リベンジ・チョコ

空川億里

文字の大きさ
1 / 1

1話完結

しおりを挟む
 今日はバレンタインデー。俺は、自分の父親が経営する会社の自社ビルの1階にあるカフェで昼食後のコーヒーを飲んでいた。

 今朝から大勢の女子社員がひっきりなしにチョコを俺に持ってくる。

 毎年恒例の光景だ。今も1人の若い女性が近づいてきて、綺麗に包装された手作りのチョコを俺に渡してくれた。

 帽子をまぶかにかぶっていたが、とても美人だ。見知らぬ顔だが、多分うちで働いている派遣社員だろう。

 彼女が去った後、俺は早速チョコを食べた。とても美味しい。

 が、やがて、お腹の具合がおかしくなった。トイレに行こうと立ち上がる。頭の中がガンガンして、全身が焼けつくように熱い。

 動きがとれず、俺は壊れた人形のようにテーブルの上に突っ伏した。コーヒーカップがテーブルから落ち、割れた音が響いてくる。

 周囲から悲鳴があがった。



 

 あたしはお手製の毒入りチョコを、憎むべき男に渡した後、その場から立ち去った。

 なるべく不審に思われぬようゆっくり歩いたつもりだが、自信がない。

 あの男は高校時代の同級生で、ブスよばわりされて、よくいじめられていた。高校卒業後あたしは整形して美人になる。

 その経緯をあいつは全く知らないので、あたしを見ても一体誰かわからなかった。

 あいつの会社に勤務している派遣の1人だと勘違いしたみたい。

 この日は大勢の女子があいつにチョコを渡したはずなので、犯人が誰か警察もわからないはず。

 あいつが座るカフェの席は決まっていて、防犯カメラの死角なのもわかっていた。

 帽子を深くかぶっているので、顔は見られてないはずだ。

 ビルの外に出ると、途中で公衆トイレに入り、リバーシブルのコートを表裏反対に着た。コートの表が黒から白に変わったのだ。

 黒い帽子は丸めてコートのポケットに入れ、白い帽子を被り直した。トイレの出入り口に防犯カメラがないのは確認済だ。

 手袋も黒から白に変えたのだ。長髪のカツラも脱いで持ってきたバッグに入れる。これで元々のショートカットに早変わりだ。

 翌日ニュースで、あいつが無事に亡くなったのを知った。この日はやはり大勢の女性が手作りのチョコを持参したそうで、あいつに毒入りのを渡した女が誰なのかは、警察もなかなか絞りこめないとの事だった。

 報道番組のコメンテーターの中には、犯人は女装した男性だったんじゃないかと推理する者もいた。

 しばらくの間捜査の手が伸びてくるのが不安だったが1週間経っても、半月過ぎても現れない。

 最初のうちは大々的に報道で取り上げられていたが、そのうち別のニュースに代わるようになっていた。

 そして3月14日のホワイトデーがやってくる。その日の昼休み。あたしは自分が勤務する会社があるオフィスビルの1階にあるカフェにいた。

  あたしの働くオフィスビルは、あいつが死んだオフィスビルからかなり遠い。高校卒業後大学入学前のタイミングで整形して『美女』になったあたしの元へはひっきりなしにホワイトデーのお返しを持参する男性達がいた。

 それはあたしが自分から大勢の男性に義理チョコを贈った結果でもあるが、チョコを贈ったわけでもないのにお菓子を持ってくる男達もいた。

 今日も顔を覚えていない男性が、あたしの元にチョコレートを持ってきた。帽子をかぶっており、なかなかのイケメンだ。

 男性には珍しく手作りのチョコだった。顔は知らないが、多分職場に来る派遣会社の社員だろう。

 包装を開けて中身を食べ始めると、やがてお腹が痛み出す。ものすごい激痛で、全身が燃えあがりそうだ。

 大量の汗が身体中から噴き出した。あたしは胸をかきむしりながら、テーブルの上に突っ伏したのだ。

 周囲から悲鳴が上がり、あたしの肘がぶつかったティーカップが落下して割れる音が響く。






 大学時代、僕を馬鹿にした女がいた。その女は、僕に告白したのだが、その告白は嘘だったのだ。

 その女と、取り巻き共が企画して、僕に恥をかかせたのだ。

 『誰があんたみたいな不細工な男に告白するもんですか』とまで、捨て台詞を投げつけられた。

 僕は大学を卒業するタイミングで整形し『イケメン』になる。

 だから毒入りの手作りチョコを渡した時も、渡し主の僕が大学時代の同じ学部にいたかつての知り合いとは知らなかっただろう。

 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

処理中です...