異世界旅は夢で出会った君と

空秋

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6話

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勢いよく上から何かが落ちてきたはずみで水しぶきを至近距離で浴びた柳は「うわぁ」と声を上げながら1歩後ろへとさがった。


そして事態を把握しようと次に顔を上げると、自分のすぐ足元に同い年くらいの少女が浮かんでいた。



「死んでる!?」


『死んでない』


ピクリとも動かない少女に、柳は悲鳴を上げたが、すぐに満月が訂正する。


『ここに死人は来れない』


「あ…そうなんだ…?」


満月の言葉に柳がとりあえずほっと胸を撫で下ろすと、水に浮かんでいた少女がパチりと目を開けた。


水に浮かんだままの少女は制服姿で、しばらく瞬き一つせず、視界一体に広がる満天の星空を眺めていた。


落ちてきた少女のその独特な雰囲気に、柳は声を掛けるにもかけられず、とりあえず少女の様子を伺っていた。


そして数分が経過した後、少女はやっと水の中から立ち上がり「私、上手く死ねたのね?」と無表情で満月を見た。



「うまく…?」


困惑する柳を他所に、満月は首を横に振る。



『残念だが死んでない、諦めて現世に帰るんだな』



満月の素っ気ない言葉に少女は特に表情を変えることなく、「帰らなければココでひしゃげてしまえるんでしょう?」と問い返す。



「ひしゃげ…何を言ってるの…?上手く死ねたって…まさか…」


柳は痣だらけの少女の体を見て顔を青くした。


「生きていたってしかたないの。だから自分で終わらせようとしただけ」


光のない瞳で少女に見つめられた柳は、返す言葉が見つからず、ただ口をパクパクと動かすしかなかった。


なにか、なにかこの少女に言葉を送らなければならないのに、柳の脳は焦るばかりで具体的な言葉など何一つ提供してくれなかった。



「気休めなら要らないから、私のことは気にしないであなたは帰ったら?」



「柳」



「?」


「私の名前、柳。生まれた頃から病院から出たことがない17歳。もちろん1度も学校に行ったこともないし、友達だっていない。ここに来たのは病状が悪化したから」



「…………だからなに?」


唐突に身の上話を始めた柳に、少女は不愉快そうに顔をしかめる。



歪んだ少女の顔を見て、柳はほっと安心した。


本当に全てを諦めた人の顔を柳は知っていたからだ。


全てを諦め、死を待つ患者の顔を。



誰の言葉もすり抜け、一切の感情の起伏もない。



柳は記憶の中の人物の顔と少女の顔を重ね合わせていた。


「友達になってよ、私、家族と病院の人達以外の人に会ったの初めてだから。私の初めての友達になって」


「………友達なんていたって良いことなんてないよ。それに私は帰る気ないし、ココで友達になったからってあなたの友達は0のままだよ」



「だから一緒に帰ろうって。友達になった瞬間サヨナラなんて嫌だよ」


明るく微笑みかけてくる柳に、少女は苛立ったように溜息をつく。


「帰らないって言ってんでしょ!友達にもならない!」


「どうして?死んだって良いことないかもしれないじゃん!」


「はっ、生きてたって良いことないから死にたいんでしょうが!」


「良いことならあるよ!絶対に!私と友達になって楽しく生きようよ!」


少女は大真面目に子供のようなことを言う柳に息が詰まるのを感じた。


世間知らずというのはこんな人間のことを言うのか、と少女は憤りのあまり、自分の目尻が痙攣しているのが分かった。


(なんだコイツ、めっちゃムカつく)
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