26 / 27
人生って、ままならないものよね
7
しおりを挟む
商会に着いて二日後、リリアナとマイケルは、商会がある街から程近い森に来ていた。
ドゴォ!!
リリアナに蹴り飛ばされ、激しい音をたてて木にぶつかった狼型の魔物が、見るも無惨な姿で地面にずり落ちていく。
マイケルはそれを何とも言えない顔で見つめた。
「お嬢様……もう少し加減しないと素材獲れませんよ」
「魔物って人間よりも頑丈だから加減が難しいのよね。気をつけてはいるんだけど」
「そうですか……まぁ、討伐依頼はクリアしてるんでいいんですけど」
昨日、二人は街の冒険者ギルドで冒険者登録を行った。
簡単な討伐依頼を請け負い、必要な装備を調えたところで日が暮れたため、翌日、こうして討伐対象の魔物が生息する森へやって来た。
リリアナの希望により、マイケルが魔法で足止めをしてリリアナが身体強化魔法で止めを刺す、という方針でやっていたのだが、これがなかなか上手くいかなかった。
初めは、リリアナの力が足りず魔物に逃げられた。
次は、絶対に逃がさないと全力を出したリリアナによって辺り一面血塗れになった。
それからは徐々に力加減を調整していったのだが、個体により頑強さが違うため、結局は力みすぎたリリアナの攻撃により魔物は残骸と化した。
だが討伐依頼自体は達成しているので、リリアナは満足そうだ。
「私って冒険者の才能もあるのね。結婚しなくてもこれで生活できそう」
「え! それはちょっと……」
その「ちょっと」はどっちの意味だ、と少しむっとするものを感じたリリアナは、まごつくマイケルに大仰に溜息をついた。
「はぁー。何でここで、そんなことしなくても俺がお前を一生養ってやる、くらい言えないのかしら。本当にヘタレね。減点よ」
「あうぅ……。つ、次は頑張ります!」
マイケルが絞り出すように言った返事に満足したリリアナは、にっこりと笑って魔物討伐を再開した。
◇◇
それから二日後、リリアナは再び商会の応接室に来ていた。
「久しぶりだな。リリアナ」
二日前に兄が座っていたその場所には、商人服に身を包んだ本国の第二王子が座っていた。
「ディラン殿下……お久しぶりです。未来の王配殿下ともあろうお方が、こんなしがない商会で何をなさっておいでですか?」
ディランが婿入りしたこの国では、女性の王位継承を認めている。本国でも認めてはいるが、基本的には男児が優先される。
ディランの妻であるこの国の王女は次期女王として王位を継ぐことが決まっているため、次期王配である彼はこんなところにいるべき人間ではないのだが。
「そう嫌そうな顔をしないでくれ、と言いたいが、残念ながら嫌な知らせを持ってきた。うちの愚弟がこちらに向かっているらしい。今朝、兄上から届いた手紙にそう書いてあった。君に謝罪したいそうだ」
「ハーラン殿下からは既に心のこもらない謝罪を頂いているので追い返して頂けますか?」
「……兄上からの手紙によると、今度こそ本当に改心したらしい。あれでも血を分けた弟だ。私としては、それが事実なら一度でも顔が見たいというのが正直な気持ちだが、君には我々王家が多大な迷惑をかけているというのもまた事実だ。君がどうしてもハーランに会いたくないのであれば、君の意思を尊重してハーランを国に入れないよう手配する」
ディランの言葉に、リリアナは目を丸くした。
てっきりハーランに会うよう説得されるものと思っていた。
「ディラン殿下はあれほど歪んだ環境でお育ちになったのに、驚くほどまともですよね。素直に尊敬します」
「……褒め言葉と受け取っておこう」
「褒め言葉ですよ。あの王家のなかで、私のことを考えてくれたのは貴方だけでしたものね。いいですよ。ディラン殿下がそう言うのでしたら、国に入れるくらいは許して差し上げます」
リリアナのあけすけな物言いに、ディランは苦笑した。
「謝罪を聞くと言わないのが君らしいな」
「それは本人次第です」
そうか、と言って、ディランは真っ直ぐにリリアナを見た。
「君には迷惑ばかりかけて本当に申し訳ない。何かあればすぐに言ってくれ。早急に対処する」
「ええ、お願いします」
ドゴォ!!
リリアナに蹴り飛ばされ、激しい音をたてて木にぶつかった狼型の魔物が、見るも無惨な姿で地面にずり落ちていく。
マイケルはそれを何とも言えない顔で見つめた。
「お嬢様……もう少し加減しないと素材獲れませんよ」
「魔物って人間よりも頑丈だから加減が難しいのよね。気をつけてはいるんだけど」
「そうですか……まぁ、討伐依頼はクリアしてるんでいいんですけど」
昨日、二人は街の冒険者ギルドで冒険者登録を行った。
簡単な討伐依頼を請け負い、必要な装備を調えたところで日が暮れたため、翌日、こうして討伐対象の魔物が生息する森へやって来た。
リリアナの希望により、マイケルが魔法で足止めをしてリリアナが身体強化魔法で止めを刺す、という方針でやっていたのだが、これがなかなか上手くいかなかった。
初めは、リリアナの力が足りず魔物に逃げられた。
次は、絶対に逃がさないと全力を出したリリアナによって辺り一面血塗れになった。
それからは徐々に力加減を調整していったのだが、個体により頑強さが違うため、結局は力みすぎたリリアナの攻撃により魔物は残骸と化した。
だが討伐依頼自体は達成しているので、リリアナは満足そうだ。
「私って冒険者の才能もあるのね。結婚しなくてもこれで生活できそう」
「え! それはちょっと……」
その「ちょっと」はどっちの意味だ、と少しむっとするものを感じたリリアナは、まごつくマイケルに大仰に溜息をついた。
「はぁー。何でここで、そんなことしなくても俺がお前を一生養ってやる、くらい言えないのかしら。本当にヘタレね。減点よ」
「あうぅ……。つ、次は頑張ります!」
マイケルが絞り出すように言った返事に満足したリリアナは、にっこりと笑って魔物討伐を再開した。
◇◇
それから二日後、リリアナは再び商会の応接室に来ていた。
「久しぶりだな。リリアナ」
二日前に兄が座っていたその場所には、商人服に身を包んだ本国の第二王子が座っていた。
「ディラン殿下……お久しぶりです。未来の王配殿下ともあろうお方が、こんなしがない商会で何をなさっておいでですか?」
ディランが婿入りしたこの国では、女性の王位継承を認めている。本国でも認めてはいるが、基本的には男児が優先される。
ディランの妻であるこの国の王女は次期女王として王位を継ぐことが決まっているため、次期王配である彼はこんなところにいるべき人間ではないのだが。
「そう嫌そうな顔をしないでくれ、と言いたいが、残念ながら嫌な知らせを持ってきた。うちの愚弟がこちらに向かっているらしい。今朝、兄上から届いた手紙にそう書いてあった。君に謝罪したいそうだ」
「ハーラン殿下からは既に心のこもらない謝罪を頂いているので追い返して頂けますか?」
「……兄上からの手紙によると、今度こそ本当に改心したらしい。あれでも血を分けた弟だ。私としては、それが事実なら一度でも顔が見たいというのが正直な気持ちだが、君には我々王家が多大な迷惑をかけているというのもまた事実だ。君がどうしてもハーランに会いたくないのであれば、君の意思を尊重してハーランを国に入れないよう手配する」
ディランの言葉に、リリアナは目を丸くした。
てっきりハーランに会うよう説得されるものと思っていた。
「ディラン殿下はあれほど歪んだ環境でお育ちになったのに、驚くほどまともですよね。素直に尊敬します」
「……褒め言葉と受け取っておこう」
「褒め言葉ですよ。あの王家のなかで、私のことを考えてくれたのは貴方だけでしたものね。いいですよ。ディラン殿下がそう言うのでしたら、国に入れるくらいは許して差し上げます」
リリアナのあけすけな物言いに、ディランは苦笑した。
「謝罪を聞くと言わないのが君らしいな」
「それは本人次第です」
そうか、と言って、ディランは真っ直ぐにリリアナを見た。
「君には迷惑ばかりかけて本当に申し訳ない。何かあればすぐに言ってくれ。早急に対処する」
「ええ、お願いします」
23
あなたにおすすめの小説
家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。
水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。
兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。
しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。
それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。
だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。
そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。
自由になったミアは人生を謳歌し始める。
それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?
榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」
“偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。
地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。
終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。
そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。
けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。
「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」
全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。
すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく――
これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる