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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
目を開ければ、牢屋。
しおりを挟む眠りから覚めると床が固かった。そして冷たい。まだ眠気は引いておらず、少しぼんやりとしている。床で寝てしまうとは……。何たる失態。
まだ夜なのだろうか、光を感じない。
今気付いたが、何故だか酷くじめっとしている。湿気が酷い。加湿器を大量につけるなんて事はしていないし、そもそもそんな大量に加湿器なんて持っていない。家にある加湿器は、可愛らしい猫さん一つだけだ。原因が雨だとしても、ここまでじめる事はない。とんでもない湿気だ。
変だなと思い目を開けると……見知らぬ天井。
どこだと疑問に思うが、まずは現状を把握しようと、顔だけを動かし右を見ると鉄格子がある。同じように、左を見てみれば汚めの壁が。
……待て、鉄格子とな?ぎこちなく右を見た。鉄格子だぁ。危うくスルーする所だった。危ない危ない。
鉄格子の向こうは薄暗く、そのせいでどうなっているのかは分からない。
が、謎は解けた。間違いない。断言しよう。
───ここは牢屋だ。
そう、牢屋。
文字通り牢屋。
寸分違わず牢屋。
あの、牢屋である。
聞いて驚くな。
あの、牢屋である。(本日二回目)
ふぅ、と少し落ち着こうと小さく息を吐く。
少々慌てすぎた。私らしくもない。
どうしてこうなったか、現状を整理してみよう。
まず、ここは牢屋。……そう、ここは牢屋。もうそれは良いとして、良くはないけど良いのよ。引き摺らずに、一旦直ぐ側に置いておこう。
寝たのは、自室ベッド。起きたら、牢屋……。
夢だ。
最初こそ驚いたが、こりゃ夢だろう。
うん、夢でなけりゃありえない。
自室のベッドで寝た筈なのに、目を開けれてみれば牢屋!どんなSFだ。どんなホラーだ。
夢だと思ったら落ち着いてきた。このまま眠れそうなくらいに。まだ眠気は消えておらず、未だ夢心地だ。
せっかくなら見ておこうかと、体は動かさずに観察してみるが、只の牢屋だった。
牢屋って感じの牢屋。牢屋と言って思い浮かべるあの、牢屋だ。だが、トイレもベッドも何もない。毛布くらいくれ。寒いぞ。それに排泄はどうするんだ。
……そろそろ起きたい。床が固過ぎ冷た過ぎ。現実世界でも冷たい奴だと思う。ベッドから落ちたかも。
牢屋で寝たからか、体がカチンコチンだ。体中が痛いと言って泣いている。寝転がったまま動けない。
この夢……設定に忠実だ。酷い。それとも、本当にベッドから落ちたか。
というか、空気が悪い。カビになる。
こんな夢を見るなんて……私の心は大丈夫か。
なんて、冗談思ってみたり。
……この夢進まない。カビになるオチとかじゃないよね。それはヤだよ。フラグじゃない。フラグじゃないから!
私は、どんな罪で投獄されたのだろう。
……夢だけど。この際気になる。牢屋の夢なんてこの先見ないだろうし。……見ないよね?
そんなことを考えながらだらだらしていると、数人分の足音が聞こえて来た。
どんどん近付いてくる。
投獄の理由を教えてくれるのだろうか。
それとも、これから脱獄?
それか新入り。
他は思いつかないな。まだ頭が働かない。夢だし、モンスターとか。イケメンとか……?少し期待。
……寝転がったままなんだけど、起き上がった方が良いかな、と少し悩んでみた。
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