ミスティー・ナイツ

空川億里

文字の大きさ
7 / 35

第7話 盗みの準備は万事OK?

しおりを挟む
 西園寺の表の仕事は絵画やオブジェ、陶芸等、何でもござれの芸術家だ。
 だが裏では有名な絵画の贋作を描いて売ったり、ミスティー・ナイツの1人として、裏の稼業に手を出したりもしていたが。
 今まで盗んだ絵画や彫刻も、西園寺独自のコネクションを使って売りさばいていた。
「こいつはすげえ」
 海夢が口笛を吹いた後で、感嘆の声をあげた。
「さすが西園寺。やってくれるぜ」
 同じく共鳴したのは、釘谷である。
「全く、本物そっくりだ」
「じゃあ、こうしよう」
 美山は皆に宣言した。
「おれが学者に変装して、美術品をすりかえるプランでいこう。それで上手くいかなければ、廃ビル爆破のプランでいく。この計画は同時進行でやる。おやっさんは、廃ビル探しに動いてくれ」
 おやっさんこと釘谷は美山に向かってうなずいた。どんな人物に変装するか。美山は少し考えてみる。美山は欧亜混血だ。
 父親は日本人だが、母親はアメリカ人の白人女性である。その気になればアメリカの白人に変装するのも不可能ではない。
 髪を染めるかかつらをかぶり、目にはカラーコンタクトを入れればいい。英語もネイティヴなみに話せるのだ。
 日本人の中には外国(特に欧米)の文化や文明をありがたがる者達がいる。
 戦争に負けたせいなのか何なのか知らないが、欧米の文化や文明は全て無条件で素晴らしいと考える人達だ。
 かれらの根拠のない先入観を利用するため今回美山が演じるのは、アメリカ人の学者という設定が望ましいかもしれない。
 美山は衣舞姫に指示を出して、世界中の歴史学者の中から、日本の古代文化の研究をテーマにしている学者をネットで探させる。その中で、1人の学者の存在がクローズアップされた。
 アメリカのハーバード大学の元教授で、人類学者のステファン・アダムス博士である。
 専門は東アジアの古代人類学だ。専門分野以外でも博識で優秀なのと、傲岸不遜な性格で世界の学会に名を轟かせているそうだ。
 博士はフットワークの軽い人物として知られていた。過去にも突然アポなしで、日本や中国や韓国の大学や博物館を訪問した実績の持ち主だ。
 一方極端な人間嫌いで知られ、講演会やパーティには一切出ないし、マスコミの取材も受けない。スマホも自宅の電話もないので、誰も予定を把握してない。
 写真も嫌いで、ネットにも画像はあまり載ってない。過去に結婚していたが、すでに奥さんと離婚しており、3人の子供は父親を嫌って別居している。
 変装して、アポなしで南美美術館に押しかけるなら、何かと好都合な人物だ。
 変装のメイクは立岡愛梨にいつも同様手伝ってもらう。彼女の本業は、メイクアップアーティストだ。
 日本やアメリカの映画やドラマのスペシャルメイクにも関わっていた。化粧や変装に必要な小道具は全て、このアジトに揃っている。
 ここだけでなく、全ての隠れ家に常備していた。美山は早速愛梨の見たてで茶色い髪に白髪のまざったかつらをかぶる。愛梨の細く、白い指先が美山の鼻の上にパテを盛って、アダムス博士の鷲鼻を再現した。
 身長はアダムス博士が美山より3センチ高い183センチ。そう大きく違わないので問題なし。念のためシークレット・シューズで背を、三センチ底上げする。顔や腕や手に薄くパテを盛り、その上から色を塗って、白人の高齢者の皮膚を再現した。
 目尻に盛ったパテの上から楊枝のような道具を使って愛梨が小じわを再現する。姿形を鏡に映しだしてみたが、そこにはネットの画像通りのステファン・アダムズ博士がいた。後は声だ。
 衣舞姫がネットで検索した、博士が珍しく講演会で話している画像の声を元に、美山は物まねの特訓を開始した。
 元々美山は母親の祖国アメリカで生まれ育ったので、流暢な英語を話せる。
 しかも20代の一時期ものまね芸人をやっていたので、人の声色を似せるのも得意だ。
 録音した声を自分で聞き、なおかつ他のメンバーにも聞いてもらい、納得した物が完成した。
「さすが愛梨。スペシャルメイクはバッチリだな。衣舞姫の情報も役に立った。おれが普通に検索したんじゃ、こんなふうにいろんな画像は入手できねえ」
 画像の中には、アダムズ博士が出入りした大学の防犯カメラに映った物も含まれていた。当然ながら衣舞姫がハッキングしてゲットした映像だ。
「おやっさん、海底鉄道での現金強奪プランの方は進んでる?」
 美山は元過激派に質問した。
「当たり前田のクラッカーだぜ。金庫の底は爆破しても、中の金に影響は出ないような、特別な爆弾を用意してある」
「どうでもいいけど『当たり前田のクラッカー』って、古すぎる」
 美山が笑って突っこんだ。
「何それ。前田敦子の話」
 きょとんとした表情で愛梨が聞いた。
「全然ちげーよ」
 海夢が脇から突っこんだ。
「冗談の時間は、そこまでだ」
 やんわりと制止したのは美山である。
「肝心の実行プランだが、おれが王冠を偽物とすりかえる。その後で予告状を出す。そして予告した日に金庫から現金だけを強奪する。後で警察は王冠もすりかえられたって気づく寸法だ」
「予告状を出した時には、すでに王冠は盗まれてるってわけか。だが、そう簡単にうまくいくかな」
 腕ぐみをしながら釘谷がつぶやいた。
「簡単だなんて思っちゃいねえさ。何でも行動を起こさなければ始まらねえからな。千里の道も一歩から。ローマは一日にしてならずって言うじゃねえか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...