16 / 66
第16話 奇襲
しおりを挟む
(おれは、穂刈に殺されそうになったんだ)
蒼介は、何だか現実感がなかった。
穂刈がそんな人物とは、どうしても思えなかったからだ。その後色々な情報が入ってきた。
彼には別れた妻子がいたが、それまで滞りがちだった元妻への送金が、穂刈が『新天地』をやめてから順調に復活した事。
そもそも『新天地』にあった職場を辞めてからの行く末がわからず、どこで働いてるのか、どこに住んでるのかも、チャマンカ総督府も警察も、把握してないのだ。
蒼介は穂刈のホロホンに電話したが『この番号は現在使われておりません』という音声が流れてくるだけだった。
事件の後すぐ、夏映からホロホンに電話があった。
「大丈夫?」
心配そうな声が、響く。夏映の美しい顔に翳りが生じている。
「何とかね」
「ショックだったでしょう?」
「まあね。今は、だいぶ落ち着いた」
口ではそう表現したが自信がない。
「あたし、今どこにいると思います?」
突然、夏映の話が変わった。
「地球?」
「正解。地球のどこ?」
「日本」
「正解。日本のどこ?」
「わからんよ」
「あなたの家の玄関前」
蒼介は、玄関に向かった。ドアを開けると夏映が立っている。
「引っ越します」
唐突に、夏映がそう口にする。
「どこへ?」
「ここの隣。1312号室。空き室だったから。もうマイクロ・ワープで一部の荷物運んでる。何かあったら、すぐホロホンで呼んで。あたしがホロホンに出られなければ、自動的に他の関係者につながって、別の人間かロボットが一色さんを救いに行きます」
「悪いね。君には迷惑かけっぱなしだ」
蒼介は、夏映に向かって手を合わせる。
「あなたが悪いわけじゃない。悪いのは穂刈であり、彼を後ろで操ってるショードファ人です。わたしは業務でやってますので、お気になさらず」
「ありがとう。それでも、君には感謝してる」
「カウンセリングが必要なら、いつでも言って」
「大丈夫だ。今のところ。君を観てるだけで、癒される」
「ありがとう」
夏映がちょっと呆れた笑みを浮かべる。
「チャマンカのテクノロジーなら、不快な記憶の一部を消すのも可能だけど」
「それも不要だ。必要なら、連絡するよ」
蒼介はなるべく相手を不安にさせぬようきっぱり話したつもりだが、夏映にそう思わせたかの自信はなかった。
ワランファ准将は、フライング・シップの自室に一人でいた。
彼の眼前に、ズクンファ大将のホログラムが浮かんでいる。
「君は歓迎しないだろうが2人の執政官と人工知能委員会は、地球へのワープ・ミサイルによる攻撃を決定した」
ズクンファの、重々しい声が流れでた。白くて硬い広い胸には、何十個もの勲章が下がっている。
「お言葉ですが、それはチャマンカの圧政下にある地球人を巻き添えにします」
「君も知っての通り多くの原住民が、チャマンカの支配を肯定的に受けとめている。もはや奴らはチャマンカ国民だ。きゃつらは帝国の奴隷として、チャマンカ軍の兵器開発にも関わっている。これ以上地球を野放しにするわけにはいかん。ミサイルの発射日時は機密事項で直前に教えるので、連絡行ったらすぐにワープしてくれたまえ」
ズクンファの映像が消失した。ワランファは、右の壁に目をやった。
そこには地球の青く美しい宝石のような姿が浮かんでいる。
チャマンカ軍に滅ぼされるまでは、ショードファ星もこんなふうに凛とした姿だったのだ。
それが今や放射能汚染の影響で、火星のような赤茶けた星と化していた。
ワープミサイルが撃ちこまれれば、地球もこんな、宇宙の残骸となりはてる。地球人も動植物も全滅し、2度と再生しないだろう。
ちょうどそこへ、部下からの通信が入った。
「何だ」
ホログラムに向かって聞いた。
「穂刈からです」
「つないでくれ」
部下の代わりに穂刈の3D映像が現れる。
「おれは命令を実行した」
地球人の男が、開口一番そう発言した。
「実行はしていない。イッシキはまだ生きている」
「トラブルがあった。まさかあいつに渡した日本酒が、盗まれるとは考えなかった。おれにチャンスをくれないか」
「冗談を抜かすな。貴様はもはや全地球で指名手配されているのだ。イッシキの部屋の隣には、地球人のボディガードが住みはじめた。当然イッシキも警戒してる。貴様の出る幕はない」
「だったらおれをフライング・シップにかくまってくれ」
「無理だ。チャマンカの艦隊が地球の周辺を固めていて、近づけない」
「転送できるだろう」
「貴様に話してもわからんだろうが、マイクロ・ワープというものは無制限にできるわけではない。わが方のワープ・ミサイルがチャマンカ本星を攻撃したため、チャマンカのクマ共は警戒レベルを上げていて、チャマンカ製のワープ・システム以外のワープ・システムは、地球では使えないようになったのだ」
「あんたおれが逮捕されても良いと思ってるのか。自白剤を使われたら、何でもペラペラしゃべっちまうぞ」
「その心配はない。以前にも説明したが、貴様の体内にはわが方のナノマシンが埋めこんである。状況によってはこちらの意思で、お前を瞬時に殺せるのだ」
「はったりだろう」
穂刈が笑った。が、目は笑っていない。必死に虚勢を張っている。
以前は綺麗に剃っていたひげは伸び放題で、眼球は充血していた。
「はったりかどうか試してみるか。以前にも解説したが、自分が一言部下に命令さえすれば、次の瞬間ナノマシンの出した毒で、お前は死ぬ」
長い沈黙があった。穂刈はワランファの発言が嘘かどうか見極めようと穴の開く程こっちを見たが、サイボーグ化したショードファ人の、白い特殊金属製の顔から表情を読みとるなぞ、所詮無理な話である。
「命令する必要すらないのだ。貴様が敵に屈服したとナノマシンが判断した時点で毒を吐くのだからな。お前のような原始人が、我々の誇る高度な科学力を信じられぬのも無理はないが」
「助けてくれ。このままじゃ、チャマンカに捕まっちまう」
穂刈の声が、震えていた。
「貴様には、都内にアジトを用意しただろう。食料もたっぷり置いてあるはずだ。しばらくは、そこでおとなしくしてろ。自分で何とかするんだな。しばらくこちらに連絡するな。チャマンカに傍受される恐れがある。連絡きても、出んからな」
ビジホの通信をワランファは遮断した。
ビジホを切られ、穂刈は深い穴の底に、落とされたような気分だった。
元々彼はチャマンカ側のスパイとしてショードファ側に潜入したのだ。
なので蒼介を殺せという命令に従わねば良かったのだが、毒入りのナノマシンを埋めこまれたと言われたため、拒否できなかったのである。
嘘かもしれないが、確かめるすべはない。
『新天地』で仲のよかった蒼介に毒入りの酒を渡すのは、本当につらい決断だった。
結果死ななかったのでほっとしたのも確かだが、代わりに無関係の若者が死んだのだ。
人の物を盗むような連中とはいえ、気が引けた。結局穂刈はワランファに切られたのだ。
とはいえチャマンカ人と接触すれば、逮捕されるだろう。マスメディアは穂刈の事を、ショードファ人に雇われた暗殺者だとして、極悪人のように報道していた。
「穂刈から連絡がありました。話したい旨があるそうです」
部下に言われて、ソワール大佐は白い毛並みに包まれた顔を上げた。
「自分から連絡してくるとはな」
彼は思わず笑ってしまった。
「奴がどこから電話してきてるのか逆探知できるのか」
「それが残念ながら……。恐らく、ショードファ製の通信機を使ってるものと思われます」
「つないでくれ」
穂刈の顔のホログラムが、眼前に現れた。
「よくおめおめと、連絡してこれたものだな」
「しかたなかった。体内に毒薬を入れたナノマシンを埋めこまれたと言われたんだ」
「貴様がなぜ一色蒼介を殺そうとしたが知らないが、彼は普通に都内の工場で働いている一市民だ。君の行為は到底許されるものではない」
「でも、死んだのは彼じゃない。一色の荷物を盗んだ男だ。ネットで取りあげられてるから知ってるだろうが、荷物を盗んだ若者は殺人や暴行や強盗の前科があった。殺人は未成年の時の話で、今なら死刑だが、当時はまだ数年で刑務所を出られたんだ。ネットじゃ『自業自得』と大勢の人に言われてる」
「何が言いたい」
「おれにチャンスをくれ。体内のナノマシンを外してほしい。ハッタリで言われたのかもしれないが、自分ではわからないんだ」
ソワール大佐は、穂刈の顔色が急速に悪化するのに気づいた。どうやら嘘ではなかったらしい。
ショードファ人のしかけた毒が、体内に回ったようだ。穂刈は血を吐きながら倒れ、ホログラムは消えてしまった。
夏映が引っ越しの挨拶をしてきた翌日、蒼介のマンションのチャイムが鳴った。
インターホンの画像を見ると、夏映である。扉を開けた。
「夏映そっくりの人造人間で、ぼくを殺しに来たって流れじゃないだろな」
笑いながら話したつもりだが、絶対にそうとは言いきれない気も、蒼介はしていた。
「考えすぎ」
夏映の両手が、蒼介の右手を握った。「人造人間さんの手が、こんなすべすべ、あまあまかしら」
確かにそれは、信じられぬ程やわらかい。
「わからんね。ショードファ人の科学力なら。それは、チャマンカも同様だ。おれ達は奴らにしたら、原始人みたいなもんだ。あいつらに何ができて、できないのか、想像もつかん。右へ、左へ、翻弄されているだけだ」
「穂刈さんが、亡くなった」
夏映の口から、信じられない言葉が流れる。咄嗟に返事が出なかった。
「本当なら、どうしてメディアで報道されない?」
蒼介は、つい語気を強める。
「そこまでは、わからない。知ってるのは穂刈さんが、ショードファ人に殺されたって話だけ。穂刈さんの知らないうちにナノマシンを埋めこまれてて、そこから毒を放出されたの。ソワール大佐の話では、あなたの暗殺に失敗した責任を取らされたんじゃないかって」
「きたねえ連中だ」
蒼介は、思わず大声を出した。全身が、マグマのように煮えたぎる。
「ショードファの野郎。あいつらマジで、皆殺しにしたい」
「そのチャンス来たよ」
思いがけない一言に、夏映を見る。「ショードファ人の宇宙艦隊に奇襲をかけると決定したの。無論あなたもチャマンカ軍に参加するのよ」
蒼介は、何だか現実感がなかった。
穂刈がそんな人物とは、どうしても思えなかったからだ。その後色々な情報が入ってきた。
彼には別れた妻子がいたが、それまで滞りがちだった元妻への送金が、穂刈が『新天地』をやめてから順調に復活した事。
そもそも『新天地』にあった職場を辞めてからの行く末がわからず、どこで働いてるのか、どこに住んでるのかも、チャマンカ総督府も警察も、把握してないのだ。
蒼介は穂刈のホロホンに電話したが『この番号は現在使われておりません』という音声が流れてくるだけだった。
事件の後すぐ、夏映からホロホンに電話があった。
「大丈夫?」
心配そうな声が、響く。夏映の美しい顔に翳りが生じている。
「何とかね」
「ショックだったでしょう?」
「まあね。今は、だいぶ落ち着いた」
口ではそう表現したが自信がない。
「あたし、今どこにいると思います?」
突然、夏映の話が変わった。
「地球?」
「正解。地球のどこ?」
「日本」
「正解。日本のどこ?」
「わからんよ」
「あなたの家の玄関前」
蒼介は、玄関に向かった。ドアを開けると夏映が立っている。
「引っ越します」
唐突に、夏映がそう口にする。
「どこへ?」
「ここの隣。1312号室。空き室だったから。もうマイクロ・ワープで一部の荷物運んでる。何かあったら、すぐホロホンで呼んで。あたしがホロホンに出られなければ、自動的に他の関係者につながって、別の人間かロボットが一色さんを救いに行きます」
「悪いね。君には迷惑かけっぱなしだ」
蒼介は、夏映に向かって手を合わせる。
「あなたが悪いわけじゃない。悪いのは穂刈であり、彼を後ろで操ってるショードファ人です。わたしは業務でやってますので、お気になさらず」
「ありがとう。それでも、君には感謝してる」
「カウンセリングが必要なら、いつでも言って」
「大丈夫だ。今のところ。君を観てるだけで、癒される」
「ありがとう」
夏映がちょっと呆れた笑みを浮かべる。
「チャマンカのテクノロジーなら、不快な記憶の一部を消すのも可能だけど」
「それも不要だ。必要なら、連絡するよ」
蒼介はなるべく相手を不安にさせぬようきっぱり話したつもりだが、夏映にそう思わせたかの自信はなかった。
ワランファ准将は、フライング・シップの自室に一人でいた。
彼の眼前に、ズクンファ大将のホログラムが浮かんでいる。
「君は歓迎しないだろうが2人の執政官と人工知能委員会は、地球へのワープ・ミサイルによる攻撃を決定した」
ズクンファの、重々しい声が流れでた。白くて硬い広い胸には、何十個もの勲章が下がっている。
「お言葉ですが、それはチャマンカの圧政下にある地球人を巻き添えにします」
「君も知っての通り多くの原住民が、チャマンカの支配を肯定的に受けとめている。もはや奴らはチャマンカ国民だ。きゃつらは帝国の奴隷として、チャマンカ軍の兵器開発にも関わっている。これ以上地球を野放しにするわけにはいかん。ミサイルの発射日時は機密事項で直前に教えるので、連絡行ったらすぐにワープしてくれたまえ」
ズクンファの映像が消失した。ワランファは、右の壁に目をやった。
そこには地球の青く美しい宝石のような姿が浮かんでいる。
チャマンカ軍に滅ぼされるまでは、ショードファ星もこんなふうに凛とした姿だったのだ。
それが今や放射能汚染の影響で、火星のような赤茶けた星と化していた。
ワープミサイルが撃ちこまれれば、地球もこんな、宇宙の残骸となりはてる。地球人も動植物も全滅し、2度と再生しないだろう。
ちょうどそこへ、部下からの通信が入った。
「何だ」
ホログラムに向かって聞いた。
「穂刈からです」
「つないでくれ」
部下の代わりに穂刈の3D映像が現れる。
「おれは命令を実行した」
地球人の男が、開口一番そう発言した。
「実行はしていない。イッシキはまだ生きている」
「トラブルがあった。まさかあいつに渡した日本酒が、盗まれるとは考えなかった。おれにチャンスをくれないか」
「冗談を抜かすな。貴様はもはや全地球で指名手配されているのだ。イッシキの部屋の隣には、地球人のボディガードが住みはじめた。当然イッシキも警戒してる。貴様の出る幕はない」
「だったらおれをフライング・シップにかくまってくれ」
「無理だ。チャマンカの艦隊が地球の周辺を固めていて、近づけない」
「転送できるだろう」
「貴様に話してもわからんだろうが、マイクロ・ワープというものは無制限にできるわけではない。わが方のワープ・ミサイルがチャマンカ本星を攻撃したため、チャマンカのクマ共は警戒レベルを上げていて、チャマンカ製のワープ・システム以外のワープ・システムは、地球では使えないようになったのだ」
「あんたおれが逮捕されても良いと思ってるのか。自白剤を使われたら、何でもペラペラしゃべっちまうぞ」
「その心配はない。以前にも説明したが、貴様の体内にはわが方のナノマシンが埋めこんである。状況によってはこちらの意思で、お前を瞬時に殺せるのだ」
「はったりだろう」
穂刈が笑った。が、目は笑っていない。必死に虚勢を張っている。
以前は綺麗に剃っていたひげは伸び放題で、眼球は充血していた。
「はったりかどうか試してみるか。以前にも解説したが、自分が一言部下に命令さえすれば、次の瞬間ナノマシンの出した毒で、お前は死ぬ」
長い沈黙があった。穂刈はワランファの発言が嘘かどうか見極めようと穴の開く程こっちを見たが、サイボーグ化したショードファ人の、白い特殊金属製の顔から表情を読みとるなぞ、所詮無理な話である。
「命令する必要すらないのだ。貴様が敵に屈服したとナノマシンが判断した時点で毒を吐くのだからな。お前のような原始人が、我々の誇る高度な科学力を信じられぬのも無理はないが」
「助けてくれ。このままじゃ、チャマンカに捕まっちまう」
穂刈の声が、震えていた。
「貴様には、都内にアジトを用意しただろう。食料もたっぷり置いてあるはずだ。しばらくは、そこでおとなしくしてろ。自分で何とかするんだな。しばらくこちらに連絡するな。チャマンカに傍受される恐れがある。連絡きても、出んからな」
ビジホの通信をワランファは遮断した。
ビジホを切られ、穂刈は深い穴の底に、落とされたような気分だった。
元々彼はチャマンカ側のスパイとしてショードファ側に潜入したのだ。
なので蒼介を殺せという命令に従わねば良かったのだが、毒入りのナノマシンを埋めこまれたと言われたため、拒否できなかったのである。
嘘かもしれないが、確かめるすべはない。
『新天地』で仲のよかった蒼介に毒入りの酒を渡すのは、本当につらい決断だった。
結果死ななかったのでほっとしたのも確かだが、代わりに無関係の若者が死んだのだ。
人の物を盗むような連中とはいえ、気が引けた。結局穂刈はワランファに切られたのだ。
とはいえチャマンカ人と接触すれば、逮捕されるだろう。マスメディアは穂刈の事を、ショードファ人に雇われた暗殺者だとして、極悪人のように報道していた。
「穂刈から連絡がありました。話したい旨があるそうです」
部下に言われて、ソワール大佐は白い毛並みに包まれた顔を上げた。
「自分から連絡してくるとはな」
彼は思わず笑ってしまった。
「奴がどこから電話してきてるのか逆探知できるのか」
「それが残念ながら……。恐らく、ショードファ製の通信機を使ってるものと思われます」
「つないでくれ」
穂刈の顔のホログラムが、眼前に現れた。
「よくおめおめと、連絡してこれたものだな」
「しかたなかった。体内に毒薬を入れたナノマシンを埋めこまれたと言われたんだ」
「貴様がなぜ一色蒼介を殺そうとしたが知らないが、彼は普通に都内の工場で働いている一市民だ。君の行為は到底許されるものではない」
「でも、死んだのは彼じゃない。一色の荷物を盗んだ男だ。ネットで取りあげられてるから知ってるだろうが、荷物を盗んだ若者は殺人や暴行や強盗の前科があった。殺人は未成年の時の話で、今なら死刑だが、当時はまだ数年で刑務所を出られたんだ。ネットじゃ『自業自得』と大勢の人に言われてる」
「何が言いたい」
「おれにチャンスをくれ。体内のナノマシンを外してほしい。ハッタリで言われたのかもしれないが、自分ではわからないんだ」
ソワール大佐は、穂刈の顔色が急速に悪化するのに気づいた。どうやら嘘ではなかったらしい。
ショードファ人のしかけた毒が、体内に回ったようだ。穂刈は血を吐きながら倒れ、ホログラムは消えてしまった。
夏映が引っ越しの挨拶をしてきた翌日、蒼介のマンションのチャイムが鳴った。
インターホンの画像を見ると、夏映である。扉を開けた。
「夏映そっくりの人造人間で、ぼくを殺しに来たって流れじゃないだろな」
笑いながら話したつもりだが、絶対にそうとは言いきれない気も、蒼介はしていた。
「考えすぎ」
夏映の両手が、蒼介の右手を握った。「人造人間さんの手が、こんなすべすべ、あまあまかしら」
確かにそれは、信じられぬ程やわらかい。
「わからんね。ショードファ人の科学力なら。それは、チャマンカも同様だ。おれ達は奴らにしたら、原始人みたいなもんだ。あいつらに何ができて、できないのか、想像もつかん。右へ、左へ、翻弄されているだけだ」
「穂刈さんが、亡くなった」
夏映の口から、信じられない言葉が流れる。咄嗟に返事が出なかった。
「本当なら、どうしてメディアで報道されない?」
蒼介は、つい語気を強める。
「そこまでは、わからない。知ってるのは穂刈さんが、ショードファ人に殺されたって話だけ。穂刈さんの知らないうちにナノマシンを埋めこまれてて、そこから毒を放出されたの。ソワール大佐の話では、あなたの暗殺に失敗した責任を取らされたんじゃないかって」
「きたねえ連中だ」
蒼介は、思わず大声を出した。全身が、マグマのように煮えたぎる。
「ショードファの野郎。あいつらマジで、皆殺しにしたい」
「そのチャンス来たよ」
思いがけない一言に、夏映を見る。「ショードファ人の宇宙艦隊に奇襲をかけると決定したの。無論あなたもチャマンカ軍に参加するのよ」
0
あなたにおすすめの小説
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる