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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
一瞬で終わる
しおりを挟む雑に扱って騒がれると面倒だから、丁寧に扱うのだろう。本当は床に転がして外したいだろうに。それは言い過ぎかな。座らせてくれるよね。
彼は私を抱えたまま右膝を床につけ、私の肩を自らの方に引き寄せた。そして左足を立て、左腕の代わりに私の足を支えさせた。
アレンは空いた左手で布を掻き上げていく。暗い色の布は、私の太股の上に溜まっていった。足に外気が触れ、アレンの手が布から離れた。布の中で空気が籠っていたのか、その爽やかさに心が軽くなる。
アレンの左手は、そのまま足へと行く。盛り上がった布に隠れて、私からは外している様子は見えない。たまに彼の手が当たるが、片手だけで外せるのだろうか。
心配は無用だったようで、拘束は直ぐに取れた。アレンは器用だったらしい。
彼は私の足に乗った布をさっと戻すと、私の足の下に左腕を差し込んで立ち上がった。
どんな拘束具か知りたかったが、結局見えなかった。
アレンは私を抱いたまま扉を開ける。
その部屋は一見シンプルだが暖かみがあり、一通りの家具が揃っていた。中央には椅子があり、少し離れた所に机、奥にベッドがある。大小の棚や、クローゼットなどもあった。
ユリネイラ医師は扉の近くで待機してくれていたようで、アレンに代わって扉を閉めた。
その間に、私は丁寧に椅子に下ろされた。後ろ手に上半身ごと腕を縛られているとバランスが取りづらいので、丁寧に優しくしてくれるのはありがたい。
ユリネイラ医師は私の足を少し低い椅子のような物に誘導させた。ジゼレーナ情報によると、オットマンと言う名の足置きだそう。足首から下の部分が、足置きの外に出て宙に浮く。
医師の手が優しく布を引き上げると、私の怪我をした足が見えてくる。
「痛そうだね」
少しだけ手を止めた医師が再度布を上げようとすると、足の横に立っていたアレンが足首辺りの布をその手で押さえた。
邪魔をされたユリネイラ医師はアレンを見上げる。
ああ、医師の首が綺麗です。
「それ以上は駄目です」
「過保護だね。素足は見せたくないんだ?もうちょっと出ていた方がやり易いんだけどね……。君がそう言うのなら、ここまでにするよ」
そう言って、ユリネイラ医師は布から手を離した。アレンも布を押さえていた手を放したが、その場からは離れなかった。
「一瞬で終わるから、楽にしててね」
医師は私に優しく声をかけて微笑む。その微笑みに吸い込まれそうで、息が詰まった。
医師がシュバシュバ私の足からガラスを取っていくのを見て、アレンが横から口を出した。
「その早さで大丈夫ですか」
「大丈夫だよ。まあ、見た目は酷いけど、そう深くないからね。これも巻いておこうか。君の大切な女の子だも───」
鞄から水筒を出したり柔らかい布で綺麗に拭いたりなんだりを宣言通り一瞬で終わらせた医師は、最後に軽口を叩きながら包帯を取り出した。
「黙ってして下さい」
軽口は言い終わらぬ内に、容赦なく叩き落とされたが。
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