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第1話 カグラという男
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それは、暑苦しい7月の話である。名願愛斗(みょうがん まなと)は、アパートの自分の部屋でスマホをいじっていた。
ネットを検索して、何か面白そうなオフ会をやっていないか探していたのだ。
大学時代の友人とは疎遠になってしまった者も多く、それまでオフ会とか参加した経験はなかったが30歳になったのを期に、新しい友達が欲しいと考えたのだ。
そんな彼の目が、あるSNSに浮かぶ文章の1つに止まった。
ヲタスケというハンドルネームの人物のアカウントのプロフィールに、こんな文言が載っていたのだ。
「『ユメカをみんなで応援する会』現在メンバー募集中! 人気アイドルグループ『2020』のメンバー、ユメカを応援しよう! 参加希望の方は、主催のヲタスケにDMを送ってください」
『2020』は、今や日本では知らない者がいないであろう人気アイドルグループだった。
ユメカはグループメンバーの1人で、黒いストレートのサラサラのロングヘア、160センチの身長、パッチリとした大粒の目、桜の花びらのような唇をした19歳の美少女で、愛斗の推しだ。
が、グループ内では人気がなかった。でも、彼女が霞んでしまうのも無理はない。
メンバーは50人以上いて、美人だったり可愛かったりクールだったり個性的な女性達が大勢いるのだ。
早速愛斗はDMを送った。やがて返信が戻ってくる。
直近のオフ会は7月最後の金曜夜の6時から赤羽駅の東口にある居酒屋で開催されるそうで、愛斗は参加の申し込みをした。
ちょうど都合の良い事に、愛斗も赤羽駅の近くに住んでおり『2020』の写真集を買う時は、やはり東口にある文教堂という大型書店で購入していた。
赤羽駅は埼京線や京浜東北線が停車する大型の駅で、都内北区にある。西口には大きなイトーヨーカ堂もあり、買い物にも便利な所だ。
そしていよいよオフ会当日になった。予約名もヲタスケになっており、午後6時に居酒屋に入る。
ヲタスケの名前で予約されたテーブルには男性が2人、女性が1人いた。
「今日初参加の愛斗と言います」
特にハンドルネームもないので、名願は下の名前を名乗る。
「あっ、マナト君ね。僕、主催のヲタスケです。久々の新人なんで、嬉しいよ」
ヲタスケはメガネをかけた茶髪の男性で、多分年齢は30代半ばぐらいだろう。
「自分は、ケイゴと言います。スポーツジムのインストラクターやってます」
もう1人の男性が、挨拶をした。肩幅が広く筋肉質でいかつい顔をしていたが、愛斗を見る時人懐っこい笑顔になる。
年齢は多分ヲタスケと同じぐらいだろうか。身長は190センチぐらい。
「あたしは、リナ。よろしくね」
ただ1人の女性が声をかけてきた。目のパッチリとした愛らしい顔立ちをしている。おそらく20代半ばぐらいだろう。
「アイドルの方ですか?」
愛斗は、ヲタスケに聞いた。
「マナトさん、上手いなあ。そんなわけないじゃない。あたしは、ユメカの1ファンです。とてもじゃないけど、自分がアイドルなんて無理」
リナが話した。
「確かにアイドル大変そうですもんね」
愛斗が返す。
「だからこそ、僕はアイドルをリスペクトしています」
「まさにマナト君のおっしゃる通り。その言葉、カグラ君にも聞かせてやりたいね」
感慨深げにヲタスケがしゃべった。
「ともかく何か、注文してよ」
愛斗はジンジャーハイボールを頼んだ。そして、みんなの飲み物が来たところで乾杯をする。
会話は『2020』の事とかユメカの話とか、関係ない話題なんかで盛り上がった。
「さっきおっしゃってたカグラさんって誰なんですか?」
途中で思い出した愛斗が尋ねる。一瞬その場が凍りつきみんな黙ってしまったが、やがて大きな重たい石を運ぶかのごとく慎重な口調でヲタスケが話しはじめた。
「カグラ君は、元々この会にいた人でね。悪い男じゃないんだけど、ちょっとストーカー気質なところがあって『2020』のイベントを出禁になっちゃったんだよ。それ以来この会にも来なくなって」
「そうなんですか。残念ですね」
「かわいそうな点もあるんだよね。亡くなったお父さんに虐待されてたせいもあるのか、精神的に不安定なところもあって。無論ユメカちゃんへのストーキング行為は許されないけど」
ヲタスケは、眉を『へ』の字にして話す。
「今は引きこもっちゃってるんだよね」
「今は当然お父さんとは別居されてるんですよね」
「お父さんはもうすでに亡くなっててね。資産家だったんで大金を遺産として残して、その遺産を1人っ子のカグラ君が受け継いだんだ。お父さんの会社は別の人が経営してる」
「そうですか。ユメカちゃんのファンなら僕も会ってみたいな」
「赤羽に住んでるから会うのは簡単だけど、1点だけ問題があってね」
その夜の飲み会は盛り上がった。3人共話しやすい人ばかりで、愛斗にとって楽しい夜となったのだ。
酔った勢いもあったかもしれないが、翌日土曜の昼過ぎに、愛斗とヲタスケとリナの3人で、カグラに会いに行く流れになった。
ケイゴはジムの仕事があるため欠席する。赤羽駅前午後1時に集合だったが、愛斗は早めに来て、赤羽駅前の『銀座 木屋』で小鰻丼とうどんのセットを食べたけど美味しかった。
その後やはり赤羽駅前の『梅の木』というカフェでアイスコーヒーを頼んだが美味しい。そろそろ集合時刻なので、駅の改札口に向かう。
そこにはすでにヲタスケとリナの2人がいて、3人で赤羽駅の西側に出た。暑いし駅から離れているのでタクシーに乗る。
やがてたどり着いたのは、かなり大きな豪邸だ。中に恐竜がいたとしても驚かなかった。表札な『神楽』となっている。『カグラ』は名字だったようだ。
「すごい屋敷ですね! ここにカグラさんは1人で住んでるんですか?」
「一人っ子だし、ご両親も亡くなってるし、結婚もしてないからね。でも、リナちゃんの港区にある自宅の方が大きいかも」
「大きくないよ。同じぐらいかな」
愛斗は、びっくりした。どうやらリナも相当なお嬢様らしい。ヲタスケがインターホンのボタンを押す。
インターホンにカメラはなかったので驚く。愛斗の住む安アパートのインターホンにもカメラはあるのだ。
インターホンだけでなく、門の周囲に防犯カメラらしき物が見当たらなかった。
古そうな屋敷なので建設当時設置しなかったのはわかるけど、後からつけても良さそうなものだと感じる。
「どなたですか?」
しばらくするとインターホンから男の声が流れでた。高めで美声とも呼べる声だ。
「ヲタスケです。LINEにも書いたけどリナちゃんと、昨日のオフ会に初めて来たマナト君も一緒です」
「今、行きます」
しばらくしてから玄関のドアが開き、黒い髪を肩ぐらいまで伸ばした20代前半ぐらいの男が現れた。
身長は180センチぐらいでやせ型の体格だ。やがて彼は、1人で門まで歩いてきた。そして中からゲートを開ける。
「どうぞいらっしゃい」
男は、笑顔でそう切り出した。
「愛斗と言います。はじめまして」
愛斗は自己紹介をする。
「こんな大きなお屋敷で1人住まいだなんて、もったいないぐらいですね」
「1人じゃないです。僕にはユメカがいますから。ねえ、ユメカ」
カグラは自分のすぐ右に首を向けると、そう呼びかけた。そこには誰の姿もない。
ネットを検索して、何か面白そうなオフ会をやっていないか探していたのだ。
大学時代の友人とは疎遠になってしまった者も多く、それまでオフ会とか参加した経験はなかったが30歳になったのを期に、新しい友達が欲しいと考えたのだ。
そんな彼の目が、あるSNSに浮かぶ文章の1つに止まった。
ヲタスケというハンドルネームの人物のアカウントのプロフィールに、こんな文言が載っていたのだ。
「『ユメカをみんなで応援する会』現在メンバー募集中! 人気アイドルグループ『2020』のメンバー、ユメカを応援しよう! 参加希望の方は、主催のヲタスケにDMを送ってください」
『2020』は、今や日本では知らない者がいないであろう人気アイドルグループだった。
ユメカはグループメンバーの1人で、黒いストレートのサラサラのロングヘア、160センチの身長、パッチリとした大粒の目、桜の花びらのような唇をした19歳の美少女で、愛斗の推しだ。
が、グループ内では人気がなかった。でも、彼女が霞んでしまうのも無理はない。
メンバーは50人以上いて、美人だったり可愛かったりクールだったり個性的な女性達が大勢いるのだ。
早速愛斗はDMを送った。やがて返信が戻ってくる。
直近のオフ会は7月最後の金曜夜の6時から赤羽駅の東口にある居酒屋で開催されるそうで、愛斗は参加の申し込みをした。
ちょうど都合の良い事に、愛斗も赤羽駅の近くに住んでおり『2020』の写真集を買う時は、やはり東口にある文教堂という大型書店で購入していた。
赤羽駅は埼京線や京浜東北線が停車する大型の駅で、都内北区にある。西口には大きなイトーヨーカ堂もあり、買い物にも便利な所だ。
そしていよいよオフ会当日になった。予約名もヲタスケになっており、午後6時に居酒屋に入る。
ヲタスケの名前で予約されたテーブルには男性が2人、女性が1人いた。
「今日初参加の愛斗と言います」
特にハンドルネームもないので、名願は下の名前を名乗る。
「あっ、マナト君ね。僕、主催のヲタスケです。久々の新人なんで、嬉しいよ」
ヲタスケはメガネをかけた茶髪の男性で、多分年齢は30代半ばぐらいだろう。
「自分は、ケイゴと言います。スポーツジムのインストラクターやってます」
もう1人の男性が、挨拶をした。肩幅が広く筋肉質でいかつい顔をしていたが、愛斗を見る時人懐っこい笑顔になる。
年齢は多分ヲタスケと同じぐらいだろうか。身長は190センチぐらい。
「あたしは、リナ。よろしくね」
ただ1人の女性が声をかけてきた。目のパッチリとした愛らしい顔立ちをしている。おそらく20代半ばぐらいだろう。
「アイドルの方ですか?」
愛斗は、ヲタスケに聞いた。
「マナトさん、上手いなあ。そんなわけないじゃない。あたしは、ユメカの1ファンです。とてもじゃないけど、自分がアイドルなんて無理」
リナが話した。
「確かにアイドル大変そうですもんね」
愛斗が返す。
「だからこそ、僕はアイドルをリスペクトしています」
「まさにマナト君のおっしゃる通り。その言葉、カグラ君にも聞かせてやりたいね」
感慨深げにヲタスケがしゃべった。
「ともかく何か、注文してよ」
愛斗はジンジャーハイボールを頼んだ。そして、みんなの飲み物が来たところで乾杯をする。
会話は『2020』の事とかユメカの話とか、関係ない話題なんかで盛り上がった。
「さっきおっしゃってたカグラさんって誰なんですか?」
途中で思い出した愛斗が尋ねる。一瞬その場が凍りつきみんな黙ってしまったが、やがて大きな重たい石を運ぶかのごとく慎重な口調でヲタスケが話しはじめた。
「カグラ君は、元々この会にいた人でね。悪い男じゃないんだけど、ちょっとストーカー気質なところがあって『2020』のイベントを出禁になっちゃったんだよ。それ以来この会にも来なくなって」
「そうなんですか。残念ですね」
「かわいそうな点もあるんだよね。亡くなったお父さんに虐待されてたせいもあるのか、精神的に不安定なところもあって。無論ユメカちゃんへのストーキング行為は許されないけど」
ヲタスケは、眉を『へ』の字にして話す。
「今は引きこもっちゃってるんだよね」
「今は当然お父さんとは別居されてるんですよね」
「お父さんはもうすでに亡くなっててね。資産家だったんで大金を遺産として残して、その遺産を1人っ子のカグラ君が受け継いだんだ。お父さんの会社は別の人が経営してる」
「そうですか。ユメカちゃんのファンなら僕も会ってみたいな」
「赤羽に住んでるから会うのは簡単だけど、1点だけ問題があってね」
その夜の飲み会は盛り上がった。3人共話しやすい人ばかりで、愛斗にとって楽しい夜となったのだ。
酔った勢いもあったかもしれないが、翌日土曜の昼過ぎに、愛斗とヲタスケとリナの3人で、カグラに会いに行く流れになった。
ケイゴはジムの仕事があるため欠席する。赤羽駅前午後1時に集合だったが、愛斗は早めに来て、赤羽駅前の『銀座 木屋』で小鰻丼とうどんのセットを食べたけど美味しかった。
その後やはり赤羽駅前の『梅の木』というカフェでアイスコーヒーを頼んだが美味しい。そろそろ集合時刻なので、駅の改札口に向かう。
そこにはすでにヲタスケとリナの2人がいて、3人で赤羽駅の西側に出た。暑いし駅から離れているのでタクシーに乗る。
やがてたどり着いたのは、かなり大きな豪邸だ。中に恐竜がいたとしても驚かなかった。表札な『神楽』となっている。『カグラ』は名字だったようだ。
「すごい屋敷ですね! ここにカグラさんは1人で住んでるんですか?」
「一人っ子だし、ご両親も亡くなってるし、結婚もしてないからね。でも、リナちゃんの港区にある自宅の方が大きいかも」
「大きくないよ。同じぐらいかな」
愛斗は、びっくりした。どうやらリナも相当なお嬢様らしい。ヲタスケがインターホンのボタンを押す。
インターホンにカメラはなかったので驚く。愛斗の住む安アパートのインターホンにもカメラはあるのだ。
インターホンだけでなく、門の周囲に防犯カメラらしき物が見当たらなかった。
古そうな屋敷なので建設当時設置しなかったのはわかるけど、後からつけても良さそうなものだと感じる。
「どなたですか?」
しばらくするとインターホンから男の声が流れでた。高めで美声とも呼べる声だ。
「ヲタスケです。LINEにも書いたけどリナちゃんと、昨日のオフ会に初めて来たマナト君も一緒です」
「今、行きます」
しばらくしてから玄関のドアが開き、黒い髪を肩ぐらいまで伸ばした20代前半ぐらいの男が現れた。
身長は180センチぐらいでやせ型の体格だ。やがて彼は、1人で門まで歩いてきた。そして中からゲートを開ける。
「どうぞいらっしゃい」
男は、笑顔でそう切り出した。
「愛斗と言います。はじめまして」
愛斗は自己紹介をする。
「こんな大きなお屋敷で1人住まいだなんて、もったいないぐらいですね」
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