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第三話 捕らわれしの王子《シュイット》様
04.君を乗せた海賊船
しおりを挟む陽が沈み、空は暗闇の衣に覆われたかのように真っ暗だった。そのお陰で、海上に灯る明かりが非常に目立っていた。
明かりの元は、ダーグバッドの船……シーサーペント号によるもの。
ヨルムンガンド号よりも二回りほど大きい二段櫂帆船。二本の帆柱がそびえ立ち、弩砲や大砲といった武装されている船から笑い声が響く。
「さあー、オマエら! 飲んでいるか! 今日は戦勝祝いと今後の前祝いだ、大いに飲め!」
無精を象徴したような長い髪と長いヒゲが特徴で厳つい風貌をした年配の男性が、酒が並々と注がれた木杯を片手に持って音頭を取っていた。汚い身なりで異臭が漂ってくるが、当人や周囲は気にも留めない。
船員たちは「オー! 流石は俺たちの親分、ダーグバッド様だ!」と意気揚々に声を上げ、一気に酒を飲み干した。
「くはっ! うひぃ~~なんて美味い酒だ。ましてや、王族の情けない姿を肴にしてるから、より美味く感じるな。どうですかな、シュイット王子。今は、どんなご気分で?」
ダーグバッドは嫌らしい笑みを浮かべて、帆柱にくくりつけられて蓑虫のように縛られているシュイットを見た。
王族の気品を感じさせていた金髪は無様にボサボサとなり、顔に傷や青アザがあった。
シュイットは頭を下げたまま、悔しさを噛み締めて堪えていた。
自分の負傷はどうでも良かったが、アーステイム王国の誇りをひどく傷つけらたことに強い不甲斐なさを感じていた。
このまま生き長らえても、本国や兄たちに迷惑をかける。ならば――
「さっさと殺せ……。殺すがいい……」
「おうおう、その心持ち、非常に見事でございます、シュイット王子。し・か・し、貴様には生かす価値はあるが、殺す価値は無いのですよ」
ダーグバッドはシュイットに近づいて酒臭い息をわざと吹きかけた。シュイットが顔をそむけると、すぐさまシュイットの喉元に小剣(レイピア)を突きつけた。
その小剣はシュイットの愛剣でありアーステイム王国の宝剣の一振り。ダーグバッドは戦利品として奪っていたのだ。
「……それこそ僕を生かしても、何も価値は無い。人質に取ったとしても無意味なことだ」
「そんなに自分を卑下なされるな。その御身をガンダリア帝国を引き渡せば、それなりの見返りがありますでしょう。それに、第二王子を敵国の手に渡ったとなれば、アーステイム王国の権威は失墜し、他国から低く見られることになるでしょう。つまり、貴方の命にはそれなりの価値があるのです」
「体調が悪くなければ、下賎な者たちに遅れを取らなかったのに……」
「王族なる者、簡単に負け惜しみを言わないが良いですよ。アーステイム王国の品位を落としますよ」
ダーグバッドを始めとする船員たちは盛大に誹謗し、場は笑いに包まれる。
シュイットは泣くまいと我慢していたが、こらえ切れず宝石のような蒼い瞳から大粒の涙を流してしまったのだった。それがまた馬鹿にされる材料となってしまった。
船員たちは戦果に酔い痴れ、やがて酒も飲み干されて宴も自然と終わり、見張りの下っ端たちを残して、船員たちは盛大のイビキをかいて眠っていた。その見張りをしている下っ端たちも酒飲していたので、目がウトウトとしている。
都合の良い状況だった。
ダーグバッドたちに気付かれない距離に離れた場所で、ヨルムンガンド号は明かりを点けず闇に隠れていたのだ。
「よし、おまえたち準備の方は良いなと?」
ヴァイルが訊ねると、ラトフたちは静かに頷いたのだった。
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