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7話
しおりを挟む「勝手なこと言わないで!あんたの勝手な価値観押し付けんな!私は死にたいって言ってんだろ!ほっとけよ!」
少女はとうとう感情を抑えられなくなり、柳に向かって怒鳴った。
「なにを勘違いしてるか知らないけど、私はあんたみたいに一人ぼっちだから死にたいとかそーゆーことじゃないんだよ!私はむしろ損な役回りで周りから求められることに疲れたから、逃げたかったからココにいるんだよ!!」
「損な役回り?」
柳の無意識の問い返しに、少女は嘲るような笑みを浮かべた。
「病院から出たこともないあんたには分かんないかもしれないけど、集団には"見せしめ"になる存在が必要なの」
「見せしめ…」
「"アイツよりはマシ"とか、"あんな風にはなりたくない"とかそういった存在だよ」
「……それがあなたなの?」
「そうだよ、それでもあんたは私に一緒に帰ろうって言うの?戻ったら私はまた集団から搾取されるだけの人間になるのに?」
「えっと……」
柳は少女の言っていることと、少女を取り巻く環境を上手く想像し切れずにいた。
少女がなにに悩み、死ぬこと以外の解決策を柳に考え出すほどの経験と知識が明らかに足りなかった。
(でもだからってこの子を置いて私だけ帰るなんてしたくない…!)
困り果てた柳は、これまで静観していた満月を振り返った。
すると満月はいつの間にか柳の傍にいて、その金色の瞳で柳を見下ろしていた。
「あ、あの…!」
美しい満月に圧倒され、吃る柳に、今度は満月がその美しい唇を動かす。
『お前達に一週間猶予をやろう』
「え?」
『ココはあまたの世界を繋ぐ狭間だ。本来なら管理者である僕しか存在を許されない。だからお前らみたいな魂が滞留すると強制的に握り潰され、消滅させられる』
「うぇ、ヤバいじゃん」
『本気で死にたいなら、一晩ココにいるだけで消滅できる。だが、迷いがあるなら考える時間をお前にやろう、若葉』
「は?」
突然名前を呼ばれた少女は、目を見開いて満月を見た。
『お前は死にたいんだったな?だがそれなら何故、"確実に死ねる方法"を選ばなかった?』
「……何言って…」
明らかに図星の若葉の反応に、満月は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
『僕は完璧だからな、聞かなくてもお前達がどんな経緯でココにたどり着いたかぐらいは分かる。お前は確かに苦しんでいた、だれもお前に寄り添う者もいない。だが、自分を殺す覚悟はまだ足りなかったようだな?』
「……………黙れ…」
苦しそうな表情で涙を流し、唇を噛み締める若葉に、柳は胸が張り裂ける思いがした。
『だから僕はお前に時間をやる。本当に死にたいならこの狭間にリミットまで居れば良い。しかし、条件付きだ』
「条件?」
『ああ、ココでただ人が死んだとなれば僕の管理者としての資質が疑われる。だからタダでココに残す訳にはいかない。一週間、柳と数多の世界を見て回れ。そして一週間後も気持ちが変わらなければココで消えれば良い。まあ、異世界で命を落す可能性も十分あるが、それもまたお前の利には叶うだろう?』
「そんな言い方酷い!完璧なら、若葉が戻っても苦しまないようになんとかしてあげてよ!」
横から口を挟む柳を振り返り、満月は月白色の着物の袖を振った。
『その言葉、そのままお前に返そう』
「え?」
『他人の苦しみを理解しないまま、自分の感情だけで"一緒に帰ろう"と言ったお前こそ、若葉の一切を無視してるじゃないか。お前がさっきまでやろうとしていたことと、僕が出した条件と何が違う?これはお前にとっての課題でもある』
「課題…?」
『お前が本当に若葉と帰りたいのなら、お前が若葉が帰りたくなるように説得するんだ。他の誰でもない、お前がだ。出来なければ若葉はここで消えるだけだ。さあ、どうする?』
「やる」
満月の問に先に答えたのは若葉だった。
(絶対に戻らない、今度こそココで死んでやる)
そして柳も満月を見つめ、頷いた。
(死ぬしかないなんて間違ってる!絶対に説得して一緒に戻るんだ!)
こうして若葉は死ぬために、柳は若葉と生き延びて帰る為の1週間が始まった。
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