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その後の話
4話
「…………と、いうことなんです」
「当り前だと思いますよ」
結局、外出禁止のまま迎えた翌日。
ことのあらましを説明した私に、診察に来た医者の先生は呆れた様子でそう言った。
「ヴォルフ様でなくとも怒りますよ。理由も言わずに外に出せなんて」
ヴォルフ様が仕事で部屋を出ていき、他に人のいない部屋の中。
診察と称しつつ部屋を訪ねてきた医者は、しかし私の傷を診ようとはしない。
椅子に腰を掛ける私を、ただただ渋い顔で眺めるだけだ。
――うう……。
居心地の悪さに、私は小さく身じろぎする。
だけど私から、医者に『出ていってほしい』とは言えない。
なにせ彼は――私がどうにかお願いして、必要もないのに部屋に来てもらっているからだ。
「アネッサ様」
気まずい沈黙の中、医者は意を決したように低い声を出した。
いつも穏やかな彼の表情が、今は少し険しい。
「出過ぎた真似かと控えてきましたが、いい加減にお尋ねしますよ。私は医者である以前に、ヴォルフ様に仕える使用人の一人ですから」
声とともに、彼は一歩私に近づく。
私は反射的に身を強張らせた。
「あなたに限って、悪いことはお考えではないでしょうが……いつまでも、ヴォルフ様を騙すことはできません。――アネッサ様」
彼はそう言って、ぎくりとする私をひたと見据えた。
「いったい、なにをお考えなのですか? 傷だって――本当はもう、治っていらっしゃるというのに」
すっと目を細める彼の凄みに、私は息を呑む。
いくら優しそうに見えても――やはり彼も、この屋敷の人間なのだと、私は今さら思い知らされた。
「当り前だと思いますよ」
結局、外出禁止のまま迎えた翌日。
ことのあらましを説明した私に、診察に来た医者の先生は呆れた様子でそう言った。
「ヴォルフ様でなくとも怒りますよ。理由も言わずに外に出せなんて」
ヴォルフ様が仕事で部屋を出ていき、他に人のいない部屋の中。
診察と称しつつ部屋を訪ねてきた医者は、しかし私の傷を診ようとはしない。
椅子に腰を掛ける私を、ただただ渋い顔で眺めるだけだ。
――うう……。
居心地の悪さに、私は小さく身じろぎする。
だけど私から、医者に『出ていってほしい』とは言えない。
なにせ彼は――私がどうにかお願いして、必要もないのに部屋に来てもらっているからだ。
「アネッサ様」
気まずい沈黙の中、医者は意を決したように低い声を出した。
いつも穏やかな彼の表情が、今は少し険しい。
「出過ぎた真似かと控えてきましたが、いい加減にお尋ねしますよ。私は医者である以前に、ヴォルフ様に仕える使用人の一人ですから」
声とともに、彼は一歩私に近づく。
私は反射的に身を強張らせた。
「あなたに限って、悪いことはお考えではないでしょうが……いつまでも、ヴォルフ様を騙すことはできません。――アネッサ様」
彼はそう言って、ぎくりとする私をひたと見据えた。
「いったい、なにをお考えなのですか? 傷だって――本当はもう、治っていらっしゃるというのに」
すっと目を細める彼の凄みに、私は息を呑む。
いくら優しそうに見えても――やはり彼も、この屋敷の人間なのだと、私は今さら思い知らされた。
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