異世界旅は夢で出会った君と

空秋

文字の大きさ
5 / 14

5話

しおりを挟む


穴に吸い込まれ、あっという間に橡と引き離されてしまった柳は、絶叫しながら闇の中をただただ落ちていた。


そしてふっと視界に満天の星空が現れたかと思うと、すぐに温かい水の中へと着水した。



「うげぇ、パンツがぁ…!」


全身ずぶ濡れになった柳がゆっくりと立ち上がると、真っ直ぐに見えたのが大きく美しい満月だった。


「うわぁ、すごい近くに感じる…」


月の美しさに、柳が呆然と立ち尽くしていると、何処からか若い青年の声が響いてきた。


『当たり前だ、すぐ近くにいるからな』



青年の声に柳が振り返ると、そこには月白色の着物を着た美しい青年が立っていた。


ラピスラズリの様な、星空を切り取ったかのような煌めきを帯びた長い髪を1つに束ね、金色の強い瞳で柳を見つめる。


(あ、この人が"みつきさん"か)


柳は、目の前の青年の人間離れした美しさと、言葉に現せないほどの引力から、すぐに橡の言っていた「管理者」であることを察した。


「あ、あの…」


柳が意を決して口を開こうとしたが、いざ青年の金色の瞳に見つめられると言葉が出せなかった。


『どうした?』


言葉が発せないのは、なにも青年が威圧的であるだとか、恐ろしいからではなく、青年の瞳を見ると、その美しさに思考が囚われ、発しようとした言葉を忘れてしまうのだ。



自分を見つめたまま黙り込んだ柳に、青年は美しい唇から小さく息を吐いた。


その小さな吐息ですら、星屑を纏っているようで柳は目が離せなかった。


『お前はこんな所でなにしてる?人間が来るような所じゃないから帰れ』


青年がそう言いながら柳から視線を逸らしたお陰でやっと頭が回るようになった柳は、青年に向かって思わず叫んだ。


「あ、あの!!貴方が"みつきさん"ですよね!?私、橡さんに言われて来ました!帰る為に協力してください!!」


柳の言葉に、青年は一瞬だけその金色の瞳を見開いたが、すぐに表情を整えて再び柳を見る。


『ああ、僕が満月だ。お前、邪神になにを願った?』



「あ…え…じゃしん…?」



『お前が会った橡という鴉は、元人間だ。お前と同じように普通に現世で生活していた。しかし邪神に魅入られたが為に、あの邪神の領域に囚われている』



満月の言葉に柳は頭がくらくらと重くなるのを感じた。


「橡さんが…?でも私…そんな邪神とか知らない…」


柳は言いかけて、唐突に橡の言葉を思い出した。




"神は神でも貴方達を管轄する神ではありません。もはや生き物です"



"地獄?ここに比べたら地獄の方が天国ですよ"


"私共はココから出ることが出来ない身ですので"


"貴方はもしかしてここに来る直前、"誰でもいいから助けて"のような類いの言葉を言ったか、願ったかされましたか?"


橡の言葉を思い出し、柳が思わず口を手で覆うのを見て、満月は金色の瞳を細めた。


『邪神なんて珍しいもんじゃないが、橡を囲ってるアイツだけは別だ。心当たりがあるなら絶対に同じことを繰り返すな。帰った所でまた連れ戻されるぞ』


満月の言葉に、柳は激しく首を上下させた。


素直な柳の反応を見て、満月は『これで橡も少しは浮かばれるな』と優しい微笑みを浮かべた。



その笑顔が美しくて、つい見入ってしまっていると、次の瞬間、目の前に何か大きなものが落下してきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

処理中です...