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第1話:目覚めたら知らない家にいた
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目を開けた瞬間、違和感に包まれた。
見知らぬ天井。白く、何の装飾もない。ただ、無機質な白一色。
「ここ、どこ…?」
かすれた声が部屋に響く。喉が乾いていた。水が欲しい。体を起こそうとすると、鈍い頭痛が走った。
ゆっくりと上半身を起こし、周囲を見渡す。
モダンで洗練された寝室。グレーを基調とした壁紙に、シンプルな白い家具。窓からは明るい日差しが差し込んでいるが、レースのカーテン越しに見える外の景色は、どこか見覚えがない。
どうして私はここにいるのだろう。
記憶を手繰り寄せようとするが、頭の中は靄がかかったようにぼんやりとしている。昨日の記憶。一週間前の記憶。全てが曖昧で、つかみどころがない。
そもそも、私は誰だ?
名前を思い出そうとして、頭に浮かぶのは「ユウ」という響き。それが本当に自分の名前なのかさえ、確信が持てない。
ベッドの上の毛布を掴む手に視線を落とす。少しだけ震えている。長い指。短く切りそろえられた爪。これが私の手だと認識できるのに、なぜ他のことは思い出せないのだろう。
服装を確認する。見知らぬ白いパジャマ。自分のものではない気がする。
どうしてこんなところに…?
考えを巡らせていると、突然、ドアがゆっくりと開いた。
「あ、起きましたか」
穏やかな男性の声。目をやると、30代前半くらいの男性が立っていた。黒縁の眼鏡をかけ、カジュアルなニットに黒いパンツ姿。手には水の入ったグラスを持っている。
「気分はどうですか?」
彼は微笑みながら近づいてきた。その表情は優しげだが、目が笑っていない。どこか計算された印象を受ける。
「あなたは…誰?」思わず身構えながら尋ねた。「ここはどこ?私をここに連れてきたの?」
「落ち着いてください」彼はグラスを差し出した。「水です。喉が渇いているでしょう」
警戒しながらもグラスを受け取る。喉の渇きが勝った。一気に半分ほど飲み干し、少し落ち着いた。
「質問に答えてください」私は言った。「あなたは誰なの?」
「ヒナタと呼んでください」彼は椅子を引き寄せてベッドの傍らに座った。「ユウさん」
私の名前を口にする彼。やはり「ユウ」が私の名前なのか。
「なぜ私の名前を知っているの?」
「僕たちは知り合いです」彼は言った。「詳しく説明します。でも、まずは落ち着いてください。ここは安全な場所です」
「安全?」私は首を横に振った。「記憶もないまま知らない場所で目覚めて、見知らぬ人に囲まれているのよ。どこが安全なの?」
ヒナタは深く息をついた。「確かにそうですね。無理もありません」
私はゆっくりとベッドから降りようとした。
「外に出たいんです。家族や友人に連絡を取りたい」
「それは…難しいですね」ヒナタは言った。「今はまだ外に出られません」
「監禁してるの?」恐怖が込み上げてくる。
「違います」彼は急いで否定した。「ただ、あなたの状態を考えると…」
「どんな状態?」私は問い詰めた。「私に何をしたの?」
「何もしていません」ヒナタは静かに言った。「むしろ、助けたんです」
「助けた?」
彼は頷いた。眼鏡の奥の瞳が、何かを隠しているように見える。
「説明するのは簡単ではありません」彼は言葉を選ぶように少し間を置いた。「あなたの記憶が戻ってから話そうと思っていたのですが…」
「今、話して」私は強く言い返した。「私には知る権利がある」
ヒナタはしばらく黙っていた。そして諦めたように肩をすくめた。
「わかりました。でも、座ってください」
私は再びベッドの端に腰掛けた。心臓の鼓動が早くなる。これから聞くことが、私の人生を変えてしまうような予感がした。
「まず、ここはどこなの?」
「ここは東京郊外の住宅街にある一軒家です」ヒナタは答えた。「私有地で、外部との連絡手段はありません」
「なぜ?」
「あなたの安全のためです」
「何から安全なの?」
ヒナタは眼鏡を直しながら答えた。「世界から」
意味不明な答え。頭がさらに混乱する。
「私に何があったの?なぜ記憶がないの?」
「それは…」ヒナタは言葉を詰まらせた。「あなたの脳が自己防衛のために記憶を封印したのかもしれません」
「何から防衛?」
「トラウマから」
私は自分の頭に手をやった。何かを思い出そうとするけれど、頭の中は空っぽだ。
「どんなトラウマ?事故?病気?」
ヒナタは長い間黙っていた。そして、ようやく口を開いた。
「ユウさん、これから言うことを冷静に聞いてください」
彼の真剣な表情に、背筋が凍るような感覚を覚えた。
「あなたは一週間前に死にました」
部屋の中の空気が止まったような気がした。
「何…言ってるの?」
「信じられないでしょうが、事実です」彼は静かに続けた。「あなたは一週間前に死んだんです」
私は自分の胸に手をあてた。確かに鼓動がある。温かさがある。呼吸もしている。死んでいるはずがない。
「馬鹿にしないで」私は言った。「見たところ私は生きてるわ」
「はい、今は生きています」ヒナタは言った。「でも、それは…」
その時、どこからか鈴の音が鳴り響いた。ヒナタが顔を上げる。
「失礼します」彼は立ち上がった。「少し席を外します。落ち着いたら続きを話しましょう」
「待って!」私は叫んだ。「話の途中じゃない!」
しかし、ヒナタは振り返りもせずに部屋を出て行った。ドアが閉まり、鍵をかける音がした。
閉じ込められた。
私は急いでドアに駆け寄り、ノブを回したが動かない。窓に向かうと、外は確かに住宅街のようだ。しかし、窓も固く閉ざされていて開かない。
「誰か!助けて!」
叫んでも、返事はない。静かな部屋に自分の声だけが虚しく響く。
ベッドに戻り、膝を抱えて小さく体を丸める。何も分からない。何も思い出せない。
そして、彼の言葉だけが頭の中でぐるぐると回り続ける。
「あなたは一週間前に死んだんです」
死んでいるはずの私が、なぜここにいるのか。
そして、このヒナタという男は、本当に私を救ったのか。それとも…
窓から差し込む陽の光を見つめながら、私は考え続けた。
これが新しい始まりなのか、それとも終わりなのか―
見知らぬ天井。白く、何の装飾もない。ただ、無機質な白一色。
「ここ、どこ…?」
かすれた声が部屋に響く。喉が乾いていた。水が欲しい。体を起こそうとすると、鈍い頭痛が走った。
ゆっくりと上半身を起こし、周囲を見渡す。
モダンで洗練された寝室。グレーを基調とした壁紙に、シンプルな白い家具。窓からは明るい日差しが差し込んでいるが、レースのカーテン越しに見える外の景色は、どこか見覚えがない。
どうして私はここにいるのだろう。
記憶を手繰り寄せようとするが、頭の中は靄がかかったようにぼんやりとしている。昨日の記憶。一週間前の記憶。全てが曖昧で、つかみどころがない。
そもそも、私は誰だ?
名前を思い出そうとして、頭に浮かぶのは「ユウ」という響き。それが本当に自分の名前なのかさえ、確信が持てない。
ベッドの上の毛布を掴む手に視線を落とす。少しだけ震えている。長い指。短く切りそろえられた爪。これが私の手だと認識できるのに、なぜ他のことは思い出せないのだろう。
服装を確認する。見知らぬ白いパジャマ。自分のものではない気がする。
どうしてこんなところに…?
考えを巡らせていると、突然、ドアがゆっくりと開いた。
「あ、起きましたか」
穏やかな男性の声。目をやると、30代前半くらいの男性が立っていた。黒縁の眼鏡をかけ、カジュアルなニットに黒いパンツ姿。手には水の入ったグラスを持っている。
「気分はどうですか?」
彼は微笑みながら近づいてきた。その表情は優しげだが、目が笑っていない。どこか計算された印象を受ける。
「あなたは…誰?」思わず身構えながら尋ねた。「ここはどこ?私をここに連れてきたの?」
「落ち着いてください」彼はグラスを差し出した。「水です。喉が渇いているでしょう」
警戒しながらもグラスを受け取る。喉の渇きが勝った。一気に半分ほど飲み干し、少し落ち着いた。
「質問に答えてください」私は言った。「あなたは誰なの?」
「ヒナタと呼んでください」彼は椅子を引き寄せてベッドの傍らに座った。「ユウさん」
私の名前を口にする彼。やはり「ユウ」が私の名前なのか。
「なぜ私の名前を知っているの?」
「僕たちは知り合いです」彼は言った。「詳しく説明します。でも、まずは落ち着いてください。ここは安全な場所です」
「安全?」私は首を横に振った。「記憶もないまま知らない場所で目覚めて、見知らぬ人に囲まれているのよ。どこが安全なの?」
ヒナタは深く息をついた。「確かにそうですね。無理もありません」
私はゆっくりとベッドから降りようとした。
「外に出たいんです。家族や友人に連絡を取りたい」
「それは…難しいですね」ヒナタは言った。「今はまだ外に出られません」
「監禁してるの?」恐怖が込み上げてくる。
「違います」彼は急いで否定した。「ただ、あなたの状態を考えると…」
「どんな状態?」私は問い詰めた。「私に何をしたの?」
「何もしていません」ヒナタは静かに言った。「むしろ、助けたんです」
「助けた?」
彼は頷いた。眼鏡の奥の瞳が、何かを隠しているように見える。
「説明するのは簡単ではありません」彼は言葉を選ぶように少し間を置いた。「あなたの記憶が戻ってから話そうと思っていたのですが…」
「今、話して」私は強く言い返した。「私には知る権利がある」
ヒナタはしばらく黙っていた。そして諦めたように肩をすくめた。
「わかりました。でも、座ってください」
私は再びベッドの端に腰掛けた。心臓の鼓動が早くなる。これから聞くことが、私の人生を変えてしまうような予感がした。
「まず、ここはどこなの?」
「ここは東京郊外の住宅街にある一軒家です」ヒナタは答えた。「私有地で、外部との連絡手段はありません」
「なぜ?」
「あなたの安全のためです」
「何から安全なの?」
ヒナタは眼鏡を直しながら答えた。「世界から」
意味不明な答え。頭がさらに混乱する。
「私に何があったの?なぜ記憶がないの?」
「それは…」ヒナタは言葉を詰まらせた。「あなたの脳が自己防衛のために記憶を封印したのかもしれません」
「何から防衛?」
「トラウマから」
私は自分の頭に手をやった。何かを思い出そうとするけれど、頭の中は空っぽだ。
「どんなトラウマ?事故?病気?」
ヒナタは長い間黙っていた。そして、ようやく口を開いた。
「ユウさん、これから言うことを冷静に聞いてください」
彼の真剣な表情に、背筋が凍るような感覚を覚えた。
「あなたは一週間前に死にました」
部屋の中の空気が止まったような気がした。
「何…言ってるの?」
「信じられないでしょうが、事実です」彼は静かに続けた。「あなたは一週間前に死んだんです」
私は自分の胸に手をあてた。確かに鼓動がある。温かさがある。呼吸もしている。死んでいるはずがない。
「馬鹿にしないで」私は言った。「見たところ私は生きてるわ」
「はい、今は生きています」ヒナタは言った。「でも、それは…」
その時、どこからか鈴の音が鳴り響いた。ヒナタが顔を上げる。
「失礼します」彼は立ち上がった。「少し席を外します。落ち着いたら続きを話しましょう」
「待って!」私は叫んだ。「話の途中じゃない!」
しかし、ヒナタは振り返りもせずに部屋を出て行った。ドアが閉まり、鍵をかける音がした。
閉じ込められた。
私は急いでドアに駆け寄り、ノブを回したが動かない。窓に向かうと、外は確かに住宅街のようだ。しかし、窓も固く閉ざされていて開かない。
「誰か!助けて!」
叫んでも、返事はない。静かな部屋に自分の声だけが虚しく響く。
ベッドに戻り、膝を抱えて小さく体を丸める。何も分からない。何も思い出せない。
そして、彼の言葉だけが頭の中でぐるぐると回り続ける。
「あなたは一週間前に死んだんです」
死んでいるはずの私が、なぜここにいるのか。
そして、このヒナタという男は、本当に私を救ったのか。それとも…
窓から差し込む陽の光を見つめながら、私は考え続けた。
これが新しい始まりなのか、それとも終わりなのか―
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