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3話:黒い石と泥だらけの芋
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翌朝。
俺はセバス、ヴォルフ、ゲイルの三人を連れて、北の山へ向かった。
「殿下、本当にあの山に何かあるのですか」
馬を並べて進みながら、セバスが尋ねた。
「……あると思う」
自分でも曖昧な答えだと分かっている。
根拠は、あの不思議な感覚だけだ。馬車の中で感じた、「あの方角に何かがある」という直感。
それがどこにあるのか、なぜか分かる気がする。
100点で買った「資源」の効果だろう。
「……確かめるしかない」
山道に入ると、空気が変わった。
冷たい風が吹き下ろしてくる。道は険しく、馬では進めなくなった。
「ここからは徒歩だ」
馬を木に繋ぎ、歩き始める。
ゲイルがつるはしを担ぎ、ヴォルフが先頭に立って周囲を警戒した。
「この辺りは魔物の縄張りです」
ヴォルフが低い声で言った。
「俺が先行します。殿下はセバス殿と共に後方へ」
「……頼む」
***
山道を進むこと一時間ほど。
突然、ヴォルフが足を止めた。
「……殿下、伏せてください」
静かだが、有無を言わさぬ声だった。
俺とセバス、ゲイルは咄嗟に岩陰に身を隠した。
数秒の沈黙。
そして——獣の唸り声。
岩場の向こうから、灰色の毛並みをした狼のような魔物が姿を現した。
体長は2メートル近い。牙が剥き出しになり、涎が滴っている。
「灰狼か」
ヴォルフが静かに剣を抜いた。
「一匹だけです。俺が仕留めます。殿下たちはそのまま」
言い終わるより早く、ヴォルフが動いた。
速い。
灰狼が跳びかかるより先に、間合いを詰めていた。
一閃。剣が弧を描き、灰狼の首筋を切り裂く。
断末魔の悲鳴すら上げる間もなく、魔物は地面に崩れ落ちた。
「……終わりました」
ヴォルフは剣の血を払い、鞘に収めた。
息一つ乱れていない。
「……見事だな」
素直に感嘆した。
150点の価値は十分にある。
「お褒めにあずかり光栄です。——ですが、群れがいる可能性があります。先を急ぎましょう」
***
さらに奥へ進むと、黒ずんだ岩肌が剥き出しになった崖が見えてきた。
——ここだ。
不思議な確信があった。
「ゲイル、あの崖を調べてくれ」
「へいへい……って、殿下。これ、ただの岩山ですぜ? 金も銀も出そうにない」
ゲイルは文句を言いながらも、崖に近づいた。
足元の黒い石を蹴飛ばす。
「ほら、見てください。こんな燃えカスみたいな石ころばっかりで——」
「その石だ」
「……は?」
「その黒い石を、いくつか拾ってくれ」
ゲイルは怪訝な顔をしたが、言われた通りに黒い石を拾い上げた。
俺はその石を受け取り、手の中で転がした。
黒くて、軽い。表面はざらついている。
間違いない。
「石炭だ」
「石炭?」
「炭素の塊だ。薪より高温で、長時間燃える。暖房にも、鍛冶にも使える」
ゲイルの目が丸くなった。
「……石が燃えるんですか?」
「ああ。ただし、燃やし方にコツがいる。通気を確保しないと煙ばかり出て安定しない。——この山には、大量に埋まっているはずだ」
ゲイルの表情が変わった。
職人の目になっていた。
「……マジですか。もしそれが本当なら——」
「燃料問題は解決する」
俺は次の目標を探した。
食料。
もう一つの資源は、この近くにあるはずだ。
崖から少し離れた場所に、枯れた草がへばりついた土手があった。
——あそこだ。
「ヴォルフ、悪いが剣を貸してくれ」
「剣を、ですか?」
「スコップ代わりにする」
ヴォルフは一瞬絶句したが、黙って剣を差し出した。
俺はその剣で、土を掘り返し始めた。
「殿下!? お手が汚れます!」
セバスが慌てて止めようとするが、俺は止まらなかった。
ザクッ、ザクッ。
凍った土を掘り返すと、茶色い塊が転がり出た。
泥にまみれた、拳大の芋。
俺は泥を払いながら、芋の形状を確認した。
丸みを帯びた塊茎。表面の窪み。
ナス科の特徴だ。間違いない。
「ジャガイモだ。食べられる」
「食べられる? この泥だらけの根っこが?」
「ああ。痩せた土地でも育つ。寒さにも強い。収穫量も多い」
俺は芋を持ち上げた。
「ただし、注意点がある。芽と、緑色に変色した部分には毒がある。食べる前に必ず取り除く。これを守れば、貴重な食料になる」
三人が、黙って俺を見ていた。
「……殿下」
セバスが、震える声で言った。
「どうして、このようなことをご存知なのですか」
「……さあな。夢で見た、とでも言っておく」
誤魔化すしかなかった。
「前世の知識」とは言えない。
だが、セバスはそれ以上追及しなかった。
「……夢、でございますか。ならば、よい夢を見られたのですな」
老執事は、静かに微笑んだ。
***
領主館に戻ったのは、日が落ちてからだった。
俺たちは大広間の暖炉に石炭を入れ、火をつけた。
「通気を確保しろ。空気の通り道がないと燃えない」
ゲイルに指示を出しながら、暖炉の灰受けを調整する。
最初は煙ばかり出た。
石がくすぶるだけで、炎は上がらない。
「……本当に燃えるんですか、これ」
ゲイルが不安そうに言った。
「待て。もう少しだ」
俺は暖炉の前で息を殺した。
やがて——
ボウッ。
低い音と共に、石が赤々と燃え始めた。
薪とは違う、重く安定した炎だ。
「なっ……!」
ゲイルが驚愕の声を上げた。
薪とは比較にならない熱量が広がる。
凍えていた広間の空気が、一気に暖まっていく。
「燃えた……石が、燃えてる……!」
「これが石炭だ」
俺は振り返った。
「この熱量なら、凍死者は出なくなる。鍛冶場の炉に使えば、鉄の加工効率も上がる」
この熱量はまだ入口にすぎない、この世界は俺が思っていた以上に脆い。
——今はそんな先の話をしている場合じゃない、次はジャガイモだ。
「セバス、厨房を借りるぞ」
俺は自ら芋の皮を剥いた。
芽の部分を丁寧に取り除き、緑がかった箇所も切り落とす。
「この部分は絶対に食べるな。毒がある」
「毒、でございますか」
「ああ。だが、取り除けば問題ない」
下処理を終えた芋を、鍋に放り込んだ。
干し肉と一緒に煮込む。石炭の火力のおかげで、あっという間に火が通った。
芳醇な香りが、広間に漂い始めた。
「……毒見は、私が」
セバスがおそるおそるスプーンを口に運んだ。
そして——目を見開いた。
「美味い」
その一言で、空気が変わった。
「本当ですか」
「ああ。これは……美味い」
セバスの声が震えていた。
四人でスープを分け合った。
ホクホクとした食感。口に広がる優しい甘み。
干し肉の旨味が溶け込んで、体の芯まで染み渡る。
「……信じられねえ」
ゲイルが呟いた。
「あの石ころと泥だらけの根っこが、こんなに……」
「これがあの山に眠っていたのか」
ヴォルフも、珍しく感嘆の色を隠せない。
暖炉の石炭は、赤々と燃え続けている。
外は極寒だが、この広間だけは温かい。
——成果が出た。
一週間と言ったが、たった一日で形になった。
まだ始まりに過ぎない。採掘の体制を整え、栽培の方法を確立し、民に広めなければならない。
だが、確かに——一歩を踏み出した。
***
翌朝。
ガルドが領主館にやってきた。
昨夜、石炭を燃やした時の熱気は、館の外にまで届いていたらしい。
見回りのガルドの部下が、青白い炎を目撃して報告したのだという。
「……話は聞いた」
開口一番、ガルドはそう言った。
「山で何か見つけたらしいな」
俺は黙って暖炉に向かった。
石炭をくべる。火をつける。
通気を確保して、待つ。
——頼む。
数秒後。
ボウッ。
青白い炎が上がった。
強烈な熱が、広間を満たす。
ガルドの目が、わずかに見開かれた。
「……本当に、石が燃えてやがる」
「石炭だ。この山に大量に埋まっている」
俺はジャガイモのスープを差し出した。
「これも見つけた。毒がある部分を取り除けば食べられる。痩せた土地でも育つ」
ガルドは黙ってスープを受け取り、一口飲んだ。
「……悪くねえ」
「だろう」
「……どこで知った」
ガルドが低い声で尋ねた。
「この石が燃えることも、この根っこが食えることも。なぜ、お前が知っている」
「……夢で見た」
ガルドは俺を睨んだ。
信じていない目だ。当然だろう。
だが、数秒後——ガルドは鼻を鳴らした。
「……まあいい。結果が全てだ」
腕を組み、俺を見下ろす。
「正直に言う。舐めてた。王都の坊ちゃんが、一日で何かを見つけるとは思わなかった」
「……」
「だが、まだ信用したわけじゃねえ。石が燃えるのは分かった。芋が食えるのも分かった。——問題は、それをどう広めるかだ」
ガルドの目が、鋭く光った。
「採掘には人手がいる。栽培には土地がいる。民を動かすには、納得がいる。——お前に、それができるのか」
「……やる」
俺は答えた。
「時間はもらった。一週間で成果を出すと言った。——まだ始まったばかりだ」
沈黙が落ちた。
ガルドは、じっと俺を見ていた。
やがて——ふっと息を吐いた。
「……やるじゃねえか」
それだけ言って、ガルドは背を向けた。
「一週間だ。それまでに形にしてみろ。——俺は見届けてやる」
そう言い残して、広間を出て行った。
***
ガルドが去った後、俺は窓の外を見た。
雪が降っている。
だが、広間は暖かい。石炭の火が、赤々と燃えている。
昨日、運命点を使ってガルドに時間をもらった。
今日、石炭とジャガイモを見せて、少しだけ信用を得た。
前世では、結果を出しても認められなかった。
「計画にない」で却下された。何度やっても同じだった。
でも——ここでは違う。
結果を出したら、ガルドは認めた。
「やるじゃねえか」と言った。
運命点だけじゃない。
俺の知識が、役に立った。
石炭の燃やし方。ジャガイモの毒の処理。前世で学んだことが、この世界で意味を持った。
——やれる。
まだ道のりは長い。
採掘の体制、栽培の普及、民の生活の改善。やることは山積みだ。
でも、やれる気がした。
俺は振り返り、セバスたちに声をかけた。
「今日から、本格的に動く。採掘の計画、栽培の段取り、民への説明。全部、一から組み立てるぞ」
「承知いたしました」
「任せてくれ」
「御意」
三人が頷いた。
窓の外では、雪が降り続けていた。
だが、暖炉の石炭は赤々と燃え、広間は温かかった。
——ここから始まる。
俺は、そう思った。
俺はセバス、ヴォルフ、ゲイルの三人を連れて、北の山へ向かった。
「殿下、本当にあの山に何かあるのですか」
馬を並べて進みながら、セバスが尋ねた。
「……あると思う」
自分でも曖昧な答えだと分かっている。
根拠は、あの不思議な感覚だけだ。馬車の中で感じた、「あの方角に何かがある」という直感。
それがどこにあるのか、なぜか分かる気がする。
100点で買った「資源」の効果だろう。
「……確かめるしかない」
山道に入ると、空気が変わった。
冷たい風が吹き下ろしてくる。道は険しく、馬では進めなくなった。
「ここからは徒歩だ」
馬を木に繋ぎ、歩き始める。
ゲイルがつるはしを担ぎ、ヴォルフが先頭に立って周囲を警戒した。
「この辺りは魔物の縄張りです」
ヴォルフが低い声で言った。
「俺が先行します。殿下はセバス殿と共に後方へ」
「……頼む」
***
山道を進むこと一時間ほど。
突然、ヴォルフが足を止めた。
「……殿下、伏せてください」
静かだが、有無を言わさぬ声だった。
俺とセバス、ゲイルは咄嗟に岩陰に身を隠した。
数秒の沈黙。
そして——獣の唸り声。
岩場の向こうから、灰色の毛並みをした狼のような魔物が姿を現した。
体長は2メートル近い。牙が剥き出しになり、涎が滴っている。
「灰狼か」
ヴォルフが静かに剣を抜いた。
「一匹だけです。俺が仕留めます。殿下たちはそのまま」
言い終わるより早く、ヴォルフが動いた。
速い。
灰狼が跳びかかるより先に、間合いを詰めていた。
一閃。剣が弧を描き、灰狼の首筋を切り裂く。
断末魔の悲鳴すら上げる間もなく、魔物は地面に崩れ落ちた。
「……終わりました」
ヴォルフは剣の血を払い、鞘に収めた。
息一つ乱れていない。
「……見事だな」
素直に感嘆した。
150点の価値は十分にある。
「お褒めにあずかり光栄です。——ですが、群れがいる可能性があります。先を急ぎましょう」
***
さらに奥へ進むと、黒ずんだ岩肌が剥き出しになった崖が見えてきた。
——ここだ。
不思議な確信があった。
「ゲイル、あの崖を調べてくれ」
「へいへい……って、殿下。これ、ただの岩山ですぜ? 金も銀も出そうにない」
ゲイルは文句を言いながらも、崖に近づいた。
足元の黒い石を蹴飛ばす。
「ほら、見てください。こんな燃えカスみたいな石ころばっかりで——」
「その石だ」
「……は?」
「その黒い石を、いくつか拾ってくれ」
ゲイルは怪訝な顔をしたが、言われた通りに黒い石を拾い上げた。
俺はその石を受け取り、手の中で転がした。
黒くて、軽い。表面はざらついている。
間違いない。
「石炭だ」
「石炭?」
「炭素の塊だ。薪より高温で、長時間燃える。暖房にも、鍛冶にも使える」
ゲイルの目が丸くなった。
「……石が燃えるんですか?」
「ああ。ただし、燃やし方にコツがいる。通気を確保しないと煙ばかり出て安定しない。——この山には、大量に埋まっているはずだ」
ゲイルの表情が変わった。
職人の目になっていた。
「……マジですか。もしそれが本当なら——」
「燃料問題は解決する」
俺は次の目標を探した。
食料。
もう一つの資源は、この近くにあるはずだ。
崖から少し離れた場所に、枯れた草がへばりついた土手があった。
——あそこだ。
「ヴォルフ、悪いが剣を貸してくれ」
「剣を、ですか?」
「スコップ代わりにする」
ヴォルフは一瞬絶句したが、黙って剣を差し出した。
俺はその剣で、土を掘り返し始めた。
「殿下!? お手が汚れます!」
セバスが慌てて止めようとするが、俺は止まらなかった。
ザクッ、ザクッ。
凍った土を掘り返すと、茶色い塊が転がり出た。
泥にまみれた、拳大の芋。
俺は泥を払いながら、芋の形状を確認した。
丸みを帯びた塊茎。表面の窪み。
ナス科の特徴だ。間違いない。
「ジャガイモだ。食べられる」
「食べられる? この泥だらけの根っこが?」
「ああ。痩せた土地でも育つ。寒さにも強い。収穫量も多い」
俺は芋を持ち上げた。
「ただし、注意点がある。芽と、緑色に変色した部分には毒がある。食べる前に必ず取り除く。これを守れば、貴重な食料になる」
三人が、黙って俺を見ていた。
「……殿下」
セバスが、震える声で言った。
「どうして、このようなことをご存知なのですか」
「……さあな。夢で見た、とでも言っておく」
誤魔化すしかなかった。
「前世の知識」とは言えない。
だが、セバスはそれ以上追及しなかった。
「……夢、でございますか。ならば、よい夢を見られたのですな」
老執事は、静かに微笑んだ。
***
領主館に戻ったのは、日が落ちてからだった。
俺たちは大広間の暖炉に石炭を入れ、火をつけた。
「通気を確保しろ。空気の通り道がないと燃えない」
ゲイルに指示を出しながら、暖炉の灰受けを調整する。
最初は煙ばかり出た。
石がくすぶるだけで、炎は上がらない。
「……本当に燃えるんですか、これ」
ゲイルが不安そうに言った。
「待て。もう少しだ」
俺は暖炉の前で息を殺した。
やがて——
ボウッ。
低い音と共に、石が赤々と燃え始めた。
薪とは違う、重く安定した炎だ。
「なっ……!」
ゲイルが驚愕の声を上げた。
薪とは比較にならない熱量が広がる。
凍えていた広間の空気が、一気に暖まっていく。
「燃えた……石が、燃えてる……!」
「これが石炭だ」
俺は振り返った。
「この熱量なら、凍死者は出なくなる。鍛冶場の炉に使えば、鉄の加工効率も上がる」
この熱量はまだ入口にすぎない、この世界は俺が思っていた以上に脆い。
——今はそんな先の話をしている場合じゃない、次はジャガイモだ。
「セバス、厨房を借りるぞ」
俺は自ら芋の皮を剥いた。
芽の部分を丁寧に取り除き、緑がかった箇所も切り落とす。
「この部分は絶対に食べるな。毒がある」
「毒、でございますか」
「ああ。だが、取り除けば問題ない」
下処理を終えた芋を、鍋に放り込んだ。
干し肉と一緒に煮込む。石炭の火力のおかげで、あっという間に火が通った。
芳醇な香りが、広間に漂い始めた。
「……毒見は、私が」
セバスがおそるおそるスプーンを口に運んだ。
そして——目を見開いた。
「美味い」
その一言で、空気が変わった。
「本当ですか」
「ああ。これは……美味い」
セバスの声が震えていた。
四人でスープを分け合った。
ホクホクとした食感。口に広がる優しい甘み。
干し肉の旨味が溶け込んで、体の芯まで染み渡る。
「……信じられねえ」
ゲイルが呟いた。
「あの石ころと泥だらけの根っこが、こんなに……」
「これがあの山に眠っていたのか」
ヴォルフも、珍しく感嘆の色を隠せない。
暖炉の石炭は、赤々と燃え続けている。
外は極寒だが、この広間だけは温かい。
——成果が出た。
一週間と言ったが、たった一日で形になった。
まだ始まりに過ぎない。採掘の体制を整え、栽培の方法を確立し、民に広めなければならない。
だが、確かに——一歩を踏み出した。
***
翌朝。
ガルドが領主館にやってきた。
昨夜、石炭を燃やした時の熱気は、館の外にまで届いていたらしい。
見回りのガルドの部下が、青白い炎を目撃して報告したのだという。
「……話は聞いた」
開口一番、ガルドはそう言った。
「山で何か見つけたらしいな」
俺は黙って暖炉に向かった。
石炭をくべる。火をつける。
通気を確保して、待つ。
——頼む。
数秒後。
ボウッ。
青白い炎が上がった。
強烈な熱が、広間を満たす。
ガルドの目が、わずかに見開かれた。
「……本当に、石が燃えてやがる」
「石炭だ。この山に大量に埋まっている」
俺はジャガイモのスープを差し出した。
「これも見つけた。毒がある部分を取り除けば食べられる。痩せた土地でも育つ」
ガルドは黙ってスープを受け取り、一口飲んだ。
「……悪くねえ」
「だろう」
「……どこで知った」
ガルドが低い声で尋ねた。
「この石が燃えることも、この根っこが食えることも。なぜ、お前が知っている」
「……夢で見た」
ガルドは俺を睨んだ。
信じていない目だ。当然だろう。
だが、数秒後——ガルドは鼻を鳴らした。
「……まあいい。結果が全てだ」
腕を組み、俺を見下ろす。
「正直に言う。舐めてた。王都の坊ちゃんが、一日で何かを見つけるとは思わなかった」
「……」
「だが、まだ信用したわけじゃねえ。石が燃えるのは分かった。芋が食えるのも分かった。——問題は、それをどう広めるかだ」
ガルドの目が、鋭く光った。
「採掘には人手がいる。栽培には土地がいる。民を動かすには、納得がいる。——お前に、それができるのか」
「……やる」
俺は答えた。
「時間はもらった。一週間で成果を出すと言った。——まだ始まったばかりだ」
沈黙が落ちた。
ガルドは、じっと俺を見ていた。
やがて——ふっと息を吐いた。
「……やるじゃねえか」
それだけ言って、ガルドは背を向けた。
「一週間だ。それまでに形にしてみろ。——俺は見届けてやる」
そう言い残して、広間を出て行った。
***
ガルドが去った後、俺は窓の外を見た。
雪が降っている。
だが、広間は暖かい。石炭の火が、赤々と燃えている。
昨日、運命点を使ってガルドに時間をもらった。
今日、石炭とジャガイモを見せて、少しだけ信用を得た。
前世では、結果を出しても認められなかった。
「計画にない」で却下された。何度やっても同じだった。
でも——ここでは違う。
結果を出したら、ガルドは認めた。
「やるじゃねえか」と言った。
運命点だけじゃない。
俺の知識が、役に立った。
石炭の燃やし方。ジャガイモの毒の処理。前世で学んだことが、この世界で意味を持った。
——やれる。
まだ道のりは長い。
採掘の体制、栽培の普及、民の生活の改善。やることは山積みだ。
でも、やれる気がした。
俺は振り返り、セバスたちに声をかけた。
「今日から、本格的に動く。採掘の計画、栽培の段取り、民への説明。全部、一から組み立てるぞ」
「承知いたしました」
「任せてくれ」
「御意」
三人が頷いた。
窓の外では、雪が降り続けていた。
だが、暖炉の石炭は赤々と燃え、広間は温かかった。
——ここから始まる。
俺は、そう思った。
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