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王妃の反旗(4)
気が付けば、私は暗い穴の中にいた。
妙に埃っぽく、かび臭い場所だ。
周囲には無数のがれきの他に、古びたガラクタがいくつも転がっている。
――――…………生きている?
私は穴の中、まだ現実感もなく瞬いた。
生きている、どころか、ところどころ体が痛むだけで、大きな怪我もないらしい。
――アデライトの魔法を受けたのに?
魔力のない私には、魔法から身を守るすべはない。
アデライトの魔法を真正面から受け、無事で済むはずはないのに。
「――――お兄様! ミシェル!!」
そう思った直後。そのアデライトの声が頭上から響く。
顔を上げれば、夕暮れに向かう赤い空と、涙目でこちらを見下ろすアデライトの顔が見えた。
「大丈夫!? 魔法が暴発して、いきなり地面が崩れて……。たぶんそこ、地下室なんだと思うけど、降り方がわからないの……! だから、ええと……と、とにかく、すぐに人を呼んでくるわ!!」
一人で混乱したように叫ぶと、アデライトはそのまますぐに踵を返した。
姿が見えなくなってすぐ、べちゃりと転ぶ音と「あだっ!」という彼女の叫び声が聞こえてくる。
――心配だわ……。
と思うけれど、私の方も人の心配をしている状況ではない。
だんだんと現実感を取り戻すにつれ、私は今の自分が置かれている状況に気が付いた。
つまり――――。
「……大丈夫か、ミシェル」
すぐ傍で聞こえた声に、私はびくりと身を強張らせた。
跳ね起きようとしたけれど――起きられない。
なにかに、腰をがっちりと押さえられている。
「アデライトの魔法は防いだつもりだけど、咄嗟のことだったから――どこか、痛むところは?」
「――――アンリ様!」
私は慌てて体を捻り、声に顔を向けた。
西日に陰る暗い地下。目に映るのは、ずっと追いかけていた相手――アンリの姿だ。
私を抱きかかえたまま、半身を起こした彼の姿に、どうして自分が無事だったのかを理解する。
アデライトの魔法からも――おそらく、この地下に落ちるときも、彼が私を守ってくれたのだ。
「だ、大丈夫です! それよりアンリ様こそご無事ですか!? お、お怪我は……!!」
「俺は問題ない。君に怪我がなくてなによりだ」
そう言ってから、アンリはふっと目を細める。
どこか呆れたような、それでいて懐かしむような目の色で、腕の中の私を見下ろした。
「君は相変わらず無茶をする。今まで何度も痛い目に遭わされてきただろう? アデライトの魔法にも……俺の魔法にも」
「そ、それはそうですけど、止めないとアンリ様や他の人が怪我をするかもしれませんし……!」
「俺はこのくらいは平気だし、アデライトも一応手加減はしていたみたいだ。放っておいても、たぶん大きな被害は出なかったと思う。――まあ、地下が崩れるのは予想外だったようだけど」
「そう…………だったんですか!?」
だとしたら、割って入った私はなんだったのか。
無意味――どころかアンリまで巻き込むなんて、はた迷惑もいいところだ。
あまりの自分の間抜けさに愕然とする。
――私って……いったい……。
と、状況も忘れて頭を抱える私を見やり、アンリが頭の上で吹き出した。
「君は変わらないな。普段は大人しいのに、こういうときはむちゃくちゃで、無鉄砲で」
アンリの笑い声が聞こえる。
うう……と私は居心地悪くうつむいた。
うつむくと、私の腰を抱くアンリの腕が見えて、ますます気まずくなる。
私をかばうために抱きかかえてくれただけで、他意はない――――とはわかっているのだけども。
「怖いもの知らずで、俺やアデライトにも物怖じすることもなく――逃げても逃げても、追いかけてくる」
「あ、アンリ様を追いかけようとしたのは、アデライト様の方で……!!」
気まずさを誤魔化すように、私はアンリの言葉に反論しかけ――開いた口を、しかしそのままつぐんでしまった。
私を見下ろすアンリの表情に気付いてしまったからだ。
「アンリ『様』…………か。そこも君は変わらない。子供のころは、呼び捨てにしてたくせに」
腰を抱く手に力が込められる。
青い瞳には影が差し、どこか底知れなさがあった。
私に向けるアンリの表情は、苦笑だ。
寂しそうに、悲しそうに――どこか息苦しそうに、私を見つめている。
「俺を受け入れられないのに、どうして追いかけてきてしまうんだ」
妙に埃っぽく、かび臭い場所だ。
周囲には無数のがれきの他に、古びたガラクタがいくつも転がっている。
――――…………生きている?
私は穴の中、まだ現実感もなく瞬いた。
生きている、どころか、ところどころ体が痛むだけで、大きな怪我もないらしい。
――アデライトの魔法を受けたのに?
魔力のない私には、魔法から身を守るすべはない。
アデライトの魔法を真正面から受け、無事で済むはずはないのに。
「――――お兄様! ミシェル!!」
そう思った直後。そのアデライトの声が頭上から響く。
顔を上げれば、夕暮れに向かう赤い空と、涙目でこちらを見下ろすアデライトの顔が見えた。
「大丈夫!? 魔法が暴発して、いきなり地面が崩れて……。たぶんそこ、地下室なんだと思うけど、降り方がわからないの……! だから、ええと……と、とにかく、すぐに人を呼んでくるわ!!」
一人で混乱したように叫ぶと、アデライトはそのまますぐに踵を返した。
姿が見えなくなってすぐ、べちゃりと転ぶ音と「あだっ!」という彼女の叫び声が聞こえてくる。
――心配だわ……。
と思うけれど、私の方も人の心配をしている状況ではない。
だんだんと現実感を取り戻すにつれ、私は今の自分が置かれている状況に気が付いた。
つまり――――。
「……大丈夫か、ミシェル」
すぐ傍で聞こえた声に、私はびくりと身を強張らせた。
跳ね起きようとしたけれど――起きられない。
なにかに、腰をがっちりと押さえられている。
「アデライトの魔法は防いだつもりだけど、咄嗟のことだったから――どこか、痛むところは?」
「――――アンリ様!」
私は慌てて体を捻り、声に顔を向けた。
西日に陰る暗い地下。目に映るのは、ずっと追いかけていた相手――アンリの姿だ。
私を抱きかかえたまま、半身を起こした彼の姿に、どうして自分が無事だったのかを理解する。
アデライトの魔法からも――おそらく、この地下に落ちるときも、彼が私を守ってくれたのだ。
「だ、大丈夫です! それよりアンリ様こそご無事ですか!? お、お怪我は……!!」
「俺は問題ない。君に怪我がなくてなによりだ」
そう言ってから、アンリはふっと目を細める。
どこか呆れたような、それでいて懐かしむような目の色で、腕の中の私を見下ろした。
「君は相変わらず無茶をする。今まで何度も痛い目に遭わされてきただろう? アデライトの魔法にも……俺の魔法にも」
「そ、それはそうですけど、止めないとアンリ様や他の人が怪我をするかもしれませんし……!」
「俺はこのくらいは平気だし、アデライトも一応手加減はしていたみたいだ。放っておいても、たぶん大きな被害は出なかったと思う。――まあ、地下が崩れるのは予想外だったようだけど」
「そう…………だったんですか!?」
だとしたら、割って入った私はなんだったのか。
無意味――どころかアンリまで巻き込むなんて、はた迷惑もいいところだ。
あまりの自分の間抜けさに愕然とする。
――私って……いったい……。
と、状況も忘れて頭を抱える私を見やり、アンリが頭の上で吹き出した。
「君は変わらないな。普段は大人しいのに、こういうときはむちゃくちゃで、無鉄砲で」
アンリの笑い声が聞こえる。
うう……と私は居心地悪くうつむいた。
うつむくと、私の腰を抱くアンリの腕が見えて、ますます気まずくなる。
私をかばうために抱きかかえてくれただけで、他意はない――――とはわかっているのだけども。
「怖いもの知らずで、俺やアデライトにも物怖じすることもなく――逃げても逃げても、追いかけてくる」
「あ、アンリ様を追いかけようとしたのは、アデライト様の方で……!!」
気まずさを誤魔化すように、私はアンリの言葉に反論しかけ――開いた口を、しかしそのままつぐんでしまった。
私を見下ろすアンリの表情に気付いてしまったからだ。
「アンリ『様』…………か。そこも君は変わらない。子供のころは、呼び捨てにしてたくせに」
腰を抱く手に力が込められる。
青い瞳には影が差し、どこか底知れなさがあった。
私に向けるアンリの表情は、苦笑だ。
寂しそうに、悲しそうに――どこか息苦しそうに、私を見つめている。
「俺を受け入れられないのに、どうして追いかけてきてしまうんだ」
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