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第八話 花嫁修業は異世界にて
03.ふがいないや
しおりを挟む「きゃあ!」
部屋から出ると侍女のリイナが驚きの声をあげた。
リイナはドア付近に控えていたので、突然出てきたヒヨリとヴァイルにびっくりしたのだ。
「なんだ。リイナ、居たのか」
「あ、はい……」
ヴァイルがリイナに気を取られている間に、
「それじゃヴァイルは着替えて、身なりを奇麗にしてきなさいね。私は料理を作ってくるから」
ヒヨリは前に赴いた館の台所に行こうとするが、ヴァイルは呼び止める。
「おい、ヒヨリ。ちょっと待てくれ」
「なに?」
「その……なんだ。すまない」
「なんで謝るのよ?」
「俺がもう少し姉上を上手く説得できれば良かったのだが……」
一月(ひとつき)も満たない期間ではあるが、これまで一緒にいて、口数が少ないヴァイルが交渉事は苦手なのだと察する。
それ加えて――
「まあ、しょうがないよ。サリサさん、一筋縄じゃいかない人っぽいし。国をまとめている偉い人だから、国のことを優先するものだよ」
国を第一に考えるサリサと、ヒヨリを第一に考えるヴァイルの意地のぶつかり合い。どちらも譲れない所願で妥協はしたくない。その気持ちがヒシヒシと伝わってきた。
「……ねえ、ヴァイル。私からもサリサさんに直接話したいことがあるから、任せて貰っても良いかな?」
「話したいこと?」
「私が日本に戻る為には、ヴァイルやヨルムンガンド海賊だけに任せられない問題でもみたいだし、私の口からちゃんと言わないといけないと思ったから。決意表明というやつをね」
「姉上に話す……それは……」
つい少し困惑な表情を浮かべてしまう。
ヴァイル自身、先程のサリサとの対話で上手く話せなかったのだ。
そもそもサリサと直接物言いが出来る人物は、一国の宰相以上の有識者でなければ難しいだろう。
ヒヨリの言う通り、ヴァーン国の統領として、生き残った民をまとめてきた。それに前任のヨルムンガンド海賊の頭目としても活躍し、ヴァーン国の威信を保らせたほどの女傑なのだ。彼女(サリサ)の腕っ節や気性の強さは数々の苦難を乗り越えてきてものによる。
――ヒヨリを守る――
魔女(ファムファタール)や無法海賊だけではなく、実はサリサからの暴虐から守らなければいけないのが一番の使命なのだと案じてしまう。
が――
『そうよ。貴方たちが今まで食べたことがない、美味しい料理を作ってあげるわ!』
ヒヨリと初対話をした時、見知らぬ世界で自分たち海賊相手に物怖じをしなかった姿が脳裏によぎって、ヴァイルは微笑んでしまった。
「いや、大丈夫だろう。それに助かったよ、ヒヨリ」
アルフニルブ国への渡航に、魔女(ファムファタール)やガンダリア軍の襲撃で疲労困憊の中、帰島してすぐにサリサとの対話。心も身体も休まる暇が無かった。
ヒヨリがサリサとの対話を中断してくれたのは、気を利かせてくれたのだろう。それに対しての礼の言葉だった。
「いえいえ。それじゃ腕によりをかけて料理を作ってくるね!」
「ああ。楽しみに待っている……」
ヒヨリが再び台所に行こうとすると、
「そうだリイナ、ヒヨリの手伝いをしてくれ」
先ほど傍から二人の様子を口唇を噛み締めて眺めていた侍女のリイナは突然の呼びかけに、
「え!? うあ、は、はい!? あ、ヴァイル様!」
激しく動揺するリイナだったが、ヴァイルは気に留めず、その場を後にして自分
の部屋へと向かっていったのだった。
残されたリイナは名残惜しくもヴァイルから視線を外して、もの言いたげな目でヒヨリに向けたる。
当主(サリサ)の弟であるヴァイルの命令には逆らえないので渋々と――
「……どうぞ」
リイナはヒヨリの前に立ち、先導していく。
「あ、うん……」
前に案内してくれたので台所の場所は解っていたので案内は必要無いのだが、余所者(よそもの)なので家人に従うしかなかった。
台所へと向かう中、突然ヒヨリの足が止まる。
「そうだ。アルフニルブ国の荷物を……」
ヴァーン島に戻ってきてすぐに着の身着のままサリサの館に連れてこられたのだ。
肝心の材料がなければ料理は作れない。
台所に行く前に港のヨルムンガンド号へと向かわなければいけないと踵を返そうとした時、廊下の角から体格の良い大柄の男性が姿を現した。
「あ、ガウディさん」
ヨルムンガルド海賊団員の中で一番の年上で、副船長を務めている人だ。
ガウディもヒヨリの姿を確認すると足早で近寄ってきた。
「ヒヨリさま。もうサリサ様とのお話は終わったのですか?」
「ちょっと小休止のところです。それでお腹が空いたから、これから料理を作ろうと思って……あ、アルフニルブ国の荷物は?」
「それならば、先程ここに運んでおきましたよ。ヒヨリ様がクローリアーナ様から頂いたものも」
「本当! 流石はガウディさん!」
「団員たちも早くヒヨリさまの料理を食べたいと思っていますからね」
「そうね、だったら。早く作らないと。悪いけど、その荷物を台所に持ってきてくれませんか」
「ええ、かしこまりました」
ガウディを一礼をして来た道を戻っていくと、
「それじゃ、私たちも早く台所に行きましょう!」
ヒヨリも颯爽と台所へと駆け出していったのであった。
リイナを置いてけぼりにして。
「あ、ちょっと待って下さい!」
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