破滅したくない悪役令嬢によって、攻略対象の王子様とくっつけられそうです

村咲

文字の大きさ
21 / 76

王妃の反旗(4)

しおりを挟む
 気が付けば、私は暗い穴の中にいた。
 妙に埃っぽく、かび臭い場所だ。
 周囲には無数のがれきの他に、古びたガラクタがいくつも転がっている。

 ――――…………生きている?

 私は穴の中、まだ現実感もなく瞬いた。
 生きている、どころか、ところどころ体が痛むだけで、大きな怪我もないらしい。

 ――アデライトの魔法を受けたのに?

 魔力のない私には、魔法から身を守るすべはない。
 アデライトの魔法を真正面から受け、無事で済むはずはないのに。

「――――お兄様! ミシェル!!」

 そう思った直後。そのアデライトの声が頭上から響く。
 顔を上げれば、夕暮れに向かう赤い空と、涙目でこちらを見下ろすアデライトの顔が見えた。

「大丈夫!? 魔法が暴発して、いきなり地面が崩れて……。たぶんそこ、地下室なんだと思うけど、降り方がわからないの……! だから、ええと……と、とにかく、すぐに人を呼んでくるわ!!」

 一人で混乱したように叫ぶと、アデライトはそのまますぐに踵を返した。
 姿が見えなくなってすぐ、べちゃりと転ぶ音と「あだっ!」という彼女の叫び声が聞こえてくる。

 ――心配だわ……。

 と思うけれど、私の方も人の心配をしている状況ではない。
 だんだんと現実感を取り戻すにつれ、私は今の自分が置かれている状況に気が付いた。

 つまり――――。

「……大丈夫か、ミシェル」

 すぐ傍で聞こえた声に、私はびくりと身を強張らせた。
 跳ね起きようとしたけれど――起きられない。
 なにかに、腰をがっちりと押さえられている。

「アデライトの魔法は防いだつもりだけど、咄嗟のことだったから――どこか、痛むところは?」
「――――アンリ様!」

 私は慌てて体を捻り、声に顔を向けた。
 西日に陰る暗い地下。目に映るのは、ずっと追いかけていた相手――アンリの姿だ。

 私を抱きかかえたまま、半身を起こした彼の姿に、どうして自分が無事だったのかを理解する。
 アデライトの魔法からも――おそらく、この地下に落ちるときも、彼が私を守ってくれたのだ。

「だ、大丈夫です! それよりアンリ様こそご無事ですか!? お、お怪我は……!!」
「俺は問題ない。君に怪我がなくてなによりだ」

 そう言ってから、アンリはふっと目を細める。
 どこか呆れたような、それでいて懐かしむような目の色で、腕の中の私を見下ろした。

「君は相変わらず無茶をする。今まで何度も痛い目に遭わされてきただろう? アデライトの魔法にも……俺の魔法にも」
「そ、それはそうですけど、止めないとアンリ様や他の人が怪我をするかもしれませんし……!」
「俺はこのくらいは平気だし、アデライトも一応手加減はしていたみたいだ。放っておいても、たぶん大きな被害は出なかったと思う。――まあ、地下が崩れるのは予想外だったようだけど」
「そう…………だったんですか!?」

 だとしたら、割って入った私はなんだったのか。
 無意味――どころかアンリまで巻き込むなんて、はた迷惑もいいところだ。
 あまりの自分の間抜けさに愕然とする。

 ――私って……いったい……。

 と、状況も忘れて頭を抱える私を見やり、アンリが頭の上で吹き出した。

「君は変わらないな。普段は大人しいのに、こういうときはむちゃくちゃで、無鉄砲で」

 アンリの笑い声が聞こえる。
 うう……と私は居心地悪くうつむいた。
 うつむくと、私の腰を抱くアンリの腕が見えて、ますます気まずくなる。

 私をかばうために抱きかかえてくれただけで、他意はない――――とはわかっているのだけども。

「怖いもの知らずで、俺やアデライトにも物怖じすることもなく――逃げても逃げても、追いかけてくる」
「あ、アンリ様を追いかけようとしたのは、アデライト様の方で……!!」

 気まずさを誤魔化すように、私はアンリの言葉に反論しかけ――開いた口を、しかしそのままつぐんでしまった。

 私を見下ろすアンリの表情に気付いてしまったからだ。

「アンリ『様』…………か。そこも君は変わらない。子供のころは、呼び捨てにしてたくせに」

 腰を抱く手に力が込められる。
 青い瞳には影が差し、どこか底知れなさがあった。

 私に向けるアンリの表情は、苦笑だ。
 寂しそうに、悲しそうに――どこか息苦しそうに、私を見つめている。

「俺を受け入れられないのに、どうして追いかけてきてしまうんだ」
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。 王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。 エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。 だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。 そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。 夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。 一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。 知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。 経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

処理中です...