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第9話 作戦成功?
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それだけ述べると博士と秘書は、そそくさと応接室を出てしまった。明定と花宮は、あわてて2人を送りに向かう。
瀬戸菜は念のため王冠を確認したが、特に問題はないようだ。どうやら博士は本物だったらしい。
ミスティー・ナイツのメンバーの変装と感じたのは杞憂だったようである。やがて博士を見送った明定と花宮が再び戻ってきた。
「ともかく機嫌を損じなくてよかった」
支配人が満面の笑みを浮かべながら、王冠を見た。が、それまで太陽のように輝く笑みを浮かべていた顔が、にわかに曇りはじめていた。
「どうしたんです」
不安になって、瀬戸菜は明定に質問した。
「す、すり替えられてる……」
「何ですって」
「あの野郎、偽者の博士だ」
ついに明定は、鬼がとりついたような勢いで大声をあげた。
*
その頃である。アダムス博士に変装した美山と、ミス・タヤこと立岡愛梨は美術館を出ると、タクシーに乗りこんだ。
もっともそのタクシーは、そう見せかけたミスティー・ナイツの所有車輌で、運転手は富口海夢の変装だった。
「見たかよ。あの支配人のあわてっぷり。ざまあみやがれ。想定通りに騙されやがって。いくら何でも出来すぎだろ」
美山は後部座席で腹を抱えて笑いだした。
「姫崎警部補の悔しがる様子が、目に浮かぶぜ。まさか愛梨の持ってきたキャリーケースに偽物の王冠が入ってて、それとすりかえたなんざ、気づくまい」
「でも、ドキドキしたぁ」
ため息と共に愛梨が吐きだした。
「いつ気づかれるかって、ひやひやしちゃった」
「でも、全然そうは見えなかったぜ。堂々とした態度でさ。明定の奴、愛梨の生脚ばっか見ちまってよ……。しょうもねえエロオヤジだぜ」
美山は今までこらえていた笑いと共に言い放つ。
「そんな事より、早速お宝拝見といこうじゃない」
美山はキャリーケースのファスナーを開けた。中から金の王冠が現れる。
「見ろよ、この輝きと言ったら」
美山は喜びを全開にして大声をだした。
「さすが本物は……違う。違うぞ。これは本物じゃない」
美山は眼前が真っ暗になるような思いであった。
「嘘でしょ」
愛梨が驚いた声を出した。
「だって、確認したんじゃないの」
「確認はしたさ。確認したけど、よくよく見たら違ったんだ……なんてこった。われながらこの美山誠、一世一代の不覚だぜ。こりゃあ、本物そっくりに作られた精巧な偽物だ。明定の野郎に一本取られた」
美山は悔しさのあまり、はらわたが煮えくりかえりそうだった。
明定の策略か、瀬戸菜の入れ知恵か、はたまた鶴本代議士の奸計かはわからぬが、何にせよ一杯食わされたのは間違いない。
「嘘でしょう。一体、どこが違うのよ」
目を丸くして、愛梨が美山を問いつめた。
「よく見ろよ。古代文字かもしれないと言われてる、この記号みたいな部分。本物は二重丸なのに、このフェイクは三重丸になってやがる。全部確認したつもりなのに見落としちまった……」
その時である。後ろからけたたましいサイレンの音が聞こえてきた。ミラーを見るとパトカーだ。
「こちらは警察です。前方のタクシーは即刻止まりなさい」
メガホンから流れる声は他でもない、姫崎瀬戸菜警部補のものである。どうやら向こうもこっちのすり替えに気づいたようだ。
「海夢、飛ばせ。全速力だ。スピード違反なんて構うもんか。どうせおれたちゃ犯罪者だ」
「がってん承知の助」
待ってましたとばかりに海夢がアクセルを踏みこんだ。
この車は外装こそは普通の国産車に見せかけているが、実際はエンジンを改造しており、その気になれば時速500キロ出すのも可能である。
それまで60キロぐらいで走っていた車はやがて70キロ、80キロと速度を上げていく。
運転する海夢は元々レーサー志望だった程で、途中何度も他の車を優雅に追いこしながら、パトカーの追撃を振りきってゆく。
抜かされたのに憤慨した自動車のうち何台かが、派手にクラクションを鳴らした。
「やあだやだ。日本人って、すうぐクラクション鳴らしちゃって」
海夢が自分の無茶な運転は、棚に上げてつぶやいた。ところが今度は前方からもサイレンを鳴らしたパトカーが現れた。
左右はたまたま曲がり角がなく、家や建物がびっしり並んで逃げようがない。
海夢はその時ハンドルの脇にあるスイッチの一つを押した。次の瞬間、車は徐々に地上を離れて浮上した。
運転席と助手席の間にある液晶モニターに、車の現在の状態がCGで映しだされている。
それを見ると車体の下に折りたたまれた翼が両脇に伸び、車体の後部から飛びだした噴射口からジェットの炎が燃えあがった。
イギリスのVTOLのハリヤーよろしく、タクシーは垂直に上昇していく。飛行形態になったのである。この車の開発者は、雲村博士だ。
こんな車を発明するとは、子供の頃テレビアニメや子供向けの特撮ドラマを観すぎたのだろう。もっとも、そのおかげで危難から脱出できるわけだが。
さすがのパトカーも空まで追えるはずもなく、警官達は道路に降りて、手にした拳銃を空に向け、浮上するミスティー・ナイツの車に向かって銃を撃ったが、雲村博士の発明品は車体もガラスも防弾仕様で、当たってもかすり傷一つ負わなかった。
車は轟音をあげながら、遠い空をめざして飛んだ。
*
「で、見事にミスティー・ナイツに逃げられたというわけですな」
明定は、眼前の瀬戸菜に嫌味を吐いた。場所は再び南美美術館の応接室だ。彼女は反論できるはずもなく、悔しさに唇をかんでいた。
「現在全国警察は航空自衛隊と連携して、飛びさった車を捜索中です」
瀬戸菜は、そう説明するのがやっとであった。
「まあ、いいでしょう。大事な王冠はこうして無事に手元に存在しますしな。こんな状況もあろうかと、精巧な偽物を陳列して正解でした……私はこの後ミーティングがありますので、そろそろお引取り願いたい。今度あなたがここへ来る時は、ミスティー・ナイツを捕まえた時だと信じてますよ」
全国警察の警部補が部屋を去った後、身長2メートルはある大男が、代わりに部屋に現れた。身長に比例して肩幅も広い。
ごつごつした筋肉質のプロレスラーのような体型で、ナイフのように鋭い目だ。
頭はつるつるにそりあげたスキンヘッドで、圧倒的な牡のオーラを放っていた。
こんな男が通りをのしのし歩いていたら、大抵の者は目を伏せて、道を開けてしまうだろう。
瀬戸菜は念のため王冠を確認したが、特に問題はないようだ。どうやら博士は本物だったらしい。
ミスティー・ナイツのメンバーの変装と感じたのは杞憂だったようである。やがて博士を見送った明定と花宮が再び戻ってきた。
「ともかく機嫌を損じなくてよかった」
支配人が満面の笑みを浮かべながら、王冠を見た。が、それまで太陽のように輝く笑みを浮かべていた顔が、にわかに曇りはじめていた。
「どうしたんです」
不安になって、瀬戸菜は明定に質問した。
「す、すり替えられてる……」
「何ですって」
「あの野郎、偽者の博士だ」
ついに明定は、鬼がとりついたような勢いで大声をあげた。
*
その頃である。アダムス博士に変装した美山と、ミス・タヤこと立岡愛梨は美術館を出ると、タクシーに乗りこんだ。
もっともそのタクシーは、そう見せかけたミスティー・ナイツの所有車輌で、運転手は富口海夢の変装だった。
「見たかよ。あの支配人のあわてっぷり。ざまあみやがれ。想定通りに騙されやがって。いくら何でも出来すぎだろ」
美山は後部座席で腹を抱えて笑いだした。
「姫崎警部補の悔しがる様子が、目に浮かぶぜ。まさか愛梨の持ってきたキャリーケースに偽物の王冠が入ってて、それとすりかえたなんざ、気づくまい」
「でも、ドキドキしたぁ」
ため息と共に愛梨が吐きだした。
「いつ気づかれるかって、ひやひやしちゃった」
「でも、全然そうは見えなかったぜ。堂々とした態度でさ。明定の奴、愛梨の生脚ばっか見ちまってよ……。しょうもねえエロオヤジだぜ」
美山は今までこらえていた笑いと共に言い放つ。
「そんな事より、早速お宝拝見といこうじゃない」
美山はキャリーケースのファスナーを開けた。中から金の王冠が現れる。
「見ろよ、この輝きと言ったら」
美山は喜びを全開にして大声をだした。
「さすが本物は……違う。違うぞ。これは本物じゃない」
美山は眼前が真っ暗になるような思いであった。
「嘘でしょ」
愛梨が驚いた声を出した。
「だって、確認したんじゃないの」
「確認はしたさ。確認したけど、よくよく見たら違ったんだ……なんてこった。われながらこの美山誠、一世一代の不覚だぜ。こりゃあ、本物そっくりに作られた精巧な偽物だ。明定の野郎に一本取られた」
美山は悔しさのあまり、はらわたが煮えくりかえりそうだった。
明定の策略か、瀬戸菜の入れ知恵か、はたまた鶴本代議士の奸計かはわからぬが、何にせよ一杯食わされたのは間違いない。
「嘘でしょう。一体、どこが違うのよ」
目を丸くして、愛梨が美山を問いつめた。
「よく見ろよ。古代文字かもしれないと言われてる、この記号みたいな部分。本物は二重丸なのに、このフェイクは三重丸になってやがる。全部確認したつもりなのに見落としちまった……」
その時である。後ろからけたたましいサイレンの音が聞こえてきた。ミラーを見るとパトカーだ。
「こちらは警察です。前方のタクシーは即刻止まりなさい」
メガホンから流れる声は他でもない、姫崎瀬戸菜警部補のものである。どうやら向こうもこっちのすり替えに気づいたようだ。
「海夢、飛ばせ。全速力だ。スピード違反なんて構うもんか。どうせおれたちゃ犯罪者だ」
「がってん承知の助」
待ってましたとばかりに海夢がアクセルを踏みこんだ。
この車は外装こそは普通の国産車に見せかけているが、実際はエンジンを改造しており、その気になれば時速500キロ出すのも可能である。
それまで60キロぐらいで走っていた車はやがて70キロ、80キロと速度を上げていく。
運転する海夢は元々レーサー志望だった程で、途中何度も他の車を優雅に追いこしながら、パトカーの追撃を振りきってゆく。
抜かされたのに憤慨した自動車のうち何台かが、派手にクラクションを鳴らした。
「やあだやだ。日本人って、すうぐクラクション鳴らしちゃって」
海夢が自分の無茶な運転は、棚に上げてつぶやいた。ところが今度は前方からもサイレンを鳴らしたパトカーが現れた。
左右はたまたま曲がり角がなく、家や建物がびっしり並んで逃げようがない。
海夢はその時ハンドルの脇にあるスイッチの一つを押した。次の瞬間、車は徐々に地上を離れて浮上した。
運転席と助手席の間にある液晶モニターに、車の現在の状態がCGで映しだされている。
それを見ると車体の下に折りたたまれた翼が両脇に伸び、車体の後部から飛びだした噴射口からジェットの炎が燃えあがった。
イギリスのVTOLのハリヤーよろしく、タクシーは垂直に上昇していく。飛行形態になったのである。この車の開発者は、雲村博士だ。
こんな車を発明するとは、子供の頃テレビアニメや子供向けの特撮ドラマを観すぎたのだろう。もっとも、そのおかげで危難から脱出できるわけだが。
さすがのパトカーも空まで追えるはずもなく、警官達は道路に降りて、手にした拳銃を空に向け、浮上するミスティー・ナイツの車に向かって銃を撃ったが、雲村博士の発明品は車体もガラスも防弾仕様で、当たってもかすり傷一つ負わなかった。
車は轟音をあげながら、遠い空をめざして飛んだ。
*
「で、見事にミスティー・ナイツに逃げられたというわけですな」
明定は、眼前の瀬戸菜に嫌味を吐いた。場所は再び南美美術館の応接室だ。彼女は反論できるはずもなく、悔しさに唇をかんでいた。
「現在全国警察は航空自衛隊と連携して、飛びさった車を捜索中です」
瀬戸菜は、そう説明するのがやっとであった。
「まあ、いいでしょう。大事な王冠はこうして無事に手元に存在しますしな。こんな状況もあろうかと、精巧な偽物を陳列して正解でした……私はこの後ミーティングがありますので、そろそろお引取り願いたい。今度あなたがここへ来る時は、ミスティー・ナイツを捕まえた時だと信じてますよ」
全国警察の警部補が部屋を去った後、身長2メートルはある大男が、代わりに部屋に現れた。身長に比例して肩幅も広い。
ごつごつした筋肉質のプロレスラーのような体型で、ナイフのように鋭い目だ。
頭はつるつるにそりあげたスキンヘッドで、圧倒的な牡のオーラを放っていた。
こんな男が通りをのしのし歩いていたら、大抵の者は目を伏せて、道を開けてしまうだろう。
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