ネコタマ-NEO-

和本明子

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 二人は瞬時に後方へ跳躍した。
 烈がいた場所を、雫の変異した腕が地を割る勢いで打ちつける。

 轟音と共に地面にクレーターが穿たれ、衝撃波が砂塵を巻き上げて吹き荒れる。

(ど、どうするのよ‥‥あれ?)

 真子の怯えた声が、ギン子の思考空間に響いた。

『どうするもこうするも、やるしかないだろう!』

(やるって‥‥雫を元に戻せるの?)

 真子の疑念に答える間もなく、ギン子の右手が淡く光を帯びる。
 そのまま彼女は雫の背後を取り、掌底――猫パンチを繰り出した。

 だが、雫はバネのような跳躍でそれを回避する。

「ッ!?」

 次の瞬間、逆に背後を取られていた。

「そのチカラ、いったい何なのかしら?」

 雫は容赦なくギン子の背を蹴り飛ばす。ギン子の身体は数メートルも先へ吹き飛んだ。

 その隙を逃さず、烈が間合いを詰めて雫へ殴りかかる。獣の腕を変態させ、フルスイング。
 しかし雫は腕で防御し、びくともしなかった。逆に烈もまた、サッカーボールのように蹴り飛ばされる。

 ギン子と烈、二人は地面に倒れたまま呻き声をあげる。雫の異常な速度とパワーは、これまでの発症者とは次元が違っていた。

(な、なにあれ‥‥無理じゃない?)

『今の攻防を見ればわかるだろう。無理どころか、もはや人間ではない‥‥あそこまで浸食されれば、力も解放されて当然か』

 ギンと真子の意識が交錯する中、雫が烈へ追撃を仕掛けようとしていた。

『危ないっ!』

 ギンと真子の意識が完全に重なり、反射的に烈のもとへと足を踏み出す――
 想像を遥かに超えるスピードで雫に接近。ギン子の掌底が再び炸裂する‥‥が、雫は身体をひねってそれをギリギリで回避。かすめたに過ぎなかった。

 しかし――

「この、糞ネゴォォォがああああああっっっ!」

 雫の怒号。ギン子の攻撃は、精神的な急所に触れたようだった。
 雫が殴りかかろうとした瞬間、足元がふらつく。

「‥‥一瞬、意識が飛んだ。やはり、効くには効くみたいね」

 ギン子は烈を抱き上げ、雫から一気に距離を取った。

(ギン、さっきのあの動き‥‥まさか、私たちもあんなふうに?)

『ああ、可能性はある。雫と同様に、我々にも何らかの変化が起きたのかもしれん』

(浸食、ってこと?)

『近いものかもしれん。真子、このままだとあの者に殺されるかもしれんな』

(そんな‥‥友達に殺されるなんて、そんなのあっていいわけない! 中神くんは!? 何か方法があるはずでしょ!)

『‥‥あれば、すでに試している。だが、あの身体能力の差は想定外だ』

「+MEYwSjBKMEowSjBKMEowSjD8MPww/DD8MPw-!」

 雫が奇声を発する。空気がビリビリと震え、鼓膜が軋む。

 次の瞬間、音速に近い勢いでギン子との距離を一気に詰めた。

 ギン子は回避を試みたが、足がもつれてわずかに遅れる。その一瞬の隙に雫の拳がギン子の腹を打ち抜いた。

 変態によって身体能力が向上しているものの、本質は普通の人間である真子の身体である。限界以上に酷使しているので、ギンの思う通りに体を動かせなくなってきていた。

 衝撃を受けたギン子は反射的に跳び退いて衝撃を逃すが、それでも内側から痛みが響く。
 雫の追撃。連打のごとく拳を振るう中、烈が背後から吼えた。

「うおおおおおぉぉっ!」

 獣の腕で雫の背中を裂くように斬りつける。
 致命傷ではないが、確実にダメージを与えた。

 だが、雫の体は真子にとっての大切な友達――
 それを傷つけるという現実は、精神を深く抉るものだった。

(ギン! なんとからならないの! 雫を助けるにはどうにか出来ないの!)

『Bコードを打ち込もうと試みているが、こちらの反応速度では追いつかん。唯一可能性があるとすれば‥‥先ほどの“融合”だ』

(融合‥‥心を合わせるってこと?)

『中神を助けた時のように、意志が完全に一致すれば、あの力をもう一度引き出せるかもしれん』

 迷う時間も考える時間も無い。
 今は、今だけは――

(‥‥わかった。信じる、ギン。それでどうするの?)

『精神を鎮めろ。自分が風になる姿を、ただ一直線に駆け抜ける自分を想像するんだ』

(う、うん‥‥)

 真子は目を閉じ、深く意識を集中する。
 ただ速く、ただ真っ直ぐに――雫を救うために。

 その瞬間だった。

 雫が烈を吹き飛ばし、ギン子に向けて目を光らせた――

 次の瞬間、ギン子が消えた。

 目で追えない速度。猫手が巨大化し、渾身の掌底が突き刺さる。

「『うあああああああああっっっっーーー!』」

 気合の叫びとともに、渾身の力が込められた掌底(猫パンチ)が雫にクリティカルヒット!

――スッパァァァァン!!

「ぐああああ!!」

 後方にふっ飛ばされていく中、雫の姿は元の人間に戻っていく。

「バカな‥‥わたしが‥‥私が‥‥消えて‥‥」

 だがその直後、真子の身体に異変が訪れる。

――ズギッ!

 肉が悲鳴を上げ、骨がきしみ、全身に鋭い痛みが走る。

――グギバギッ、ズギビリッバリバリィッ!

「う、あ‥‥がっ‥‥!」

 地面に倒れ込む真子。
 呼吸もままならず、指一本動かすたびに激痛が走る。呻き声が漏れ、視界がにじむ。

 烈が駆け寄ってくるが、その声すら遠く、真子の意識は薄れていった。
 激しい負荷に晒された身体は、限界を超え、ただ無意識の世界へと沈んでいくのだった――。



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