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44 罪と罰(コンラート視点)
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憲兵本部を出たのは、午前0時を回ってすぐだった。帝国宰相ラングハイム公爵に危害を加えた容疑で取り調べを受けていた私は、簡単な受け答えをいくつかしたあと、すぐに容疑を晴らして自由の身になった。
どうやらラングハイム家のアルフォンスどのと、証言が一致したらしいのだ。それはひどく不思議なことだった。私は嘘をついたのだから━━私たちは何もやっていないのに、ラングハイム公が急に奇声をあげられたのだと。
どうしてアルフォンスどのがグレッツナー家をかばうのか、その理由はわからなかったが、とにかく私は迎えにきていたクラウスをともなって屋敷に戻った。
玄関をくぐると、私を待っていたカリーナを抱きしめ、訊ねる。
「ハンナはどうしている?」
「お部屋で、お休みに」
「そうか、では話を聞いてくる」
「こ、コンラートさまっ、ハンナさまは今夜の出来事にショックを受けておいでです。そっとしておいてくださいまし」
「そうはいかない」
私はカリーナにキスをして、ハンナの部屋を訪ねた。ノックをするとすぐに返事があった。どうやら起きているらしい。入室すると、室内は暗かった。魔法を使って明かりに火を灯す。
ハンナは、この世の終わりみたいな顔をしてベッドの上に這いつくばっていた。
「お兄さま、今夜は申し訳ございませんでした。パーティーの主賓のひとりだったお兄さまに、ご迷惑をおかけして━━」
「そんなことはどうでもいい」
私には聞かなければならないことがあった。
「私は頭が悪いから、おまえが私に隠しごとをしていることはわかっても、それが何なのかはわからない。だけどおまえが隠そうとしているのなら、そうする必要があったのだろう。だから今夜のラングハイム公とのやりとりも、その結末もどうだっていいんだ。これは本心だよ、ハンナ」
そんなことよりも、もっと大事な問題がある。
「ひとつだけ聞きたい、おまえは今夜、死のうとしていたんだね?」
目の前でハンナが、息を呑んだのがわかった。それが答えだった。私にとって、これほど悲しい夜があっただろうか。
物心ついたとき、母はすでに亡かった。父が死んだのは病のせいだった。私にとって血のつながった家族は、ハンナひとりだったのだ。その家族が、死んだほうがましな状況におかれていたという事実。そしてそのことに、今のいままで気づかなかった愚かしさ。私の目から、滂沱と涙が流れた。
「すまない、ハンナ。私はおまえを救うことができなかった。精いっぱい、頑張ったつもりだったのだけれど、ついにおまえの心を晴らしてやることができなかった」
「そんなっ、お兄さまは、私を救ってくださいました。末は乞食か悪党になるしかなかった私を、グレッツナー家に迎え入れてくださった」
「…それでおまえが真実救われたのだとしたら、もう少し明るい顔をしておくれ」
なにがこれほどハンナを追い詰めているのか、愚かな私には見当もつかない。だから精いっぱいの自由を妹に贈ったつもりだったのだが、どうやらそれも見当違いだったらしい。だとしたらもう、ハンナをグレッツナー家に迎えたことそのものが間違いだったのだろうか。
だがそれでも、私はハンナを手放したくないと思ってしまっている。愛する妹をグレッツナー家から追い出すことができない。なんと醜悪な執着心だろうか。
するとハンナは私の手をとった。
「アタシゃ、あんたに返しきれないほどの恩がある。あんたが自分を追い詰めるのは、お門違いってモンさ」
「だがっ」
「だからなんだよ、コンラート。あんたはアタシを、幸せにしてくれた。その身を犠牲にしてでも、アタシを幸せにしようとしてくれた━━これがいちばんの幸せだ。だけどね、そんなことは許されないんだって、アタシゃ気づいちまったのさ」
蓮っ葉な口調で喋るハンナは、おそらく本心を語ってくれているのだろう。私は涙をぬぐって、ハンナの言葉に耳を傾ける。
「幸せになったその日から、アタシの足元には地獄の門が開いたのさ。そこから這い出す亡者どもが、アタシの足に絡みついて、地の底へとひきずりこもうとする。おまえが幸せになることは許されない、俺たちを殺したおまえが救われていいわけがない、ってねぇ」
「ころ、した?」
「そうさ、あんたにゃ想像もつかないだろう悪ってのが、この世には存在する。それがこの『金貸しのしらみ』さね。ラングハイムの爺ィなんざ、生易しいくらいさ。天井からぶら下がった親の足元で泣いている子どもの頭を、踏みにじったことがある。恋女房に身体を売らせて、心を病んだ男から、なけなしのゼニをむしり取ったことがある。病気の母親の薬代にと溜め込んだ金を、嘲笑いながら奪い取ったことがある。こんなアタシが、救われていい道理なんざ、ありゃしないんだよ」
この話がすべて真実とは思えなかった。なぜならハンナがグレッツナー家にやってきたのは、8歳のときだったからだ。だとしたらこれは、ハンナの妄想か。そうだとしても、私はただ否定することはしたくない。私はただ、あるがままに彼女の苦しみを受け止めよう。
「そんな目で見ないでおくれよ、コンラート。あんたの優しさは、こんな汚らわしい『しらみ』なんかに注いでいいものじゃないんだ。アタシゃ、あんたに出会ったことで、それに気づいたのさ。最初はね、あんたみたいに与える側に回ったら━━多くのひとを救ったら、前世の罪がすすげるんじゃないかって、馬鹿な勘違いをしてたんだよ。だけど、だとしたらあいつらはどうなる。アタシが地獄に叩き落とした連中は。100人殺しても10000人救えば許されるってのかい。それじゃ殺された100人がいい面の皮だ」
ハンナが語ることがすべて真実なのだとしたら、私は彼女の言うことを否定できないだろう。改心して善人になったとしても、被害者が加害者を許すことはないのかもしれない。でも、だとしたらハンナはどうなるのだ。私のかわいい妹は、生きている限り永遠に罰を受け続けるのか。一瞬でも幸せを感じることは許されないのだろうか。
それにしてもこんなに残酷な話はない。非道なままだったら、ハンナは苦しまずに済んだ。良心を取り戻したから、いま彼女は罰を受けている。優しいものだけが傷つけられるのだとしたら、罪を自覚することに何の意味もないじゃないか。
痛々しいほど追い詰められた表情をするハンナに、私はかけるべき言葉がみつからない。
「神様は間違ったのさ。救われるべきなのはアタシじゃなかった。転生するのはアタシじゃなかった。アタシは死ねばよかったんだ。あのとき、トラックにはねられて死んでおくべきだったんだ。だからせめて、あんたを傷つけないように死のうとして、このザマさ。アタシはまた間違えたってわけだ」
だから自殺ではなく、ラングハイム公に殺されるように仕向けたと、ハンナは告白しているのだ。そうなれば私は、こうして自分を責めずに済んだかもしれない。ラングハイム公を責めることで、憎しみと悲しみだけを背負っただろう。それは不器用なハンナの優しさだった。
「どれだけ侘びても、ずっと声が聞こえるんだ。アタシが少しでも幸せを感じると、暗い穴から声が聞こえる。許さない、地獄に落ちろってね。ぐずぐすに崩れた顔で、恨みのこもった目で、地響きみたいな声で、アタシに死ねって言い続けてる。これでどうして、のうのうと生きていられるんだい。アタシはもう、生きていたくないんだよっ」
私は思わず、ハンナを抱きしめていた。
「ああ、神様。どうかハンナをお救いください。この優しい魂を安らげてください」
「やめろ、アタシのために祈るんじゃない!」
「祈らずにはいられないんだ。もしもこの願いが叶わないのなら、神様なんかいらない。私は神様の代わりに、お前を責めるすべてと闘うよ」
悲しくなるほど細いハンナの身体が、私の腕の中で震えていた。その震えを止めることができない、己の無力さが呪わしい。それでもせめて、わずかでも安らぎを与えたくて━━私は幼い頃、父にそうされたように、ハンナの髪を優しくなでる。
「アタシに優しくするなぁっ」
ぐすぐすと泣き出したハンナを、私は長い間、抱きしめていた。結局私には、ハンナの苦しみを取り除くことができなかった。だとしたら、あとは運命にすべてを委ねるしかないのだ。
「ハンナ、おまえはもうじき15歳になる。そうしたら貴族の娘として3年間『学園』に通うことになるんだ。その3年間を、私に預けてくれないか。死のうだなんて考えず、3年だけ、苦しみにたえて『学園』に通ってほしい」
「…それがいったい、何になるってんだい」
「わからない」
「なんだいそりゃ」
「わからないが、人は出会うことで変わるかもしれない。私はおまえを救えなかったが、お前を救いうる出会いがあるかもしれない」
同じ年頃の子どもたちが通う、あの場所ならもしかして。それは私の直感じみたものだった。
ハンナは私の命を欲しいとは望まなかった。もしかして私が望めば、自分の命を私のために捧げてくれたかもしれないが━━私の命を自分のために欲してはくれなかったのだ。
自分の背負っている荷物を、半分相手に背負わせてもいい。そう思えたならハンナは変わるだろう。そういった強いエゴイズムが、共に依存しあえる絆が、出会いによって生まれるかもしれない。
とても美しい言葉でいうならば、人はそれを『信頼』とよぶ。
「頼りない兄で、本当にすまない」
腕の中のハンナが首を横に振った。だけどまったく、私は頼りない男なのだ。自分では解決できない問題を、どこかの誰かに解決してほしいと願っている。救い難いほどの無能者だ。
それでも私は、なんの意味もないと知りながら、長い祈りとありったけの愛情をハンナにささげる。いつかハンナの心の中に、暖かい陽射しがふりそそぐように。
どうやらラングハイム家のアルフォンスどのと、証言が一致したらしいのだ。それはひどく不思議なことだった。私は嘘をついたのだから━━私たちは何もやっていないのに、ラングハイム公が急に奇声をあげられたのだと。
どうしてアルフォンスどのがグレッツナー家をかばうのか、その理由はわからなかったが、とにかく私は迎えにきていたクラウスをともなって屋敷に戻った。
玄関をくぐると、私を待っていたカリーナを抱きしめ、訊ねる。
「ハンナはどうしている?」
「お部屋で、お休みに」
「そうか、では話を聞いてくる」
「こ、コンラートさまっ、ハンナさまは今夜の出来事にショックを受けておいでです。そっとしておいてくださいまし」
「そうはいかない」
私はカリーナにキスをして、ハンナの部屋を訪ねた。ノックをするとすぐに返事があった。どうやら起きているらしい。入室すると、室内は暗かった。魔法を使って明かりに火を灯す。
ハンナは、この世の終わりみたいな顔をしてベッドの上に這いつくばっていた。
「お兄さま、今夜は申し訳ございませんでした。パーティーの主賓のひとりだったお兄さまに、ご迷惑をおかけして━━」
「そんなことはどうでもいい」
私には聞かなければならないことがあった。
「私は頭が悪いから、おまえが私に隠しごとをしていることはわかっても、それが何なのかはわからない。だけどおまえが隠そうとしているのなら、そうする必要があったのだろう。だから今夜のラングハイム公とのやりとりも、その結末もどうだっていいんだ。これは本心だよ、ハンナ」
そんなことよりも、もっと大事な問題がある。
「ひとつだけ聞きたい、おまえは今夜、死のうとしていたんだね?」
目の前でハンナが、息を呑んだのがわかった。それが答えだった。私にとって、これほど悲しい夜があっただろうか。
物心ついたとき、母はすでに亡かった。父が死んだのは病のせいだった。私にとって血のつながった家族は、ハンナひとりだったのだ。その家族が、死んだほうがましな状況におかれていたという事実。そしてそのことに、今のいままで気づかなかった愚かしさ。私の目から、滂沱と涙が流れた。
「すまない、ハンナ。私はおまえを救うことができなかった。精いっぱい、頑張ったつもりだったのだけれど、ついにおまえの心を晴らしてやることができなかった」
「そんなっ、お兄さまは、私を救ってくださいました。末は乞食か悪党になるしかなかった私を、グレッツナー家に迎え入れてくださった」
「…それでおまえが真実救われたのだとしたら、もう少し明るい顔をしておくれ」
なにがこれほどハンナを追い詰めているのか、愚かな私には見当もつかない。だから精いっぱいの自由を妹に贈ったつもりだったのだが、どうやらそれも見当違いだったらしい。だとしたらもう、ハンナをグレッツナー家に迎えたことそのものが間違いだったのだろうか。
だがそれでも、私はハンナを手放したくないと思ってしまっている。愛する妹をグレッツナー家から追い出すことができない。なんと醜悪な執着心だろうか。
するとハンナは私の手をとった。
「アタシゃ、あんたに返しきれないほどの恩がある。あんたが自分を追い詰めるのは、お門違いってモンさ」
「だがっ」
「だからなんだよ、コンラート。あんたはアタシを、幸せにしてくれた。その身を犠牲にしてでも、アタシを幸せにしようとしてくれた━━これがいちばんの幸せだ。だけどね、そんなことは許されないんだって、アタシゃ気づいちまったのさ」
蓮っ葉な口調で喋るハンナは、おそらく本心を語ってくれているのだろう。私は涙をぬぐって、ハンナの言葉に耳を傾ける。
「幸せになったその日から、アタシの足元には地獄の門が開いたのさ。そこから這い出す亡者どもが、アタシの足に絡みついて、地の底へとひきずりこもうとする。おまえが幸せになることは許されない、俺たちを殺したおまえが救われていいわけがない、ってねぇ」
「ころ、した?」
「そうさ、あんたにゃ想像もつかないだろう悪ってのが、この世には存在する。それがこの『金貸しのしらみ』さね。ラングハイムの爺ィなんざ、生易しいくらいさ。天井からぶら下がった親の足元で泣いている子どもの頭を、踏みにじったことがある。恋女房に身体を売らせて、心を病んだ男から、なけなしのゼニをむしり取ったことがある。病気の母親の薬代にと溜め込んだ金を、嘲笑いながら奪い取ったことがある。こんなアタシが、救われていい道理なんざ、ありゃしないんだよ」
この話がすべて真実とは思えなかった。なぜならハンナがグレッツナー家にやってきたのは、8歳のときだったからだ。だとしたらこれは、ハンナの妄想か。そうだとしても、私はただ否定することはしたくない。私はただ、あるがままに彼女の苦しみを受け止めよう。
「そんな目で見ないでおくれよ、コンラート。あんたの優しさは、こんな汚らわしい『しらみ』なんかに注いでいいものじゃないんだ。アタシゃ、あんたに出会ったことで、それに気づいたのさ。最初はね、あんたみたいに与える側に回ったら━━多くのひとを救ったら、前世の罪がすすげるんじゃないかって、馬鹿な勘違いをしてたんだよ。だけど、だとしたらあいつらはどうなる。アタシが地獄に叩き落とした連中は。100人殺しても10000人救えば許されるってのかい。それじゃ殺された100人がいい面の皮だ」
ハンナが語ることがすべて真実なのだとしたら、私は彼女の言うことを否定できないだろう。改心して善人になったとしても、被害者が加害者を許すことはないのかもしれない。でも、だとしたらハンナはどうなるのだ。私のかわいい妹は、生きている限り永遠に罰を受け続けるのか。一瞬でも幸せを感じることは許されないのだろうか。
それにしてもこんなに残酷な話はない。非道なままだったら、ハンナは苦しまずに済んだ。良心を取り戻したから、いま彼女は罰を受けている。優しいものだけが傷つけられるのだとしたら、罪を自覚することに何の意味もないじゃないか。
痛々しいほど追い詰められた表情をするハンナに、私はかけるべき言葉がみつからない。
「神様は間違ったのさ。救われるべきなのはアタシじゃなかった。転生するのはアタシじゃなかった。アタシは死ねばよかったんだ。あのとき、トラックにはねられて死んでおくべきだったんだ。だからせめて、あんたを傷つけないように死のうとして、このザマさ。アタシはまた間違えたってわけだ」
だから自殺ではなく、ラングハイム公に殺されるように仕向けたと、ハンナは告白しているのだ。そうなれば私は、こうして自分を責めずに済んだかもしれない。ラングハイム公を責めることで、憎しみと悲しみだけを背負っただろう。それは不器用なハンナの優しさだった。
「どれだけ侘びても、ずっと声が聞こえるんだ。アタシが少しでも幸せを感じると、暗い穴から声が聞こえる。許さない、地獄に落ちろってね。ぐずぐすに崩れた顔で、恨みのこもった目で、地響きみたいな声で、アタシに死ねって言い続けてる。これでどうして、のうのうと生きていられるんだい。アタシはもう、生きていたくないんだよっ」
私は思わず、ハンナを抱きしめていた。
「ああ、神様。どうかハンナをお救いください。この優しい魂を安らげてください」
「やめろ、アタシのために祈るんじゃない!」
「祈らずにはいられないんだ。もしもこの願いが叶わないのなら、神様なんかいらない。私は神様の代わりに、お前を責めるすべてと闘うよ」
悲しくなるほど細いハンナの身体が、私の腕の中で震えていた。その震えを止めることができない、己の無力さが呪わしい。それでもせめて、わずかでも安らぎを与えたくて━━私は幼い頃、父にそうされたように、ハンナの髪を優しくなでる。
「アタシに優しくするなぁっ」
ぐすぐすと泣き出したハンナを、私は長い間、抱きしめていた。結局私には、ハンナの苦しみを取り除くことができなかった。だとしたら、あとは運命にすべてを委ねるしかないのだ。
「ハンナ、おまえはもうじき15歳になる。そうしたら貴族の娘として3年間『学園』に通うことになるんだ。その3年間を、私に預けてくれないか。死のうだなんて考えず、3年だけ、苦しみにたえて『学園』に通ってほしい」
「…それがいったい、何になるってんだい」
「わからない」
「なんだいそりゃ」
「わからないが、人は出会うことで変わるかもしれない。私はおまえを救えなかったが、お前を救いうる出会いがあるかもしれない」
同じ年頃の子どもたちが通う、あの場所ならもしかして。それは私の直感じみたものだった。
ハンナは私の命を欲しいとは望まなかった。もしかして私が望めば、自分の命を私のために捧げてくれたかもしれないが━━私の命を自分のために欲してはくれなかったのだ。
自分の背負っている荷物を、半分相手に背負わせてもいい。そう思えたならハンナは変わるだろう。そういった強いエゴイズムが、共に依存しあえる絆が、出会いによって生まれるかもしれない。
とても美しい言葉でいうならば、人はそれを『信頼』とよぶ。
「頼りない兄で、本当にすまない」
腕の中のハンナが首を横に振った。だけどまったく、私は頼りない男なのだ。自分では解決できない問題を、どこかの誰かに解決してほしいと願っている。救い難いほどの無能者だ。
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