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12話:異世界古書店④
しおりを挟む(てゆーか、なんで魔王がこんな所に?強過ぎて退屈…みたいなこと言ってたけど本当か?それだったらお城とかモンスター従えてたりとかしてるんじゃないの…?)
3人の話を黙って聞いていた若葉がそう疑問に思った時、正面の入口が開く音がして、古い本を抱えた一人の老人が入って来た。
「あ、いらっしゃいませー」
笑顔で老人を迎え入れる女性に、本を抱えた老人もおっとりと微笑み、「ブラフマ様に新しい本をと思ってね」と女性に自分の持ってきた本をチラリと見せた。
「いつもありがとうございます~!ブラフマ、退屈過ぎてまた異世界人を引き込もうとしてたところなんですよ~」
「それは大変なことだ、旅人さんが良いならわしらは歓迎だが…」
「それがついさっき振られちゃって」
ぷぷっと笑い混じりに老人に話す女性に、ついにブラフマが口を開いた。
【ロイス、そやつのことなど放っておけ。丁度お前に話したいことがあったのだ、コチラに来なさい】
ブラフマの手招きに、老人はとても嬉しそうに「ええ、ただいま」と微笑むと、ブラフマの隣へと座った。
【ロイス、お前は点字というものを知っているか?】
「てんじ…ですか?いえ…」
ロイスと呼ばれた老人の戸惑った反応に、ブラフマは満足気に微笑み、口元から鋭い牙をチラつかせる。
そして再び柳に概要を説明させた後は、さも自分が開発したものを自慢するかのようにロイスに読み方をレクチャーし始めた。
「はぁ~、私も陛下ほど長くは生きておりませんが、人間の中では古い人間でございます。故に世の中のことは一通り理解している様な気がしていましたが…いやはや…知らないことはまだまだ溢れているようですな……」
柳が見本で作った点字の施された紙を撫でながら圧巻といった表情のロイスに、ブラフマは大きな笑い声を上げた。
【ロイス、お前など私からしたらまだまだ歩き出した子供だぞ?どうだ、なかなか面白いだろう?】
「ええ、とても」
【これなら目が不自由な人間でも書物が読めるのだ】
「それはなんと素晴らしい!」
【そうだろう?お前が更に老い、視力を失っても書物を読み続けることが出来るばかりか、目の不自由な子供にも勉学を教えることが出来るのだ】
「ブラフマ様……」
見るからに"ラスボス"という重苦しいオーラと、恐ろしい見た目をしているブラフマからまるで人間を思いやるような発言が飛び出したことに若葉は目を見張った。
思い返してみればブラフマは最初から柳と若葉にも優しかった。
いの間にか書庫に居た得体の知れない人間に風呂に入れだの、新しい服を着せるなど普通しないだろう。
「ブラフマ様は、実は魔王とかじゃなくて守神なんですか?」
【私が?そんな訳なかろう】
ブラフマが柳の問いかけを鼻で笑う一方で、ロイスが柳へと話始めた。
「ブラフマ様は正真正銘の魔王だったさ、私が子供の時は国の半分はブラフマ様のもので、立ち入るのを禁じられてた」
【ああ、懐かしいな?それもあの豚のせいだが】
「ぶ、ぶた…」
「当時の王族のことさ。国の不利益を全てブラフマ様のせいにして、私腹を肥やしていた。そのお陰で私達国民は貧しくなるばかり…労働負担は重くなる一方なのに、賃金は上がらず、課税だけが増えていった。挙句の果てに、男は戦争に駆り出され……本当に酷い時代だった……」
「戦争…」
「ああ…。その時私もまだ20歳前でね…国のことを恨みながらも出兵したよ…。しかし戦場から帰ってみたら、国は一変していた。ブラフマ様が王族を滅ぼして、私達国民を解放してくださったんだ」
「え、ちょっと待って、そんなの勇者が黙ってないでしょ?」
ロイスの話に疑問を投げかけたのは若葉だった。
ロイスは若葉の問に、何度も頷いた後、再び話始める。
「この国の勇者は…もはや王族に忠実な憲兵のようなものだった。王政を批判する貴族や役人、革命家を根こそぎ排除しておった…」
「それってもう勇者じゃないじゃん…」
若葉の言葉にロイスが頷くと、ブラフマが鋭く黒い爪でコツコツと木のカウンターを叩き始めた。
「この国が酷い状態だったのは分かったんですけど、でもどうしてブラフマ"さん"が王族を滅ぼす流れになるんですか?」
純粋な柳の質問に、ロイスは「ブラフマ様とこの国はなにも元から対立していた訳ではないのですよ、ただブラフマ様が近くにお住いだっただけで」と微笑む。
(お住い…近所に魔王なんていてたまるか…)
若葉は紅茶に砂糖を混ぜながら苦笑いした。
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