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目標のある幸せ 第十三話
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チーム編成の発表の日が来て、私たちはミーティングルームに集められた。
今回のシングルでのチームアルファーのメンバーが発表され始める。私はこの前さなえから聞いたことで、何が何でもチームアルファーになりたいとこの時だけは思っていた。
もしだめでもやることは変わらないと考えていたが、同じチームの方が都合はいい。
今回の編成で十四人目が発表されたときにはプランBかと思ったが最後に私がチームアルファーだといわれた。
今回はチームアルファーを十五人にしてくれたらしいが、補欠でも何でもこの際関係がない、とりあえず私はいいぞと思って、軽くこぶしを握る。
みんなとは方向性の少し違うやる気の中、発表が終わって帰る時に美香に捕まり泣かれた。チームアルファーに泣くほど入りたかったのかと訊いてみる。
「全然違う! 紗良ちゃんと離れるのが嫌なのっ!」
「別に遠くに行くわけじゃないから」
「全然会わなくなるし、お仕事も違うでしょ! 仕事に来ても紗良ちゃんいないじゃーん」
まだ十五才だからかなぁ、かわいいこと言うなぁ、と思って美香の手を持ってあげた。
「分かった。美香がお仕事頑張ってたら、また勉強は教えてあげる。それで会えるならいいでしょ?」
「でも、チームアルファーはチームベータとスケジュールが違うし」
「きちんと連絡取り合えば会いに行ける時間があるから。ねっ? 私が連絡とる人なんてレアよレア」
「絶対だよ?」
ようやく機嫌が直りそうな気配。
「そりゃもう絶対。私はそういう嘘はつかない」
「分かった。美香も頑張る。紗良ちゃんも頑張ってね」
勿論といってから、よーし帰れーと背中を押してあげた。
「もう、お母さんになってるな」
村雨部長が向こうから話しかけてくれた。
「お母さんではありません。仲間です。仲間」
そんなことを言いながらも、これはいいところに来たと思った。
「村雨部長にちょっとお願いがあるんですが」
何か怖いなという村雨部長を引っ張り、人のいない方へこっちこっちと言って来てもらった。
「高坂の付き人をさせろだと? なんだ突然に」
「お願いします」
「高坂にはマネージャーが付くから付き人など必要ない」
「付き人というか研修というか、普段の仕事ぶりを見たいといいますか」
折角の機会が向こうからやってきたのだ、ここで断られるわけにはいかない。
「前から言っているアイドルを知りたいというやつか?」
「そうです。そうです。せっかくチームアルファーになりましたので、マネージャーさんが忙しいときはそのお手伝いもしますので」
「突然おかしいな。何か企んでいるのか?」
「いえ、何も。チームアルファーになった機会に、是非トップアイドルの仕事を知りたいという気持ちです」
何か企んでいるかどうかについては嘘だが、絵里奈が普段何をしているのかは本当に興味があった。私もストーカーと変わらないなとも思ったが、ここはさて置いて目的を果たしたい。
「そうか。ついていっても賃金は出ないからな。個人的に見学しているだけだぞ。あとそのスタイルでは難しいかもしれないが目立たないようにするのと、同行のマネージャーの指示以外で仕事場で動くなよ。坂上には言っておくから」
「ありがとうございます!」
シングルの振り入れやMVの撮影と同時に私の研修という名の絵里奈保護活動が始まった。
他ごとをしていて本業が疎かになっていると言われてはいけないので、なりふり構わず全力で対応し、振り入れも二度目見た時には完璧に仕上げて見せた。
一期生は噂が本当だったといっていたが、二期生のさなえたちは私が全力を出しているときは何か企んでいると思って見ている。
「紗良、今度は何やってるの?」
真由美が訊いてきた。
「振り入れを一生懸命にやってます」
「そんなこと見たら分かるよ。どんな目的? って訊いてるの」
「あー。絵里奈の他の仕事を見させてもらうので、本業できちんとしているところを見せないといけないなと思って」
「ふーん。それはそうだね。相変わらず変なことに労力を使うんだね」
その会話を横で聞いていたさなえが、なるほど実力行使かと小さな声で言っていた。
MVの撮影も順調に終わり、スタジオでの音入れも終了してから、帰りにマネージャーの田川さんが訊いてきた。
「正直、坂上チーフもよくわからないといっていたんだけど、相羽さんは何がしたいの?」
「できればですね。家の中以外はマネージャーさんみたいについていきたいと思ってます」
「はぁ? それって絵里奈は良いって言ったの?」
「いえ。これからいいですかって訊きますので。良いって言われたらついていかせてください」
「同じメンバーだし。本人が良いならいいけど。現場への移動は?」
「タクシーの移動は一緒に乗せていただけるとありがたいですが、それ以外は自費でいかせてもらいます。個人的な興味だということで許可を頂きましたので」
「よくわからないけど、じゃあ今日はこれから帰るからタクシーに乗るので本人に訊いてきて」
「わかりました」
片付けを絵里奈がしていたので、ドアを軽く叩いた。
「あっ。紗良。どうしたの?」
「今日から絵里奈の仕事を見学させていただきたいと思いますがいいですか?」
「どういうこと?」
「アイドルという仕事に興味が有ってアイドルになりましたが、更に絵里奈の仕事を密着して学ばせてもらいたいと思いまして。具体的には家の中以外の現場に、出来るだけついていかせていただきたいと思いますが、駄目ですか?」
「密着取材とかもあったから良いけど、行き帰りとかも本当に必要なの?」
「絶対に必要です。お願いします」
ここで拒否られるわけには行かないので私は頭を深々と下げた。
「やめてよ。わかったから。じゃあ一緒に」
「ありがとうございます」
これで駄目なら泣き落とししかないと、お父さんの出演を頭の中で予定していたが、必要がなくなったので、えいっと頭の隅に追いやると、田川さんが、話がついたなら帰りましょうと呼んだタクシーに乗るように言われた。
タクシーの中でどうこうなることはないので、私が前に乗ると言ったが、絵里奈の荷物扱いで隣に乗れと言われて結局絵里奈の隣に座ることとなった。
しばらくすると、帰りの車内で絵里奈が話しかけてきた。
「紗良は変わってるよね」
「そうですか? 時々言われるので目立たないようにしているつもりですが色々と裏目に出ることが多くて」
「椅子並べ事件とか?」
「事件ではないです」
「私も真帆ちゃんから聞いた。朝早くに来て椅子をそれはもう真剣に、すごい勢いで並べている子がいてびっくりしたって」
田川さんが助手席から言ってきた。
「あれは準備がどのように行われているのかと、早く行って見ていたらアルバイトと間違えられるという不幸が重なりまして」
「宙返り事件とかは?」
「それも坂上チーフから聞いた。椅子を使って空から舞い降りたって」
「何それ?」
「椅子をジャンプ台にして後ろにくるっと回りました」
「そんなことができるの?」
「椅子で高さが増しているので、後ろに回るのは地面でするより危なくなくて簡単です。低いと頭打ちますよ」
「いや簡単じゃないから。高い低いの問題以前だし」
「あれも理由がありまして、村雨部長に何か運動が出来るところ見せてと言われて仕方なしです。特技披露は似顔絵で終っていたんですから」
「それで部長が面白いものを見たって言ってたのね」
「めちゃくちゃ面白いね。今度見せて」
機会があればと話していると絵里奈のマンションの前についた。
絵里奈がマンションに入って行った後、田川さんが私はどうするのかと訊いてきたので絵里奈が家についたなら帰りますといって明日の予定を訊いて別れた。だが私は別れたふりをして、その後絵里奈のマンションにこっそり戻り周囲を確認して歩いていた。
「自分が変質者で捕まらないように注意しないと」
独り言を言いながらまわりを見回ったところでは、さすがにエントランスから入るにはセキュリティはしっかりとしている。
あのタイプのエレベーターは自分の部屋のカギが停止階のボタンになっているのでエントランスに誰かについて入っても問題ないし、私なら壁を伝ってドアまでは行けるかもと思ったがさすがにそこまではしないだろうということで、予定通りついて行くのはマンションまでで良いなと自分の中で納得して帰ることにした。
しばらくは同じような感じで特に問題もなく過ぎていき、ファッション雑誌の撮影とかも見させてもらっていると絵里奈のすごさを改めて痛感する。
「どうしたらあんな風に一瞬で表情を変えられるのだろう」
撮影中の絵里奈はカメラマンの撮りたい表情を直ぐに汲み取ってファインダーに収められていく。
「私ならまずそれはどういうことかをきちんと言ってほしいなどと、無駄な時間を使うんだろうな」
そんな事を考えていると休憩に入りますといわれて絵里奈がこっちに歩いてきた。
今日も田川さんが一緒にいて絵里奈にお疲れ様と言って水を渡すのを遠巻きに見ていると田川さんが私を手招きして呼んでいる。
「何ですか?」
今回の撮影のテーマが水で色々な水のイメージを表現していたのだが、水をコップに入れるシーンが撮りたいので、注いで欲しいということだった。
「勝手なことをするなといわれてますけど」
「事務所にも許可はとったわ。絵里奈の仕事だしワンシーンだけならうちのエキストラ扱いで良いって」
「そうですか。わかりました」
それからはメイクさんにメイクをされ、これを着てくださいと衣装を渡されたのでそれを着て出てきた。
みんながこっちを見たので「よろしくお願いします」と頭を下げる。
「田川さん。エキストラを用意したって聞いたけどこの子誰?」
カメラマンの人が真帆ちゃんに訊いた。
「うちの二期生の子です。チームベータであまり出ないので知られてないかもしれませんが」
「相羽紗良です。よろしくお願いします」
「あまり出ていない子でこれか。ヴァルコスマイルすげえな」
撮影に入るにあたってただ微笑んで水を注ぐだけでいいと言われたが、頭の中ではそれが一番難しいのですがと思っていた。
「紗良って本当にきれい」
「絵里奈にそう言っていただけると嬉しいです」
「もう、全然嬉しそうじゃない。それじゃダメ」
「どうしたらいいのか分からないです」
「そうだ! 私のために唄ってくれたでしょ。その時のことを思い出して。ほら見て私はここにいるよ」
そうだった、あの時絵里奈に聴いてもらいたくて思いっきり唄えたのだった。
私の唄はどうでしたか? 上手く唄えていましたか? そう思いながら微笑んで目の前の絵里奈に水を注いであげた。
「はい。オッケーです」
「手間取りましてすみませんでした」
「いや。いいの撮れたから大丈夫」
「それならよかったです。着替えてきますので」
そう言ってそそくさとその場を立ち去り、元の地味な服に着替えて戻る。
撮影も終わり三人で帰っていると、田川さんが会社に行かないといけなくなったので、一人では帰らせられないから頼めるかと尋ねられた。
全く問題ない。言っていないだけで自分の中ではそのために居るといっても過言ではないくらいだ。
「勿論です。無事に送り届けます」
田川さんはありがとうと言って途中の駅で乗り換えていき、しばらく二人で乗っていると絵里奈が私の顔をじっと見る。
「紗良。ちょっと訊いて良い?」
「はい。いいですよ。何ですか?」
「どうして二人で帰るのに私を無事に送り届けるの?」
あれ? 気持ちが出すぎて口が滑ったのか? いやなにもしゃべっていないはず、勘か? シチュエーション的には文言にそんなにおかしいところはなかったが、瞬間的に言い訳を考えた。
「トップの人を無事送り届けるのは下の役目ではないかと」
「誤魔化さないで。何か知ってるでしょう?」
絵里奈の顔でそんな風に凄まれたら元々嘘が下手な私ではどうしようもない。
「ごめんなさい。変な手紙が来ている事とつけられているようだと噂で聞きました」
本当に黙っていてごめんなさいと頭を下げた。
「噂じゃない。本当。だからいつも田川さんがついてきてくれるの」
「そうみたいですね」
「紗良もそれで一緒だったの? おかしいと思った」
「私は誰かに言われたわけではありません。それに絵里奈の仕事を知りたいし見てみたいと思ったのも事実です」
「そう。それでどうだった?」
「驚くことばかりです。今日の撮影でもあんな風に表情を変えられるなんてすごかったですし、ほかにも撮影がどうやって行われるのか、機材なども色々知らないことがいっぱいありました」
「何それ、後半は私と関係ないじゃない」
「そうですね。だから気にしなくても大丈夫です」
「ふーん。これからも一緒にいてくれるの?」
「出来るだけ。しばらくは一緒にいさせてください」
「それなら、これからもお願いします」
そう言って駅から出てからはマンションまで歩いていくことになった。
さすがマンションは駅から遠いということもなく、人通りがないということはないが、影になっているところも見られるので、夜は一人では歩かせられないなと道中もくまなく観察する。
一緒に帰りながらいつも晩ごはんはどうしているのか訊いたら基本的には食べないらしく、きちんと食べて体型を維持している私が羨ましいと言われたので、お母さんの料理は美味しいので機会があったら言ってくださいと言った。
いつもタクシーだったので気がつかなかったが、マンションにつくまでに何度か視線を感じ、誰かにつけられているというのは絵里奈の気のせいではなさそうだと思ったものの絵里奈には黙っておく。怖がらせたってどうにもならないし、できることなら何とかしよう。
ようやくマンションにつき、中に入る前に最低でも暗いうちは外に出ないように、何かあったら電話してほしいと伝えて、特に問題なく終了したと思っていると、入ろうとしていた絵里奈が振り返りお辞儀をした。
「いつもありがとう」
「大丈夫。何かあったら私が守りますから」
またマンションに向かって歩こうとする絵里奈にそう言って返すと、自動ドアの向こうで嬉しそうに手を振っていた。
「さてと」
田川さんに送り届けたことを連絡してマンションから立ち去ろうとしたところで、見られている感じはするが近づいてくる様子もなく、私が襲われれば簡単なのにと思いながらも、結局襲われることもなく家に帰られてしまった。
絵里奈には私がしていることがばれてしまったので、特に隠す必要もなくなったが、村雨部長にはそのことは言わず、何も知らない感じで帰る時にみられていた気がするので、夜は絶対に一人では歩かせないでほしいし、誰もいないときは私に言ってくださいとお願いしておく。
村雨部長は滅茶苦茶怪しんでいたが、私に何も訊かずに分かったとだけ答えた。
それから絵里奈はドラマの撮影とかがあり、さすがに泊りがけの時は私のお金の問題と、そこまで行って襲われることもないだろうということで、私も学校に行ったり美香の勉強を見てあげたり仕事以外のところで忙しくしていた。
美香は結局全然会えないと不貞腐れていたが、仕事も頑張っていて成績も上がっていることを褒めてあげるとすぐにご機嫌になって、色々仕事の時のこと等を話してくれた。
その時にファンの人からヴァルコスマイルのメンバーが狙われているらしいから気をつけてと言われたので怖いと言う。
「何かあったら言って。必要なら迎えにも行ってあげるから」
「本当? でも大丈夫。パパ達もいるし、紗良ちゃんがそう言ってくれるだけで安心する」
メンバーはみんな一生懸命に努力していて、誰に迷惑をかけているわけでもないのに勝手で理不尽な敵意を向けられて怖がらせられている。あまり感情の抑揚がないと思っていた自分がこんなに憤りを感じるとは、改めてこのグループのメンバーが好きなんだなと思った。
村雨部長がレッスンに来ていた私を見つけると、絵里奈について回って学校は大丈夫かと訊かれたが、大丈夫だと即答する。
「全く問題ありません」
「そうか。絵里奈の仕事はどうだ? 面白いか?」
「そうですね。すごく新鮮で勉強になります。この前のスカイダイビングとか」
「あのバラエティーの?」
「絵里奈は怖がっていましたが、私としては、一度は自由落下を経験したいと思いますので代わってあげたいくらいでした」
「バラエティーでアイドルが嬉々として飛ぶ奴はあまり使われないな。ちょっと悪趣味だけどみんなかわいい子が嫌だーって言いながら覚悟を決めて飛ぶところを見たいようだから。まあウキウキしながら落下速度と時間をカウントしそうな奴は特にダメだな」
「やっぱりそうでしょうか?」
「別に相羽は相羽が求められる現場で頑張ればいいんじゃないか。絵里奈の代わりじゃないんだから。でも一応笑顔は努力しろよ」
「分かりました。努力します」
ところで、といいながらファンの間でも噂になってきているみたいだがと美香の言っていた話の本当の状況を教えてくれた。
村雨部長が言うには最近の事務所への手紙が脅迫めいたものになってきており、さすがに警察も本気で捜査をしてくれるそうだが、人手もそんなに割けないので時間はかかるらしい。
本当は相羽もメンバーなのだから一人で歩かせるのは避けたいが事務所も大人数を全てカバーは出来ないので危ないと思ったら直ぐに逃げるなりして欲しいということだった。
ほかのメンバーにも一人では出歩かないに言うが、限界はあるし怖がらせ過ぎてもいけないので詳しく話すのは絵里奈の近くにいる相羽だけだと言われる。
「ところで、最近はみられている感じはあるのか?」
「それが最近はいなくなったみたいなんです。感覚が鈍ったのかもしれないですが」
「何もないなら、それが一番いい」
話は終わったというように帰っていく。村雨部長は私のことを怪しみながらも、信用してくれてわざわざ話しをするために待っていてくれたようだった。
今回のシングルでのチームアルファーのメンバーが発表され始める。私はこの前さなえから聞いたことで、何が何でもチームアルファーになりたいとこの時だけは思っていた。
もしだめでもやることは変わらないと考えていたが、同じチームの方が都合はいい。
今回の編成で十四人目が発表されたときにはプランBかと思ったが最後に私がチームアルファーだといわれた。
今回はチームアルファーを十五人にしてくれたらしいが、補欠でも何でもこの際関係がない、とりあえず私はいいぞと思って、軽くこぶしを握る。
みんなとは方向性の少し違うやる気の中、発表が終わって帰る時に美香に捕まり泣かれた。チームアルファーに泣くほど入りたかったのかと訊いてみる。
「全然違う! 紗良ちゃんと離れるのが嫌なのっ!」
「別に遠くに行くわけじゃないから」
「全然会わなくなるし、お仕事も違うでしょ! 仕事に来ても紗良ちゃんいないじゃーん」
まだ十五才だからかなぁ、かわいいこと言うなぁ、と思って美香の手を持ってあげた。
「分かった。美香がお仕事頑張ってたら、また勉強は教えてあげる。それで会えるならいいでしょ?」
「でも、チームアルファーはチームベータとスケジュールが違うし」
「きちんと連絡取り合えば会いに行ける時間があるから。ねっ? 私が連絡とる人なんてレアよレア」
「絶対だよ?」
ようやく機嫌が直りそうな気配。
「そりゃもう絶対。私はそういう嘘はつかない」
「分かった。美香も頑張る。紗良ちゃんも頑張ってね」
勿論といってから、よーし帰れーと背中を押してあげた。
「もう、お母さんになってるな」
村雨部長が向こうから話しかけてくれた。
「お母さんではありません。仲間です。仲間」
そんなことを言いながらも、これはいいところに来たと思った。
「村雨部長にちょっとお願いがあるんですが」
何か怖いなという村雨部長を引っ張り、人のいない方へこっちこっちと言って来てもらった。
「高坂の付き人をさせろだと? なんだ突然に」
「お願いします」
「高坂にはマネージャーが付くから付き人など必要ない」
「付き人というか研修というか、普段の仕事ぶりを見たいといいますか」
折角の機会が向こうからやってきたのだ、ここで断られるわけにはいかない。
「前から言っているアイドルを知りたいというやつか?」
「そうです。そうです。せっかくチームアルファーになりましたので、マネージャーさんが忙しいときはそのお手伝いもしますので」
「突然おかしいな。何か企んでいるのか?」
「いえ、何も。チームアルファーになった機会に、是非トップアイドルの仕事を知りたいという気持ちです」
何か企んでいるかどうかについては嘘だが、絵里奈が普段何をしているのかは本当に興味があった。私もストーカーと変わらないなとも思ったが、ここはさて置いて目的を果たしたい。
「そうか。ついていっても賃金は出ないからな。個人的に見学しているだけだぞ。あとそのスタイルでは難しいかもしれないが目立たないようにするのと、同行のマネージャーの指示以外で仕事場で動くなよ。坂上には言っておくから」
「ありがとうございます!」
シングルの振り入れやMVの撮影と同時に私の研修という名の絵里奈保護活動が始まった。
他ごとをしていて本業が疎かになっていると言われてはいけないので、なりふり構わず全力で対応し、振り入れも二度目見た時には完璧に仕上げて見せた。
一期生は噂が本当だったといっていたが、二期生のさなえたちは私が全力を出しているときは何か企んでいると思って見ている。
「紗良、今度は何やってるの?」
真由美が訊いてきた。
「振り入れを一生懸命にやってます」
「そんなこと見たら分かるよ。どんな目的? って訊いてるの」
「あー。絵里奈の他の仕事を見させてもらうので、本業できちんとしているところを見せないといけないなと思って」
「ふーん。それはそうだね。相変わらず変なことに労力を使うんだね」
その会話を横で聞いていたさなえが、なるほど実力行使かと小さな声で言っていた。
MVの撮影も順調に終わり、スタジオでの音入れも終了してから、帰りにマネージャーの田川さんが訊いてきた。
「正直、坂上チーフもよくわからないといっていたんだけど、相羽さんは何がしたいの?」
「できればですね。家の中以外はマネージャーさんみたいについていきたいと思ってます」
「はぁ? それって絵里奈は良いって言ったの?」
「いえ。これからいいですかって訊きますので。良いって言われたらついていかせてください」
「同じメンバーだし。本人が良いならいいけど。現場への移動は?」
「タクシーの移動は一緒に乗せていただけるとありがたいですが、それ以外は自費でいかせてもらいます。個人的な興味だということで許可を頂きましたので」
「よくわからないけど、じゃあ今日はこれから帰るからタクシーに乗るので本人に訊いてきて」
「わかりました」
片付けを絵里奈がしていたので、ドアを軽く叩いた。
「あっ。紗良。どうしたの?」
「今日から絵里奈の仕事を見学させていただきたいと思いますがいいですか?」
「どういうこと?」
「アイドルという仕事に興味が有ってアイドルになりましたが、更に絵里奈の仕事を密着して学ばせてもらいたいと思いまして。具体的には家の中以外の現場に、出来るだけついていかせていただきたいと思いますが、駄目ですか?」
「密着取材とかもあったから良いけど、行き帰りとかも本当に必要なの?」
「絶対に必要です。お願いします」
ここで拒否られるわけには行かないので私は頭を深々と下げた。
「やめてよ。わかったから。じゃあ一緒に」
「ありがとうございます」
これで駄目なら泣き落とししかないと、お父さんの出演を頭の中で予定していたが、必要がなくなったので、えいっと頭の隅に追いやると、田川さんが、話がついたなら帰りましょうと呼んだタクシーに乗るように言われた。
タクシーの中でどうこうなることはないので、私が前に乗ると言ったが、絵里奈の荷物扱いで隣に乗れと言われて結局絵里奈の隣に座ることとなった。
しばらくすると、帰りの車内で絵里奈が話しかけてきた。
「紗良は変わってるよね」
「そうですか? 時々言われるので目立たないようにしているつもりですが色々と裏目に出ることが多くて」
「椅子並べ事件とか?」
「事件ではないです」
「私も真帆ちゃんから聞いた。朝早くに来て椅子をそれはもう真剣に、すごい勢いで並べている子がいてびっくりしたって」
田川さんが助手席から言ってきた。
「あれは準備がどのように行われているのかと、早く行って見ていたらアルバイトと間違えられるという不幸が重なりまして」
「宙返り事件とかは?」
「それも坂上チーフから聞いた。椅子を使って空から舞い降りたって」
「何それ?」
「椅子をジャンプ台にして後ろにくるっと回りました」
「そんなことができるの?」
「椅子で高さが増しているので、後ろに回るのは地面でするより危なくなくて簡単です。低いと頭打ちますよ」
「いや簡単じゃないから。高い低いの問題以前だし」
「あれも理由がありまして、村雨部長に何か運動が出来るところ見せてと言われて仕方なしです。特技披露は似顔絵で終っていたんですから」
「それで部長が面白いものを見たって言ってたのね」
「めちゃくちゃ面白いね。今度見せて」
機会があればと話していると絵里奈のマンションの前についた。
絵里奈がマンションに入って行った後、田川さんが私はどうするのかと訊いてきたので絵里奈が家についたなら帰りますといって明日の予定を訊いて別れた。だが私は別れたふりをして、その後絵里奈のマンションにこっそり戻り周囲を確認して歩いていた。
「自分が変質者で捕まらないように注意しないと」
独り言を言いながらまわりを見回ったところでは、さすがにエントランスから入るにはセキュリティはしっかりとしている。
あのタイプのエレベーターは自分の部屋のカギが停止階のボタンになっているのでエントランスに誰かについて入っても問題ないし、私なら壁を伝ってドアまでは行けるかもと思ったがさすがにそこまではしないだろうということで、予定通りついて行くのはマンションまでで良いなと自分の中で納得して帰ることにした。
しばらくは同じような感じで特に問題もなく過ぎていき、ファッション雑誌の撮影とかも見させてもらっていると絵里奈のすごさを改めて痛感する。
「どうしたらあんな風に一瞬で表情を変えられるのだろう」
撮影中の絵里奈はカメラマンの撮りたい表情を直ぐに汲み取ってファインダーに収められていく。
「私ならまずそれはどういうことかをきちんと言ってほしいなどと、無駄な時間を使うんだろうな」
そんな事を考えていると休憩に入りますといわれて絵里奈がこっちに歩いてきた。
今日も田川さんが一緒にいて絵里奈にお疲れ様と言って水を渡すのを遠巻きに見ていると田川さんが私を手招きして呼んでいる。
「何ですか?」
今回の撮影のテーマが水で色々な水のイメージを表現していたのだが、水をコップに入れるシーンが撮りたいので、注いで欲しいということだった。
「勝手なことをするなといわれてますけど」
「事務所にも許可はとったわ。絵里奈の仕事だしワンシーンだけならうちのエキストラ扱いで良いって」
「そうですか。わかりました」
それからはメイクさんにメイクをされ、これを着てくださいと衣装を渡されたのでそれを着て出てきた。
みんながこっちを見たので「よろしくお願いします」と頭を下げる。
「田川さん。エキストラを用意したって聞いたけどこの子誰?」
カメラマンの人が真帆ちゃんに訊いた。
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「相羽紗良です。よろしくお願いします」
「あまり出ていない子でこれか。ヴァルコスマイルすげえな」
撮影に入るにあたってただ微笑んで水を注ぐだけでいいと言われたが、頭の中ではそれが一番難しいのですがと思っていた。
「紗良って本当にきれい」
「絵里奈にそう言っていただけると嬉しいです」
「もう、全然嬉しそうじゃない。それじゃダメ」
「どうしたらいいのか分からないです」
「そうだ! 私のために唄ってくれたでしょ。その時のことを思い出して。ほら見て私はここにいるよ」
そうだった、あの時絵里奈に聴いてもらいたくて思いっきり唄えたのだった。
私の唄はどうでしたか? 上手く唄えていましたか? そう思いながら微笑んで目の前の絵里奈に水を注いであげた。
「はい。オッケーです」
「手間取りましてすみませんでした」
「いや。いいの撮れたから大丈夫」
「それならよかったです。着替えてきますので」
そう言ってそそくさとその場を立ち去り、元の地味な服に着替えて戻る。
撮影も終わり三人で帰っていると、田川さんが会社に行かないといけなくなったので、一人では帰らせられないから頼めるかと尋ねられた。
全く問題ない。言っていないだけで自分の中ではそのために居るといっても過言ではないくらいだ。
「勿論です。無事に送り届けます」
田川さんはありがとうと言って途中の駅で乗り換えていき、しばらく二人で乗っていると絵里奈が私の顔をじっと見る。
「紗良。ちょっと訊いて良い?」
「はい。いいですよ。何ですか?」
「どうして二人で帰るのに私を無事に送り届けるの?」
あれ? 気持ちが出すぎて口が滑ったのか? いやなにもしゃべっていないはず、勘か? シチュエーション的には文言にそんなにおかしいところはなかったが、瞬間的に言い訳を考えた。
「トップの人を無事送り届けるのは下の役目ではないかと」
「誤魔化さないで。何か知ってるでしょう?」
絵里奈の顔でそんな風に凄まれたら元々嘘が下手な私ではどうしようもない。
「ごめんなさい。変な手紙が来ている事とつけられているようだと噂で聞きました」
本当に黙っていてごめんなさいと頭を下げた。
「噂じゃない。本当。だからいつも田川さんがついてきてくれるの」
「そうみたいですね」
「紗良もそれで一緒だったの? おかしいと思った」
「私は誰かに言われたわけではありません。それに絵里奈の仕事を知りたいし見てみたいと思ったのも事実です」
「そう。それでどうだった?」
「驚くことばかりです。今日の撮影でもあんな風に表情を変えられるなんてすごかったですし、ほかにも撮影がどうやって行われるのか、機材なども色々知らないことがいっぱいありました」
「何それ、後半は私と関係ないじゃない」
「そうですね。だから気にしなくても大丈夫です」
「ふーん。これからも一緒にいてくれるの?」
「出来るだけ。しばらくは一緒にいさせてください」
「それなら、これからもお願いします」
そう言って駅から出てからはマンションまで歩いていくことになった。
さすがマンションは駅から遠いということもなく、人通りがないということはないが、影になっているところも見られるので、夜は一人では歩かせられないなと道中もくまなく観察する。
一緒に帰りながらいつも晩ごはんはどうしているのか訊いたら基本的には食べないらしく、きちんと食べて体型を維持している私が羨ましいと言われたので、お母さんの料理は美味しいので機会があったら言ってくださいと言った。
いつもタクシーだったので気がつかなかったが、マンションにつくまでに何度か視線を感じ、誰かにつけられているというのは絵里奈の気のせいではなさそうだと思ったものの絵里奈には黙っておく。怖がらせたってどうにもならないし、できることなら何とかしよう。
ようやくマンションにつき、中に入る前に最低でも暗いうちは外に出ないように、何かあったら電話してほしいと伝えて、特に問題なく終了したと思っていると、入ろうとしていた絵里奈が振り返りお辞儀をした。
「いつもありがとう」
「大丈夫。何かあったら私が守りますから」
またマンションに向かって歩こうとする絵里奈にそう言って返すと、自動ドアの向こうで嬉しそうに手を振っていた。
「さてと」
田川さんに送り届けたことを連絡してマンションから立ち去ろうとしたところで、見られている感じはするが近づいてくる様子もなく、私が襲われれば簡単なのにと思いながらも、結局襲われることもなく家に帰られてしまった。
絵里奈には私がしていることがばれてしまったので、特に隠す必要もなくなったが、村雨部長にはそのことは言わず、何も知らない感じで帰る時にみられていた気がするので、夜は絶対に一人では歩かせないでほしいし、誰もいないときは私に言ってくださいとお願いしておく。
村雨部長は滅茶苦茶怪しんでいたが、私に何も訊かずに分かったとだけ答えた。
それから絵里奈はドラマの撮影とかがあり、さすがに泊りがけの時は私のお金の問題と、そこまで行って襲われることもないだろうということで、私も学校に行ったり美香の勉強を見てあげたり仕事以外のところで忙しくしていた。
美香は結局全然会えないと不貞腐れていたが、仕事も頑張っていて成績も上がっていることを褒めてあげるとすぐにご機嫌になって、色々仕事の時のこと等を話してくれた。
その時にファンの人からヴァルコスマイルのメンバーが狙われているらしいから気をつけてと言われたので怖いと言う。
「何かあったら言って。必要なら迎えにも行ってあげるから」
「本当? でも大丈夫。パパ達もいるし、紗良ちゃんがそう言ってくれるだけで安心する」
メンバーはみんな一生懸命に努力していて、誰に迷惑をかけているわけでもないのに勝手で理不尽な敵意を向けられて怖がらせられている。あまり感情の抑揚がないと思っていた自分がこんなに憤りを感じるとは、改めてこのグループのメンバーが好きなんだなと思った。
村雨部長がレッスンに来ていた私を見つけると、絵里奈について回って学校は大丈夫かと訊かれたが、大丈夫だと即答する。
「全く問題ありません」
「そうか。絵里奈の仕事はどうだ? 面白いか?」
「そうですね。すごく新鮮で勉強になります。この前のスカイダイビングとか」
「あのバラエティーの?」
「絵里奈は怖がっていましたが、私としては、一度は自由落下を経験したいと思いますので代わってあげたいくらいでした」
「バラエティーでアイドルが嬉々として飛ぶ奴はあまり使われないな。ちょっと悪趣味だけどみんなかわいい子が嫌だーって言いながら覚悟を決めて飛ぶところを見たいようだから。まあウキウキしながら落下速度と時間をカウントしそうな奴は特にダメだな」
「やっぱりそうでしょうか?」
「別に相羽は相羽が求められる現場で頑張ればいいんじゃないか。絵里奈の代わりじゃないんだから。でも一応笑顔は努力しろよ」
「分かりました。努力します」
ところで、といいながらファンの間でも噂になってきているみたいだがと美香の言っていた話の本当の状況を教えてくれた。
村雨部長が言うには最近の事務所への手紙が脅迫めいたものになってきており、さすがに警察も本気で捜査をしてくれるそうだが、人手もそんなに割けないので時間はかかるらしい。
本当は相羽もメンバーなのだから一人で歩かせるのは避けたいが事務所も大人数を全てカバーは出来ないので危ないと思ったら直ぐに逃げるなりして欲しいということだった。
ほかのメンバーにも一人では出歩かないに言うが、限界はあるし怖がらせ過ぎてもいけないので詳しく話すのは絵里奈の近くにいる相羽だけだと言われる。
「ところで、最近はみられている感じはあるのか?」
「それが最近はいなくなったみたいなんです。感覚が鈍ったのかもしれないですが」
「何もないなら、それが一番いい」
話は終わったというように帰っていく。村雨部長は私のことを怪しみながらも、信用してくれてわざわざ話しをするために待っていてくれたようだった。
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