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第五話 嵐の《ヴァーン》島で微笑んで
06.嵐のなかの恋だから
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「……」
サリサの部屋の扉近くで、ヴァイルは腕組みをして、ひっそりと壁にもたれかかっていた。
扉から微かに漏れ聞こえるヒヨリとサリサの会話に耳を澄ませるものの、よく聞こえずに焦れったかった。
「何をなさっているのですか? ヴァイル様」
突然の呼びかけに、ヴァイルは「うおっ!」と驚くも、すぐに落ち着き払い――振り向くと、リイナがねっとりしたジト目でヴァイルを見ていた。
「なんだ、リイナか。別に……酔い覚ましに休んでいただけだ」
「ご休憩ならば、居間やご自分の部屋でなされば宜しいのではないでしょうか?」
あざとらしい嘘だと見透かされて、リイナはよりジト目で見てくる。
「……姉上がヒヨリに当てこすりをしていないかと思ってな……」
「何をおっしゃいますか。サリサ様は身内以外の方には、とてもお優しいではないですか」
サリサの暴力……愛の鉄拳を食らわさるのは身内の、特にヨルムンガンド海賊団だけ。民には優しく、信頼は厚かった。
確かに、先ほど罵声などの荒げた声などは聞こえていない。楽しげな声が僅かに響いてくる。
「さあさあ、ヴァイル様。こんなところをサリサ様に気づかれましたら、只事ではすみませんよ。早く自室にお戻りください」
リイナはヴァイルの背を押して、一歩でもサリサの部屋から遠ざけさせる。
「……ところで、ヴァイル様。あのお方(ヒヨリ)は、一体何者なのですか?」
「訊く限りではニホンという異国の者らしい。なぜ、あんな場所(海のど真ん中)で漂っていたかは解らないが……おそらく遭難してしまったのだろう」
「……あの方は、魔女や妖術士といった特異者なのではないでしょうか?」
「魔女? 何をやぶから棒に?」
「あのお方が作った、スフレオムレツという料理を仕方を見ていたのですが、卵の白身を瞬く間に雪のようなもの変えたのです。私もあの後、作ってみたのですが……白身がまったく雪みたいにならなくて……」
メレンゲの手法を知らないリイナにとって、まるで魔法を使ったように思った。
ヒヨリだけではなく、料理に関しても不可思議と思い当たるところがある。
大した食材や調味料が無い中で奥深い味わいがある料理(シチュー)を作ってみせたり、コロッケといった意想外な料理を作ったりした。
ヴァイルは「だからこそ、惹かれたのだ」と自答してしまう。
「確かにな。だが、ヒヨリが魔女か何者かなんて、もう関係無い」
「……それで、あの娘(ヒヨリ)をヴァイル様のお嫁に迎え入れるというのは本当なのですか?」
「ああ、本当だ。あいつ……ヒヨリを俺の嫁にするつもりだ。姉上がすんなり認許してくれれば良かったんだが……」
リイナは自分が気付かない内に前で組んでいた手に力が入っていた。
「私が物申すのは失礼かと存じますが……。身元が不明な方をお招き入れるのは大変危険なのではないでしょうか。ましてや嫁に……」
「リイナ、お前がそれを言うのか?」
「私が孤児になったところを助けてくれたのは、サリサ様やヴァイル様ではありますが……」
「姉上の人を見る目は確かだ。それに、ああやってヒヨリと一室を共にしているのは、それだけ信を得たということ。ここは姉上に任せた方が良いってことか。それじゃーな、リイナ」
「あ、ヴァイル様……」
暗い廊下の奥へと去って行くヴァイルに向けて、
「バカ」
リイナは自分だけが聞こえる声で呟いたのだった。
***
ヒヨリは「ふぁー」と大きな欠伸(あくび)が出て、片手で口を抑えた。
まだまだ話したいネタはあったが、とっぷりと夜は更けて、睡眠欲はピークに達していた。楽しい女子トークもお開きの流れとなった。
「それじゃ、そろそろ寝ましょうか」
サリサは寝台に置かれていたランプの火を消そうとする。
「あ、サリサさん。やっぱり、一緒のベッドで寝ないとダメですか?」
「ふふ、良いじゃないの。大きいから邪魔にならないわよ」
確かに大の字になっても十分眠れるスペースがあるベッドサイズ。
そうではなく。誰かと一緒に寝る年頃でもなく、ましてや今日知り合った人と同じ布団を共にするのには躊躇いがあった。
「それに私の近くに居た方が安全よ。ヴァイルが襲ってきても」
さっきまでヴァイルの摯実な性格を褒め称えていたので、冗談を言ったのだろう。
サリサはランプの灯心を火消し具で消灯させると、室内は暗闇に包まれた。
すぐに、サリサが布団の中に入ってくるのを振動で察知する。
(誰かと寝るなんて、二年前ぶりかな。確か千代さんたちとキャンプに行った時だったかな……)
「ねえ、ヒヨリ。ヴァイルとの結婚は、私個人的には反対も賛成もしない。さっきも言ったけど、決めるのは当人たちだからね」
暗闇の中からサリサの声だけが聴こえた。
(結婚か……)
ヒヨリは、ふとヴァイルのことを考える。
好きか嫌いかと言えば、今はどちらとも言えない。
好意を寄せられているのには悪い気はしないが、ただ、最初の出会いが悪かった。
いくら素性不明の怪しいからとは言え、脅迫まがいの尋問してきたのには印象はマイナスだ。けれど、その後の振る舞いや気遣いに微小なりとも好感は生まれてはいる。
「でもな……」
十五歳の乙女。まだ中学生で結婚は当分先のことだと思っていた。そもそも彼氏などは居なかったので、その手の免疫は出来ていない。
地球に戻れなければ……いや、アルフニルブ国に居るという不可思議に詳しい人が地球に戻れる方法を知っていれば、地球に戻れたのならば、この悩みは杞憂となるのだ。
悶々と悩み疲れたヒヨリは布団を頭から被り、以後は何も考えないようにして眠りについたのだった。
サリサの部屋の扉近くで、ヴァイルは腕組みをして、ひっそりと壁にもたれかかっていた。
扉から微かに漏れ聞こえるヒヨリとサリサの会話に耳を澄ませるものの、よく聞こえずに焦れったかった。
「何をなさっているのですか? ヴァイル様」
突然の呼びかけに、ヴァイルは「うおっ!」と驚くも、すぐに落ち着き払い――振り向くと、リイナがねっとりしたジト目でヴァイルを見ていた。
「なんだ、リイナか。別に……酔い覚ましに休んでいただけだ」
「ご休憩ならば、居間やご自分の部屋でなされば宜しいのではないでしょうか?」
あざとらしい嘘だと見透かされて、リイナはよりジト目で見てくる。
「……姉上がヒヨリに当てこすりをしていないかと思ってな……」
「何をおっしゃいますか。サリサ様は身内以外の方には、とてもお優しいではないですか」
サリサの暴力……愛の鉄拳を食らわさるのは身内の、特にヨルムンガンド海賊団だけ。民には優しく、信頼は厚かった。
確かに、先ほど罵声などの荒げた声などは聞こえていない。楽しげな声が僅かに響いてくる。
「さあさあ、ヴァイル様。こんなところをサリサ様に気づかれましたら、只事ではすみませんよ。早く自室にお戻りください」
リイナはヴァイルの背を押して、一歩でもサリサの部屋から遠ざけさせる。
「……ところで、ヴァイル様。あのお方(ヒヨリ)は、一体何者なのですか?」
「訊く限りではニホンという異国の者らしい。なぜ、あんな場所(海のど真ん中)で漂っていたかは解らないが……おそらく遭難してしまったのだろう」
「……あの方は、魔女や妖術士といった特異者なのではないでしょうか?」
「魔女? 何をやぶから棒に?」
「あのお方が作った、スフレオムレツという料理を仕方を見ていたのですが、卵の白身を瞬く間に雪のようなもの変えたのです。私もあの後、作ってみたのですが……白身がまったく雪みたいにならなくて……」
メレンゲの手法を知らないリイナにとって、まるで魔法を使ったように思った。
ヒヨリだけではなく、料理に関しても不可思議と思い当たるところがある。
大した食材や調味料が無い中で奥深い味わいがある料理(シチュー)を作ってみせたり、コロッケといった意想外な料理を作ったりした。
ヴァイルは「だからこそ、惹かれたのだ」と自答してしまう。
「確かにな。だが、ヒヨリが魔女か何者かなんて、もう関係無い」
「……それで、あの娘(ヒヨリ)をヴァイル様のお嫁に迎え入れるというのは本当なのですか?」
「ああ、本当だ。あいつ……ヒヨリを俺の嫁にするつもりだ。姉上がすんなり認許してくれれば良かったんだが……」
リイナは自分が気付かない内に前で組んでいた手に力が入っていた。
「私が物申すのは失礼かと存じますが……。身元が不明な方をお招き入れるのは大変危険なのではないでしょうか。ましてや嫁に……」
「リイナ、お前がそれを言うのか?」
「私が孤児になったところを助けてくれたのは、サリサ様やヴァイル様ではありますが……」
「姉上の人を見る目は確かだ。それに、ああやってヒヨリと一室を共にしているのは、それだけ信を得たということ。ここは姉上に任せた方が良いってことか。それじゃーな、リイナ」
「あ、ヴァイル様……」
暗い廊下の奥へと去って行くヴァイルに向けて、
「バカ」
リイナは自分だけが聞こえる声で呟いたのだった。
***
ヒヨリは「ふぁー」と大きな欠伸(あくび)が出て、片手で口を抑えた。
まだまだ話したいネタはあったが、とっぷりと夜は更けて、睡眠欲はピークに達していた。楽しい女子トークもお開きの流れとなった。
「それじゃ、そろそろ寝ましょうか」
サリサは寝台に置かれていたランプの火を消そうとする。
「あ、サリサさん。やっぱり、一緒のベッドで寝ないとダメですか?」
「ふふ、良いじゃないの。大きいから邪魔にならないわよ」
確かに大の字になっても十分眠れるスペースがあるベッドサイズ。
そうではなく。誰かと一緒に寝る年頃でもなく、ましてや今日知り合った人と同じ布団を共にするのには躊躇いがあった。
「それに私の近くに居た方が安全よ。ヴァイルが襲ってきても」
さっきまでヴァイルの摯実な性格を褒め称えていたので、冗談を言ったのだろう。
サリサはランプの灯心を火消し具で消灯させると、室内は暗闇に包まれた。
すぐに、サリサが布団の中に入ってくるのを振動で察知する。
(誰かと寝るなんて、二年前ぶりかな。確か千代さんたちとキャンプに行った時だったかな……)
「ねえ、ヒヨリ。ヴァイルとの結婚は、私個人的には反対も賛成もしない。さっきも言ったけど、決めるのは当人たちだからね」
暗闇の中からサリサの声だけが聴こえた。
(結婚か……)
ヒヨリは、ふとヴァイルのことを考える。
好きか嫌いかと言えば、今はどちらとも言えない。
好意を寄せられているのには悪い気はしないが、ただ、最初の出会いが悪かった。
いくら素性不明の怪しいからとは言え、脅迫まがいの尋問してきたのには印象はマイナスだ。けれど、その後の振る舞いや気遣いに微小なりとも好感は生まれてはいる。
「でもな……」
十五歳の乙女。まだ中学生で結婚は当分先のことだと思っていた。そもそも彼氏などは居なかったので、その手の免疫は出来ていない。
地球に戻れなければ……いや、アルフニルブ国に居るという不可思議に詳しい人が地球に戻れる方法を知っていれば、地球に戻れたのならば、この悩みは杞憂となるのだ。
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