妹ばかり可愛がられた伯爵令嬢、妹の身代わりにされ残虐非道な冷血公爵の嫁となる

村咲

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その後の話

2話 ※公爵視点

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 もちろんアネッサは閉じ込められていた。
 閉じ込めたのは、言うまでもなくヴォルフである。

 彼女は今、自分がどれほど丁寧に軟禁されているかを知らない。
 なに不自由なく整えられた部屋は、外に出る必要を無くすため。
 呼べばすぐに現れる使用人は、世話をするためではなく見張りのため。
 誰も訪ねて来ないのは、アネッサに余計なことを吹き込まれないようにと、ヴォルフが人を遠ざけているからだ。

 おかげで七日を過ぎた今も、彼女は疑いさえもしない。
 奇しくも、彼女は父親と同じ状況下。
 親子揃って邪悪な半魔に軟禁されているなどと、夢にも思っていないようだった。

 ――鈍すぎるだろう。

 だが、その鈍さもまた可愛らしいと思うのだから重症だ。
 彼女はいつだって無自覚に、ヴォルフの心を弄ぶ。

 ――アネッサ。

 愛しい恋人の名を、ヴォルフは心の中で呟いた。

 何度も何度も手の中をすり抜けた彼女は、今はもう檻の中。
 閉じ込められているとも思わず、無邪気にヴォルフの帰りを待つ彼女を想像すると、口元に邪悪な笑みが浮かぶ。

 ――ずっと、俺だけを見ていろ。

 さもなければ、彼女はすぐに目移りして、余計なことばかり考えてしまう。
 だけどこの生活ならば、彼女はヴォルフのことだけしか見ない。

 今の生活に、ヴォルフは満足していた。

 彼女に恋をしてから、およそ三か月。
 ようやく彼は、望むものを手に入れたのだ。

 ――いや。

 まだだ。
 まだ、彼女の傷は癒えていない。

 本当に欲しいものは、これから。
 舌舐めずりでもするような気持ちで、ヴォルフはその日を待っている。

 あまりに長くおあずけをされすぎたせいで、傷が癒えた途端に喰い尽くしてしまいそうだ。

 ――早く。

 どれほど焦がれていたかを分からせてやりたい。
 押し倒して、組み伏せて、啼かせて、鳴かせて、泣かせたい。
 もう二度と、他のことなど考えられないように。

 魔族らしい欲望と、純粋な恋心が入り混じる。
 もちろん今の彼は、死んでも彼女を傷つけるような真似はしないが――。

 湧き上がる欲望そのものを止めることは、ヴォルフ自身にだって不可能だ。

 ――もどかしい。

 一日一日、焦れるように時が過ぎていく。
 早く――と望む一方で、しかし彼は、このもどかしさに心地よさを覚えてもいた。
 確実に得られるものを待つのは、存外悪い気分ではないものだ。


 陳腐な言葉だが――彼は紛れもなく、幸せの最中にあった。

 ――――「外に出たい」というアネッサの言葉を聞くまでは。
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