ミスティー・ナイツ

空川億里

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第13話 計画変更?

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 やがて『皇帝』は現れた時と同じように、唐突に姿を消した。まるで煙か何かのように。そこには何もなかったように、静かな夜が広がっている。
 美山はすぐに飛びだそうとしたが、西園寺が肩を抑えつけた。
「気をつけろ美山。頭を伏せろ。皇帝だか何だか知らんが、下手にここから出たりしたら、何されるかわからんぞ」
 やがて後ろから廊下を走る足音がして、釘谷と海夢と愛梨が現れた。3人共ただならぬ気配を感じたのか、手に手に拳銃を持っている。みな普段から、枕元に置いてあるのだ。
「どうしたんだ」
 釘谷が聞いてきた。
「説明して信じるかわからんが、ムー大陸の皇帝とかいう奴が空中に現れて、おれ達に王冠を奪うなと脅してきやがった」
 最初のうちは皆、ポカンとした表情で聴いていた。狐につままれたというのは、こんな顔を言うのだろう。
   が、美山と西園寺の真剣な表情と気配を読みとって納得したのか、釘谷が真顔で話した。
「冗談で話してるわけじゃなさそうだな」
「あったりめえだ。ジョークならもうちっと気の利いた話をしてらあ」
 美山は答えた。
「よく言うわね。しょうもないオヤジギャグばっか言ってるくせに」
 愛梨が呆れた口調で鼻を鳴らした。こんなはすっぱな表情も絵になる女だ。
「オヤジなんだから、しょうがねえだろ」
「まあ、2人共カリカリすんな。今はそんな状況じゃねえだろう」
 西園寺が2人の間に割って入った。やがて衣舞姫が釘谷達の後ろから走ってきた。やはり手に拳銃を持っている。
「何がおこったの。痴話ゲンカって奴?」
 衣舞姫が聞いた。
「美山やっぱり愛梨の事狙ってるだろ」
 まるでボウガンかライフルで射ぬくかのような鋭い『じと目』で、衣舞姫が美山の顔を見る。
「痴話ゲンカじゃねえよ」
 美山は呆れて衣舞姫に突っこんだ。
「言っても信じちゃくれねえだろうが、自称ムー大陸の皇帝ってのが現れたんだよ。真っ白な鎧兜なんか着ちまって、五月人形にしちゃあ時期はずれだけど」
「ともかく外に出てみようや」
 釘谷が横から割りこんだ。
「危険かもしれないが実際に外に出て、現場を確かめなきゃ、どうにもならねえからな」
 釘谷の提案通り、美山達は拳銃を両手で構えながら、おっかなびっくりで外に出る。そこには誰もいなかった。
 蒸し暑い熱帯の夜がどこまでも続いており、遠くから、どんな姿か想像もつかぬ獣や鳥達の声が聞こえてくるだけだ。
 周囲にあまりに何もなく、星空が見渡す限り澄みきっているので、まるで自分が広大な宇宙空間に放りだされた錯覚にすら陥りそうだ。
 一瞬美山は自分がさっき観た物が幻覚に過ぎぬのじゃないかと思えてくる。
「何かあったのか」
 背後から雲村博士の声が聞こえた。ステッキをつきながら現れた博士に対して、美山と西園寺は口々に今までの経緯を説明した。
「なるほどな。どうせ誰かのしくんだトリックだろうが、誰にせよ、しくんだ奴は手ごわそうだ。ここは1つ、身を引いた方がいいんじゃないのか」
「とんでもない」
 美山は答えた。
「むしろ障害がある方が燃えるってもんだ」
「おれも、博士と考えは同じだ」
 西園寺が、口をはさんだ。
「みんなの身が心配だ。ヤクザにマシンガン持たせて、なぐりこみかけさせるような連中だしな」
「前も言ったが、おれは鶴本に恨みがある。今度のヤマはおれにとっちゃあ、死んだ両親のあだ討ちでもあるのさ。今度のお勤めが危険だと思う奴がいるんだったら降りていい。今までもそうしてきたが、去る奴を追う気はない」
 美山はその場にいる全員を見渡した。しばらくの間、場を沈黙が支配した。一瞬にして全員が蝋人形にでもなったかのようだ。
「いないようだから、このヤマは全員続行とさせてもらう。この場で言いづらいようだったら、後で降りたいと申しでてくれてもいい。やる気のない奴に加わってもらったんじゃ、むしろこっちが迷惑だからな」
 結局、その後も『降りたい』と告白した者は現れなかった。今いるメンバーは長年労苦を共にした連中ばかりだ。
   結束が固いから、降りる者もいないのだろう。そもそも危険を厭うような面子なら、最初からミスティー・ナイツの一員になってない。
 いよいよ美山は第2プランにとりかかる決意を固めた。それは釘谷が探しだした廃ビルを爆破して、そっちに警察の目がいってる隙に王冠と、カジノの売り上げ金を盗む計画である。
 だが釘谷が目をつけていた廃ビルは急遽取り壊される事になり、すでに解体工事が始まっていた。
   工事は昼に行われていたが、工事関係者が突然夜に来る時もあり、爆弾をしかけるのは難しくなっている。
 しかも当初は周囲に人の住む家がなかったのだが、最近近所の空き家に引っ越してきた者がおり、その住人は夜遅くまで起きているので、なおさら爆弾を設置するのは難しくなっていた。
 カジノと美術館からあまり遠いと、警備員がそっちの消火活動に人員を割くとは考えられないし、逆にあまり近すぎては、簡単に戻って来られるので、これはこれで困りものである。
「計画を変更した方がいいんじゃないですか」
 海夢が廃ビル計画に、口をはさんだ。
「なあに。おれに考えがある」
 美山は答えた。
「廃ビルなんてのは、なければ造ればいいだけの話さ」
 美山は片目をつむってみせる。
           *
 美山と釘谷は灼熱の陽光を浴びながら、南美島の通りを歩いていた。
「これなんか、どうだろう」
 10階建ての古ぼけたビルをさしながら爆弾設置担当の釘谷が笑顔を浮かべた。
「ちょうどここからカジノが見えるし」
 確かにカジノと美術館が見える位置だ。近すぎず、遠すぎず。
 警官や警備員が応援に来るほど近くなければならず、簡単に消火活動から戻ってこられないほど遠くなければならないが、このビルから見た距離感がちょうどいいのだ。
 美山はまじまじと、そのビルを見た。入口まで近づくと、中にどんなテナントが入っているかの表示が出ている。いわゆるオフィスビルだった。
 マンガ喫茶やコンビニ等、24時間営業のテナントが入ってないのもありがたい。
 ビルの近所にもそういった店がないので、余計に好都合だった。周囲には人の住む家もない。
   オフィスビルの1階の通用口の脇に警備室があり、おそらく年齢が60代と思われる守衛がいた。美山はつかつかと歩みより、守衛に対して笑顔で質問を開始する。
「このビルに、うちのオフィスを借りたいと思ってるんですが、まだ空き室はありますかね」
 美山は問いながら、自分が会長をやっているダミー会社の名刺を出した。
「ある事は、ありますよ」
「ここのオフィスの人達は、夜になると全員早く帰宅するんですかね……いや、うちの社員も他の支社では遅くまで残業してるんで、その時はどうしてるのかなと思ってね。鍵がわりのカードを持たせてるんですか」
「そうだね。深夜の2時とか3時まで残ってる人もいますから。その場合はカードで施錠して帰宅する形になります。でも、今度の7月7日には、全員夜の6時までに退館するようビルのオーナーからお達しが出てます。テレビで観たと思うけど、ミスティー・ナイツとかいう強盗団が、この日の夜に美術館とカジノを襲撃するって予告を出したそうじゃない。それで余計な危険に巻きこまれないようにって事みたいだね。ぼくは7月7日も当番で、翌朝までここに残るけど」
「それじゃあちょっと不安でしょう」
「いや大丈夫じゃないかな。美術館とカジノからは離れてるし、ミスティー・ナイツは相手が悪党でない限り殺しもしないし、金持ちからしか盗まないと聞いてるしね」
「そういや、テレビでそんな話してたなあ」
 その後いくつか当たり障りのない雑談をして、美山と釘谷はビルを離れた。
「どうやらあの守衛を眠らせちまえば、ビルに取りつけた爆弾を爆破するのは簡単そうだな」
 帰り際、釘谷が美山に話した。
「爆弾はどうやってしかけるつもりだ」
 美山は尋ねた。
「おれにいい考えがある。任せてくれ」
 自信たっぷりの口調で釘谷が答えた。
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