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第2話 国営カジノ
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南美島。それは東経126度、北緯26度に浮かぶ、沖縄本島から見て西にある小さな島だ。南美島の国営カジノは、日本政府の肝いりで建設された。物珍しさも手伝って、内外の観光客でにぎわっている。
「売上金は地10階にある金庫に保管されている。これが今度のターゲットだ。当然我々も可能な限りのバックアップをしていくよ。取り分は今まで通り七三だ。こっちの取り分は三、おたくらが七。やり方はおたくらに任せるよ。どうだい」
「少し考えさせてくれ」
美山は答えた。
「いつも通りこの件を仲間に話して、綿密な計画を立ててから答えるよ」
「いいだろう。だが、あんまり時間をかけてくれるな。おたくら以外にもやってくれそうな窃盗団はあるんだから」
「もちろんだ。1週間以内に、やるかやらんか連絡する」
それだけしゃべると、美山はその場を後にした。彼はアジトに戻る途中、今までのヤマを思いだす。銀行、宝石店、美術館、博物館、闇カジノ、富豪の邸宅、外国の在日大使館、エトセトラ、エトセトラ……。
国営カジノは、今までのヤマに比べてはるかに困難になりそうだ。なにしろ建設には、大物政治家の鶴本(つるもと)代議士が関わっている。色々考えをめぐらしながら、美山は尾行されぬよう、何度も乗り物を乗りかえた。電車からバス、バスからタクシー、タクシーを降りてまた電車……。
尾行者は清武の手下かもしれないし、警察関係者かもしれない。そもそも、後をつけてる者はいないかもしれないが、念には念を入れねばならぬ。都内を西へ、東へ、北へ、南へと、あちこち行って、尾行者がいないのを確認してからアジトに戻った。
国営カジノ襲撃の件は、とてもじゃないが一人では決められない。こんな時に相談できる相棒と話をせねば。そいつは美山にとって、知恵袋のような存在なのだ。アジトに到着した美山は卓上電話で、相棒の携帯に連絡した。
「美山か。一体何だ」
受話器の向こうから氷のようにクールな男の声が流れ出た。美山は電話の相手の顔を思い浮かべた。西園寺康之(さいおんじ やすゆき)。年齢は35歳だ。ゆるやかなウエーブを描いた長めの茶髪。ナイフで削り取ったような、カマキリを思わせる三角形の顔。
日本人なら誰でも名前を知ってる一流大学卒の男で、ミスティー・ナイツにとっては軍師のような存在だ。
「また清武から仕事の話が持ちこまれた。参謀としてどう考えるか助言を仰ぎたい」
「わかった。明日の昼には、そっちに行くよ」
「清武には一週間以内には、やるかやらんか連絡すると言ってある」
「そう、せかしなさんな。まずは明日、あんたの話を聞いてからだ」
*
翌日の昼美山と西園寺の2人は、アジトの応接室に向かい合って座っていた。美山は西園寺に、カジノ襲撃の件を話して聞かせた。
「まだ稼ぐつもりなのか」
西園寺は呆れた口調だ。
「今までさんざん稼いできたのに、また危ない橋を渡るのかよ」
「これで終わりにするつもりだ。このヤマを最後に、足を洗う。今度の件はおれにとっちゃあ、最後の大芝居ってところだな」
「その台詞は、以前に何度も聞かされた」
西園寺はワサビをまぶした笑みを浮かべた。
「で、具体的にはどうやって、カジノの金を盗むんだ」
「カジノの金庫は地下10階にある。金庫の底を爆破して、金を盗む。盗んだ金は、現在本州と南美島をつないで建設中の北太平洋縦断トンネルで運ぶって寸法だ」
「ずいぶん壮大な話だな」
半分バカにした口調で、西園寺が言葉をつないだ。その心は、どうせそんな計画は不可能だろと考えてるのか。
「おれの最後のお勤めには、ふさわしいと思わんか」
美山は西園寺にウィンクしてみせた。
「仲間を集めなきゃならん」
「おいおい、待てよ。まだ、やるとは決めてないぞ」
あわてた調子で西園寺が突っこんだ。
「お前がやらんと言っても、他のメンバーでやるだけだ。おれの中では決まった話さ」
「一体、今回はどうしたんだ。ずいぶん強引じゃねえか」
西園寺が、うろたえた。
「国営カジノ建設のバックには誰がいるか知ってるか」
西園寺の質問には答えず、美山は逆に尋ね返した。
「代議士の鶴本正勝(つるもと まさかつ)の話をしてるのか」
鶴本は与党の代議士で、国営カジノ建設に関わった大物政治家だ。過去に何度も暴力団との交際や汚職への関与が問題となり、マスメディアや野党に叩かれたが、ゾンビのようにしぶとく政界を生きながらえ、今に至る。
1度だけ首相になったものの差別発言等の暴言や暴力団との黒い交際が発覚し、短期間で総理の座を降りた。それ以後は与党のキングメーカーとして院政を敷いている。
「その通りだ。奴とはちょっとした因縁があってね……今度のヤマは、奴への復讐でもあるのさ」
美山は苦い記憶を噛みしめながら言葉を紡いだ。美山の両親は、彼が子供の頃に死んでいた。両親と美山が住んでいた家は土地再開発の関係で、地上げ業者の嫌がらせで追いだされるところであった。
それを何とか両親は孤軍奮闘でがんばっていたが、家に火をつけられ、その時の火事で死亡した。美山1人が奇跡的に生きのびたのだ。後に美山は成人してから独自の調査で、業者のバックに鶴本の存在があるのを知った。
一部の週刊誌がこの件を報道したが、他のマスメディアは後追いせず、いつのまにかうやむやになってしまう。警察は放火犯をつきとめて逮捕しようとしていたが、鶴本の圧力で真犯人とは無関係の人物が逮捕されたのを、美山は闇社会の情報網で知ったのだ。犯人とされた人物は刑務所内で自殺した。
調べれば調べるほど、鶴本の周辺からは悪い情報が舞いこんできたのである。いつしか鶴本への復讐が、美山のライフワークとなった。今までチャンスがなかったが、ようやく今、奴の鼻をあかせる機会が来たのだ。その件は西園寺にも昔ざっくり聞かせていた。
「話は終わりだ」
美山はそれだけ言い放つと、椅子から立った。
「お前が乗らないなら、他の連中とやるだけだ。他のメンバーがやらないならおれ1人でも、今度のヤマを成功させる」
「相手は国家権力だぞ。それでもやる気か。下手なヤクザよりタチが悪いぞ」
さすがに真剣な面持ちになって、西園寺が相棒を見る。美山は笑顔でうなずいた。
「相手がでかけりゃでかい程、やりがいがある」
「お前らしいな」
しばらくの間沈思黙考した後で、長年の友人は口を開いた。
「そこまで言うなら、おれも地獄までつきあってやらあ」
西園寺はそんな台詞で承諾する。2人で長時間ああでもない、こうでもないと打ち合わせをした後で、西園寺は帰宅した。一方美山は信頼できる仲間達に声をかける準備をする。
「売上金は地10階にある金庫に保管されている。これが今度のターゲットだ。当然我々も可能な限りのバックアップをしていくよ。取り分は今まで通り七三だ。こっちの取り分は三、おたくらが七。やり方はおたくらに任せるよ。どうだい」
「少し考えさせてくれ」
美山は答えた。
「いつも通りこの件を仲間に話して、綿密な計画を立ててから答えるよ」
「いいだろう。だが、あんまり時間をかけてくれるな。おたくら以外にもやってくれそうな窃盗団はあるんだから」
「もちろんだ。1週間以内に、やるかやらんか連絡する」
それだけしゃべると、美山はその場を後にした。彼はアジトに戻る途中、今までのヤマを思いだす。銀行、宝石店、美術館、博物館、闇カジノ、富豪の邸宅、外国の在日大使館、エトセトラ、エトセトラ……。
国営カジノは、今までのヤマに比べてはるかに困難になりそうだ。なにしろ建設には、大物政治家の鶴本(つるもと)代議士が関わっている。色々考えをめぐらしながら、美山は尾行されぬよう、何度も乗り物を乗りかえた。電車からバス、バスからタクシー、タクシーを降りてまた電車……。
尾行者は清武の手下かもしれないし、警察関係者かもしれない。そもそも、後をつけてる者はいないかもしれないが、念には念を入れねばならぬ。都内を西へ、東へ、北へ、南へと、あちこち行って、尾行者がいないのを確認してからアジトに戻った。
国営カジノ襲撃の件は、とてもじゃないが一人では決められない。こんな時に相談できる相棒と話をせねば。そいつは美山にとって、知恵袋のような存在なのだ。アジトに到着した美山は卓上電話で、相棒の携帯に連絡した。
「美山か。一体何だ」
受話器の向こうから氷のようにクールな男の声が流れ出た。美山は電話の相手の顔を思い浮かべた。西園寺康之(さいおんじ やすゆき)。年齢は35歳だ。ゆるやかなウエーブを描いた長めの茶髪。ナイフで削り取ったような、カマキリを思わせる三角形の顔。
日本人なら誰でも名前を知ってる一流大学卒の男で、ミスティー・ナイツにとっては軍師のような存在だ。
「また清武から仕事の話が持ちこまれた。参謀としてどう考えるか助言を仰ぎたい」
「わかった。明日の昼には、そっちに行くよ」
「清武には一週間以内には、やるかやらんか連絡すると言ってある」
「そう、せかしなさんな。まずは明日、あんたの話を聞いてからだ」
*
翌日の昼美山と西園寺の2人は、アジトの応接室に向かい合って座っていた。美山は西園寺に、カジノ襲撃の件を話して聞かせた。
「まだ稼ぐつもりなのか」
西園寺は呆れた口調だ。
「今までさんざん稼いできたのに、また危ない橋を渡るのかよ」
「これで終わりにするつもりだ。このヤマを最後に、足を洗う。今度の件はおれにとっちゃあ、最後の大芝居ってところだな」
「その台詞は、以前に何度も聞かされた」
西園寺はワサビをまぶした笑みを浮かべた。
「で、具体的にはどうやって、カジノの金を盗むんだ」
「カジノの金庫は地下10階にある。金庫の底を爆破して、金を盗む。盗んだ金は、現在本州と南美島をつないで建設中の北太平洋縦断トンネルで運ぶって寸法だ」
「ずいぶん壮大な話だな」
半分バカにした口調で、西園寺が言葉をつないだ。その心は、どうせそんな計画は不可能だろと考えてるのか。
「おれの最後のお勤めには、ふさわしいと思わんか」
美山は西園寺にウィンクしてみせた。
「仲間を集めなきゃならん」
「おいおい、待てよ。まだ、やるとは決めてないぞ」
あわてた調子で西園寺が突っこんだ。
「お前がやらんと言っても、他のメンバーでやるだけだ。おれの中では決まった話さ」
「一体、今回はどうしたんだ。ずいぶん強引じゃねえか」
西園寺が、うろたえた。
「国営カジノ建設のバックには誰がいるか知ってるか」
西園寺の質問には答えず、美山は逆に尋ね返した。
「代議士の鶴本正勝(つるもと まさかつ)の話をしてるのか」
鶴本は与党の代議士で、国営カジノ建設に関わった大物政治家だ。過去に何度も暴力団との交際や汚職への関与が問題となり、マスメディアや野党に叩かれたが、ゾンビのようにしぶとく政界を生きながらえ、今に至る。
1度だけ首相になったものの差別発言等の暴言や暴力団との黒い交際が発覚し、短期間で総理の座を降りた。それ以後は与党のキングメーカーとして院政を敷いている。
「その通りだ。奴とはちょっとした因縁があってね……今度のヤマは、奴への復讐でもあるのさ」
美山は苦い記憶を噛みしめながら言葉を紡いだ。美山の両親は、彼が子供の頃に死んでいた。両親と美山が住んでいた家は土地再開発の関係で、地上げ業者の嫌がらせで追いだされるところであった。
それを何とか両親は孤軍奮闘でがんばっていたが、家に火をつけられ、その時の火事で死亡した。美山1人が奇跡的に生きのびたのだ。後に美山は成人してから独自の調査で、業者のバックに鶴本の存在があるのを知った。
一部の週刊誌がこの件を報道したが、他のマスメディアは後追いせず、いつのまにかうやむやになってしまう。警察は放火犯をつきとめて逮捕しようとしていたが、鶴本の圧力で真犯人とは無関係の人物が逮捕されたのを、美山は闇社会の情報網で知ったのだ。犯人とされた人物は刑務所内で自殺した。
調べれば調べるほど、鶴本の周辺からは悪い情報が舞いこんできたのである。いつしか鶴本への復讐が、美山のライフワークとなった。今までチャンスがなかったが、ようやく今、奴の鼻をあかせる機会が来たのだ。その件は西園寺にも昔ざっくり聞かせていた。
「話は終わりだ」
美山はそれだけ言い放つと、椅子から立った。
「お前が乗らないなら、他の連中とやるだけだ。他のメンバーがやらないならおれ1人でも、今度のヤマを成功させる」
「相手は国家権力だぞ。それでもやる気か。下手なヤクザよりタチが悪いぞ」
さすがに真剣な面持ちになって、西園寺が相棒を見る。美山は笑顔でうなずいた。
「相手がでかけりゃでかい程、やりがいがある」
「お前らしいな」
しばらくの間沈思黙考した後で、長年の友人は口を開いた。
「そこまで言うなら、おれも地獄までつきあってやらあ」
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