35歳刑事、乙女と天才の目覚め

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第4章:内なる葛藤

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薄暗い廃工場。尚樹とレイナは、犯人が指定した場所に到着した。

「ここね...」尚樹はつぶやいた。

レイナは不安そうな表情で尚樹を見つめる。「高橋さん、本当にここで良いんですか?他の応援を...」

「大丈夫よ。私たち二人で十分」尚樹は自信に満ちた声で答えた。

二人は慎重に工場内に入っていく。そこは、まるで迷路のように複雑な造りになっていた。

「気をつけて。罠が仕掛けられている可能性が高いわ」

尚樹の警告通り、彼女たちの行く手には様々な仕掛けが待ち受けていた。しかし、尚樹の驚異的な推理力と直感によって、それらを難なく突破していく。

「高橋さん、あなたの能力...本当に信じられないくらい凄いです」レイナは感嘆の声を上げた。

尚樹は複雑な表情を浮かべる。「ええ...でも、この力が本当に私のものなのか、まだ分からないわ」

その時、工場の中央にある広間に到達した二人の耳に、拍手の音が聞こえてきた。

「素晴らしい。さすがは私が選んだ人物だ」

声の主は、薄暗がりの中から姿を現した。30代後半くらいの男性。整った容姿だが、その目には狂気の色が宿っていた。

「あなたが...犯人」尚樹は身構えた。

「ようこそ、高橋尚樹さん。いや、もう『さん』ではないかもしれませんね」男は薄笑いを浮かべた。

「なぜ私を...」

「なぜあなたを選んだのか?」男は尚樹の言葉を遮った。「それは、あなたの中に眠る可能性を見出したからだ。この社会に縛られ、本来の自分を押し殺していたあなたを解放したかった」

尚樹は困惑の表情を浮かべる。「本来の...自分?」

「そう。男性として生きることを強いられ、本当の才能を発揮できずにいたあなた。私は、その枷を外したのだ」

レイナは怒りの表情で叫んだ。「そんな身勝手な理由で、人を殺していいわけがない!」

男は冷ややかな目でレイナを見た。「殺人は必要悪だ。社会に衝撃を与え、尚樹さんを目覚めさせるために」

尚樹は拳を握りしめた。「あなたの言うことは間違っている。確かに、私の中で変化は起きた。でも、それは人を殺してまで引き出すべきものじゃない!」

「そうかな?」男は挑発的な笑みを浮かべた。「今のあなたは、以前よりずっと輝いている。本来の姿に近づいているんだ」

尚樹の心の中で、激しい葛藤が渦巻いていた。確かに、今の自分は以前よりも自由に、そして力強く生きているという実感があった。しかし...

「それでも...それでも私は、刑事としての使命を忘れない。あなたを逮捕する!」

尚樹の決意の言葉に、男は大きくため息をついた。

「残念だ。もう少し理解してくれると思ったのに」

男はポケットから何かを取り出した。それは...拳銃だった。

「高橋さん!」レイナの悲鳴が響く。

その瞬間、尚樹の脳裏に閃きが走った。男の動き、銃の軌道、そして自分たちの位置関係。全てが一瞬で計算され、最適な行動が導き出される。

尚樹は素早くレイナを庇いながら、同時に男に飛びかかった。銃声が響き、弾丸が空を切る。

混乱の中、三人の激しい格闘が始まった。尚樹の洞察力と反射神経、レイナの訓練された動き、そして男の狂気じみた攻撃。

battle の果てに、ついに男は拘束された。

「なぜ...なぜ分かってくれないんだ」男は絶望的な表情で呟いた。

尚樹は深くため息をついた。「あなたは間違っていた。確かに、私は変わった。でも、それは殺人や犯罪とは無関係よ。私は...私自身の意志で、自分の本当の姿を受け入れたの」

レイナは尚樹の肩に手を置いた。「高橋さん...」

その時、尚樹は決意の表情を浮かべた。

「レイナ、みんなに伝えてほしいことがあるの」

「はい?」

「私は...高橋尚子として生きていくことを決めたわ」

レイナは驚きの表情を見せたが、すぐに優しく微笑んだ。「分かりました。みんなに伝えます。きっと、みんな受け入れてくれますよ」

尚子(旧・尚樹)は深く息を吐いた。これからの人生に不安はあったが、同時に大きな解放感も感じていた。

工場の外では、既に応援の警官たちが到着していた。新しい人生の幕開けを告げるかのように、朝日が昇り始めていた。
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