ミスティー・ナイツ

空川億里

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第26話 反撃の行方

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 反射的に目を覚ました美山は、本能的にベッドから床に転がりおち、その下にもぐりこむ。どこか遠くで銃声がする。
 そう思った瞬間、すぐ近くでも機関銃の音がして、同時に部屋のアルミサッシが粉砕された。
(一体、誰だ。ここは、仲間しか知らない島なのに)
 そう考えるよりも、動く方が早い。美山は枕元にある暗視スコープを顔にはめた。
 そして、いつもベッドの下に置いてある短機関銃МAC10、通称イングラムを手にすると、床をはいつくばるようにして、廊下に出る。
    ショートマガジンを装着しているので、大型拳銃と同じぐらいの大きさである。通路に出ると、男が一人倒れているのが目に入った。先程鳴り響いたマシンガンの銃弾を浴びたらしい。
    体中に穴があき、血まみれだった。ヘモグロビンの臭いが鼻を突く。18人いる潜水艦乗りの中の1人であった。見ただけで、死んでいるのがわかる。
 因果な稼業のせいで死者なんてものには慣れたつもりだが、それでもやはり何度見ても、ぞっとしない光景だ。
    殺された青年は、ゆうべは誰よりも明るく飲んで、誰よりも騒いでたのに、今はこんな無残な骸をさらしている。
 シュールというか、奇妙に現実感のない状況だった。日本の警察が、こんな荒っぽい真似をするわけがない。
   美山の脳裏に鶴本の顔が浮かんだ。奴の意を汲んだ闇の組織のしわざだろう。美山の胸に、再びあの男への怒りの炎が燃えあがった。
 だがどうやって、この場所をつきとめたのか。もっとも相手は政府の黒幕のような人物なのだ。
    こっちが慎重に慎重を重ねていても、その程度の情報をつきとめるのは、造作もないに違いない。
 国内の大手企業や宗教団体から多額の献金を受けているし、政府の機密費や『埋蔵金』も、自由に使える立場にあるのだ。
   そんな思考をめぐらせながらも美山は腹ばいのまま、ひじを使ってひたすら進んだ。正直どこへ行けばいいのか見当もつかぬが、ともかく敵を倒すか逃げのびねばならない。
   やがて、どこからか再びマシンガンの射撃音がやかましく聞こえてきた。
 そちらに匍匐前進で向かうと、空に向かってイスラエル製のウージー短機関銃を撃ち続けている立岡愛梨の姿がある。
   普段の色気はどこへやら鬼気迫る表情だが、そんな姿も絵になっている。愛梨がいるのとは別の窓から外を見たが、空にはパッと見ただけで、3機のジェットヘリが展開していた。
 美山はそのうちの1機に向けてイングラムの引き金を引く。騒々しい銃声が鳴り響き、両腕に激しい振動が伝わった。狙いは当たり、ジェットヘリのキャノピーに風穴が開く。
 敵機は徐々に高度を下げ、きりもみしながらバランスを失い、まるで竹とんぼが落下するように、最後に下の砂浜に激突した。爆音が周囲に轟き渡り、炎と黒煙が空に広がる。
 機体が砕け、四散した。空は今なお夜が支配していたが、地上はまるで昼間のような明るさだ。突風が凄まじい勢いで、こっちまで飛んでくる。
 美山は建物の陰に隠れて、やり過ごした。爆風がようやく収まった後、愛梨がよく響く口笛を吹いた。
「さっすがキャプテン。お見事ね」
「そのキャプテンっての、やめてくれよ。部活じゃねえんだ」
 美山は笑った。
「ゲームセンターで毎日特訓した甲斐があるぜ」
 彼は愛梨にウィンクを飛ばす。今のはジョークで、美山は普段から射撃訓練を行っていた。他のメンバーもそれは同じである。
 この島にも訓練場が設置されていた。いつのまにか他の2機がお揃いでこっちに機銃の先を向け、大量の弾丸を騒音と共に放出した。美山と愛梨はそれを察して、すぐに伏せる。
 建物の窓ガラスが割れ、壁に無数の穴が空き、まるでアメリカのアニメに出てくるチーズのような有様だ。
 ここでの贅沢なバカンスが楽しめるよう、一流の建築士に設計とデザインを任せ、材料もイタリアから取り寄せた大理石等高価な品を使っていたので、悔しいとしか言いようがない。
 車の走る音がして、再び美山が顔を上げると、そこにはジープの姿があった。島内を移動するために、駐車場にあるものだ。
 ジープには運転手と、助手席にアメリカ製の携帯式対空ミサイル、スティンガーを構えた男が乗っている。2人共、潜水艦乗りのメンバーだ。助手席の男がスティンガーの引き金を引いた。
 次の瞬間ミサイルが勢いよく空をめざすが、ジェットヘリは機銃でそれを撃ちおとし、さらには車に向けて撃ちはじめた。
 運転手と助手席いた潜水艦乗りの男達に無数の銃弾が浴びせられる。
 ガソリンに引火したらしく、ジープは爆発して轟音と共に吹きとんだ。あの状況では、おそらく即死に違いない。
 ジェットヘリの注意がジープに向けられている隙に、美山と愛梨はダッシュして武器庫のある場所へ走った。
 武器庫は居住棟から離れた北側にある。着いた頃には全身が、汗でびっしょりになっていた。
 武器庫にはすでに釘谷の姿があり、ロシア製のAK47のアサルトライフル、通称カラシニコフを手にしている。
「いよいよ、ゲリラ戦だな。腕が鳴るぜ」
 釘谷はヘルメットをかぶり、暗視スコープを装着している。美山は予備の弾薬とスティンガーを手に取った。そして、いくつかの手榴弾も。
 愛梨も同様の装備を身につける。
「他のみんなが心配だね」
 愛梨が話した。
「あいつらなら、大丈夫だろ」
 美山は己の胸に言い聞かせるようにつぶやいた。すでに倒れた3人の男達の顔がよぎる。今度のヤマに手を出さなければ死ななかったのだ。
   尊い命が犠牲になった。後悔が、美山の胸を苦しめる。殺された3人のためにも、襲撃者に復讐せねばなるまいと、彼は自分を奮い起こした。
    美山達は武器庫を出ると、外に飛びだした。ちょうど空にジェットヘリが一機飛んでいるのが見える。美山はスティンガーの狙いをつけてトリガーを引く。
 ミサイルが衝撃と共に飛びだして、吸いこまれるように敵機に向かうが、敵機は機銃で応戦してきた。その間に、愛梨もスティンガーを撃つ。
   美山が撃った最初のミサイルは迎撃されたが、愛梨のそれは見事機体に命中し、爆発した。
 夜空に火花と爆煙が、花火のようにひろがってゆく。鼻を、火薬の臭いが刺した。これで2機、撃ちおとした計算になる。
   他に少なくとも1機のヘリが来ているはずだ。敵があと1機だけなのかどうかもわからぬのだが。
 やがて爆音が静まると、後方からヘリのローター音が聞こえてくるのに気がついた。
 振りむくと、星空に浮かんだジェットヘリが、機銃の先をこちらに向けていた。まるで金属製の猛獣だ。機銃が牙のようだった。
 ローター音が、けだものの唸り声のようにも聞こえる。三人は左右に分かれてすぐ散開した。
 間髪を入れずそれまで3名がいた場所に、無数の弾痕がうがたれる。女のうめき声が響いた。そちらを見ると、愛梨が地面に倒れている。どうやら機銃が当たったらしい。
「大丈夫か!?」
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