【第一部完結】科学で興す異世界国家

Lihito

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48話:夜空の真実

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テントの中。

道具が並んでいる。

俺は深呼吸した。

——始めよう。

まず、ガラス板を手に取った。

透明な、ただのガラス。
これを、鏡に変える。

瓶の蓋を開けた。
硝酸銀とアンモニアを混ぜた液体。
そこに、ジャガイモから抽出した糖液を加える。

ガラス板に、ゆっくりと塗っていく。

——銀鏡の術。

広場で見せた芸と、同じ原理だ。
だが、今夜は芸じゃない。

透明なガラスが、みるみるうちに銀色に変わっていく。

完全な平面。
歪みのない、完璧な鏡。

「これで、遠くの光を捉える」

俺は鏡を持ち上げた。

テントの穴から、東塔が見える。
最上階の窓に、明かりが灯っていた。

——いる。

王と、探究が。

鏡の角度を調整する。
東塔の窓からの光を捉え、白い布に向けて反射させる。

次は光源だ。

石灰の塊を台に乗せた。
石炭から取り出したガスを、管を通して吹きつける。

火を点けた。

ゴオッ——!

石灰が燃え上がり、強烈な白い光が生まれた。

目を開けていられないほどの輝き。
太陽のような、純白の光。

——ライムライト。

この光を、鏡で反射させた像に当てる。

白い布が、巨大な幕のように輝いた。

***

広場に、どよめきが起きた。

「な、なんだあれ……!」

「布に何か映ってる……!」

民衆が空を見上げた。

建物の壁一面に張られた白い布。
そこに、巨大な影が浮かび上がっていた。

二つの人影。

一人は、誰もが知る姿。
太った体。豪華な衣装。王冠。

「お、王様……?」

「なんで王様が映ってるんだ……?」

そしてもう一人。

角が生えていた。
人間ではありえない、異形の姿。

「あ、あれは……」

「ま、魔人……!?」

悲鳴が上がった。

「魔人だ! 魔人がいる!」

「王様が、魔人と一緒に……!」

広場が騒然となった。

俺はテントから出た。

民衆の視線が、布に釘付けになっている。

映し出された二人の影。
何かを話している。
握手をしている。

——密約の現場だ。

誰の目にも、それは明らかだった。

「嘘だ……王様が魔人と……」

「俺たちを守ってくれてたんじゃなかったのか……!」

絶望と怒りが、広場を満たしていく。

その時——

「皆、聞いて!」

澄んだ声が響いた。

広場の端に、一人の女性が立っていた。

金色の髪。白いドレス。
月明かりに照らされた、凛とした姿。

「セレナ王女……!」

「王女様だ……!」

セレナは一歩前に出た。

その手には、筒のようなものが握られている。
音を拡大する装置。俺が渡したものだ。

セレナは筒に口を当てた。

「皆、聞いてください!」

声が、広場全体に響き渡った。

「今、皆さんが見たものは真実です!」

民衆がざわめく。

「お父様は——エンヴァ王は、魔王軍と手を組んでいました!」

悲鳴が上がった。

「この国の安全と引き換えに、民を差し出していたのです!」

「嘘だ……!」

「嘘じゃありません!」

セレナの声が震えた。
だが、目は真っ直ぐ前を見ていた。

「毎月、何人かが消えていたのを覚えていますか!? 『魔物に襲われた』と言われていた人たち! あれは嘘です! お父様が、魔王軍に渡していたのです!」

広場が静まり返った。

「私はずっと知っていました。でも、何もできなかった。お父様に逆らえなかった」

セレナは俯いた。

「……ごめんなさい」

その声は、小さかった。
だが、装置を通して、広場の隅々まで届いた。

「私は、ずっと皆さんを裏切っていました。知っていたのに、黙っていた。笑顔を作って、何も知らないふりをしていた」

顔を上げた。

涙が、頬を伝っていた。

「でも、もう黙っていられない!」

声が、夜空に響いた。

「この国を、変えたい! 皆さんと一緒に、本当の国を作りたい!」

沈黙。

長い、長い沈黙。

そして——

「……王女様」

一人の男が、前に出た。

「俺の親父は、三年前に『魔物に襲われた』って言われて消えた」

男の声は震えていた。

「あれは……王様のせいだったのか」

「……はい」

セレナは頷いた。

「本当に、ごめんなさい」

男は拳を握りしめた。

そして——

「……王女様についていく」

「え……」

「あんたは正直に言ってくれた。謝ってくれた。それだけで、王様よりずっとましだ」

男が膝をついた。

「俺は、王女様に従う」

その声に呼応するように、次々と人が膝をついた。

「俺も……!」

「私も王女様についていきます……!」

「王を倒せ! セレナ様を女王に!」

波のように、声が広がっていく。

民衆が、立ち上がった。

***

「何事だ!」

城門から、兵士たちが駆け出してきた。

「騒ぎを鎮めろ! 民衆を抑えろ!」

剣を抜いた兵士たちが、広場に向かってくる。

——まずい。

このままでは、民衆が蹴散らされる。

俺は懐から袋を取り出した。

中身は粉末。
微細な粒子。

空気中に撒けば——

俺は袋を開け、高く放り投げた。

粉末が、夜空に舞い上がる。

松明を突き出した。

ドオオォォォン————ッ!!

夜空が、白く染まった。

轟音と共に、巨大な閃光が広がる。

粉塵爆発。

熱と光が、夜空を焼き尽くした。

民衆が悲鳴を上げる。
兵士たちも、思わず足を止めた。

——見えたか、ヴァリウス兄上。

***

その時、地響きが聞こえた。

ドドドドドド……

「な、何だ……!?」

兵士たちが振り返った。

城門の外から、騎馬の群れが押し寄せてきた。

先頭を走るのは、一人の男。

金色の髪。鍛え上げられた体躯。
手には大剣。

「シンラ第一王子、ヴァリウス・フォン・シンラである!」

声が、夜空に轟いた。

「エンヴァ王の罪状は明らかになった! 民への裏切り、魔王軍との密約! これ以上の蛮行は許さん!」

ヴァリウス兄上は剣を掲げた。

「エンヴァ兵に告ぐ! 武器を捨てよ! 抵抗する者は、シンラの敵と見なす!」

兵士たちが動揺した。

「ど、どうする……」

「王様が魔人と……本当なのか……」

「俺たちは、何のために戦ってたんだ……」

一人の兵士が、剣を落とした。

「……降伏する」

その声を皮切りに、次々と剣が地面に落ちていった。

「俺も降りる……」

「もう戦う意味がない……」

ヴァリウス兄上の軍が、兵士たちを取り囲んだ。

抵抗する者は、いなかった。

***

俺は広場の中央に立っていた。

民衆が歓声を上げている。

「王女様万歳!」

「セレナ様を女王に!」

「魔人の手先を追い出せ!」

セレナが俺の隣に来た。

「……本当に、成功したの」

「ああ」

俺は頷いた。

「あとは、お前の父親を——」

その時。

城の東塔から、何かが落ちてきた。

いや、落ちたんじゃない。

——投げ捨てられた。

ドサッ、と鈍い音がした。

民衆が悲鳴を上げた。

「な、何だ……!」

「人が落ちてきた……!」

俺は目を凝らした。

東塔の窓から、一つの影が見下ろしていた。

角を持つ、人ならざる姿。

——探究。

その顔には、何の感情も浮かんでいなかった。
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