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5話
しおりを挟む穴に吸い込まれ、あっという間に橡と引き離されてしまった柳は、絶叫しながら闇の中をただただ落ちていた。
そしてふっと視界に満天の星空が現れたかと思うと、すぐに温かい水の中へと着水した。
「うげぇ、パンツがぁ…!」
全身ずぶ濡れになった柳がゆっくりと立ち上がると、真っ直ぐに見えたのが大きく美しい満月だった。
「うわぁ、すごい近くに感じる…」
月の美しさに、柳が呆然と立ち尽くしていると、何処からか若い青年の声が響いてきた。
『当たり前だ、すぐ近くにいるからな』
青年の声に柳が振り返ると、そこには月白色の着物を着た美しい青年が立っていた。
ラピスラズリの様な、星空を切り取ったかのような煌めきを帯びた長い髪を1つに束ね、金色の強い瞳で柳を見つめる。
(あ、この人が"みつきさん"か)
柳は、目の前の青年の人間離れした美しさと、言葉に現せないほどの引力から、すぐに橡の言っていた「管理者」であることを察した。
「あ、あの…」
柳が意を決して口を開こうとしたが、いざ青年の金色の瞳に見つめられると言葉が出せなかった。
『どうした?』
言葉が発せないのは、なにも青年が威圧的であるだとか、恐ろしいからではなく、青年の瞳を見ると、その美しさに思考が囚われ、発しようとした言葉を忘れてしまうのだ。
自分を見つめたまま黙り込んだ柳に、青年は美しい唇から小さく息を吐いた。
その小さな吐息ですら、星屑を纏っているようで柳は目が離せなかった。
『お前はこんな所でなにしてる?人間が来るような所じゃないから帰れ』
青年がそう言いながら柳から視線を逸らしたお陰でやっと頭が回るようになった柳は、青年に向かって思わず叫んだ。
「あ、あの!!貴方が"みつきさん"ですよね!?私、橡さんに言われて来ました!帰る為に協力してください!!」
柳の言葉に、青年は一瞬だけその金色の瞳を見開いたが、すぐに表情を整えて再び柳を見る。
『ああ、僕が満月だ。お前、邪神になにを願った?』
「あ…え…じゃしん…?」
『お前が会った橡という鴉は、元人間だ。お前と同じように普通に現世で生活していた。しかし邪神に魅入られたが為に、あの邪神の領域に囚われている』
満月の言葉に柳は頭がくらくらと重くなるのを感じた。
「橡さんが…?でも私…そんな邪神とか知らない…」
柳は言いかけて、唐突に橡の言葉を思い出した。
"神は神でも貴方達を管轄する神ではありません。もはや生き物です"
"地獄?ここに比べたら地獄の方が天国ですよ"
"私共はココから出ることが出来ない身ですので"
"貴方はもしかしてここに来る直前、"誰でもいいから助けて"のような類いの言葉を言ったか、願ったかされましたか?"
橡の言葉を思い出し、柳が思わず口を手で覆うのを見て、満月は金色の瞳を細めた。
『邪神なんて珍しいもんじゃないが、橡を囲ってるアイツだけは別だ。心当たりがあるなら絶対に同じことを繰り返すな。帰った所でまた連れ戻されるぞ』
満月の言葉に、柳は激しく首を上下させた。
素直な柳の反応を見て、満月は『これで橡も少しは浮かばれるな』と優しい微笑みを浮かべた。
その笑顔が美しくて、つい見入ってしまっていると、次の瞬間、目の前に何か大きなものが落下してきた。
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