ミスティー・ナイツ

空川億里

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第12話 太古からの訪問者

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「大丈夫か」
 美山は銃弾を浴びた春間に声をかけた。ここはアジトの中である。銃弾は、春間の左肩を貫通している。
「大丈夫です。かすり傷です」
 そうは話したが、その顔は苦痛に歪んでおり、脂汗をかいていた。左肩は真っ赤に染まり、痛々しい。
「おれが車で運びます」
 横から海夢が口をはさんだ。
「そうしてくれ。知り合いにモグリの医者がいる。そこへ春間を運んでくれ。あわてて事故を起こさんようにな」
 美山と海夢は西園寺や釘谷の手を借りて、怪我人の春間をスカイ・カーに運びこんだ。なるべくゆっくり運んだが、それでも春間は痛そうだ。
 精神的なショックも大きいだろう。そして春間は海夢の運転で運ばれた。
「いくら相手が悪党とはいえ、こんなに殺しちまったのは気が引けるな……。ナンマンダブ、ナンマンダブ……」
 海夢の車を見送った後銃撃を浴びて骸となった男達の遺体を見ながら、自称革命家の釘谷が手を合わせた。死体は全部で8つある。
 そのうち2人即死だった。他の6名は即死ではなかったものの全身に浴びた銃弾のため、出血多量で亡くなったのだ。
 昼には手入れの行き届いていた芝生の緑が鮮やかだった庭は、今や死臭の立ちこめる、つわもの共の夢のあとになりはてている。
「辛気臭え親父だぜ。やらなきゃ、こっちがやられてたんだ。殺しが嫌なら、今からでもカタギになりな。ロシア革命の時だって、大勢人が死んだじゃねえか」
 西園寺が吐きすてた。彼らしいクールな意見だと美山は思った。少なくとも、あわててこの状況を隠す必要はない。
 この家が人里離れた場所にあるのもその理由だが、襲撃者が地元の警察とつるんでこの時間、この場所に巡回の警官が近づかぬよう手を打っているのもあった。
 警察内部の人間から聞いて美山はそれを知っていたのだ。警察に限った話じゃないが、どんな組織にも内部の貴重な情報を教えてくれる者がいる。
 金と引きかえだったり良心に基づくものだったり、単に秘密を秘密にできない話好きだったりと、その理由は様々だ。
 今回情報を教えてくれた警官は、警察とヤクザと鶴本の癒着に憤っている正義漢だった。
 どんな組織にも、こういう気骨のある人物がいるものだ。襲撃者を虐殺した機関銃と周囲の塀は、再び地面に収納された。
 遺体は美山を含めた男達全員で地下に運ばれ、塩酸のプールに沈めて骨ごと全て溶かされた。
 これで証拠は残らない。不要になった塩酸は庭に捨ててしまう。大量の塩酸が、土の地面に染みこんだ。
           *
「失敗しただと」
 眼前でしょぼくれる畠山の姿を見ながら、明定は激怒した。
「申し訳ございません。次は必ず……」
 体のでかい畠山だが、さすがに今日は明定には小さく見えた。
「しかし奴ら、そこまでの装備をしているとは……ここは1つ地元の警察に捜査させるか。庭から出てきたっていうマシンガンが見つかっただけでも法律違反だ。普段地元の警察署長には、たっぷり金を渡してるんだ。こういう時こそ働いてもらわんとな……貴様はうせろ」
 明定がどなりつけると、畠山は無言で部屋を出ていった。明定は自分のスマホを取りだすと、早速地元警察の署長のスマホに電話する。
「これはこれは明定さん。ごぶさたしております。ご機嫌はいかがでしょう」
 電話の向こうに出た署長がにこやかな声で応対した。
「うちの部下がへまをやってな。昨日話した春間とかいう男の家を襲撃したが、逆に庭に設置したマシンガンで反撃された。署長には銃刀法違反でゴキブリ共をしょっぴいてほしいんだ」
「ミスティー・ナイツとかいう怪盗は、そんなぶっそうな物をアジトに設置してるんですか」
「庭の地面の中に、遠隔操縦できるマシンガンが設置されていたらしい。奴らの資金源と技術力は相当なものがあるようだ。今まで何度も日本中の警察がしてやられるのも無理ないかもな。よく考えると連中は国内ばかりか海外でも、銀行や美術館を荒らしまくってるそうだしな。資金源は豊富なんだろう」
「明定さんのご依頼とあれば、すぐにでもガサ入れをやりますよ」
「頼んだぞ。貴様には普段から、たっぷり金を渡してあるんだ。こういう時こそ活躍してくれ」
「ただちに部下に命令します。情報提供に感謝します」
「当然だ。我々、善良な市民の義務だからな」
(お調子者め)
 電話を切った明定は腹の中でつぶやいた。だが、署長は使える男だ。今までも明定の指示通りに使われてきた。
   署長が黙認しているおかげで、鶴本や明定とつながりのある暴力団が麻薬や拳銃の密輸や売春等の裏商売を大手を振ってできるのだ。
 そうして得た資金源の一部が鶴本にも流れ、選挙の資金源にもなる。金をばらまいて票を買ったり、ヤクザや半グレを雇って対立候補やその家族に嫌がらせしたりもしてきた。
   発覚してもちゃんと捜査させなかったり、もみけしたりは日常茶飯事なのである。
           *
 ドンパチがあった翌日の朝、南美署の青村(あおむら)警部補は、大勢の警官を連れて、ミスティー・ナイツのアジトがあるという情報の入った屋敷にパトカーで向かった。
 情報の出所は明定で、署長の指示でやってきたのだ。明定と警察は、長年持ちつ持たれつの関係だった。
   やがて視界に周囲を生垣で囲まれた邸宅が現れる。そろそろパトカーを駐車しようとした頃に、突然邸宅のある敷地が一斉に爆発した。
 大音響が周囲に広がり、耳を聾する。生垣に火がついて燃えあがり、爆風と共に家の破片が飛んできて、フロントガラスにぶつかった。
   爆風が収まった時には、屋敷も庭も生垣も、紅蓮の炎に包まれている。
(一足遅かったか……)
 青村は悔しさのあまり、パトカーのドアに、拳の脇を叩きつけた。
   おそらくすでにミスティー・ナイツのメンバーは全員逃亡しており、証拠物件もあらかた持ち出されているだろう。
   今の爆発で、アジトに残された証拠となりそうな物も、あらかた吹っ飛んでしまったろう。
           *
「ミスティー・ナイツはとっくの昔にずらかって、アジトは爆弾で燃えてしまったというわけだな」
 明定はカジノの支配人室で、署長と青村警部補に向かって話した。
「このままで済ますつもりはありません。現在緊急手配中で、ドブネズミ共を追いかけています」
 大城(おおしろ)署長がそう述べた。その時である。部屋のドアを激しくノックする音がした。まるで扉が壊れんばかりの勢いだ。
「一体どうした」
 明定が声をかけると、間髪を入れず乱暴にドアが開いた。現れたのは、顔のひきつった花宮だ。
「『週刊カオス』の記者が来たのですがどうしましょう」
 週刊カオスと言えば、反権力で鳴らす硬派の雑誌だ。かなり前から明定や鶴本もターゲットにされていた。
   今までも他のマスコミ同様脅迫や贈賄で屈服させようと画策したが、賄賂は受けとらず、脅迫にも屈しないので、未だに達成されてない。
「そんな奴通す必要はない。おれはここにいないと言え。門前払いだ」
 明定は、ハエでも追い払うような手ぶりで、己の感情を表した。         
             *
「この後一体どうする気だ」
 西園寺が美山に質問してくる。
「警察の連中はいなくなったが今後も奴ら、あの手この手でおれ達を締めつけてくるに違いねえ。このままいっそ、ここから逃げちまおうか」
「そうだなあ……。どうすっぺかなあ」
 革張りのソファーにもたれながら、美山は天井を見あげた。実は美山達は、爆発で吹っ飛んだアジトから離れた別の邸宅に逃げていた。そこには以前から金で雇った別の人物が住んでいる。
 警察がこの屋敷にも聞きこみに来たが、何も知らないと回答していた。
   この家から、爆発したアジトはかなり離れており、屋敷の主は『爆発の音に驚いたが、それ以上は何も知らない』で押しきった。
 万が一家宅捜査を受けたら、以前からあった地下室に逃げるつもりだったが、その必要は今のところなかったのだ。
 屋敷の主は元々羽振りのいい会社経営者だったが、経営していた会社が傾き、今までの贅沢な生活ができなくなりそうになったところへ美山が接触した。
 多額の金を美山が払って今までの生活が可能になるとの引き換えに、アジトとして利用させてもらっているのだ。
 傾いた会社には美山が出資したために経営が持ち直した。
 そしてその会社から出る利益の一部を上納金として、ミスティー・ナイツが徴収していたのだ。
 南美島の美術館やカジノには以前から興味があったため、明確な盗みの計画があったわけではないが、アジトを同じ島に二か所用意していたのである。
 外はもう夜だ。都会と違って、けばけばしいネオンサインはない。
 とても静かで、墨を流したように真っ暗だ。見あげると、天使のため息をばらまいたような満天の星空がどこまでも、どこまでも広がっている。
 そんな窓外に美山が目をやると、驚くべき物が視界に映った。漆黒の空中に、ぼんやりと白く光る甲冑に包まれた、謎の『人物』が浮かんでいたのだ。
 その甲冑はどこの国の物なのか、いつの時代の様式なのか、見当もつかないような形状だった。
 まるで他の惑星から来た住人がデザインしたかのようである。甲冑を着けているのは、おそらく人間なのだろう。
 夜の空中を浮遊できる人間がいるとしての話だが。その人物は、顔にも白い仮面をつけている。
 美山は思わず、本来ならばありえない光景に吸いよせられていた。その正体はわからぬけれど、物理の法則を無視したものなのは確かなようだ。
 美山は一瞬、その人物を背後から吊るワイヤーだとかクレーンだとか、その手のからくりを探したが、目で追う限り見あたらぬ。
「ミスティー・ナイツの諸君」
 窓の外から、男の声が聞こえてきた。
「予は、そちらがムー大陸と呼んでいる、偉大なる土地を支配していた皇帝なるぞ」
「ムー大陸の皇帝だと。何を冗談ほざいてるんだ。あんなのは、ただの伝説だろうよ」
 西園寺が不機嫌そうに、つばを飛ばした。その手には、すでに拳銃が握られている。
 西園寺は防弾ガラス製の分厚い窓を開けて、空中に浮かぶ『ムー大陸の皇帝』に狙いをつけた。
「撃てるなら撃ってみるがいい。そんな物は、通用せん」
「何だとお」
 西園寺はどなりながら両手で構えた拳銃を撃つ。鋭い銃声が夜のしじまに轟いたが『皇帝』はそのまま宙に浮かんでいる。人智を超えた何らかの作用が、銃弾の威力を無化したようだ。
「通用せんとあらかじめ断ったはずだ。予は、すでにこの世にはいないのだからな。わが望みは、神聖なる王冠に盗人風情が手を出すなという、ただそれだけだ。美術館に展示されるだけならまだしも、貴様らのような盗人の手に落ちるなど、予の誇りが許さん」

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