地球に優しい? 侵略者

空川億里

文字の大きさ
3 / 66

第3話 異星人の地球統治進行中。これがまた思わぬ流れに。

しおりを挟む
 結局蒼介は、赤い封筒に入った書類に書かれた日時に指定された近所の公民館に向かった。 
 逃げるのも考えたが、無理なのはわかってる。公民館には20代位から50代位の男女が大勢集まっている。どの顔を見ても、不安の影がさしていた。
 たまたま蒼介のそばにいた30代位の若い女性が急によろめいたので、蒼介はあわてて彼女の腕をつかんだ。
「大丈夫ですか」
「大丈夫です。ちょっと立ちくらみがしただけで。すぐ治ります。ごめんなさい」
 大した話じゃないのだが、彼女はなんべんもなんべんも謝った。黒い髪は長く、目元を隠して、こちらを見ようともしない。
「そんな気にしなくていいから。大丈夫だって」
 蒼介は、逆に恐縮してしまう。
 公民館の各所にはポリスロボットが配置され、無表情なカメラアイで、周囲を警戒中である。
 やがて立ちあがった女性と一緒に蒼介は、集合場所の会議室へと歩いていった。自然と彼は、女性の隣の席に座る。
 ざっと数えて50人分の椅子がある会議室だ。
 全ての椅子が埋まった後で、スーツを来た40代位の日本人男性と、宇宙服に身を包んだチャマンカ人の男が現れた。
   姿は他のチャマンカ人同様クマのようだが、今やテレビでおなじみガシャンテ将軍の茶色い毛と違い毛が白い。
 筋金入りの軍人というべきか。軍クマというべきか。ガシャンテ同様背筋がピンと伸びていた。
「私は帝国宇宙軍所属の、ソワール大佐だ。早速だが、諸君らには帝国の首都があるチャマンカ星のラグランジュ・ポイントに浮かぶスペース・コロニーで勤務してもらう。君達は全員が60歳未満の五体満足で健康な人物で、学生でもないのに仕事をしてない者達だ」
「ちなみに、どんな勤務ですか。どうやってチャマンカ星に行くんですかね」
 蒼介は、手をあげて質問した。周囲の人達が驚いたように彼を見る。質問するの自体信じられないという顔つきだ。
「仕事内容は人によって違うので、向こうに着いてから説明する。君達はこれからマイクロ・ワープで地球の軌道上にいる宇宙戦艦モガラモガラに乗りこんでもらう。まずみんな立ってもらおう」
 全員が立った瞬間、突然周囲の景色が変わり、瞬時にしてスーツ姿の日本人の男を除く全員が、別の空間に移動していた。
「すでに、ここはモガラモガラの艦内だ。何、心配しなくてもいい。ここの大気の成分や重力は、君達が生存できるよう調整してある。当然人体に害のあるウィルスも存在しない」
 自慢そうな声が、艦内に響き渡る。その後約50人の地球人(全員多分日本人)は、他の部屋に移動。
 そこには全員座れるだけの座席があり、そこに座ってシートベルトを装着した。
   座席は座り心地がよく、まるでそこに座った者を、抱きしめるかのようだ。
 先程立ちくらみで倒れかかった女性が、不安そうに前髪の向こうから蒼介を見た。
「大丈夫だよ。心配しなくて」
 根拠もなく、そう口にした。自然な笑顔を浮かべたつもりだけど、自信がない。
「私ずっと引きこもりで、大学卒業してからほとんど働いてないんです。チャマンカ星がどんなところかわからないけど、就職なんて無理」
 何か言葉にしようと思ったがいい加減な回答もできず、そのまま黙りこむ形になった。
 その後も女性は黙ったままで、ずっとうつむいたきりである。やがて宇宙戦艦はワープ航法を開始した。
 眼前に、映画館のスクリーンのように大きく広がるモニターに映った地球が消失し、一瞬のちには、見た事のない惑星がそこに映っている。
 地球によく似た青い惑星だが、蒼介達の母星よりもやや小さく、地球の月よりやや小さめの2つの衛星が、その周囲を回っていた。
「見たまえ、あれがチャマンカ星だ。私の故郷だ」
 ソワール大佐が、声をあげる。
「あれが北極大陸だ。この惑星唯一の大陸さ」
 ソワールが、極地に広がる巨大な陸地を指さした。やがてモガラモガラは、チャマンカ星と衛星の間に浮かぶ筒型のスペース・コロニーのそばへ接近した。
 そして、今まで同様マイクロ・ワープで、50人の日本人は一瞬にしてコロニー内に転送されたのだ。
 転送された場所は広い会場だった。そこには二足歩行型のロボットが20体位待機している。
  かれらは地球に派遣されたポリスロボットと大きさも形状も似ていたが、色は白い。ロボットに蒼介達は、割りふられた部屋に案内される。
   刑務所のような場所を想像したが全然そんな感じではなく、寝室とダイニングルームの2部屋が、1人1人に割りあてられた。まるで高級マンションだ。
「綺麗な部屋じゃん」
  思わず、蒼介は口にしながら真っ白なシーツの敷かれたベッドに背中から飛びこんだ。
「ふっかふかだ」
「新しいから当然だ」
 白いロボットは、アナウンサーのように流暢な日本語をしゃべった。
「日本人以外の地球人も、他の場所に連れてかれたの」
 蒼介はロボットに質問した。
「その通りだ」
   ロボットの代わりにいつのまにか現れたソワール大佐が返答した。
「君達地球人は、我々チャマンカ人から見ればそう大きな違いはないのにも関わらず、異なる民族同士で対立し、時には殺しあったりしているので、日本人は日本人だけ集めて業務につかせる形にしたのだ」
「よく言うよ。あんたらだって、でかい宇宙戦艦をたくさん引きつれて、おれ達から故郷を奪ったじゃないか」
 蒼介は、怒りの言葉を口にした。
「我々は地球上から銃や兵器は抹殺したが、人を殺してはいない。銃や兵器を抹殺したので、地球上の戦争や犯罪が減ったのは、君も知ってるだろう。この銀河には、そういった野蛮人が生息する惑星が他にもたくさんある。我々はそういった星を一つ一つ文明化してゆき、統一されたチャマンカ帝国のもとで、平和な宇宙を築くのが目的なのだ」
 何か口から言葉を吐こうとしたが、何も出てはこなかった。
 ソワール大佐の発言に、一理あると感じたからだ。慟哭しそうな程悔しい。
(そりゃあ地球人だって万能じゃないけど、おれ達なりに努力してきたんだ)
 怒りのために、その夜はあまり眠れなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...