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光と影が交差する芽吹きの章
幕間 幸福な朝寝坊
目を開けた瞬間、ダリウスはまず、妙な静けさに気づいた。
――明るい。
寝室の厚いカーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。すっかり夜は明け果てていた。
いつもなら、とっくに起きている時刻だ。体感的にも、頭の奥の感覚的にも、それははっきりしていた。
珍しいこともあるものだ、とぼんやり思う。
二度寝した上に、朝寝坊。自分らしくないにもほどがある。
そう考えて、ようやく身を起こそうとして――そこで、腕の中の重みに気づいた。
柔らかい温もり。細い背中。規則正しい寝息。
視線を落とせば、少し癖のあるブルネットがすぐ傍に広がっている。
事態を理解するのに、数秒を要した。
「……ああ」
そうか。
……そうだった。
思い出すのと同時に、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
昨夜のことが、夢ではなかったと、嫌でも実感させられる。
ルーチェは、こちらに身体を預けるようにして眠っていた。
乱れた夜着のまま、肩口からのぞく白い肌に、思わず視線が留まる。
触れれば起こしてしまいそうで、だが離すのも惜しくて、ダリウスはしばし身動きも取れずにいた。
こうして朝を迎えることが、こんなにも落ち着かないとは思わなかった。
同時に、これほど満たされた気分になるとも。
腕の中で、ルーチェが小さく身じろぎする。
寝返りを打つと、癖のある髪が小さな音を立ててシーツを叩く。
まぶたがゆっくりと動き、焦点の合わない瞳が、こちらを捉えた。
「……ダリウスさま……?」
まだ夢の中にいるような、柔らかい声。
あれから、怖い夢は見ていないだろうか。
「ああ。おはよう」
「ううん……」
そう言って、彼女はまた少しだけ身を寄せてくる。
その無意識の仕草に、心臓が不意に強く脈打った。
「おはよぅ……ございます……」
「まだ眠り足りないように見える」
「だって……」
ぐずるような声音は珍しい。
翠の瞳はとろりと濡れている。
完全に目が覚めていない、甘い表情。
昨夜の緊張も、不安も、すべて溶けたあとの顔だと思うと、胸が詰まるような感覚になる。
「そうだな……俺もまだ、少し眠い」
守りたい、と改めて思う。今さら言葉にするまでもないほど、深く。
それと同時に、抜き差しならない感覚が胸を打つ。
「ルーチェ」
昨夜何度も呼んだ名を彼女の耳元で囁く。
「はぃ……」
安心しきった様子で胸に擦り寄せられる頬に、その身体を抱き寄せた。
だが、次の瞬間。
「……っ」
ルーチェが、はっとしたように身体を起こした。
寝起きとは思えない速さで、視線が自分自身を見下ろし、それから室内を見回す。
状況を正確に把握するまで、ほんの数秒。
「……」
「……」
「おはようございます、ダリウス様……失礼を致しました……」
「……おはよう」
とろけていた彼女がいつもの彼女に戻ってしまって、惜しいような、安心したような。
複雑な思いで見ていると、ルーチェは段々と顔色を悪くした。
「ど、どうしましょう。昨夜、突然こちらに押しかけてしまったから……」
「どうした」
「……今日の服がこちらにありません……」
夜着の裾を押さえたまま、小さく、しかし切実な声。
頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。
「どうしましょう……!それに、誰にも何も言わずに来てしまいました。イリアが私の部屋に来てくれる前に、なんとかしないと……!」
焦りながらも声を潜め、布をぎゅっと握りしめる姿が、あまりにも可愛らしくて、ダリウスは一瞬、言葉を失った。
――これは、困るな。
有能な部下たちは何か察していそうだが、流石にその用意はないだろう。
いや、逆に、そこまで取り計らわれていたとしたら、それはそれで気恥ずかしい。
「……落ち着こう。まだ時間はある」
そもそも、今の時間まで自分の部屋を誰一人として訪れていない時点で、おかしい。
恐らく気を遣われている。確実に。
「で、でも……」
ルーチェは完全に覚醒してしまったようで、先ほどまでのとろけた表情は影も形もない。
慌てる仕草の一つ一つが愛おしくて、ダリウスは思わず、そっと肩に手を置いた。
「このままでは、その……」
言葉が途中で消え、代わりに、布団の中へと潜り込む。
もこ、と不自然に盛り上がった寝具の中から、くぐもった声が聞こえた。
「……どうしましょう……」
ダリウスは思わず、口元を押さえた。
笑ってはいけない、と思いながらも、可笑しさと愛おしさが込み上げてくる。
「……ひとまず、そこにいてくれ」
「は、はい……」
その直後、控えめなノックの音が響いた。
「……旦那様、イリアでございます。……その、朝のお支度を」
(やはり、察せられてはいたか)
イリアがルーチェの部屋ではなく、こちらに来ている時点で明らかだ。
ダリウスは一瞬だけ寝台を振り返り、こんもりとした寝具の膨らみを軽くぽんぽんと撫でる。
びくっとしたやわらかな存在を背に、扉の方に向き直った。
「少し待て。……いや、別件だ」
扉越しに、低く告げる。
「ルーチェはこちらで過ごすようになるから……彼女の部屋の荷物を、この後すぐに運んでおいてくれ。すまないが、お前の手で進めてほしい。俺はこれから外すから、そのまま彼女の支度の手伝いも頼む」
「……」
短い沈黙のあと、外から即座に返事が返った。
「かしこまりました」
その声には、余計な揺れも詮索もない。
さすがだな、と内心で思う。
扉の向こうの気配が遠ざかったのを感じてから、ダリウスは寝台へ戻った。
「後はイリアに任せておけばいい」
布団の山に向かって言うと、中からほっとしたような吐息が漏れる。
「迷惑ではなかったでしょうか……」
「いや。……仮に迷惑をかけたとすれば、イリアが非難するのは多分俺の方だ」
少ししてから、布団の端がわずかに持ち上がり、ルーチェの顔が覗いた。
頬はまだ赤いが、先ほどより落ち着いた様子だ。
「……ありがとうございます」
「いや」
ダリウスはそう答えながら、自然と彼女の髪に手を伸ばしていた。
触れた指先に、確かな温もりがある。
「……礼を言うのは、俺の方だ」
「……ダリウス様」
「ありがとう」
ダリウスは静かに息を吐き、彼女の額にそっと口づけた。
短く、慎ましく。それでも、確かな温度を残すように。
朝の光が、二人をやさしく包んでいた。
――明るい。
寝室の厚いカーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。すっかり夜は明け果てていた。
いつもなら、とっくに起きている時刻だ。体感的にも、頭の奥の感覚的にも、それははっきりしていた。
珍しいこともあるものだ、とぼんやり思う。
二度寝した上に、朝寝坊。自分らしくないにもほどがある。
そう考えて、ようやく身を起こそうとして――そこで、腕の中の重みに気づいた。
柔らかい温もり。細い背中。規則正しい寝息。
視線を落とせば、少し癖のあるブルネットがすぐ傍に広がっている。
事態を理解するのに、数秒を要した。
「……ああ」
そうか。
……そうだった。
思い出すのと同時に、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
昨夜のことが、夢ではなかったと、嫌でも実感させられる。
ルーチェは、こちらに身体を預けるようにして眠っていた。
乱れた夜着のまま、肩口からのぞく白い肌に、思わず視線が留まる。
触れれば起こしてしまいそうで、だが離すのも惜しくて、ダリウスはしばし身動きも取れずにいた。
こうして朝を迎えることが、こんなにも落ち着かないとは思わなかった。
同時に、これほど満たされた気分になるとも。
腕の中で、ルーチェが小さく身じろぎする。
寝返りを打つと、癖のある髪が小さな音を立ててシーツを叩く。
まぶたがゆっくりと動き、焦点の合わない瞳が、こちらを捉えた。
「……ダリウスさま……?」
まだ夢の中にいるような、柔らかい声。
あれから、怖い夢は見ていないだろうか。
「ああ。おはよう」
「ううん……」
そう言って、彼女はまた少しだけ身を寄せてくる。
その無意識の仕草に、心臓が不意に強く脈打った。
「おはよぅ……ございます……」
「まだ眠り足りないように見える」
「だって……」
ぐずるような声音は珍しい。
翠の瞳はとろりと濡れている。
完全に目が覚めていない、甘い表情。
昨夜の緊張も、不安も、すべて溶けたあとの顔だと思うと、胸が詰まるような感覚になる。
「そうだな……俺もまだ、少し眠い」
守りたい、と改めて思う。今さら言葉にするまでもないほど、深く。
それと同時に、抜き差しならない感覚が胸を打つ。
「ルーチェ」
昨夜何度も呼んだ名を彼女の耳元で囁く。
「はぃ……」
安心しきった様子で胸に擦り寄せられる頬に、その身体を抱き寄せた。
だが、次の瞬間。
「……っ」
ルーチェが、はっとしたように身体を起こした。
寝起きとは思えない速さで、視線が自分自身を見下ろし、それから室内を見回す。
状況を正確に把握するまで、ほんの数秒。
「……」
「……」
「おはようございます、ダリウス様……失礼を致しました……」
「……おはよう」
とろけていた彼女がいつもの彼女に戻ってしまって、惜しいような、安心したような。
複雑な思いで見ていると、ルーチェは段々と顔色を悪くした。
「ど、どうしましょう。昨夜、突然こちらに押しかけてしまったから……」
「どうした」
「……今日の服がこちらにありません……」
夜着の裾を押さえたまま、小さく、しかし切実な声。
頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。
「どうしましょう……!それに、誰にも何も言わずに来てしまいました。イリアが私の部屋に来てくれる前に、なんとかしないと……!」
焦りながらも声を潜め、布をぎゅっと握りしめる姿が、あまりにも可愛らしくて、ダリウスは一瞬、言葉を失った。
――これは、困るな。
有能な部下たちは何か察していそうだが、流石にその用意はないだろう。
いや、逆に、そこまで取り計らわれていたとしたら、それはそれで気恥ずかしい。
「……落ち着こう。まだ時間はある」
そもそも、今の時間まで自分の部屋を誰一人として訪れていない時点で、おかしい。
恐らく気を遣われている。確実に。
「で、でも……」
ルーチェは完全に覚醒してしまったようで、先ほどまでのとろけた表情は影も形もない。
慌てる仕草の一つ一つが愛おしくて、ダリウスは思わず、そっと肩に手を置いた。
「このままでは、その……」
言葉が途中で消え、代わりに、布団の中へと潜り込む。
もこ、と不自然に盛り上がった寝具の中から、くぐもった声が聞こえた。
「……どうしましょう……」
ダリウスは思わず、口元を押さえた。
笑ってはいけない、と思いながらも、可笑しさと愛おしさが込み上げてくる。
「……ひとまず、そこにいてくれ」
「は、はい……」
その直後、控えめなノックの音が響いた。
「……旦那様、イリアでございます。……その、朝のお支度を」
(やはり、察せられてはいたか)
イリアがルーチェの部屋ではなく、こちらに来ている時点で明らかだ。
ダリウスは一瞬だけ寝台を振り返り、こんもりとした寝具の膨らみを軽くぽんぽんと撫でる。
びくっとしたやわらかな存在を背に、扉の方に向き直った。
「少し待て。……いや、別件だ」
扉越しに、低く告げる。
「ルーチェはこちらで過ごすようになるから……彼女の部屋の荷物を、この後すぐに運んでおいてくれ。すまないが、お前の手で進めてほしい。俺はこれから外すから、そのまま彼女の支度の手伝いも頼む」
「……」
短い沈黙のあと、外から即座に返事が返った。
「かしこまりました」
その声には、余計な揺れも詮索もない。
さすがだな、と内心で思う。
扉の向こうの気配が遠ざかったのを感じてから、ダリウスは寝台へ戻った。
「後はイリアに任せておけばいい」
布団の山に向かって言うと、中からほっとしたような吐息が漏れる。
「迷惑ではなかったでしょうか……」
「いや。……仮に迷惑をかけたとすれば、イリアが非難するのは多分俺の方だ」
少ししてから、布団の端がわずかに持ち上がり、ルーチェの顔が覗いた。
頬はまだ赤いが、先ほどより落ち着いた様子だ。
「……ありがとうございます」
「いや」
ダリウスはそう答えながら、自然と彼女の髪に手を伸ばしていた。
触れた指先に、確かな温もりがある。
「……礼を言うのは、俺の方だ」
「……ダリウス様」
「ありがとう」
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短く、慎ましく。それでも、確かな温度を残すように。
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