花嫁日和は異世界にて

和本明子

文字の大きさ
16 / 45
第四話 神聖アーステイム王国で夕食を

02.真白き城の物語

しおりを挟む

 ヨルムンガンド号は軍船に先導されて神聖アースティム王国の領海に入った。

 港湾に多数の船や建物が見えてきて、遠くに広がる光景に、ヒヨリは「うわっー!」と思わず声を上げてしまった。

 都市の小高い丘に、本丸と三つの巨大な塔から成り立つ、気品がある壮大な西洋様式の白い宮殿が建てられていた。周りは堀で囲まれて隣の湖から水が流れ込んでおり、防衛と共に外観美が成り立っていた。

 宮殿は国力と権威の威光を申し分なく照らしており、大国の君主が住まうに相応しい建物であった。

 町並みも理路整然と立ち並び、都市の陸地方面の外周には十メートルほどの高い城壁に囲まれていた。

 アーステイム王国は、城塞都市と港湾都市、そして王都の面を併せ持っていた。

 ヒヨリは島民で、かつ遠出したとしても修学旅行で広島に行ったぐらい。ましてや、そこの城を見学したが……比較しては失礼だ。

 異国情緒溢れる町並みから、異世界ではあるが、初めて外国に訪れた感動に酔いしれていた。初めて、この異世界に来て良かったかもと思えてしまったのは、内緒だ。

 そんなヒヨリの様子に、ヴァイルたちは「まあ、そうだろうな」と気持ちを汲みとったのだった。
 初めて王都を目撃した誰しもが腰を抜かすほど。訪れただけで一生の自慢話&土産話になるという。

 より詳細に語るとしたら、アーステイム王国はアトラ大陸にあり、伝説の四英雄“セウディア”が建国したと言われ、現在その子孫である“アーステイオー四世”が統治している。シュイットの父親だ。

 法によって秩序が保てられて、海上と陸上からの交易によって人々の生活に豊かさを享受しており、三大陸の中でもっとも巨大で繁栄している国である。

 ヨルムンガンド号は港湾に入り、軍船が停泊しているエリアへと案内された。

 イカリを海へと投げ降ろすと、ヴァイルを先頭にヒヨリたちも上陸した。

「うーーんっ!」

 久しぶりの大地に足を踏み入れたヒヨリは、目一杯に背中を伸ばした。
 いくら海賊の血を引いていて船に慣れているとはいえ、何日も乗船するという経験は無かったので、未だ身体が揺れている感覚があった。

 一方ヴァイルたちは平然としていた。

「よし、ガウディは、いつものように官府に戦果を報告しに行ってくれ。ロアはその手伝いをしてくれ。トーマはいつもの通り宿場を手配してくれ。で、ラトフは諸々の買い出しを頼む」

 名を呼ばれた者たちは「了解」と承知して、各自行動を取る。

 ただ一人……手持無沙汰なヒヨリがヴァイルに「私はどうしたら良いの?」と視線で問いかけると、「ああ」と気付いてくれた。

「そうだな……ラトフ、ついでにヒヨリにアーステイムの街案内でもしてやれ。それと多少の無理でも叶えてやってくれ」

 そう言うとヴァイルはヒヨリたちに背を向けて、去っていく。

「ちょっと、あなたはどうするの?」

「馴染みに会ってくる」

 振り向かずに答えた。

「あっ! ちゃんと私の国を探してくれるんでしょうね!」

 ヴァイルは片手を挙げただけで、スタスタと進んでいったのだった。

「なによ、あいつ。ちゃんと私の約束を守ってくれるんでしょうね」

 しかめっ面のヒヨリに、ラトフが話しかけてくる。

「大丈夫ですよ。ヴァイル様はああ見えても義理堅いから、必ずヒヨリ様の国を見つけてくれますよ」

 知らぬ世界で頼れる者がいない中、今はヴァイルたちを信頼するしかなかった。

「ところで、私を様付けで呼ばないでよ」

「いえいえ何を仰いますか。ヴァイル様の嫁御になる方に対して無礼な扱いはできませんよ」

 恐縮そうに答えるも、ラトフは無邪気な笑顔を浮かべていた。

 ラトフはヴァイルや他の船員と比べて、愛想よく非常に気さくな態度のため話しやすいタイプであった。また頭目のヴァイルに対して敬意を払ってはいるが、時々くだけた感じで話している。他の船員たちは、ヴァイルには基本敬語にも関わらずだ。

 未だ素性が解らないヨルムンガンド海賊団員の中で、一番謎な人物であった。

「その前に、まだ私はあいつの嫁じゃないからね!」

「はいはい。それでは行きますよ、ヒヨリ様。まずは市場にでも参りましょうか」

「あ、ちょっと! ラトフ!」

 ラトフの後を追いかける途中で、ふとヒヨリは足を止めて、沖合を見る。
 そこにぽつーんとアーステイム王国の軍船が漂っていた。

「どうしましたか、ヒヨリ様」

「シュイット王子は、大丈夫なのかなって」

 今回、上陸したメンバーの中にシュイットは居なかった。

 申し付け通りにアーステイム王国への入国は許されなかった。本来、アーステイ王国の軍船すらも乗船を禁じられていたが、ヴァイルたちにとっては戦果報告や略奪品の受け渡し、物資調達をしなければならなかったので、ヨルムンガンド号を港に乗り入れる必要があった。

 また今回の一件について、シュイットを入国禁止を命じた張本人……セシルに意見を聞きたかった。

 それまでシュイットをスーイに預けたのだった。そのような理由で、軍船は沖合に漂泊しているのであった。

「それについてもヴァイル様がセシル王子に訊ねるでしょう」

「そういえば、シュイット王子はこの国の王族で身分が高い方なのよね。そんな人とあいつが親睦があるみたいだけど、どうして?」

「ヴァイル様も、ああ見えてお偉い方なのでね」

 いち海賊と王族が親しい関係に、より疑問が募ってしまう。

 しかし、地球の方でも騎士(ナイト)の称号を与えられた海賊が存在し、歴史的に国と海賊は少なからず繋がりはあるものだ。現に若林家の先祖も当時の大名に召しかかられた。

「ここでも、そういうのがあり得るのかな」

 と、ヒヨリは納得しつつラトフの後を追ったのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...