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第17話 戦闘
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3日後蒼介は、チャマンカ軍の宇宙艦隊に所属する軍艦の中にいた。
頭にはトロード・メットをかぶり、いつでもドローン部隊を使って、ショードファ艦隊を攻撃できる状況だ。
いつもマウントしてくるうざい和崎は別の軍艦にいる。艦隊の正確な数は知らない。敵艦の数もわからなかった。
現在宇宙のどのへんにいるのかも不明である。太陽系の中にいるのか、そこから遠く離れているのかも聞いてない。
脳の中に映しだされた画像には、どこまでも広がる宇宙が映しだされていた。
「緊張してる?」
同じ艦の別の場所にいる夏映の言葉が脳の中に響き渡った。
彼女も蒼介も、万一の場合を想定して、宇宙服を身につけている。
「そら、緊張してるよ」
蒼介は、声に出して回答した。
「リラックスして。何事もあせりは禁物」
「そりゃあわかってるつもりだけど……しかし何でまた君も、この艦に一緒にいるんだ」
「あたしがいた方がやる気が出るでしょう? ソワール大佐は、そう判断したみたい」
「確かに心強いけど」
「早速来たよ。戦闘準備お願い」
脳の中に広がった無限の星空に、何十隻ものショードファ艦隊が、映しだされた。
無数の砲塔を突きだした多数の艦が、急速に向かってくる。敵艦と味方の艦の両方から、見えないビームが放たれた。
ホロ・ディスプレイ上には、その軌跡が描かれる。
そして双方の艦隊から、無数のドローンが放出された。
蒼介はゲームで鍛えた要領で、襲いくる敵艦とドローンの群れに攻撃した。
多数の敵機を撃墜したが、味方も次々やられており、どちらが一体優勢なのか、判断がつかない。
司令官にはそれがわかっているんだろうが。ゲームと完全に違うのは、負けたら自分も殺されるという冷厳な法則だ。
やがて緊張がピークに達すると、トロードメットの中に何かがスプレーされ、思わず鼻に吸いこんでいた。
「大丈夫よ。あなたの緊張を解く薬。麻薬のような副作用はないから」
蒼介の脳に、夏映の声が響いた。
「本当かよ。チャマンカ人の受け売りで言ってるだけだろう。クマ野郎の話なんざ、信じられるかよ。そもそもクマ用のが地球人にも使えんのか!?」
「あら。地球人より信頼できるのは、あなたも先刻承知のはずよ」
ともかく夏映の受け売り通り、気分がすっきりしたのは確かだ。
まるでロボットになったみたいに、思考がクールに働いている。撃墜数が増えた気がする。
「今のところ和崎さんの方が撃墜数が多いね」
「別に、競うつもりはないよ。おれはショードファ人を倒したいだけ」
「撃墜数が多い方とあたしがデートするって言ったら?」
「オッサンを馬鹿にするのも、たいがいにしろ。年齢なら、和崎の方が近いだろ。そっちの方がお似合いだ」
チャマンカ軍の全ての戦闘機のうち有人機が半分、無人機が半分ある。
無人機のうち全部で13機が、蒼介や和崎のような地球人が1人につき1機ずつ脳波で操縦していた。
13機を除く無人機は、搭載された人工知能の判断で動いている。
有人機のうち特に活躍のめざましい部隊があった。
全部で13機で構成されているのだが、今のところ1機も撃墜されてない。
チャマンカ人にとって13は縁起のよい数字なのだ。
チャマンカ星の一年は13か月で、現在のかれらは無神論者だが、太古にはドゲンカ教という宗教を信じる者が多かった。
ドゲンカ教には13の神がおり、それぞれが2つの太陽、3つの月、天空、大地、海、冥界、氷雪、戦争、音楽、笑いを司っている。
「あれはチャマンカの奴隷ダラパシャイ人の部隊ね」
夏映が返答した。
「もっともあたし達地球人も奴隷なんだけど……ダラパシャイの重力は1.5Gあるの。だから戦闘機にかかる重力にも、他の星の人類よりも耐えられるってわけ。しかもかれらは幼時より男女を問わず戦士として、戦闘機乗りとして、徹底的に鍛えられるの」
「それでもチャマンカには勝てなかったのか」
「そうみたいね」
その後の展開はチャマンカにとって有利であった。
チャマンカ軍の猛攻でショードファ艦隊は次々と宇宙の藻屑となって消えていったのだ。
戦略がどうこうというよりも、圧倒的な物量の違いに見える。
今やチャマンカは銀河系のほとんどの空域を掌中に収めており、宇宙に散ったゲリラを集めたショードファ軍には、なすすべもなさそうだった。
怒りのままにチャマンカ軍に参加したが、結果のわかったゲームに参加してるようで虚しい思いだ。
その時である。突如巨大な地震のような衝撃が、蒼介を襲った。彼の乗る軍艦自体が激しく揺さぶられている。
安全ベルトを着けているのでシートから飛ばされなかったが、ものすごい揺れだ。
次の瞬間、爆音が鳴り響き、蒼介は座席ごと宇宙に放りだされていた。
いざという時に備えて宇宙服を着ているので、ただちに死ぬ事はないが、当然ながら酸素の供給が途絶えてしまえば、死に至るしかないだろう。
それまで彼が載っていた軍艦は艦隊のあちらこちらから炎が噴きでていたが、宇宙には酸素がないため、すぐにその勢いは弱まった。
まるでジェット・コースターにでも乗ってるようなスピードを味わいながら、蒼介は意識を失った。
どのぐらい時間が経過しただろう。やがて目覚めた蒼介の視界に、夏映の姿が映っている。
彼女は彼の覚醒に気づいたらしく、彼の右手を強く握った。その目はやや潤んでいる。
蒼介はベッドの上に横たわっていた。
夏映は白いパジャマのような服を着ており、2人は病室のような場所にいる。
壁に時計らしき物がかかっていた。その時計は正三角形で、とがった方が上に向いている。
時針、分針、秒針のような物がついていたが、秒針のような物はいわゆる地球の時計回りとは反対の、左回りに開店していた。
また秒針の回る速度が、地球の時計よりやや遅かった。
時計の文字盤に書かれた数字らしき物も、当然ながら地球の数字とは違うものである。
数字の1らしい文字は左上から右下へ斜めに引かれた一本線で、2らしい文字は同じく左上から斜めに引かれた二本線、3と4も同じような三本線と四本線だ。
数字の五以降は地球の数字とは全然異なる図形で描かれていた。
地球の時計なら1から12まで12の数字が描かれているが、この時計は10しかない。
チャマンカ人はこういったアナログ時計を現在全く使わないと聞いた事がある。
となればショードファ人の時計だろうか?
「目が、覚めたか」
ドアが開いて、白いプラスチックのような体をした人物が現れた。顔には赤く光る目がついている。
翻訳機を使用しているらしく、その発言は日本語ではっきり聞こえた。
「ここは我々ショードファ軍の戦艦だ。何も話す必要はない。君達の思考は全てスキャンした。イッシキ、君は我々に対する憎しみから、チャマンカ軍に加担したそうだな。気の毒だが、これは戦争だ。我々からしてみれば、君らはすでに、チャマンカ帝国の臣民なのだ」
「冗談じゃねえよ」
思わず蒼介は怒鳴っていた。
「殺された地球人達は自分の意思で、あのコロニーにいたわけじゃない」
「君の意見を聞くつもりはない。君達の能力には利用価値がある。我々の仲間になり、対チャマンカのレジスタンスにならないか? 報酬は、思いのままだ」
「冗談じゃねえよ。断る」
「君はどうする」
ショードファ人は、夏映に聞いた。
「あたしも断る」
「なら、洗脳するだけだ。君達に麻酔をかけて、寝ている間に手術する。目覚めた時には、自分の意思はなくなっている」
どう答えればよいのか蒼介はわからなかった。しばらく沈黙が続く。
「考える時間をやる。洗脳されるか、自由意思で協力するか、どちらか選べ」
それだけ話すと、ショードファ人は、部屋を出た。部屋は外から施錠される音が響く。
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いつもマウントしてくるうざい和崎は別の軍艦にいる。艦隊の正確な数は知らない。敵艦の数もわからなかった。
現在宇宙のどのへんにいるのかも不明である。太陽系の中にいるのか、そこから遠く離れているのかも聞いてない。
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「緊張してる?」
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「あたしがいた方がやる気が出るでしょう? ソワール大佐は、そう判断したみたい」
「確かに心強いけど」
「早速来たよ。戦闘準備お願い」
脳の中に広がった無限の星空に、何十隻ものショードファ艦隊が、映しだされた。
無数の砲塔を突きだした多数の艦が、急速に向かってくる。敵艦と味方の艦の両方から、見えないビームが放たれた。
ホロ・ディスプレイ上には、その軌跡が描かれる。
そして双方の艦隊から、無数のドローンが放出された。
蒼介はゲームで鍛えた要領で、襲いくる敵艦とドローンの群れに攻撃した。
多数の敵機を撃墜したが、味方も次々やられており、どちらが一体優勢なのか、判断がつかない。
司令官にはそれがわかっているんだろうが。ゲームと完全に違うのは、負けたら自分も殺されるという冷厳な法則だ。
やがて緊張がピークに達すると、トロードメットの中に何かがスプレーされ、思わず鼻に吸いこんでいた。
「大丈夫よ。あなたの緊張を解く薬。麻薬のような副作用はないから」
蒼介の脳に、夏映の声が響いた。
「本当かよ。チャマンカ人の受け売りで言ってるだけだろう。クマ野郎の話なんざ、信じられるかよ。そもそもクマ用のが地球人にも使えんのか!?」
「あら。地球人より信頼できるのは、あなたも先刻承知のはずよ」
ともかく夏映の受け売り通り、気分がすっきりしたのは確かだ。
まるでロボットになったみたいに、思考がクールに働いている。撃墜数が増えた気がする。
「今のところ和崎さんの方が撃墜数が多いね」
「別に、競うつもりはないよ。おれはショードファ人を倒したいだけ」
「撃墜数が多い方とあたしがデートするって言ったら?」
「オッサンを馬鹿にするのも、たいがいにしろ。年齢なら、和崎の方が近いだろ。そっちの方がお似合いだ」
チャマンカ軍の全ての戦闘機のうち有人機が半分、無人機が半分ある。
無人機のうち全部で13機が、蒼介や和崎のような地球人が1人につき1機ずつ脳波で操縦していた。
13機を除く無人機は、搭載された人工知能の判断で動いている。
有人機のうち特に活躍のめざましい部隊があった。
全部で13機で構成されているのだが、今のところ1機も撃墜されてない。
チャマンカ人にとって13は縁起のよい数字なのだ。
チャマンカ星の一年は13か月で、現在のかれらは無神論者だが、太古にはドゲンカ教という宗教を信じる者が多かった。
ドゲンカ教には13の神がおり、それぞれが2つの太陽、3つの月、天空、大地、海、冥界、氷雪、戦争、音楽、笑いを司っている。
「あれはチャマンカの奴隷ダラパシャイ人の部隊ね」
夏映が返答した。
「もっともあたし達地球人も奴隷なんだけど……ダラパシャイの重力は1.5Gあるの。だから戦闘機にかかる重力にも、他の星の人類よりも耐えられるってわけ。しかもかれらは幼時より男女を問わず戦士として、戦闘機乗りとして、徹底的に鍛えられるの」
「それでもチャマンカには勝てなかったのか」
「そうみたいね」
その後の展開はチャマンカにとって有利であった。
チャマンカ軍の猛攻でショードファ艦隊は次々と宇宙の藻屑となって消えていったのだ。
戦略がどうこうというよりも、圧倒的な物量の違いに見える。
今やチャマンカは銀河系のほとんどの空域を掌中に収めており、宇宙に散ったゲリラを集めたショードファ軍には、なすすべもなさそうだった。
怒りのままにチャマンカ軍に参加したが、結果のわかったゲームに参加してるようで虚しい思いだ。
その時である。突如巨大な地震のような衝撃が、蒼介を襲った。彼の乗る軍艦自体が激しく揺さぶられている。
安全ベルトを着けているのでシートから飛ばされなかったが、ものすごい揺れだ。
次の瞬間、爆音が鳴り響き、蒼介は座席ごと宇宙に放りだされていた。
いざという時に備えて宇宙服を着ているので、ただちに死ぬ事はないが、当然ながら酸素の供給が途絶えてしまえば、死に至るしかないだろう。
それまで彼が載っていた軍艦は艦隊のあちらこちらから炎が噴きでていたが、宇宙には酸素がないため、すぐにその勢いは弱まった。
まるでジェット・コースターにでも乗ってるようなスピードを味わいながら、蒼介は意識を失った。
どのぐらい時間が経過しただろう。やがて目覚めた蒼介の視界に、夏映の姿が映っている。
彼女は彼の覚醒に気づいたらしく、彼の右手を強く握った。その目はやや潤んでいる。
蒼介はベッドの上に横たわっていた。
夏映は白いパジャマのような服を着ており、2人は病室のような場所にいる。
壁に時計らしき物がかかっていた。その時計は正三角形で、とがった方が上に向いている。
時針、分針、秒針のような物がついていたが、秒針のような物はいわゆる地球の時計回りとは反対の、左回りに開店していた。
また秒針の回る速度が、地球の時計よりやや遅かった。
時計の文字盤に書かれた数字らしき物も、当然ながら地球の数字とは違うものである。
数字の1らしい文字は左上から右下へ斜めに引かれた一本線で、2らしい文字は同じく左上から斜めに引かれた二本線、3と4も同じような三本線と四本線だ。
数字の五以降は地球の数字とは全然異なる図形で描かれていた。
地球の時計なら1から12まで12の数字が描かれているが、この時計は10しかない。
チャマンカ人はこういったアナログ時計を現在全く使わないと聞いた事がある。
となればショードファ人の時計だろうか?
「目が、覚めたか」
ドアが開いて、白いプラスチックのような体をした人物が現れた。顔には赤く光る目がついている。
翻訳機を使用しているらしく、その発言は日本語ではっきり聞こえた。
「ここは我々ショードファ軍の戦艦だ。何も話す必要はない。君達の思考は全てスキャンした。イッシキ、君は我々に対する憎しみから、チャマンカ軍に加担したそうだな。気の毒だが、これは戦争だ。我々からしてみれば、君らはすでに、チャマンカ帝国の臣民なのだ」
「冗談じゃねえよ」
思わず蒼介は怒鳴っていた。
「殺された地球人達は自分の意思で、あのコロニーにいたわけじゃない」
「君の意見を聞くつもりはない。君達の能力には利用価値がある。我々の仲間になり、対チャマンカのレジスタンスにならないか? 報酬は、思いのままだ」
「冗談じゃねえよ。断る」
「君はどうする」
ショードファ人は、夏映に聞いた。
「あたしも断る」
「なら、洗脳するだけだ。君達に麻酔をかけて、寝ている間に手術する。目覚めた時には、自分の意思はなくなっている」
どう答えればよいのか蒼介はわからなかった。しばらく沈黙が続く。
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