カラス

空川億里

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1話完結

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 とても蒸し暑くてよく晴れた、真夏のある朝。
 ゴミ出しを頼んだ幼い娘が、いつのまにか、わたしのいるキッチンに戻ってきていた。
 娘はべそをかいており、潤んだ目で、わたしの顔を見つめている。

「黒いのがカアカア鳴いてて、ゴミが出せない……」
(また、あいつらね……)

 わたしは最近生ゴミを捨てる日に、ゴミ置き場に群がってくる汚らしい『奴ら』を思い浮かべながら、ため息をついた。娘は一度ゴミ置き場まで運んでいった生ゴミの入った袋を、そのまま再び持ってきていた。

「気にしなくていいわ。トラックがゴミを回収しに来るまで時間があるから、ママが後で出しといてあげる」

 娘の小さな背中を抱きながら、わたしは彼女を慰めた。

「あいつら大っきらい。何でゴミをねらいにくるの」
「袋に入った生ゴミをあさりにくるのよ。野良猫や野良犬とおんなじね」

 わたしはティッシュで娘の涙と鼻水をぬぐってあげた。

「市役所に連絡して、駆除してもらえばどうだろう」 

 横から口をはさんだのは、出勤前の夫である。

「でも、あんなのだって生き物じゃない。かわいそうな気がするな」
「下手したら娘を襲うかもしれないじゃないか。駆除した方がいいんじゃないかな」

 夫といくつか言葉のやりとりがあった後、わたしは市役所に通報する案に気持ちが傾きはじめていた。彼を玄関へ見送るついでに、路上の脇のゴミ置き場を見た。黒い生き物が三匹、ギャアギャア鳴きながら生ゴミをあさっていた。
 わたしにはギャアギャアと聞こえるが、舌ったらずな娘はカアカアと表現していた鳴き声である。確かにこれでは娘が怖がるのも無理はない。こいつらの祖先は自分達を『ニンゲン』と呼び、大昔この地球で高度な文明を築いていた。
 わたし達が住んでいるこの島国をニンゲン達は『ニホン』と呼んでいたのである。
ニンゲンの子孫達はずっと真夏の戸外にいて日焼けしてるので、娘に『黒い』と言われるのも無理はない。
 ニンゲンの祖先は自分達の起こした核戦争で文明が崩壊し、数も激減。生き残ったニンゲンは言葉も失って、今ではギャアギャア叫んでゴミをあさるだけのノラビトになってしまった。
 われわれカラスの祖先は大戦前のニンゲンから知性を与えられ、ニンゲンの手荷物をくちばしで運んだり、爆弾を腹に抱えて自爆テロを行う役割を与えられた。が、大戦後も知性を発達させ、文字を読んだり、高度な会話を交わすようになり、くちばしや足で機械を操作して、高度な文明を築いたのである。
 







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感想 1

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みんなの感想(1件)

桐原まどか
2023.08.22 桐原まどか

自分たちが引鉄をひいた結果…ですね。
切れ味の鋭いショートショートだと思います。面白かったです。

2023.08.22 空川億里

 ありがとうございます😊 励みになります。
 昔SFマガジンが読者からショートショートを募集していた頃作品掲載には至らなかったものの、めぼしい? 作品という事で、タイトルとあらすじを掲載された作品を改稿したものです。

解除

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