15 / 45
第四話 神聖アーステイム王国で夕食を
01.君は特別
しおりを挟む
ヴァイルたち一行は、助け出したシュイットを送り届けるべく神聖アーステイム王国へと目指していた。
追い風が吹き、帆は大きく膨らんで、快速に進んでいく。順調に運航するヨルムンガンド号。
「良い風だ。この風ならば、二日程度でアーステイム王国に着くな」
舵の隣に設置されている特等席のハンモックに寝そべっているヴァイルの独り言のような言葉に、操舵手のガウディが反応する。
「ええ。この速さならば、ダーグバッドの追っ手も簡単に追いつきはしないでしょう。それにアーステイム王国の領域に入っていますから、よほどの馬鹿か策士でなければ侵攻しないでしょう」
「暫くは、ゆっくりとした船旅を満喫は出来るかな……ん?」
ヴァイルの視界にヒヨリが映った。
ヒヨリは船酔いでダウンしているシュイットを介抱していた。
シュイットは意識を取り戻してからは、重度の船酔いによる不快感と宝剣を奪われた喪失感から死にそうだった。
「だ、大丈夫ですか?」
「…………」
ヒヨリの配慮にも無言のシュイット。
「なんだか、茂兄さんの最初の頃を思い出すな」
漁師になるべく飛芽島に移住してきた立花茂も最初の漁で船酔いでダウンしてしまい、親戚のおじさんから「あいつは、漁師は無理だな」と確信持って言われ、茂は一か月間ほど酔い止め薬が欠かせなかった。
「酔い止めの薬でもあれば……あった!」
ヒヨリは救命胴衣の非常用一式の中から、酔い止め薬(顆粒剤)のシートを取り出した。
「うん、水なしでも飲めるやつだ」
薬の包装シートを切り取り、シュイットへと差し出す。
「えっと……これを飲んでください。気分が楽になりますよ」
得も知れないものと、優れない体調の為に何も口にしたくはなかった。が――
「ほら、飲んでください!」
ヒヨリは強引にシュイットの口の中に薬を流し込んだ。
「うっーーー! ん?」
ほのかに甘い味が口の中に広がると、清涼感が食道から胃へと身体全体に浸透していく。
暫くして不快感は緩和され、船酔いが治まったのであった。
「体調が良くなったみたいですね」
先ほどとは打って変わって、シュイットの顔色が良くなっているのがハッキリと解る。
「ええ、ありがとうございま……えっ、女性?」
シュイットは、ここで初めてヒヨリの存在に気付いた。体調が悪かったので気にする余裕がなかったのだ。
じっくりとヒヨリを見る、シュイット。
ヴァイルたち海賊員は、これまで“例外のあの人を除いて”女性の船員がいなかったはずである。
ましてや、ヴァイルや自分とは違った顔つきや着ている服装から、異国の者であるとうかがい知れる。
「あなたは?」
「あ、私ですか? 名前は、若林日和って言います」
「ワカバヤシ、ヒヨリ?」
その名も珍しかった。
「あ、私は……遭難者というか、この人たちに救助されて致し方なく同船している訳で……」
「助けて貰った、ですか?」
「うん。それで、私の家を探して貰っているところなの」
「そうなのですか。ところで、貴女の家……ワカバヤシヒヨリの国は何処なのですか?」
「あ、若林は苗字だから、下の名前のヒヨリだけで良いよ。えっとね、日本って所なんだけど、知らないよね?」
シュイットもヴァイルの時と同様に首を傾げる。少なくとも自国……アーステイム王国の領内には思い当たらない地名だった。ヒントになるような情報を求めようとしたが、
「シュイット、そいつは遭難した影響で、どうやら記憶を失っているみたいだから、あまり深く追及してやるなよ」
シュイットたちが振り返ると、そこにヴァイルが立っていた。
「遭難ですか?」
「ああ」
「そうだったのですか……。それは……」
シュイットは申し訳なさそうな表情を浮かべて、ヒヨリを見た。記憶喪失、しかも帰る場所も解らないとなると、その不安と恐怖に心中察してしまう。
「あ、いや、その気にしないでください。まあ、頑張ってこの人(ヴァイル)たちに、日本へ連れて行って貰いますから」
ヒヨリの他愛も無い物言いに、シュイットはあっ気に取られてしまう。
仮にもヴァイルたちは名を轟かす海賊である。その者に対しての軽い扱い方に異様さを感じた。
「ところで、シュイットは……あっ! そういえば、どこかの国の王子様なんだよね。だったら、やっぱり様とか敬称を付けた方がいいよね?」
自分の名前を呼び捨てにされたことより、どこかの国……アーステイム王国の名前が出なかったのには、シュイットは少し眉をひそめてしまう。この世界に生きる者たちにとって、三大国を知っていて当然だからだ。
「べ、別に構いませんよ。ヒヨリの好きなようにお呼びください。アーステイム王国の王子と言えど、このヨルムンガンド号の船では国の身分など無く、個人の名前を呼び合うのが決まりですから」
「そうなの?」
「船にはそれぞれの決まりがあります。ある意味、国のようなものです。このヨルムンガンド号では、そういった決まりがあるんですよ。船員、乗り組み員は平等だと」
船の上では船長命令は絶対であるというのは地球でもある習わしだ。とはいえ、流石に客人、ましてや高貴の身分の方を呼び捨てにしたりしないが。
だからこそ、海賊の頭目であり船長でもあるヴァイルに対しては、それなりの敬意を払うべきだが、ヒヨリからは、それを感じられなかった。
ただの遭難者や救助者ではないと察して、シュイットはヴァイルに目を向けると、ヴァイルは不敵な笑みを浮かべた。
「まあ、俺の嫁だからな。多少の無礼は免じているんだよ」
シュイットは「嫁?」と一瞬驚くも、この世界では十代での結婚は珍しくはない。
「こ、これは失礼……」
だからだと納得しようとしたが、ヒヨリは怒気を含んだ顔色に変えて、いきり立った。
「な、なに言ってるのよ! あんたが勝手言っているだけでしょう! 私はあんたのものでも、嫁でもなんでもないからね!」
ヒヨリの反論にヴァイルは涼しい顔で聞き流す……もとい聞いてないようだった。だが、シュイットは身体を震わせて、ヴァイルを睨んだ。
「ヴァイル、どういうことですか! 誘拐や奴隷、本人の意志を反しての強制的な婚姻はアーステイム王国では禁じられていることですよ!」
「確かに、まだ良い返事は貰ってはないが……決定事項だ。だがな、シュイット。そもそも俺はアーステイムの民ではない」
他国民ならば自国(アーステイム王国)の法律を破っても問題無い……訳が無い。
「確かにそうですが、同盟を結んでいるのです。アーステイム王国の法は順守されるべきです」
「だったら、アーステイムとの同盟を破棄しても良い」
ヴァイルの不図した宣言にシュイットは心臓が飛び出しそうになった。
「な、何を……。冗談です、よね?」
訊ねるものの、今にも斬りかかってきそうにヴァイルの好戦的な鋭い瞳から、とても冗談ではないとシュイットは察し、ヴァイルの視線から逸らすように、しかめっ面を浮かべているヒヨリを見た。
(あのヴァイルが、これほどのことを言わせるなんて。このヒヨリという女性は一体……)
幼い頃よりヴァイルと付き合いがあり、彼の摯実(しじつ)な人間性を知っている。若くしてヨルムンガンド海賊の頭目を務め、屈強な凶賊を討ち破る強さを持ち、実の兄と同じように尊敬している所もある。
たった一人の女性の為に、アーステイム王国との結びつきを切ろうとしているのだ。
シュイットもヒヨリに、より興味が沸いてしまう。
しかし、先ほどの会話から無理強いをし、誘拐などの疑いもある。神聖アーステイム王国の王子として見逃せはしない。真意を問い正そうした時だった。
カーン! と、高い音が鳴り響いた。
見張り台に居るラトフが、柱に括り付けられている鐘をダーグバッドの船を見つけた時とは違って、遅い間隔で打ち鳴らしている。
鐘の鳴らし方によって様々な情報を伝えて分かるようにしてある。今回のような遅い間隔での警鐘は、近づく船が敵船または不審船では無いと報せていた。
「ヴァイル様、北西の方向。アーステイム王国の軍船です」
ラトフが大きな声で伝えると、一同はその方角を向いた。
その方向には大型の軍船が四隻も在り、帆にはアーステイム王国を示す剣と翼を象徴した紋章が描かれていた。
「ということは、シュイット救援の船だろう。良かったな、シュイット。お迎えが来たみたいだぞ。だけど念の為に陰に隠れていろ。敵の罠かも知れないしな」
ヴァイルはシュイットの頭を軽く叩くと、背を向けてその場を立ち去ったのであった。
***
「私は、神聖アーステイム王国の第二兵士軍長、スーイ・ヘルベスクと申します。貴殿は?」
ヨルムンガンド号とアーステイム王国の軍船は接舷すると、立派な口髭を蓄え、歴戦の戦士の証である傷跡が何箇所もある顔に相応しく、絢爛豪華な鎧をまとった兵士が声高に名乗った。
「ヨルムンガンド海賊団、船長のヴァイルだ。見るからに、シュイット王子の救助に向かっている援軍か?」
「如何にも。貴殿の話しは、我軍兵士のルドから伺っている。して、シュイット王子救出に向かっていたと聞いたが……何故、ここに居るのか?」
「シュイット王子ならば無事救出に成功して、アーステイム王国に送り届けている最中だ」
用心して敵(ダーグバッド)などの偽装や罠ではないと確認し、ヴァイルはシュイットに姿を現すように指図した。
敵の襲撃を受けて囚われの身となり、あまつさえ宝剣を奪われてしまったのだ。面目ないとして、シュイットは静々と身を出した。
「シュイット殿下、ご無事でしたか」
アーステイム王国の兵士たちは全員は一斉に敬礼のポーズを取り、王族に向けて軍式の挨拶を行った。
「ああ、ヴァイルたちヨルムンガンド海賊団が助けてくれた」
「そうでございましたか」
軍長のスーイはヴァイルの方へと身体を向けると、最上級の辞儀をすると、他の兵士たちも後に続いた。
「シュイット殿下をお救いいただき真に多謝至極にあります。アーステイムの臣と民を代表して、礼を述べさせていただき……」
話しの途中で、ヴァイルは堅い礼に煩わしさを感じて手のひらを向ける。
「別にあんたたちから感謝を言われなくても、セシルたちに直接述べて貰うさ。それと、ガッポリと報奨もな」
王族を呼び捨てにされて、臣子としては内心腹ただしいが、王子たちのヴァイルとの関係は把握しており、なおかつシュイットを救助してくれた恩人である。そもそも海賊なのだ。無礼なのは承知しておかなければならない。スーイは叱責したいのをぐっと飲み込んで、平静さを繕った。
「そうですか。我が陛下や殿下からも謝辞を承ることでしょう」
「それじゃ、さっさとこのお荷物(シュイット)を引き取ってくれ」
ヴァイルの催促にスーイたちは直立不動のままだった。渡り板をかけるなり準備作業をしても良いものだが。
「スーイ軍長、どうした?」と、シュイットが訊ねた。
「……シュイット殿下、大変申し訳ありませんが、セシル殿下より仰せつけられているのですが……先の無法海賊討伐の任を完遂するまで、アーステイム王国への立ち入りを禁じられております」
「なっ!?」
予想だにしない返答に、シュイットのみならずヴァイルたちも絶句してしまったのだった。
「うん、なになに?」
その中で一人話しついていけないヒヨリは、各々の顔を伺うしか出来なかった。
追い風が吹き、帆は大きく膨らんで、快速に進んでいく。順調に運航するヨルムンガンド号。
「良い風だ。この風ならば、二日程度でアーステイム王国に着くな」
舵の隣に設置されている特等席のハンモックに寝そべっているヴァイルの独り言のような言葉に、操舵手のガウディが反応する。
「ええ。この速さならば、ダーグバッドの追っ手も簡単に追いつきはしないでしょう。それにアーステイム王国の領域に入っていますから、よほどの馬鹿か策士でなければ侵攻しないでしょう」
「暫くは、ゆっくりとした船旅を満喫は出来るかな……ん?」
ヴァイルの視界にヒヨリが映った。
ヒヨリは船酔いでダウンしているシュイットを介抱していた。
シュイットは意識を取り戻してからは、重度の船酔いによる不快感と宝剣を奪われた喪失感から死にそうだった。
「だ、大丈夫ですか?」
「…………」
ヒヨリの配慮にも無言のシュイット。
「なんだか、茂兄さんの最初の頃を思い出すな」
漁師になるべく飛芽島に移住してきた立花茂も最初の漁で船酔いでダウンしてしまい、親戚のおじさんから「あいつは、漁師は無理だな」と確信持って言われ、茂は一か月間ほど酔い止め薬が欠かせなかった。
「酔い止めの薬でもあれば……あった!」
ヒヨリは救命胴衣の非常用一式の中から、酔い止め薬(顆粒剤)のシートを取り出した。
「うん、水なしでも飲めるやつだ」
薬の包装シートを切り取り、シュイットへと差し出す。
「えっと……これを飲んでください。気分が楽になりますよ」
得も知れないものと、優れない体調の為に何も口にしたくはなかった。が――
「ほら、飲んでください!」
ヒヨリは強引にシュイットの口の中に薬を流し込んだ。
「うっーーー! ん?」
ほのかに甘い味が口の中に広がると、清涼感が食道から胃へと身体全体に浸透していく。
暫くして不快感は緩和され、船酔いが治まったのであった。
「体調が良くなったみたいですね」
先ほどとは打って変わって、シュイットの顔色が良くなっているのがハッキリと解る。
「ええ、ありがとうございま……えっ、女性?」
シュイットは、ここで初めてヒヨリの存在に気付いた。体調が悪かったので気にする余裕がなかったのだ。
じっくりとヒヨリを見る、シュイット。
ヴァイルたち海賊員は、これまで“例外のあの人を除いて”女性の船員がいなかったはずである。
ましてや、ヴァイルや自分とは違った顔つきや着ている服装から、異国の者であるとうかがい知れる。
「あなたは?」
「あ、私ですか? 名前は、若林日和って言います」
「ワカバヤシ、ヒヨリ?」
その名も珍しかった。
「あ、私は……遭難者というか、この人たちに救助されて致し方なく同船している訳で……」
「助けて貰った、ですか?」
「うん。それで、私の家を探して貰っているところなの」
「そうなのですか。ところで、貴女の家……ワカバヤシヒヨリの国は何処なのですか?」
「あ、若林は苗字だから、下の名前のヒヨリだけで良いよ。えっとね、日本って所なんだけど、知らないよね?」
シュイットもヴァイルの時と同様に首を傾げる。少なくとも自国……アーステイム王国の領内には思い当たらない地名だった。ヒントになるような情報を求めようとしたが、
「シュイット、そいつは遭難した影響で、どうやら記憶を失っているみたいだから、あまり深く追及してやるなよ」
シュイットたちが振り返ると、そこにヴァイルが立っていた。
「遭難ですか?」
「ああ」
「そうだったのですか……。それは……」
シュイットは申し訳なさそうな表情を浮かべて、ヒヨリを見た。記憶喪失、しかも帰る場所も解らないとなると、その不安と恐怖に心中察してしまう。
「あ、いや、その気にしないでください。まあ、頑張ってこの人(ヴァイル)たちに、日本へ連れて行って貰いますから」
ヒヨリの他愛も無い物言いに、シュイットはあっ気に取られてしまう。
仮にもヴァイルたちは名を轟かす海賊である。その者に対しての軽い扱い方に異様さを感じた。
「ところで、シュイットは……あっ! そういえば、どこかの国の王子様なんだよね。だったら、やっぱり様とか敬称を付けた方がいいよね?」
自分の名前を呼び捨てにされたことより、どこかの国……アーステイム王国の名前が出なかったのには、シュイットは少し眉をひそめてしまう。この世界に生きる者たちにとって、三大国を知っていて当然だからだ。
「べ、別に構いませんよ。ヒヨリの好きなようにお呼びください。アーステイム王国の王子と言えど、このヨルムンガンド号の船では国の身分など無く、個人の名前を呼び合うのが決まりですから」
「そうなの?」
「船にはそれぞれの決まりがあります。ある意味、国のようなものです。このヨルムンガンド号では、そういった決まりがあるんですよ。船員、乗り組み員は平等だと」
船の上では船長命令は絶対であるというのは地球でもある習わしだ。とはいえ、流石に客人、ましてや高貴の身分の方を呼び捨てにしたりしないが。
だからこそ、海賊の頭目であり船長でもあるヴァイルに対しては、それなりの敬意を払うべきだが、ヒヨリからは、それを感じられなかった。
ただの遭難者や救助者ではないと察して、シュイットはヴァイルに目を向けると、ヴァイルは不敵な笑みを浮かべた。
「まあ、俺の嫁だからな。多少の無礼は免じているんだよ」
シュイットは「嫁?」と一瞬驚くも、この世界では十代での結婚は珍しくはない。
「こ、これは失礼……」
だからだと納得しようとしたが、ヒヨリは怒気を含んだ顔色に変えて、いきり立った。
「な、なに言ってるのよ! あんたが勝手言っているだけでしょう! 私はあんたのものでも、嫁でもなんでもないからね!」
ヒヨリの反論にヴァイルは涼しい顔で聞き流す……もとい聞いてないようだった。だが、シュイットは身体を震わせて、ヴァイルを睨んだ。
「ヴァイル、どういうことですか! 誘拐や奴隷、本人の意志を反しての強制的な婚姻はアーステイム王国では禁じられていることですよ!」
「確かに、まだ良い返事は貰ってはないが……決定事項だ。だがな、シュイット。そもそも俺はアーステイムの民ではない」
他国民ならば自国(アーステイム王国)の法律を破っても問題無い……訳が無い。
「確かにそうですが、同盟を結んでいるのです。アーステイム王国の法は順守されるべきです」
「だったら、アーステイムとの同盟を破棄しても良い」
ヴァイルの不図した宣言にシュイットは心臓が飛び出しそうになった。
「な、何を……。冗談です、よね?」
訊ねるものの、今にも斬りかかってきそうにヴァイルの好戦的な鋭い瞳から、とても冗談ではないとシュイットは察し、ヴァイルの視線から逸らすように、しかめっ面を浮かべているヒヨリを見た。
(あのヴァイルが、これほどのことを言わせるなんて。このヒヨリという女性は一体……)
幼い頃よりヴァイルと付き合いがあり、彼の摯実(しじつ)な人間性を知っている。若くしてヨルムンガンド海賊の頭目を務め、屈強な凶賊を討ち破る強さを持ち、実の兄と同じように尊敬している所もある。
たった一人の女性の為に、アーステイム王国との結びつきを切ろうとしているのだ。
シュイットもヒヨリに、より興味が沸いてしまう。
しかし、先ほどの会話から無理強いをし、誘拐などの疑いもある。神聖アーステイム王国の王子として見逃せはしない。真意を問い正そうした時だった。
カーン! と、高い音が鳴り響いた。
見張り台に居るラトフが、柱に括り付けられている鐘をダーグバッドの船を見つけた時とは違って、遅い間隔で打ち鳴らしている。
鐘の鳴らし方によって様々な情報を伝えて分かるようにしてある。今回のような遅い間隔での警鐘は、近づく船が敵船または不審船では無いと報せていた。
「ヴァイル様、北西の方向。アーステイム王国の軍船です」
ラトフが大きな声で伝えると、一同はその方角を向いた。
その方向には大型の軍船が四隻も在り、帆にはアーステイム王国を示す剣と翼を象徴した紋章が描かれていた。
「ということは、シュイット救援の船だろう。良かったな、シュイット。お迎えが来たみたいだぞ。だけど念の為に陰に隠れていろ。敵の罠かも知れないしな」
ヴァイルはシュイットの頭を軽く叩くと、背を向けてその場を立ち去ったのであった。
***
「私は、神聖アーステイム王国の第二兵士軍長、スーイ・ヘルベスクと申します。貴殿は?」
ヨルムンガンド号とアーステイム王国の軍船は接舷すると、立派な口髭を蓄え、歴戦の戦士の証である傷跡が何箇所もある顔に相応しく、絢爛豪華な鎧をまとった兵士が声高に名乗った。
「ヨルムンガンド海賊団、船長のヴァイルだ。見るからに、シュイット王子の救助に向かっている援軍か?」
「如何にも。貴殿の話しは、我軍兵士のルドから伺っている。して、シュイット王子救出に向かっていたと聞いたが……何故、ここに居るのか?」
「シュイット王子ならば無事救出に成功して、アーステイム王国に送り届けている最中だ」
用心して敵(ダーグバッド)などの偽装や罠ではないと確認し、ヴァイルはシュイットに姿を現すように指図した。
敵の襲撃を受けて囚われの身となり、あまつさえ宝剣を奪われてしまったのだ。面目ないとして、シュイットは静々と身を出した。
「シュイット殿下、ご無事でしたか」
アーステイム王国の兵士たちは全員は一斉に敬礼のポーズを取り、王族に向けて軍式の挨拶を行った。
「ああ、ヴァイルたちヨルムンガンド海賊団が助けてくれた」
「そうでございましたか」
軍長のスーイはヴァイルの方へと身体を向けると、最上級の辞儀をすると、他の兵士たちも後に続いた。
「シュイット殿下をお救いいただき真に多謝至極にあります。アーステイムの臣と民を代表して、礼を述べさせていただき……」
話しの途中で、ヴァイルは堅い礼に煩わしさを感じて手のひらを向ける。
「別にあんたたちから感謝を言われなくても、セシルたちに直接述べて貰うさ。それと、ガッポリと報奨もな」
王族を呼び捨てにされて、臣子としては内心腹ただしいが、王子たちのヴァイルとの関係は把握しており、なおかつシュイットを救助してくれた恩人である。そもそも海賊なのだ。無礼なのは承知しておかなければならない。スーイは叱責したいのをぐっと飲み込んで、平静さを繕った。
「そうですか。我が陛下や殿下からも謝辞を承ることでしょう」
「それじゃ、さっさとこのお荷物(シュイット)を引き取ってくれ」
ヴァイルの催促にスーイたちは直立不動のままだった。渡り板をかけるなり準備作業をしても良いものだが。
「スーイ軍長、どうした?」と、シュイットが訊ねた。
「……シュイット殿下、大変申し訳ありませんが、セシル殿下より仰せつけられているのですが……先の無法海賊討伐の任を完遂するまで、アーステイム王国への立ち入りを禁じられております」
「なっ!?」
予想だにしない返答に、シュイットのみならずヴァイルたちも絶句してしまったのだった。
「うん、なになに?」
その中で一人話しついていけないヒヨリは、各々の顔を伺うしか出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる