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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
プロローグ
しおりを挟むここは、王城地下に存在する牢屋。薄暗く冷たい空気に包まれている。
そこに捕らえられるは一人の少女。王子の元婚約者だ。
抱えた頭は乱れ、見開かれた目は血走り、怯えや苛立ちといった感情が溢れ出ていた。
そんな彼女はぶつぶつと、何かを呟いていた。
「……何故……何故……何故……何故……何故……私が……、このような目に!!」
唐突に張り上げられた彼女の声は、少し前まで叫んでいた影響からか、少し掠れていた。
恨み辛みを呟き、何者かを呪っているかのような声と様子であったが、己がどうしてここにいるのか、頭が追い付いていないようだ。理解したくないとも言える。
華麗であったそのドレスも、今は見る影さえもなく、酷く暴れたのだろう、所々千切れている。
鮮やかな赤い色だったそれは鮮やかさを失い、鈍い色となっていた。
彼女は冷たい床に座っている。高貴な自分が直接床に座ることなど想像もしていなかっただろうに、今はそんなことにすら構う余裕がないのか。それとも、衝撃が過ぎて気付いていないか。
後者の場合は気付かない方が良いだろう。余分なダメージを食らう事になるだろうから。
そんな彼女の後ろの壁、彼女の心臓に当たる部分が、一瞬、淡く光った。
彼女の滑らかな銀の髪は絹を思わせる。縦に巻かれた髪は美しく光輝き、周囲の目を惹き付けて離さない。だが今やもう、艶を失い───。
彼女の前の壁、これまた偶然か、後ろの壁と相対する位置、同じ部分が淡く光った。先程よりも強く、そして長く。
その光は渦を巻きながら、徐々に黒くなっていく。
周りが目に入らないのか、どちらの光にも彼女は気付かない。頭を抱えたまま、たまに体が横に揺れる。
その体は牢に入る前より、少し細くなったようだ。
前の暗い光に呼応するように、後ろの壁、最初に光った所と同じ箇所が、また、淡く光りだした。
そして、同じように渦を巻きながら、徐々に黒く染まる。
前後二つの光が完全に黒くなり、渦巻く暗い闇の光となった時───。
彼女の碧い瞳は閉じられ、体が横に傾いた。
両側の光る闇は直線上に繋がり、彼女を無慈悲に貫く。
彼女は、力が抜けたように倒れる。
闇の光は既に消え去っていた。
彼女の体は倒れるままに、冷えた床に打ち付けられる。
床に倒れ横になった彼女の瞳は開かない。頭の先から足の先、指の一本に至るまで、動くことはなかった。
このまま彼女が目覚める事はないのだろうか。
───倒れた元公爵令嬢ジゼレーナは、食事を持ってきた兵士により発見された。
彼女が倒れたのは何故だろう。
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