
「鉄人の紗良でも疲れるのね」
と言って陽子さんが水を持って来てくれた。
「変なあだ名つけないでください。さっきは朱里さんもですけどありがとうございました」
「全然。最初から段取りしたのかと思うくらいピッタリのタイミングだった」
「みんな目を見てくるんですけど、話しかけないでオーラがすごくて」
「だって怖いよ。助けてあげたいけど何もスキルがないし、時間持たせてしか指示がないんだから」
さなえがそう言うと朋子も未来もうんうんと頷いた。
「私の方がもっと怖い」
さなえが一番出来れば話しかけるなオーラを出していたことは覚えておく。
「紗良ちゃんは煽りもできるんだね」
美香がキラキラした目で私を見ている。
「煽り? さっきの?」
「そう。みんないくぞーみたいなの」
「よく分からない。三分って言われてたからずっとカウントして三分になるようにしてた」
「あの状況で時間を数えてたの? すごいね」
「時間を数えるのはすごくないよ。みんな体内時計とか感覚的にあるでしょ。おなかすいたなぁ。もうすぐお昼かなぁとか」
「秒単位ではないから!」
「そうなのかな?」
「それって三分超えたらどうなるの?」
「その時はまた考えると思うけど、その段階ではどんなに拍手が多くても、『まだまだ足らないぞ、もっとだ!』ってなるかな」
「デスループ」
「そんな感じ。まあ、そんなことにならなくてよかった」
落ち着いたから直ぐに着替えようということで、急いで着替えをしてお披露目会の一期生パートが終わるのを見てから、お見送りの場所にスタンバイした。
お見送りの時にファンの人達が頑張ってと言ってくれたので、よかったと胸をなで下ろす。
お披露目会の後のミーティングでは二期生の楽曲披露もすごく良かったし、機材トラブルの時は出ていこうか迷ったけどうまく切り抜けてすごかったと褒めてもらったが、アイドルのライブではこういうこともしているのかと、いい経験にはなったけどあまり体験したいものではないなと思う。
家でお母さんたちに今日の話をしてあげたら、いつか観にいかせてもらうわと言われた。
そのときお母さんに「自分が思っているより身体はつかれているはずだから、早く布団に入って目を閉じてなさい」と言われたが、とても寝られそうになく、ずっと天井を見て今日のことを思い出していた。
次の日ネットのニュースで二期生お披露目会の記事が上がっており、二期生みんなの写真と自分が出てきたときの顔写真が貼られていたのを見て、あの時私はこんなにうれしそうな顔をしていたのか、そう思いながら学校に行く支度をした。
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