地球に優しい? 侵略者

空川億里

文字の大きさ
22 / 66

第22話 ワランファ准将

しおりを挟む
「貴様らに1つ提案がある」
「なんですか? 宰相閣下」
 ザースコ少佐はバサニッカに質問した。
「実はわたしはクーデターを計画している。ワランファの裁判が始まる前にな。協力すれば、それなりの報酬を出そう」
 ザースコ少佐の背後にいる3人がどよめいた。
「そこまで我々を信じてくださるのですか?」
「そうだな。完全に信じられる存在など、この世にはないのだとでも言っておこうか。それは愛するわたしの夫を含めてだ。貴様達をこの計画に使いたいのは、誰も貴様らがクーデターに参加するとは一考だにせんからだ」
 バサニッカは、自信満々の笑みを浮かべる。
「おっしゃられてみれば、一理ありますな」
 ザースコはバサニッカの大胆さに度肝を抜かれた。
「とは申しても、すぐには結論が出んだろう。4人でよく話しあえ。そしてチャマンカ時間で3日以内に返答をよこせ。それまでは特別な部屋にいてもらう。そこでクーデターの話をしても、一切他の人間には聞かれぬ場所だ」


         
 4人はチャマンカ兵に連行され、窓のない一室に入れられた。そこにはトイレも風呂も人数分のベッドもあった。
 3Dテレビを観るのも可能である。
 ショードファ人は1日4回食事をする習慣があるのだが朝と昼と夕方と夜、ショードファ風の料理が運ばれた。
 いずれも作りたての料理で、味も素晴らしい。
「ザースコ少佐、今度の件はバサニッカの罠でしょう。奴は我らをクーデターに協力させ、成功の後全員殺す計画です」
 部下の1人が主張した。
「そうかもしれんが、我々には他に選択肢がない。クーデターに協力して、その後報酬をもらえるのなら、それに越した事はない」
 大佐は答えた。その後大佐は他の3人からそっぽを向き、今度は暗号脳波通信で話す。
 この部屋が監視カメラで撮影され、会話も録音されていると想定してだ。
 暗号脳波通信は口を一切動かさずとも発信できる。
 普通の脳波通信と違い、チャマンカ人に会話を傍受される恐れはない。
(わたしに考えがある。クーデターに協力すると見せかけて、ワランファ准将と、捕囚になった同胞を救うのだ)
         


   一方ワランファ准将は、チャマンカ星の捕虜収容所にいた。
 ちょうど今、1人きりの昼食を終えたところである。
 ロボットが食器を下げに来るタイミングで、2人のチャマンカ兵が現れた。
「ワランファ准将、貴様に会いたいという者がいるのでお連れした」
 兵士の背後から1人のショードファ人が登場した。右の胸に、ショードファ宇宙軍大佐の階級章が光っている。
 ショードファ人は外見上は皆同じに見えるのだが、サイボーグ化されたかれらは1人1人が独自の識別信号を放っているので、ショードファ人同士なら区別がついた。
 他でもない。この男は、裏切り者のザースコ少佐だ。
「ザースコか」
 ワランファは、地球人なら鼻で笑ったと表現されるような笑い方をした。
「クマ共に寝返っておきながら、後生大事に階級章をつけてるとはな」
「うるさいわ」
 ザースコは怒声を放つと左手で自分の階級章をむしり取り、ワランファに向かって投げつけた。
「貴様らが徹底抗戦にこだわったので、多くの同胞が死んだのだろうが」
 ザースコは、ワランファを怒鳴りつけた。
「奴隷の平和がそんなにいいか? 自由がないなら、死んだ方がマシだ」
 ワランファが、落ち着きはらった語調で答える。
「それだけじゃないだろうが。準光速ミサイルをなぜ撃った。あれで大勢の非戦闘員が死んだ」
「ミサイルを撃ったのは、わたしの意思じゃない。上層部の判断だった。わたしはむしろ、反対したのだ」
 さすがに少し苛立つ口調で、ワランファが回答した。目の光が、いつもより赤く輝く。
「言い訳無用だ。今から貴様が死刑になるのが楽しみだわ。こんな物お前にくれてやる」
 ザースコは床に落ちた階級章を拾うと、ワランファの手に押しつけた。
 准将は、その触感が、普通の階級章と違うのに、すぐ気づいた。
 やがてザースコはワランファを睨みつけながら、その場を去った。
 そばでショードファ人同士のやり取りを見ていた2人のチャマンカ兵が冷笑を浮かべながら、食器を回収したロボットと一緒に部屋を出る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...